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幼なじみの問題児くんは。

作者: 波丸

幼なじみがほしい。切実に。

 わたしは今、猛烈に怒りを感じている。でも3割はまたか、という思いもある。なんていったって、彼、南雲龍弥が傷だらけなのは今に始まったことではないからだ。


「もう!なんでまた怪我してるの!?」


 私は彼に向かっておなじみの言葉をぶつけた。

 私の前に胡座あぐらでいる龍弥はわざとらしく私と目を合わせようとしない。しかも顔がウザイって顔してるし。


「りゅ、う、や?」


「っんだよ。つか俺は治せなんて頼んでねぇ」


 こいつ、いつからこんなにひねくれたんだろう。龍弥のお母さんの雅さんはいい人なのに。しかも、せっかく雅さん譲りの綺麗な顔してるのに傷だらけにしちゃってさ。


「あのね、頼まれなくても心配くらいするし!何年の付き合いだと思ってるのよ」


「1日」


「やだ、目の中消毒しちゃいそう」


「ふざけんな」


 それはこっちのセリフだから。1日ってなんだ。余裕で10年超えた付き合いでしょうが。

 うちの家系は親戚同士の付き合いが深く、4歳の頃から私たちはずっと腐れ縁。家は遠いって程ではないけど近くでもない。でも、昔から両親共働きの龍弥はよく私の家に来ていた。その時は別に普通の男子で、どちらかといえば私の方が怪我ばっかりしてた記憶がある。木登り大好きだったからな、あの頃。

 なのに、今は。


「おい、もういいだろ。」


 金髪の不良男子になってしまった。


「っ!ちょっとまだ手の怪我が……」


 思い出に気を取られて、いつの間にか龍弥は私の部屋を出ようとしていた。荷物は置き去りのところを見るに、帰る気はないらしい。多分めんどくさくなったんだ。まぁ、顔は痛々しいけどだいぶ手当はしたからいっか。


「まってよ!っもう、人がせっかく親切にしてるのにぃ」


 リビングに降りていった龍弥を追って、私も自分の部屋を後にした。

 そういえば、今日はお父さん返ってこないんだった。龍弥の親は今旅行って言ってたし、どうせなら一緒にご飯食べようかな。私、独りには慣れてるけど嫌いなんだよね。静かな誰もいない空間って虚しくて怖くなるんだよ。


「龍弥?」


「奈緒、お前今日ひとりか?浩二さんは」


 あ、下に人の気配がないから扉の前で立ってたのね。敏感なのはやっぱり喧嘩とかの感ってやつかな。


「大阪に出張」


 龍弥は私の言葉に納得して、扉を開けてズカズカと入っていく。なんか、もう龍弥ここの住人みたいだよね。

 あ、そうだ。


「だから龍弥、今日ご飯うちで食べようよ」


 思いついたのはいいけど、言うの忘れてた。最近は手当してすぐ帰っちゃうから、こういうことも偶にはありでしょ。なんて呑気に聞いたつもりなのに。


 何故かガン見されました。ていうか、龍弥の顔が渋くなってる気がする。え、何このシリアスな空気。


「……それ、誰がやるんだ?」


 はい? そんなの決まってるじゃん。


「わたし」


「てめぇはテレビでも見てろ。奈緒の飯は怪我が悪化する」


 君、なぜ即答。

 失礼な。料理頑張ってるんだから。取り敢えずちゃんと餃子とかできるんだよ!あ、味付けは隠し味の愛情で誤魔化してるけどさ。


「色々突っ込みたいところはあるけど、龍弥最近口悪くなってない?加瀬くんたちの影響でしょ」


 さっき「てめぇ」って言われた。前々から思ってたけど、流石に私のことをあんなふうに言われたのは驚きだった。


「だろうな。俺も自覚はしてる」


 自覚して放置かこいつ。

 冷蔵庫を開けて作る気満々の龍弥を横目で確認して、椅子に座り机に肘をつく。


「直しなさいよ」


「ムリ」


 諦めが早いのは昔から相変わらずなんだから。


 ちなみに、加瀬くんっていうのは、龍弥とよくつるんでいる高校の同級生。龍弥からよく話を聞くから仲もいいほうなのだと思う。何度か龍弥の家に来ていたので見たことはあるが、まぁ、この子もかなりやんちゃでサボりの常習犯。私としては、龍弥がグレたのは加瀬くんの存在が大きいのではと疑っている。というか、8割は確定だよ。なのに龍弥の高校の生徒会長らしいので驚きだ。ほんと、どうして生徒会長が銀髪なんだよ。


 うん、何度考えても理解不能。


 私は龍弥と違い進学校に通っているけど、どうやら不良校は私にとっての常識が全く通じないことを去年のうちに学習した。


「奈緒、シチューでいいか? 」


 私が机で1人うだうだしていると、龍弥がキッチンから顔を出した。

 形は私に質問しているが、もう決まってるじゃない。明らかにキッチンの上にはシチューの素が置いてあるし。手に持ってるの、人参だし。私嫌いなんだよなぁ。言ったら量が倍になりそうだから言わないけどさ。


