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Another Story 〜異世界の救済〜  作者: 春夏秋冬
異世界≪ビギニング≫編
11/12

第10話 戦闘開始



「ところで、これからゴブリン退治に行くのよね?」


 一同が簡単な自己紹介を済ませた後、寧はこの行動の趣旨について尋ねる。


「ああ。あわよくば生徒の一人でも見つけられたら、って思ってる」


 魔物との戦いに恐怖を抱く未愛や透、寧の克服を手伝うことが優先すべき事項であることに違いはない。


 だが同時に、森の中を探索している最中に生徒を発見したいとも考えていた。


「静かに。ゴブリンがいンぜ」


 前方を歩く和樹から報告が上がる。期待していなかったが この男、なかなかどうして優秀である。


 事あるごとに小さな悲鳴を上げる3人らとは違い、物事に動じる様子もなく冷静に周囲を探っていた。


 今回ゴブリンをいち早く発見できたのも、その冷静さ故だろう。


 一は和樹に並んで奥に視線を向ける。数は、一体。前回と同様なら、恐らく餌として誘き寄せる役目を担っているはず。


「問題は周囲に何体いるかだな」


「たぶん、隠れてる奴が二体」


「分かるのか?」


「目は良くてな。あそことあそこ」


 和樹が指差す方向。注視してみると、確かにそこにはゴブリンの姿があった。


「よく分かったな、あんなの」


 教えてもらわなければあそこにゴブリンがいる、なんて分からなかった。いくら目がいいとは言っても、この短時間に二体も見つけられるものだろうか。


「それより作戦考えよーぜ?」


 和樹は顔一杯に笑顔を浮かべて提案する。


「それもそうだな……」


 ひとまず和樹のことは置いといて、三体のゴブリンを討伐するための策を考えることにした。


「まず透」


「んぅ? 僕?」


 一と和樹の会話についていけず気を緩めていたところ、突然名を呼ばれたことで透は奇妙な声を上げてしまう。


 パンパンと両の頬を叩き気合いを入れ直すと、透は一の言葉を待った。


「ゴブリンに見つかってくれ」


「…………。ん!? え? どゆこと!?」


 予想だにしない内容に一瞬の間があったが、すぐに意識を取り戻すと言葉の真意を一に尋ねる。


「透がゴブリンの注意を引き付け仲間を全員呼び出したら、俺と和樹が連中の背後から奇襲を仕掛ける」


「いや、キツくない!?」


「何の為の盾だよ。楯士科は敵の注意を引いてナンボだろ」


「そ、そりゃそうだけど」


「多少怪我したところで未愛がいる。すぐに治るさ」


「う、うん……。それなら良い、の、か?」


 いまいち納得し切れない様子の透はさておき、作戦の続きを語る。


「多分、俺と御久来の奇襲が成功しても仕留め切れない可能性が高い。そこで絵室さんには弱った一体を集中的に攻撃して確実に仕留めてほしい」


「わ、分かった。頑張るわ!」


 寧は気合い十分であることを伝えるために両手の拳をグッと握る。やる気があるのは良いことだ。


「そうするとゴブリンは残り二体。人数的に不利に陥ったゴブリン達は恐らく逃げ出そうとするはず。みすみす連中を逃がさないようゴブリンの前方は透、左右は俺と御久来、後方は寧さんで取り囲む」


