第9話 新たな仲間
視線のやり場に困る。決して露出度が高いというわけではないのだが、大きな胸と引き締まった腰付きは一目 見ただけで劣情を催すほど。
透なんかは視線を逸らしながら そわそわしている。
「確か、絵室寧さんだったか」
一はその凶悪な身体をなるべく視界に入れないよう返事をする。すると女性は、にっこりと笑みを浮かべながら歩み寄る。
「覚えててくれたんだね」
「そりゃあ、な……」
「?」
忘れるはずもない。先ほど挨拶を交わした時、とても同い年には見えない大人びた雰囲気に一は飲まれそうになった。
彼女は銃士科に在籍する生徒の一人。当然 彼女の銃士ランクはA評価なのだが、炊事ランクもA評価とかなりハイスペックなステータスを持つ。
曰く、元々は料理が得意ということを生かして炊事科を目指したそうだが、炊事科は肩身が狭いという世の実態を知って銃士科に転向したのだとか。
「で、絵室さん。俺たちに何か用か?」
「うん。揺木君達、外行くのかなって。ゴブリンが彷徨いているし、止めた方がいいと思うわ」
「心配ない。いざとなれば逃げるから」
「でも」
「それに……」
寧の言葉を遮る。何を言われても引き返すつもりはなかった。
「アナザーを目指すなら、こんなところで燻っていられない」
異世界を救う役目を担う者達が、異世界で助けを求めるなんて笑い話にもならない。
無駄死にするつもりはないし、無茶するつもりもない。だが、志那達に甘えて助けられるだけの存在にはなるつもりもない。
自分の身は、自分で守れるようになる必要がある。
「透と表道さんも、同じ気持ちだから付いて来てくれた」
「まあ、僕は半ば強制的に連れられているけど。でも、まあ……僕もイッチーと同意見」
最初こそ無理やり引きずられていた透だが、今は自分の意思で歩いている。それは覚悟を決めたということに他ならない。
未愛も二人の影に隠れているが、その意思は固いことが伺える。
三人が考えを改めるつもりはないことを把握した寧は、小さく息を吐いた。
「……揺木君達は強いんだね。私は、やっぱり怖いかな」
死の危険がある。それを考えるだけで足は竦み、思うように動けない。先月までまだ中学生だったのだから当然だ。
「私も、怖いです……。でも、一人ではないですから」
だが、それは一人ならの話。一緒に戦ってくれる仲間がいるなら、こんなにも心強いことはない。
「うん……うん。そうだね」
寧は未愛の言葉を確かめるように何度も頷いて、次の瞬間勢いよく顔を上げる。
「私も一緒に行っていいかな。足手まといにはならないようにするから」
「構わないが、いいのか?」
「うん。私も守られるだけの存在にはなりたくないから」
寧の表情からは強い意志を感じられる。一達の言動に感化されたのかもしれないが、いい加減な気持ちで同行を申し出たわけではなさそうだ。
「分かった。じゃあ、よろしく頼む」
寧は力強く頷く。
あの様子ならば心配はないだろう。万が一戦闘中に何かあれば各々フォローに回ればいい。
それに人数が増えればその分、個人個人の負担も少なく済む。一からしたら願ってもない申し出だ。ふいにする理由はない。
「それじゃ今度こそ──」
「ちょっと待った!」
出発しよう。そう言おうとした矢先に邪魔する男が一人。確か、戦士科の御久来 和樹だったか。
またか。今度はなんだ?
「エロ姉との話、聞かせてもらったぜ」
「え、えろねえ?」
寧は首を傾げる。聞き覚えのない単語が出たからだ。
「ああ。身体むっちゃエロいし、名前もえむろねい。むを取り除けばえろねい。エロ姉とも呼べなくないだろっ!」
「いつから聞いてたんだよ……」
寧の名前を知っている辺り、最初の方からいた気がしてならない。
確かに一も寧に対して大人びた雰囲気を感じていたし、姉っぽい人ではあるがエロ姉は流石に酷い。
まあ、絵室さんなら余裕で受け流すだろ。
などと一は考えていた。そういった事に対する免疫があると思っていたのだ。
だが、その予想は大きく外れた。
「なっ、なっ、なっ……!」
寧は顔を真っ赤にさせて金魚みたいに口をパクパクさせる。
「えっ、エッチなのは嫌い!」
寧は自身の身体を抱きつつ一の背後に隠れる。ついでに言うと、和樹の言動に恐怖を抱いた未愛も一の後ろに隠れていた。
「……二人とも?」
「ゆ、揺木君達もそういった目で見てたの?」
寧は一と透を交互に見る。一はゆっくり、透は激しく首を横に振る。
「ん? どうしたんだ?」
「いや、どうもこうもあるか。お前はもう少し言葉を選べ」
本気で何のことだが分からないといった表情を浮かべる和樹の顔面を殴ってやりたい一だった。
「はぁ、まあいい。で? 俺達に何の用だ?」
「ああ、俺も一緒に連れてってくんねーかな。あんたの言葉で目ェ覚めたんだ。俺もアナザーを目指す男の端くれだってな」
言動はアレだが、逆に言えば自分の心に正直に生きているタイプの男だ。腹に一物抱えた人間よりは信頼できるだろう。
人数が増えるに越したことはない。一は和樹の申し出を受け入れることにした。
「ああ、構わなっい!?」
ぐりんっ、と一の首がむりやり背後に回される。未愛が一の頭を掴んで無理やり後ろを向かせたからだ。
「……表道さん? 一歩間違えば首折れるから、それ止めてもらえると──」
「あ、あの人を連れて行くのですか?」
無視。
一は首の様子を確認しながら言葉の意味を考える。
あの人とはつまり和樹のことだ。連れて行くのか尋ねるということは、恐らく一緒にいたくないとかそういう感情があるのだろう。
それも仕方ない。女性に対して遠慮なくエロエロ言う男と一緒にいたいとは思わない。
だが、ここは我慢してもらう必要がある。
「あいつは戦士科だ。前線で戦う人数が多ければその分、表道さん達の負担が少なく済む。それに、四人も仲間がいれば表道さんも安心できるだろ?」
人数が多ければ魔物の恐怖もある程度は軽減される。この際、彼の性格には目を瞑ってもらいたい。
「で、でもでもっ」
未愛との会話に寧まで割り込んできた。寧も未愛と同じ気持ちというわけか。
「あいつのことは俺と透が注意して見ておくから。な?」
「ええっ!? 僕も?」
透も和樹に苦手意識を持っているのか、露骨に嫌な表情を浮かべていた。それでも折れることなく一は言葉を続ける。
「ああ、頼む」
「──はぁ、仕方ないなぁ……。ほんと、人使いが荒いんだから」
「助かる」
何だかんだお人好しな透が見張りを引き受けてくれたことで、それならと二人も渋々了承してくれた。
「ふわぁあ……話は終わったかぁ?」
盛大な欠伸を隠そうともせず、暇そうに頭の後ろで手を組む和樹。
お前のせいで話が長引いたんだと言いたい気持ちを抑え、一は頷く。
「なら行こうぜ?」
「ああ」
一はようやく外へ繋がる扉を開けた。魔物が潜む森の中を行くために。




