プロローグ 『夢の中で』
それは、酷く荒れた天気の夜に始まった。
一人の少年が、雨の打ち付ける屋根の下で安眠している。うつ伏せに寝ており、髪をよく乾かしていなかったせいか四方八方に髪の毛が暴れている。
「・・・うぅっ」
悪夢に魘されているのか、苦悶の表情で、絞り出したような声で唸る。
まるで、自分が死ぬ夢でも見ているのか、あるいは大切な人が死ぬ夢を見ているのかのような苦痛に満ちた表情だ。
「駄目・・・だ・・・」
再び苦しみの声が漏れる。不安感に耐えきれず、無意識のうちに毛布を抱きしめる。
と、ふいに、
『ーーー』
夢の中で、声が響いた。それが誰のものなのか、なんと言っていたのか、いずれも少年には分からなかった。
だが、その言葉が、助けを求めている、そんな言葉であることだけは感じ取れた。
少年は、握っていた毛布を離し、震える左手をゆっくりと、声の主へと伸ばそうとする。
そして、頭上にある、小さなクマのぬいぐるみを掴み、最後の寝言を発する。
「必ず・・・たすけ・・・て・・・」
その言葉を最後に、少年は寝言を発さなかった。
だが、表情は苦しみに支配されたまま、変わることはない。
苦しみから解放される朝を、ただただ、ひたすらに、待ち続ける。
苦しみから解放されるーー、そう信じて待ち続ける。
いずれ、その朝が絶望へと変貌するとも思いもせずーー、
天井を、雨が打ち付け、雷がーー、『神鳴』が、空間を裂き、天に広がる空を、見渡す限り無限に広がる黒きの雲が覆い尽くし、少年の不安を掻き消す僅かな希望を、夜の闇が消し去り、夜が明けたことも気づかれぬまま、
『ーーー』
始まりの夜は、ふいに聞こえた声は、静かに、音も立てずに、終わっていった。
そして、新たな朝が始まった。
少年ーー新島洋輝が望み続けた、希望の朝がーー、