 でも、シチューか。


「うん。私、シチューだ「大好きなんだろ」……え? 」


 最後まで言い切る前に、昔よりも大人っぽく程よく低くなった声が重なった。

 思わず顔をあげると機嫌が良くなったらしい奴はまな板と包丁を準備して野菜を切るところだった。


「知ってるよ。奈緒の大好物はじゃがいも大きめのシチュー。何年の付き合いだと思ってんだよ」


「っ……!もう、またそうやって……」


 ほら、自覚なしにそうやって言うから。私の胸の鼓動がおかしくなるのは、そんなふうに笑って言う龍弥のせいだ。

 そんな私の気も知らずに、龍弥は慣れた手つきで我が家のキッチンを使う。とんとんっ、と一定のリズムで聞こえる野菜を切る音が、会話がない空間に響く。私はこの無言の感じも嫌いじゃない。なんていうか、暖かい感じがするから。

 1人で座っているのもなんか申し訳なくなってきたので、手伝おうかな、と席を立とうとした時。


『ぐぃーーーーん! 』


 大きなギターの着信音。

 少し驚いたが、龍弥のだとわかっているので、机にあった青いスマホを持ち龍弥のもとへ持っていった。


「さんきゅ」


 そういって、律儀に1度手を拭いてからそれを受け取ると、足早にリビングを出ていった。

 途端、キッチンには私だけ。

 ちらりと見えた龍弥の顔は、私の知っているどの龍弥よりも凛々しくて、男らしくて。多分、電話の相手は龍弥の仲間。私の知らない世界の事だと察した。


 察して、胸が苦しくなった。



「しらない」



 こぼれ出た想いに、何か気持ち悪いものが混ざったのを、私は気付かないふりをする。こんなの、私が嫌な奴になっている証拠だから。それに、龍弥は色々詮索してくる人を嫌うから、私はきらわれたくな……て違う! だ、断じて嫌われたくな、いとか、じゃな、な……くはないけどさ。もう、電話長いから変な事考えちゃったよ。

 何かやる事はないかと見てみたけど、中途半端なものばかりで私が手を付けても大丈夫なものはわからなかった。ここで勝手に何かしたら怒られそうなので、取り敢えず溜まっている洗い物を片付けることにした。


「奈緒」


「うわっ」


 突然近くで呼ばれたので変な声を出してしまった。反射的に後ろを振り向くと、電話が終わったらしい龍弥がすぐ側に立っていた。幼なじみで免疫のある私でも、至近距離の龍弥にはやっぱり緊張してしまう。

 し、心臓に悪い。

 もう少し自分の魅力に気づくべきだと思うのは、きっと私だけではないはず。

 て、あれ?


「また身長伸びたでしょ」


「んー奈緒が縮んだんじゃね」


 こいつの魅力なんて見た目だけだった。さっきまでのキラキラオーラがどんどん無くなっていくこの前聞いた時180超えたとか言ってたからもう伸びないのかと思ってたけど、侮れないな。私なんて中2から安定の153なのに。遺伝なのか。やっぱりトンビはトンビしか産まないのか。


 あの。その頭ぽんぽんは慰めですかね。例え胸きゅん仕草だとしても場合によってはストレスでしかないぞそれ。


「っもう頭叩くと身長縮むじゃん! 」


 耐えきれずに頭にあった手を払った。

 と、その手を払ったはずの手で掴まれる。洗い物をして濡れている私の手に温かい龍弥の手が触れた。

 また嫌味を言われるのか、と横に立つ龍弥を見上げると、私は思わず目を見開いた。


「お前はそのままでいいんだよ」


 そう言って龍弥は私の手を離し、野菜を切り始める。

 私も、残りの洗い物に目を向けた。




 なに、なんでそんな顔。




 笑ってた。意地悪な笑でもなく、昔みたいなかっこよくて、優しい笑顔。




 照れ隠しで何も考えずに、この沈黙を無くすために聞いてしまった。


「ねぇ、何今の電話」


 やばい。言ってから気づいたけど、これはまずった?

 横にいる龍弥に気づかれないように目だけを向ける。


「さぁ」


 鍋に火をつけて言う龍弥の声は急に冷えた気がした。

 く、空気が凍ってるような。


「さ、さぁってなによ。また喧嘩? 流石に最近多くない? 」


 もう、やめるべきかな。なんて思いながらも何故か止まらない。けど、何処かでもっと、という思いがあるのも事実で。

 幼い頃から龍弥とは一緒にいて。気づけば私とは全く違う世界にいる君を。


 結局、知りたいんだ。私は。


「お前は何も知らねぇからそんなこと言えんだよ」


「でもっ」


 知らないのは、龍弥が……。


「うざ」


 形のいい唇から聞こえた声は、否定の言葉。


「お節介も頼んでねぇよ。どうせ、俺の事だって親に頼まれて仕方なくやってるだけだろ」


料理の手を止めずに、淡々と冷えた口調で言葉を発する。私の方には視線さえも向けてくれない。


「に、それ」


「もう昔とはちげぇの。俺も、お前も」


 なにそれ。


「だから、構うな」


 バンっ!


