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第一回 俺、死ぬ!

親愛なる、隆慶一郎先生へ捧ぐ

 俺の名前は、世良田せらだ

 三十四歳。自慢ではないが、人生詰んでいる。

 F県出身。藩校が前身の名門校から旧帝大(通称:Q大)の人文歴史学コースに進学。そこでは、戦国の覇者・徳川家康を研究。F岡郷土史研究に何度も論文を寄稿し、歴史界隈ではちょっとした有名人になった。SNSでも、歴史クラスタのフォロワーは千人を越えている。

 そこまでは、よかった。しかし、就職に失敗した。

 Q大の名前だけで、地場大手企業に就職したが、コミュ障の俺には、社会の難易度が高過ぎたのだ。

「Q大出身で、そんな事も出来ないのか」

「頭が良いだけでは、使い物にならん」

「お前の気の利かなさは、胎児からやり直さんと治らんな」

 長時間労働と罵詈雑言の叱責を前に俺の心は折れ、半年で退職。その後何度か就職したが長続きせず、結局スーパーの品出しアルバイトに落ち着く。時給、七六五円。なお、職が安定しない事にキレた親父に実家を追い出され、今は安アパートに独り暮らしている。

 勿論、彼女などいない。彼女いない歴=年齢の童貞だ。

 そんな俺は、今ゲームのコントローラーを握っている。

 俺を歴史好き導いた、某有名ゲーム会社の最新作〔神君立志伝Ⅴ〕をプレイしているのだ。

 このゲームは徳川家康の人生をなぞるゲームで、家康以外の武将プレイも可能。また史実ルート以外にも、IFルートが豊富な事も魅力で、高い評価を受けている。

 俺のプレイキャラは、当然家康。家康は忍従の人だ。耐えて耐えて天下を獲った。学生時代から非リアで、不遇に耐えていた俺のヒーローなのだ。

 モニターには、一五六〇年の表示。

 この頃の家康の名前は、松平元康。今川義元の上洛戦が開始され、大高城へ兵糧を運び込むよう命じられるイベントに差し掛かった所だった。

 家康の飛躍が始まる大一番。そして、桶狭間の戦い前夜。この後、今川義元が信長に討たれ、家康は自立の道を歩む。

 ここでも歴史IFルートに繋がる選択肢は用意され、大高城入城失敗、また兵糧を持って信長へ降伏するなど様々だ。

 しかし、俺は史実ルート順守。家康は史実通りに動けば天下人になれるのだ。わざわざIFルートを選ぶ必要は無い。そうしたものは二周目以降だ。

(ここからが、本番だな。しかし……)

 腹が減った。俺は立ち上がり、小さな冷蔵庫を開けた。中はマヨネーズとカピカピのケチャップ。そして一度しか使わなかった蜂蜜しかない。

 時計は、午前三時を示している。今日が、〔神君立志伝Ⅴ〕の発売日。バイト終わりの午後七時にゲーム屋に駆け込み、かれこれ八時間ほどプレイしている事になる。

 この時間だ。近くの定食屋も閉店している。それに金は無い。俺は仕方なく近所のコンビニまで出掛ける事にした。

 二階に住む俺は、勢いよく階段を駆け下り、通りに出た。

 深夜三時。平素、車など通らない道。そのはずだった。

 眩い光。理不尽なほどの強い衝撃を受け、視界が暗転した。

 そして、俺は死んだ。

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