人が問われている
世界全土で、人が問われている。
「代わるべき時代はすぐそこである」
ロシア。
軍総司令、ダーリヤ・レジリフト=アッガイマン。
またの名を、”魔天”。”名実をとれば、最強の男”
人類の進歩を掲げ、ロシアだけでなく世界全土で人の革命を行なおうとする人間。かなりの危険人物にして、人間に深い感情を持つ者である。
「最近、色々変わってきましたからね。進歩してますよ、ホント」
中国。
アジア裏社会の帝王、”チャイニーズ・ワンズ”の首領、伊賀吉峰。
”人が成るべき人になる”社会を築こうとする、革命者。頭の中は鬼畜な敏腕経営者と言ったところ。人の使い捨ても平然と行うが、選ばれている人には敬意と尊重をする者である。
「うわはははは!堅苦しい奴等じゃのぅ!!お主等は!」
ダーリヤと同じく、所属はロシア。生まれは違う。
ロシアの科学者、キルメイバ・フレッシュマン博士。
この世のあるゆる大きい物を愛でて、作りあげる。デカイ事が大好きなマッドサイエンティスト。基本的な性格は馬鹿だが、何かをデカくする事に関しては紛れもない天才。地球や宇宙を越えた存在を作り上げる事がとりあえずの目標。
ダーリヤの部下であるが、基本は利害の一致で協力しているだけである。
「ところで最近のぅ。ワシの研究所を任されておる配達員がおかしくてのぅ、困っておってな。なにやら人が変わっただの、忙しいだの。まったく、注文品を別のところに届けるとは困ったもんじゃ!」
「…………おい、フレッシュマン博士」
「私達。世界の人間達について話している時に、自分の事を語りますか?」
これより人間社会の根本的な改革を進めようというのに、フレッシュマン博士は空気を読まない。
なんでこの人を会議の場に、それも超重要なシークレット会議に参加させたか?
「理解に苦しみますよ、ダーリヤさん」
「……済まん。悪気はないと思う」
「フレッシュマン博士は我々の計画に必要な人材ではありますが、頭が馬鹿なんですから。かつてはテロリストだった経歴も含めて、扱ってくださいよ」
「伊賀。ワシをテロリスト扱いとは心外じゃな。博士と言え。制御ができないデカイ生物を作り上げ、国を4つか5つ滅ぼした程度の事じゃし、それは何十年も前のことじゃよ。お主が赤子ぐらいの頃じゃぞ」
「めっちゃ怖いんですけど、このお爺さん。うっかりで地球を壊さないでくださいね?」
ぶっちゃけ、そんなシークレットな話を今するわけではなく。
この爺のトークショーでこの物語は終わってしまうからだ。
「これまで時代の技術革命に人間はついて来れたが、いよいよ人を超え始めた時代になりつつある」
カッコイイ事を言っている爺だ。今のところ。
「我々、人は問われておる。その技術についていくため、人が成長を遂げられるのか。あるいは技術に対応できる人間の数を作り上げるかどうか。共存をするかどうか」
人が理想を求めていくほど、他の人も理想に近づかなければならない。性能も肉体も異なる人間達にそのような共有は難しいことだ。
それでもダーリヤは求めている。人間が成長する事によって、進んでいく技術と並び、扱うという側に立ち続けること。人が主役であるから社会がある。当たり前だ。それでも難しいことなのだ。
「まったく、これ以上部下達に。ワシがアニオタである事を、第三者が周辺に知らせんで欲しいわいのぅ!人間の改革が必要じゃわい!のぅ、お主等!」
「そんな低次元の理由で人間の改革を勧めているわけではないぞ、俺達……」
「あんたモロバレですよ。作業中にアニソンやらアニメ番組がダダ漏れてるんですから。それと、隠さなくてもいいじゃないですか。それぐらい」
「よかないわ!!第三者によって、発覚するのが気に食わん!にわか共と話したくないし!最近のアニメや漫画の質が落ちていかんわい!そのくせ数ばかり増えて、視聴者の皆様が追いきれんじゃろうが!!まずはアニメーターを増やさんか!伊賀!滅ぼすぞ、この世界!」
「アニメーターを増やしてどうすんだ。世界がアニメで回ってると思ってんのか、クソ爺」
崇高な目標を持つダーリヤと伊賀に対し、この体たらくなフレッシュマン博士。
正直、こーいうのと喋るとイラつく伊賀であるが。発言通りの実力を兼ね備えている博士を、ダーリヤは高く評価している。こーいう一面でもフォローしてあげる。
「アニメーターはともかくとして。人間の可能性と肉体の成長、発展。また精神面の飛躍は不可欠だ。人間の数が増えたところで、この世界全土における技術……」
「CGの発展は良い事であるが!世間では批判も多い!多少の失敗などを恐れずに、挑戦していく事は讃えられるべき事なんじゃ!手書きが良いだの、やれセル画がいいだの!昔のアニメが良かっただの!そんな感想ばかりあがるアニメ業界にはしたくないものじゃ!」
「俺が喋ってる時に俺より長いことを喋るじゃねぇ!!」
フォローにも限度がある……。
人間関係の悩みはダーリヤだってあるものだ。まぁほとんど、フレッシュマン博士の暴走であるが。
「各々、考えは違えど。人に求めるレベルは、世界全てで引き上げるべき事なのだ!人類の進歩は日進月歩であらねば、人類はその先で滅ぶ!我々はその警鐘を鳴らすわけだ」
「そうですね。やりましょう。ダーリヤさん」
「うむ」
重大な会議の内容は話さないが、互いに合意。
そして、フレッシュマン博士は誘う。この人類の改革が完遂されたら……
「人類が変わったら、ワシ等でアニメを作らんか?」
「「やんねぇーよ」」