 乱暴に閉められた冷蔵庫の音に嫌でも体が反応した。怖い。これ以上いえば嫌われてしまうかもしれない。もしかしたら、もう怪我の手当もさせてもらえないかもしれない。

 でも。


『仕方なくやってるだけだろ』


 その言葉は否定したくて。私の気持ちを、分かってもらいたかった。



「……たしの、は」


「あ?」


「私の気持ちは!?」


 一度開いた口は、もう止まらない。


「さっきから聞いてたけど、全部龍弥の想像じゃん!!私のこと聞いてもくれないじゃん !!何それ、『仕方なく』って言った? 」


「んなわけないじゃん!そんなこと、おもうわけっ……。喧嘩だって、何も教えてくれないのに怪我ばっかり増えるし。私は、いつも、龍弥の事が心配で、でも高校も違うし、会う機会だって減ったし。わたしは寂しくて……のかはっ……わ、かんないけど、ほっとけなくてっ。っ、ぃだから……」


 あぁ、龍弥がポカンとしてるのが見える。あぁ、なんか涙まで出てきてるし。でもここまで言ったんだ。もう私は言ってやるぞ。嫌われるとか知るか!



「好きで好きでしょうがないから、龍弥と一緒にいるの!!」



 だから、いい加減分かってよ。鈍感ヤローめ。



「ったく、なんだよそれ」


「っえ!? 龍弥!? 」


 ふわり。温かい懐かしさと、昔から変わらない龍弥の匂いが私を包み込んでいた。思わぬ事に、驚きのあまり声が裏返ってしまう。

 は、恥ずかしい……。思考が止まっているにも関わらず、何故か頬は赤くなるばかりだった。そりゃそうだよ。幼なじみと言えど、こんなに近づいたのは幼稚園以来だったんだから。


「言っとくけど、俺も同じ」


 っ、耳元に息がかかってくすぐったい。


「おな、じ? 」


「奈緒が好き」


 す、好きって言われた!?


 どうしよう、と混乱する私を気にせず、龍弥は抱きしめていた手を緩めた。背に回っていた手の片方は、私の頭の後ろへとゆっくり移動していく。

 気づけば、見た目に反した優しい手つきで、繰り返し私の髪を撫でていた。昔からの心地のいい手に、無意識に頭をすり寄せると、龍弥はクスリと笑って私を見下ろす。


 な、なんか熱い。


「だから、お前を危ない目に合わせたくないんだよ」


 熱いのは絶対目の前で嬉しい言葉ばかりいうやつのせいで。


「っん……ぁ、りゅぅ……んんっ」


 触れる唇からから、お互いの熱が伝わる。

 繰り返し、優しく触れるそれは照れから気持ちのいいものに変わっていった。


「ん……黙って俺に委ねろって」


 必死に応えようとしているのが伝わったのか、キスの合間に囁かれる。普段の龍弥からは感じられない色気のある声に、


「……なんかムカつく」


 そう思うのは必然だ。

 こんな時に思っちゃいけないんだろうけど。龍弥にリードされるのは少し負けた感じが。私にとっては初キスなわけだしさ。


 急に龍弥が体を離した。


 見上げると真っ直ぐに私を見た龍弥があの意地悪な顔をしている。あ、これは勝てないかも。

 だってこういう変な自信のある顔の時、私は勝てた試しがないから。



「へぇ? じゃあやめるんだ? 」


 ほら。こんな時に言われたら、勝てっこないし。


「……で」


「聞こえない」


 調子乗ってるなこいつめ。これでも龍弥のお姉さんキャラで今までやってきたんだから、かなりプライドズタボロだぞ。にやにやの顔が気に食わない。余裕そうな感じもだ。

 悔しい。悔しい、けど。


「やめ、な、ぃで……」


 今は、こいつの思うようになってやろうじゃないか。

 いつの間にか私の腕は龍弥の背に回っていて。


「っ反則だろ……」


 あ、ちょっと照れた?なんか可愛いなぁ。高校生になって龍弥のこんな表情見るのは初めてかもしれない。

 すごく、嬉しい。


「ぁん……!」


 再びのキスはさっきよりも激しくて、深いものだった。けれど、不思議なことにやめたいなんてことは微塵も思わず、私はただ必死に龍弥の服を強く掴んでいた。





 結局途中まで龍弥が作ってくれたシチューは、私も手伝って美味しく食べた。もちろんジャガイモはゴロゴロと存在感を主張している。


「龍弥」


「なに?」


 これからは今までの幼なじみじゃなくて、特別な人だからね。だからもっと、たくさん言うよ。愛してるの意味を込めて。


「大好きだよ」








「で、喧嘩ってまた加瀬くん達? 」

「あ、やっぱり聞く? わすれるとかは」

「むり」

「……奈緒って根に持つタイプだろ」

「自覚してまぁす」





ちなみに奈緒は偏差値70です。考えすぎて、逆に空回りしちゃう可愛い子です。

だから、不良の龍弥とは相性がいいのかも……なんてね。

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