表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/20

明編③ 【諦めたくなる癖は】

明編③

日差しの眩しさで目をつむっていると、突然、保健室のドアがガラリと音をたてて開いた。

そこには、吉原先生、葵の姿・・・。

私は、状況を直ぐにこの状況を理解するため、真っ先に立ち上がり「葵?」と訊いた。

すると葵は、静かに頷く。そして、私は、「来てくれたの?」そう言いながらも、葵に駆け寄った。


「ええ、そうよ。途中、山下さんの弟さんにバッタリ会ったものだから、来てもらってね。それよりも」

吉原先生は直ぐに応答すると、スルリ話の方向を変え、ベッドに座って、取り残された男子に目を向けた。

「日野君?なんで、ここに君がいるのかい?」

「あ・・・、吉原先生」チリチリと先生の眼差しに責められる彼は、焦りながらにおどけ、「絆創膏どこにありますかね・・・?」といって愛想笑いをしながら立ち上がった。

やれやれ、と言う風に先生は彼の元へ行くと、急に葵が喋りかけてきた。


「ねえ、あの人、誰?」

あの人、というのは、きっと彼の事だろう。たしか先生が先ほど、名前を言っていたと思うのだけれど・・・、なんて言っていたっけ・・・。

ひとまず、名前で考えるのは、やめて、第一印象の方がいいよね。そもそも、関わり合いがないし。

なんとなく、頭を働かせて、私は葵にこう言ってみた。


「ひまわりくん・・・?」

「は?」

冷たい声で返されて、私は、ビクッとなる。まあ、そうなるよね・・・。今のも、勝手に命名しちゃってるし・・・。

「ひ、まわりみたいに、明るい人だよ?」なんとか伝えたくて、少し言い換えると「なにそれ?」と、冷たくあしらわれた。私は少し、巡った怒りの感情を押さえながらも、平然とした顔を頑張ってしている。

「知り合い?」そして葵は、気乗りしない顔で、とそう尋ねる。

私は、「ち、ちがう」と否定し、続けて、〈たぶん、もう関わらないと思うから〉と、続けて言おうと思った。


そして、私は声を小さくして、「たぶん、もう」

「そうだ!山下さん!」

その言葉を紡ぎかけた瞬間、何故か不意に彼の言葉が覆いかぶさってきた。

 私は急に名指しで呼ばれたので、「は、はい」と答える。

「あら、もしかして、知り合いなの?」すると、吉原先生が割って入ってきた。

「今さっき、仲良くなったんですよ!」

「そうなの?素晴らしいわね!」

先生から問われた質問に、彼は元気よく返す。そんな二人のやり取りは勝手に続き、私は置いてかれ、ただ、頭の中で、え?仲良くなった?と疑問を膨らませていく。

「あ、あの」なんだか、嫌な予感がする。私は、力を振り絞って二人のやり取りに入ろうと、声をかけた。

「じゃあ、日野君には山下さんの事、手伝ってもらおうかしら」

が、その声は先生の言葉、声によってかき消されてしまう。

彼は興味津々な目で「なんですか?」と訊いた。

あれ? ちょっと、待って、待って。何か、変な方向に話が行ってない?

 急速に進んでいく状況に眩暈がする。伝えられていない事もあるのに、このまま話を進められたら・・・!


「あの」

 すると、なにか違和感を感じたのか、葵が声を発した。二人の会話を切り裂くように発せられたその声に、この場にいる全員の目線が集まる。

「姉さんが学校に行けてないこと、あなたは知っているんですよね?」

その言葉の内容に私は驚く。葵の目線は彼に向けられていた。やっぱり、弟は私が動揺していた事に気づいていたんだ。


 今、この状況でこの事を言ってくれたのは良かったけれど、本当は、なんだか言ってほしくもなかった。それは、自分が傷つきたくなかったからも勿論だけど、彼ともう関われなくなる、という気持ちの方が強かったからだ。そんな今ある自分の気持ちにも驚いている。


