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Another Story 〜異世界の救済〜  作者: 春夏秋冬
異世界≪ビギニング≫編
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第3話 いざ異世界へ



「ここが(ゲート)だ」


 ここまで来るのに数十分程度の時間を要しただろうか。


 とても広い部屋だ。324名の生徒と教師陣が全員入っても尚、余裕がある。壁一面真っ白で、部屋の中央にあるものを除けば何もない殺風景な光景が広がる。


 問題は中央。そこには見上げるほど大きな扉が鎮座していた。恐らくこれが転移装置なのだろう。この扉をくぐれば、その先は異世界に繋がるというわけだ。


「まず異世界に向かう前に各々に注意事項を伝える。まず一つ目。魔の者には注意すること。いわゆる魔物だな。平和な世界といっても悪の元凶を潰しただけで、元来その世界に住まう魔族は完全に消えていない。故に戦闘の発生が危惧されるが、まあここで経験を積むのも良いだろう」


 戦闘がある事は予想できた。そのために今日まで死に物狂いで戦う術を習得してきたのだから。


「二つ目。単独行動はするな。当然だな。今言ったように魔物がうろついている。一人で行動すればどうなるか、分かるよな?」


 魔物といっても様々だ。猿型の魔獣≪モーキン≫という小型の弱小モンスターもいれば、お馴染みのモンスター≪ドラゴン≫のような大型も魔物の内に数えられる。


 小型ならまだしも、ドラゴンのような大型を一人で倒すことは難しい。それはプロのアナザーにも言えることだ。


 でなければ魔物の攻撃を防ぐ盾役、魔物を攻撃する矛役のように役割を分担する必要はない。そういった大型の魔物はアナザー同士が協力し合ってようやく討伐出来るのだ。


 流石にドラゴンと遭遇することはないだろうが、アナザー候補生でしかない彼らにとって協力は必要不可欠。よって、単独行動は禁物だと言いたいのだろう。


「三つ目。向こうに行けば自給自足。私達は監視のみで貴様らの面倒を見てやるつもりはない。そのつもりで」


 これも当然だ。そのために炊事科がいるのだから。戦闘科が救済活動をしている間、衣食住を支えることが炊事科の役目。


 戦闘で疲れた戦闘科をしっかりサポート出来たかどうか、そこが炊事科一年にとっての課題になるだろう。


「最後。今言った通り、私達は一切の手出しをしない。戦闘でピンチに陥っても自分達の力だけで切り抜けろ」


 その発言は一部の生徒をゾッとさせた。つまり戦いでどれだけボロボロになろうが助けに来てくれないということだ。


「安心しろ。流石に死にそうになった時ぐらいは助けてやるさ」


 逆に言えば死ななければ助けないと言っているのと同じ。スパルタを覚悟していた生徒らも、これには開いた口が塞がらないようだ。


 そんな生徒らの様子などお構いなしに摩耶華は着々と事を進める。


「目的は異世界≪ビギニング≫。転送準備開始」


『了解』


 スピーカーから発せられた承諾の言葉を合図に、異世界への扉がゆっくりと開く。


 向こう側は(もや)がかったようになっていて良く見えない。辛うじて、広大な大地が広がっていることだけは分かった。


 生徒達は教師に案内されて次々と扉の奥へ歩を進める。その先にある、こことは異なる世界に向かって。


 摩耶華はどこに行ったのだろう。周囲を探るように視線を張り巡らせると、いつの間にか一のすぐ後ろに立っていた。


「お前が理事長のお気に入りか、最下位」


 高圧的な態度ではあったがさほど気にならなかった。すでに摩耶華という人物の片鱗を見せられたからかもしれない。


 それに、それよりも気になる発言が出た。


「お気に入り?」


「自覚していないのか? お前のような成績でもここに入学できたのはひとえに理事長のお言葉によるものだ」


 摩耶華は、理事長が一を贔屓(ひいき)したと言っている。だが、全く心当たりがない。


「なんで──」


「貴様の活躍、期待しているぞ」


 摩耶華は一方的に告げると一の事などお構いなしにゲートへ向かう。


 突然教えられた事実に頭は混乱するだけだが、教師陣は一に注目してくれているということは分かった。なら、そのチャンスを生かさない手はない。


「行こう」


 気合は十分。一は皆に続いてゲートを(くぐ)った。


 まず目の前に飛び込んで来るのは緑の大地。次に青い空に白い雲。爽やかな風を全身で感じ、自然の広大さを目の当たりする。


 そんな光景が広がっていると、この時までは考えていた。


「なっ……」


 目の前には緑の大地などありはしない。業火に包まれ崩壊する街と、汚染された紫色の大地。


 ここが、本当にビギニングなのか?


「ま、摩耶華先生?」


 生徒の一人が疑問の声を上げる。本来転移する場所とは違う場所に来てしまったのではないか。そう言いたげだった。


 だが、生徒の誰よりも驚いていたのは摩耶華だった。


「摩耶華先生、あれを」


 その場にいる人間のほとんどが混乱と驚きで頭が正常に働かない中、一人だけ冷静を失わず状況把握に努めた者がいる。


 霧崎(きりさき) (かたな)、今回同行する教員の一人だ。刀はこれが異常事態だと認めればすぐに現状把握に努めた。


 その彼が指し示す方向。そこには天に届く勢いで伸びる一つの塔があった。


「あれは──間違いないな……」


 あの塔は一にも見覚えがあった。確かビギニングには、異世ノ高校との友好の証として天まで一直線に伸びる救済者の塔(アナザータワー)なるものが存在すると雑誌で見た気がする。


 もしあれがアナザータワーであるなら、ここは紛れもなく異世界(ビギニング)だということになる。


「新たな魔王が現れたか、それとも巷で騒ぎとなっている異世界渡航者か。ともかく摩耶華先生。これ以上ここにいるのは危険です。すぐに引き返しましょう」


「あ、ああ。そうだな」


 摩耶華は端末を操作して元の世界の人間と通信を図る。消えてしまったゲートをもう一度ここに出現させるのだろう。この異常事態の中、課題もなにも無い。


「ん? あれ、なに?」


 遠くを見ていた生徒の一人が何かを見つける。つられて一もそちらに視線を向けた。


「……何か、来る……っ!?」


 空を飛ぶ何か。あの巨体、あの姿。紛れも無い、あれは──。


「ドラゴン……だと!?」


 最上位に位置する強力な魔物──ドラゴン。強大な力が一同に迫っていた。


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