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運命の逆召喚 4話

「おいおい……なんだよこれ」

突然、目の前の少女の姿が異形へと変貌した事に驚きを隠せない有斗。覚醒した姿と言えば聞こえはいいが、その見た目は半分人間、半分精霊の中々にグロテスクな姿だ。

辛うじて人型、かつ人間に見えなくないこともないが、街中でこの姿を見れば即発狂。あまりにも平穏とはかけ離れたハードな見た目だ。

(……そもそもこいつ、物理的な攻撃効くのか? パンチとかすり抜けそうだが)

精霊がどんなものか有斗は知らなかったが、少なくとも物理的にどうこう出来る存在だとは思って居なかった。なんせ霊なのだ。魔術的な攻撃でないと効き目がないのでは無いかと思っていた。

しかし……有斗に攻撃魔術の心得は無い。出来る事と言えば、適正最低ランクの微量な魔力を、若干体から出す事くらい。それでも、学校の検知器がぎりぎり反応するくらいしか出せない。

とどのつまり、物理攻撃が効かなかった場合、有斗に明確な攻撃手段は存在しないのだ。

有斗がどう立ち回るかを迷っていたその一瞬。その一瞬を狙って、少女はメイスでの殴打攻撃を繰り出した。

さっきまでとは比べ物にならない速さだ。不意を突かれたこともあってか、有斗はその殴打を避けることが出来なかった。

辛うじて腕でガードはしたものの、グキっと嫌な音が聞こえ、有斗は軽く5メートルほど低空で吹き飛ばされる。

(……ぐっ。これは、もう使い物になんねえな)

激しい痛みと違和感で、右腕の骨が折れたことを理解する。威力も速度もまるで別人のようだった。自分の目の前にいる存在がもう人間ではない、という事を身を以て知らされる。

(殴るどころじゃない……攻撃を加えることすら不可能だ。おそらく逃げたところで、あのスピードならすぐに追いつかれる。……絶体絶命のピンチってやつか)

有斗は文字通り、追い詰められていた。

反撃もままならず、相手との力量差は歴然。まともな勝負にもなりゃしない。

せめてもう少し魔法が使えたら、まだ勝負になったかもしれないが……たらればの話をした所で、有斗に出来るのは自分の才能を恨むことだけ。現状の解決になんてなりゃしない。

万事休す。窮鼠猫を噛むとは言うが、有斗と少女の差は、そんな一噛みすら許さない。

段々と、メイスを構えた少女が有斗の元へと歩いてくる。

とどめを刺しに来ているのだ。先ほどの掌底を受けて意識が変わったのか、今度はゆっくり歩いて近づいて来ている。

その目は有斗のどんな反撃も見逃さない。何が起きても対応出来るように、少女は随分と警戒して歩いているのだ。

そこに隙などありはしなかった。何かを企んだ所で見透かされてしまうだろう。

それを見た有斗が諦めかけて、目を閉じる寸前の事だった。


不意に有斗の目の前に現れたのは、虹色の光。

夏の夜の蛍のようにも見えるそれは、少し有斗の周りを飛び回った後、有斗のおでこへ勢いよく突進をした。

当然、思いっきり弾かれる……と思っていたのだが、有斗にはぶつかった感覚はない。それどころか痛みや違和感も感じない。

辺りを見回すと、虹色の光はすでに消え失せていた。まるで幻だったかのように、全く痕跡を残さず消えてしまったのだ。


『生きたい?』

その時、有斗の脳内に1つの声が響いた。

どこか優しくて、どこか懐かしい……まるで遠い記憶の中に眠っている、親愛な誰かに話しかけられたような感覚を覚える。

『生きたいなら、YESと言って』

この声が何者かなんて、有斗にはわからない。

信じていいのかなんて知る由もない。

だが……このまま何もしなくては、自分はあの少女に殺されてしまうだろう。少女はメイスを振るうのに躊躇が無い。ならば、容赦無く自分を殺しにくる。

そんなの許せない。

他人の都合で殺されるなんて認められない。

ならば戦おう。

肉体の限界まで抵抗しよう。

何も出来ないまま、何もしないままなんて、自分自身が許せない。

だから、有斗は頷いた。

YES……と口にした。


『きっと、後悔しない未来が貴方を待っていますよ?』


その瞬間だった。

謎の声が聞こえた瞬間、有斗は自分の中に何かが流れ込んで来るような体験をする。頭の中を支配され、思考を操られる……しかし、そんな感覚は一瞬で終わりを告げる。

そして数秒後、有斗は立ち上がって少女を見た。

折れたはずの右腕をぐるんぐるんと回し、勝ち目がなかったはずの少女へとまっすぐ歩いていく。

その体には活力が限界までみなぎっている。有斗は、体の奥底からたぎって来る力を押さえつける事なく、全て自由にさせていた。

この瞬間、有斗は契約者となったのだ。


いつもよりくっきり見える目を凝らすと、少女が狼狽えている様子が視界に映る。

狩れる、と思っていたのだろうか。それとも楽に勝てる、と思っていたのか。それは定かでは無かったが、予想外の事が起きている、という顔をしているのは容易に読み取れた。

渾身の一撃を食らわせたはずの相手が、ピンピンしてこちらに向かって来ている。それほど怖いものなどそうそう無い。

「……こっからは狩りじゃねえ」

有斗の静かな言葉に、戸惑っていた少女はヒッと声を上げる。

「喧嘩の時間だ!」

刹那。有斗は身を屈めて走る。

その速度たるや、先ほどの少女に勝るとも劣らない。

精霊の魔力で強化された身体能力は人間のそれを軽く凌駕し、有斗の左腕によるラリアットが少女の腹部へと突き刺さった。

「うっ!?」

少女の悲痛な声が有斗の耳に入るが、自分のされた事を思い出せば良心が痛むということもない。それに、有斗は今重要な事を確認した。

魔力を使った物理攻撃は、半分霊体のような少女にもダメージを与えられる。

メイスと謎の方向転換さえどうにかなれば、勝ちの目が見えてくる。

(……ま、これでようやく対等。武器がないのは痛いが、俺は素手の方が慣れてるしな)