そして、そんな私以上に驚いていたのは勿論、彼。

ひまわりくんだった。

「そ、そうだったの?」

震えた声。弱気な目つき。完全に動揺している表情。

その表情は、ひどく私の胸を痛ませた。こういう感覚、気持ちが嫌いだ。だから、私は人と関わるのは嫌い。大嫌いなんだ。

 爆弾でも何でもいい。何かで壊されてぐちゃぐちゃになっていく。剥がされていく。それをただ見つめている。そんな、感覚が私の中で零れるほど一杯になる。

 吐き気がする。

 そしてもう今の瞬間に、この人とは関わらない。関われない。そう心の中で決定的になったような気がした。

 私は、無言で俯いた。息が苦しくなって、耐えろ、耐えろ。心の中でそう唱える。

 ダメだ。昔の事を、思い出してしまう。思いだしたら、また。後戻り・・・。


 すると、先生はこの状況を飲み込んだのだろう。抑揚のない淡々とした声で「日野君、ちょっと外へ行こうか」と言って、ひまわりくん、いや、日野君の手をひぱった。

彼は、状況が理解できていないのか、ほぼ放心状態で「はい」と空気のような中身のないような空っぽな声で言った。


二人が保健室を後にして、私は弟と二人っきりになる。

私は、助かったの?と思い、そっと顔を上げた。

「ごめん」

すると、葵が私に謝ってきた。

「え?」と声に出して私は驚く。

「変な事態になった。本当に、ごめん。」

「ち、違うよ。葵のせいじゃない。あの時、ああいってもらえて助かったの。」

なんだか、私が攻めてるみたいですぐに否定した。

「わ、私がただ、言えなかったの。学校に行けてなかったって。」

「うん」


 葵はそっと、私の背中をさすってくれた。

それは、私の目から、勝手に涙が出てきたからだと思う。

「大丈夫。僕も母さんもいるから」

そう言ってくれる葵に、涙がとまる事は無かった。

私は、弟の優しさにただただ、泣いていた。


 その後、私はそのまま、早退して家に帰った。

自分はつくづく、心が弱いという事を実感する。


☆☆☆


「学校、今日も無理?」

「うん」

葵の言葉に私はそう返した。

あの事があってから、私は学校に顔を出すことはなく、丁度、一週間が経った。

学校に行けてないのは、その勇気が出ないのは、自分のネガティブさが出ているんだと思う。だから、前に進めない。でも、これが私にとっての常識。通常の私なのだ。


「でも、これから学校は行くよね。保健室とかさ」葵は食い下がって、話を伸ばす。

「うん」私は少しだけ、返事する声が小さくなった。


「じゃあ、行ってくるね」

葵はそう言うと、小さな音をたてて学校に登校した。


 また、この生活に戻るのかな。

そんな、変な焦りを感じながらも、私はいつも通り冷静であった。

 もう一週間も休めば、あの、ひまわり君とは会わないだろうし、大丈夫かな。

そんな考えがふと浮かぶ。

 でも、やっぱり、嫌だな。あんな傷つくぐらいなら、もういっそ行きたくない。心の奥底には、そんなわががまな自分が隠れていた。


 プルルルルっ

すると、電話が廊下で大きな音をたてて鳴り響いた。

 私はパッと、起き上がり小走りで廊下の方に向かう。

今、家には、おつかいで母がいないため、出られる人が私しかいないのだ。

 誰なのだろうなんて思い、小走りで向かうと、受話器をパッと取った。


「もしもし、山下です。」

『もしもし?』

え?この声、吉原先生?

そう思った私は直ぐに、「吉原先生ですか?と訊く」

『ええ、正解です。おはようございます。』そういうと、優しく笑ってくれた。

「お、おはようございます・・・」私は、戸惑いながら返すと、今、一番疑問に思った事を質問する。

「あ、あの。こんな、早くにお電話をかけてきてくださったのは、初めてですが、なにかあったのでしょうか?」失礼のないように、丁寧に言うと、先生は予想外の事を言ってきた。『今日の、昼休み、また保健室に来ない?』

「え?!」予想外過ぎて、いや、急なこと過ぎて私はビックリする。

『最近、学校に顔を出せていないし、それに、まだ今学期は始まったばかり。いい時期よ?今からだと急になっちゃうけど、どう?』先生の言っている事は、ごもっともだし、納得ができた。けど、急すぎる。心の準備ができていないし、もしも、また誰かとあったら・・・。

そんな、マイナスな考えが私の中で、少しずつ蓄積されていく。

「どうして、今日なんですか?なにかあったり?」少しでも、答えを先延ばしにしたくて質問をする。

『うーん・・・。それは、内緒かな?』

「な、内緒ですか?」私は、戸惑うと、内緒の事とはなんだろうと疑問を持つ。

秘密にされている事についてだ。私にサプライズとか?いやいや、まさか。そんなおこがましい。

じゃあ、何かのイベントとか?

でも、葵、そんなこと言ってたっけ?

・・・もしかして、何か私に隠してたり?

分からないけれど、それがなんとなくムカついた。葵の癖に・・・!

もしかして、恋人でも作り始めたのか?

そんな事が頭の中で悶々とする。

『内緒って言っても、山下さんの嫌がる事はしないわ。無理矢理な事はなるべく避けているから、安心して?』

「は、はい」

勝手に一人で考え込み、無言でいて、電話に集中する事を忘れていた。私はパッと我に帰ると会話を続ける。


「あ、葵。いや、うちの弟は、なにもしてないですよね?」

『え?ああ。葵君ね?大丈夫よ?気になるんだったら、来てみれば?』

そう言うと、先生は意地悪く言ってみせた。

『葵君の様子を見に来るつもりでもいいのよ?』

続けて言うとフフッと笑う。

そして、私は勘づいた。葵の奴、なにか口出ししたな・・・! と。


やっぱり、学校に行こう。そういう気持ちが押してきた。

でもその前に、引っかかる事がある。

「あ、あの、日野っていう」

『え?』

あまりにも、私の声が小さかったのか聞き返されてしまう。

私は、少し焦った気持ちになって「な、なんでもないです!」とつい、言ってしまった。


そして隠すように、「昼休みの時間、学校に行きます!」と繋ぐ。

『え?いいの?無理しなくても・・・』

「はい。大丈夫です!」私はそう言った。行こうと思ったのは、無性に葵に腹がたったのと、今の先生からの電話で目が覚めたきがしたから。それだけ。本当にそれだけ。

 本当に様子見。そんな気持ちで行こう。

約束をして、受話器を置くと、ある事を忘れていた。


 内緒にされていた事、訊くの忘れてた・・・!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