第三話 死霊は覚醒する、約束を交わす
・characters
・逢末 蒼兎
・逢末 瑚糸
メグル・エルフレスト
・根暗 暗夜
・久遠 魅々華
・リリア・アーサー
・リリカ・アーサー
・七光 めいく(ななびかり めいく)
各話出て来る人物出てこない人物がいます。
夜の神社、その一端で俺とメグルは会話を交わしていた。
「それで? あいつは一体何だったんだよ?」
「あぁ、あれは『邪剣使い』のリリア・アーサーね、全世界的には上級の生物だけど、わたしには及ばないわ」
全世界ねぇ....随分大層なことで。
俺は自分の頭の中の記憶を散策する。
「なるほどな、それじゃあ俺の記憶の中にメグルは『未完成』だっていう、記憶があるだけど....どういう事なんだ?」
「そのままの通りだよ、わたしはまだ『未完成」なの......それでね、完成するためには──────」
「するためには?」
「えっと、血が必要なの....」
「.....血?」
メグルを見ると少し顔が火照っている様に見える。
「メグル....? 熱でもあるのか?」
「? えっと....なんで?」
「いや、顔が少し赤い様な気がしてな....ほら、顔こっちに」
俺は熱が無いか確かめるために、おでこに手を持っていく。
「ふ、ふぇッ!? ちょ、ちょっと....蒼兎ぉ!?」
「....うん、やっぱり少し熱いな....大丈夫か?」
「え、えっと、その....だ、大丈夫だからッ!!」
そういうと俺から一歩離れる、やれやれ。まぁ、自分の事は自分が一番分かるっていうしな。
俺は話を続ける。
「それで? 血が必要って言うのは、どういう事なんだ?」
「うん、それはね....わたしは吸血鬼と死霊使いのハーフで、普通の吸血鬼は血を吸って『完成』の状態に達するの。だけど死霊使いの血も入っているわたしが血を吸うと『死霊力』が、血を吸った人の体内に入り込んでしまうの....」
「なるほど、その『死霊力』が体内に入ると、どうなるんだ?」
「死ぬ」
少し曇った顔で、メグルはそう言った。
「『死霊力』をうまくコントロール出来なくなって、この世から消えてしまうの。だから、わたしは迂闊に血を吸うことが出来ない、だからいつまでも『未完成』のままって訳」
「じゃあさ、俺の血を吸えばいいんじゃないか?」
「え? そしたら、蒼兎が.........あっ!」
「お、分かったみたいだな」
『死霊力』が入ってしまうと、死んでしまう....という事は、死ななければいいわけだ。となれば話は簡単、『死霊の呪い』で死ねない俺には、大抜擢の役じゃないか。
「全然気がつかなかったよ、そんな方法があるなんて。やっぱり蒼兎は凄いねっ!!」
「いいや、この『死霊の呪い』をかけたのはメグルだろ? だったら凄いのはメグルじゃないか」
そう話しながら、俺は時計を見る。長い針が11、短い針が30を指していた。
そろそろ、帰らないとな....。
「なぁ、メグル....そろそろ帰──────」
すると、俺の言葉を遮る様にメグルが。
「ねぇ、蒼兎。新しいお客さんがいるみたいだよ....」
「お客さん......?」
俺は、メグルの向いている方へと視線を向ける。
月明かりに当たり、人影が見える。
その人影に向かい、メグルが少し怒った口調で、
「あなたは誰」
「おや? 名乗る時は自分から....とは、言いませ......」
「黙りなさい、人間。たかが人間如きが、わたしに口答えしようなんて....一万年早いわ」
「そうですか、でも狙いはあなたではないので....」
「分かってる、蒼兎の呪いが欲しいのでしょう? だったらわたしを倒してからじゃないとダメ。さぁ、死にたくなかったら、出直しなさい」
俺は目を疑った。月明かりの下に入った人影をジッと見る。
間違いない、暗夜先生だ。
「ねぇ、蒼兎。コイツ知ってるの?」
「え? あぁ、うん。知ってる、今日....その、襲われたっていうか、なんというか....」
「へぇー、そっかぁー。ありがとう蒼兎。......蒼兎を襲ったの?」
「おやおや、物騒な事を言わないで下さいよ、襲った....なんて。少し様子を見ただけですよ、邪魔が入りましたけどね」
「そう、どうでもいいけど、早く引き返さないと痛い目に合うわよ」
「ほう、では試しに......はぁッ──────!!!!」
と、今日俺を切り裂こうとしてきた黒い剣で、ハルカに一振り。その途中で、黒い剣を見ながらメグルがこう呟く。
「止まれ」
その瞬間、メグルが剣を操っているかの様に、剣が静止する。
メグルは視線を、暗夜先生に移して、
「本当に弱いのね、人間って」
「どうでしょう?」
ニヤリと暗夜先生が笑う。
そのまま、左手を剣に向ける。
「『魔力解放』」
と、唱える。
その直後、黒い剣は段々と紅く染まり、弾けた。すると、先程まで静止していた剣が動くようになる。そして、また暗夜先生が動き出し剣を振り上げる、そのままこちらへ素早く近づいてくる。
それに対して、メグルは、
「....止まれ」
と、言う。
先程と同じように、止まる──────はずだった。
しかし、黒い剣は止まる事なく、メグルへと振り下ろされる。
「───────ッ!?」
「メグル───────ッ!!!」
俺の身体は動かそうと思う前に、動いていた。
メグルの前に立ち塞がり、直後、右腕と左足を、切り落とされる。激痛に襲われてそのまま、その場に倒れる。それでもすぐに治る。
全て『死霊の呪い』のせいだ、メグルが俺にかけた『死霊の呪い』だ。かけた本人が死ななければ、絶対に死ぬ事が出来ない、そんな禁忌の呪い。
なぜメグルが『死霊の呪い』を俺にかけたのか、そんなことも今の俺には、分からなかった。
「蒼兎っ!? だ、大丈夫っ?」
「あぁ、大丈夫だ....あのさ、メグル....」
「ん? 何、蒼兎?」
「俺、守られてばっかだよな、メグルに....6年前も今も....」
「え? いや、全然そんなこと無い─────」
俺はメグルの言葉を遮るように、
「いいや、俺は守られてばっかだよ....だからさ、俺にも守らせてくれないか?
......メグルを」
「あ、蒼兎.....」
少し下を向いて、それから俺の方に近づいて来る、そして微笑みを浮かべてこう言った。
「うん、分かった....じゃあ、守って....蒼兎」
「おう、任せとけ!!」
メグルと交わす始めての....約束だった。
その約束を守らなきゃいけない、絶対に。そう、俺は心に刻みつけた。
すぐ、背後にいる俺は暗夜先生を睨みつける。
「話は終わりましたか? わざわざ待っていたのですから、それなりの物を見せて下さいね....?」
そうは言ったものの、確実に力の差がありすぎる。
どうやって戦う、どうやって勝つ....。
そう考えていると、後ろからメグルの声が聞こえる。
「─────蒼兎!!」
「....え?」
その瞬間だった。カプッと、首元に突き刺さるような感覚を覚える。
血を吸われている、それと共に何かが流れ込んで来るような、そんな感覚。
「はい、おわり」
「一体....何をしたんだ?」
「血を吸ったのが主だけど、『死霊力』を流したの、これで通常の10倍の力は出るはず、それと『死霊力』を操ることも出来るはず」
「....ありがとな....メグル」
こんなとこまで、迷惑をかけてしまうなんて、全く本当に俺はダメな奴だ....。
でも、だからこそ、俺は絶対に彼女をメグルを守らなければ....ならないのだ....。
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