有斗は自分の体を見るが、少女のように半分霊体……とはなっていない。眠った時の学生服のままだ。


「……やってくれるじゃないの」


その時だった。

今まで殆ど何も喋らなかった少女が、有斗に話しかけて来たのだ。

有斗はその行動に驚きつつも、警戒心を強める。

「そりゃどうも。こちとら普段から荒事には慣れてるもんでね」

「こっちに来たばっかりの初心者だって侮ってたら、魔術は使わないわ、途中で精霊見つけて契約しちゃうわで踏んだり蹴ったりだわ。……アンタついてるわね。でもここまでよ」

少女はメイスを地に打ち付け、有斗をキッと睨みつける。

「今の私は逆召喚師ヴァリアント。契約したての素人が勝とうなんて夢のまた夢よ」

「どうかな。さっきの一撃は効いたろ? 俺は絶対に諦めないぜ」

少女の威嚇にも有斗は怯まない。

「…………じゃあ、こういうのはどうかしら?」

少女はメイスを軽く……本当に軽く振った。さっきのような物理攻撃を仕掛ける訳ではなく、虫でも追っ払うかのように。

その行為に首を傾げて警戒する有斗だったが……特別おかしな事は起こらない。

そう思っていた、その時だった。

有斗の体が、急にバンパーにでも触れたかのように後ろに吹き飛んだのだ。

「!?」

予兆は何もなかった。……そう、少女がメイスを振るった以外には。

(これは……まずいな。かなりまずい)

有斗の首筋に冷や汗がタラリと流れる。

これまで、有斗は敵の攻撃を容易に回避することが出来た。それは相手の攻撃が見えていたからだ。

メイスの予測は簡単だし、連撃もタネを理解すれば避けることが出来る。

しかし……今回ばかりはそうも行かない。

少女が今使用した魔術は正真正銘、不可視の攻撃魔術。

有斗には【見えない】魔術だった。


「く……ここどこだ?」

有斗が周りを見渡すと、そこは草木の生い茂る森の中。

吹き飛ばされた距離は数メートルどころでは無いらしい。数十メートル程吹き飛ばされたのか、森林の大分深い所に飛ばされたようだった。

何にせよ、このままでは少女に見つかり再び不可視の魔術を食らってしまう。

有斗は自分の体に異常がないことを確認すると、元いた場所とは反対の方向へと歩き出した。

歩きながら、不可視の魔術について思考を巡らせる。

(……あの時、俺には魔術を感知することが出来なかった。もう一度あいつが同じ魔術を使えば、俺は間違いなく被弾する)

有斗の腹部には、今も魔術的攻撃の痛みがある。

幸い動けなくなるほどの重症では無いが、2発3発と被弾すれば、いつまで生きていられるかはわからない。

その前に対抗策を編み出さなくてはならない有斗。

(あいつの魔術はなんだ……? くそ、こんなことならしっかり授業を受けとくんだったぜ)

有斗は、持っている知識を総動員させて少女の魔術を看破しにかかる。


基本、魔術というのは1人に1つ。その魔力細胞に植え付けられた術式で決まっている。

火を操る魔術、瞬間移動する魔術、飛行する魔術などその種類は様々だ。

それは魔力で身体強化をするのとは訳が違い、術式を起動させなければ魔術を発動する事は出来ない。有斗に魔術が使えないのは術式の起動が出来るだけの魔力は無いからだ。

ただ、魔力が増えたからといって、有斗は術式の起動方法を習っていない。今使える有効な策では無かった。

問題は相手の魔術が何なのか……という事だ。

有斗は、少女の魔術の特徴を洗い出す。

「まず、不可視。……それに、相手を吹き飛ばす効果。そしてメイスを再び振る効果も兼ね備えた魔術。……そんな魔術あるのかよ」

色々と厄介だった。情報は出ているのにその正体が見えてこない。

有斗が最初に思いついたのは、対象に運動力を働かせる魔術だ。

それなら見えないし、メイスを再び振る事も有斗を後ろに吹き飛ばす事も出来る。しかし……それでは直接的なダメージを与える事が出来ない。

にもかかわらず有斗の腹部にはダメージが通っている。今、魔力で体を覆っている状態の有斗には、対象を吹き飛ばす程度の魔力ではダメージは与えられない。

それこそメイスで渾身の一撃を食らわせでもしない限り、有斗はここまで吹き飛ばないだろう。

……考えが煮詰まった有斗は、一度休憩を取ることにした。


有斗がしばらく歩くと、休むのにちょうど良さそうな木陰を発見する。

日を遮る大きな葉があり、地面にはお手頃な切り株。休むのには最適だ。どうやらこの世界には虫が居ないらしく、蚊などを気にする必要もない。

有斗が切り株に腰掛けようとした……その時だった。

「やーーっと! 見つけたわよ!」

声のする方……有斗が上を見ると、ちょうど有斗が休もうとして居た木の上に先ほどの少女を発見する。

相変わらずグロテスクな逆召喚師の姿だ。……またも有斗に冷や汗が流れる。

まだ不可視の魔術の対処法が見つけられて居ないのだ。まともに戦っては勝ち目がない。

ここで情報を引き出し、相手の魔術を見極める必要がある。


「もっかい飛んでけ!!!」


そう言って、少女は再びメイスを振りかぶった。

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