 包囲網さえ整えれば勝ちも同然だろう。寧が射撃でゴブリンの動きを牽制してくれたら尚良し。


「その時、表道さんは透の後ろについてくれ。敵の攻撃が一番集中する役目を担っているから、透が怪我を負ったら随時(ずいじ)魔法で治療を」


「は、はい……っ」


「それまでは俺の後ろにいてくれ」


「え? あ、はい。分かりました」


 最初から透の後ろにいた方がいいのでは。きっとそう思ったのだろうが、未愛がそれを言うことはなかった。何か理由があるのかもしれないと考えたからだ。


「何か質問はあるか?」


 手を上げる者はいない。この作戦で問題なし、ということだろう。


「いんじゃねーか? それでいこうぜ」


「分かった。それじゃ絵室さんはゴブリンの背後に移動してくれ。配置に付いたら合図忘れずに」


「分かったわ」


「和樹はゴブリンの左側へ。俺と表道さんは右に付く。透は俺たちの合図を確認したらゴブリンに攻撃を開始してくれ」


「う、うん。分かった」


 準備は整った。透と寧は自身の配置場所へ移動を開始する。和樹もそれに続こうとするが、一に呼び止められて足を止めた。


「なんだ?」


「ちょっと耳貸してくれ」


 一は和樹の肩に腕を回して内緒の話を始める。ここにきて、一体 何を話そうというのか。二人の会話が聞こえない未愛は一人 首を傾げた。


「なんだよ?」


「ああ……。もしかしたら今の作戦、上手くいかないかもしれない」


「はっ?」


 一の口から飛び出た予想外の言葉に、素っ頓狂な声を上げる和樹。


「えーと、なんだって?」


「ここの魔物は予想外の行動ばかり取る。お前も知っているだろ?目論見通りいけば問題はないが、万が一の可能性もある」


「いやでもそれ、大丈夫なのか?」


「一番心配な表道さんは俺の後ろにいるし、いざとなれば絵室さんのフォローにもすぐ行ける」


「透はどうすんだ」


「お前がいるなら平気だろう」


 この男は入試を58位で通過した成績優秀者だ。この状況でも落ち着いているところを見る限り、恐らく下手を打つことはない。


「ははっ、責任重大だな」


 和樹はからからと笑う。口ではこう言いつつも、プレッシャーを感じている様子はない。


「けど、なんで3人にはそれを教えなかったんだ?」


「言っても混乱させるだけだろう。俺の考えすぎって可能性だってあるしな」


 作戦通りに事が運ぶのならそれが一番だ。余計なことを伝えて場を乱したくはない。


「そういうわけで、よろしく頼むぞ」


「へいへーい」


 持ち場へ向かう和樹を見送り、一も未愛の元へ戻った。


「何を話されていたのですか?」


「ちょっとな。それより、そろそろ始まるぞ」


 遠くで寧が小さく手を振る姿が見えた。和樹も持ち場に着いたことを確認し、一は透に合図を送る。


 戦闘開始。


 それを見た透は小さく頷く。意を決して茂みの中から姿を現して、ゴブリンに向かって突っ込んだ。


「うおおおおおっ!」


 透は盾を使ってゴブリンの身体を弾き飛ばす。ここまでは順調。問題はここから。


 木々に隠れていたゴブリンは透の姿を認めると、隙だらけの背中に向かって棍棒を叩き込まんとする。


 それを待っていたと言わんばかりに飛び出した和樹は、自身が持つ武器(ハンマー)でゴブリンの身体を地に叩きつける。強烈な一撃だ。今の攻撃で大きなダメージを与えられたことだろう。


 寧は弱ったゴブリンを攻撃すべく銃を構えて──戸惑いを覚える。


 隠れていたゴブリンは二体という話ではなかったか。今この場に飛び出したゴブリンは一体だけだ。


「──はっ……」


 ともかく弱ったゴブリンを倒そう。寧は改めて銃を構えるとゴブリンに向かって攻撃するが、その一瞬の戸惑いがゴブリンに逃げる隙を与えてしまった。


 これで寧の居場所まで知られてしまった。隠れているゴブリンが、いつ寧を襲撃してもおかしくない状況だ。


「ちっ……」


 予想していた通りになった。


 ここのゴブリン共は妙に警戒心が強い。二体ではなく三体で行動しているところを見ると、もしかしたら三体目は場に出てこないかもしれないと考えていたのだ。


 有利な状況に持ち込めたと一達を油断させ、背後から忍び寄って奇襲するために。


 完全に手玉に取られた、とは思うまい。この状況はなるべくしてなった。


 戦闘に不慣れなひよっこ達と、この森で狩りを続けたゴブリン達とで比べたら、ゴブリン達の方が何枚も上手に決まっている。


 だが、そうなることを最初から予測していたなら対処のしようは幾らでもある。


「表道さん、移動しよう」


「えっ、あっ、はい……!」


 恐らく、隠れていたゴブリンは寧の元へ向かっているはず。


 二人はゴブリンに気づかれないよう静かに移動を開始した。



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