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96話

                   4

「仕方がねえな、あんまりこれをやると、兄弟達の絆が薄れちまいそうで嫌なんだが・・・。」


 そう言うと、蜘蛛の魔物の体が光り輝き・・・次の瞬間黒い粒粒の集合体となった。

 その黒い粒粒は、意志を持っているように1列に並んで、輸送機の後方ハッチを行儀よく昇って行く。


「この間の鬼との戦いで身に付けた、分解能力よね。

 意外なところで役に立ったわね。」

 ミリンダが、そんな蜘蛛の魔物たちを感心するように眺めている。


「じゃあ、私たちも続いて乗り込みましょ。」

 マイキーに促されて、一行は輸送機に乗り込む。


 輸送機の中は、数十箱の段ボールが積まれているほかは、前方に二十席ほどの座席が固定されている以外は、何もない殺風景なものだった。

 所々窓が付けてあって、外の風景は楽しめそうだ。


「冒険の旅に向かう時用の缶詰よ。

 申し訳ないけど私の国は、それほど文明が発達している訳ではないので、缶詰なんか作れないって言ったら、所長さんが準備してくれたわ。

本当は購入可能だけど、日本食の方がヘルシーで良いのよ。」


 マイキーが積み上げられた段ボール箱に手を当てながら、説明する。


「い・・・いやだなあ。

 や・・・やっぱり僕はよすよ。


 大体の方向を言ってくれれば、自分で飛んでいくよ。」

 乗り込んだ途端に、飛行機嫌いのゴローは、降りて行こうとする。


「駄目よ・・・、ゴローじゃ何年もかかってしまうわよ。

 それよりも・・・、あっそれ。」

 輸送機の内部を見回していたミリンダが、細長い木箱を指さした。


「あたしが、ゴローの為に頼んでおいたものよ。」


「えっ、僕の為に・・・。」

 それは、蓋の部分に十字架を模った、洋式の棺桶だった。


「吸血鬼って、こういった棺桶で眠ると落ち着くんでしょ?」

 ミリンダは自慢げに、真っ赤なクッション入りの布で、人型の凹みを形作った棺桶の中身を披露してみせた。


「ぼ・・・僕は、いつも普通にベッドで寝ているけど・・・。」

 ゴローは少し腰が引け気味だ。


「いいから、中に入って寝そべって見て・・・。

 サイズもぴったりのはずよ。」


 ミリンダに促されて、ゴローは渋々棺桶の中に横たわる。

 次の瞬間、ミリンダは勢いよくふたを閉めて、その上に飛び乗った。


「今よ、トン吉、レオン!すぐにくぎ付けをして。」

 金槌と釘を持って待ち構えていた、トン吉とレオンに命じる。


「ほ・・・本当に、いいんですかい?」

 トン吉が不安そうにミリンダの顔を伺う。


「いいから、早く。」

 ミリンダが乗っている棺桶のふたを、ゴローが必死に持ち上げようとしているため、その都度ミリンダの体が浮かび上がる。


「そうおっしゃるんでしたら・・・。」

 トン吉とレオンは渋々棺桶のふたをくぎ付けする。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 少しの間、ドンドンと音がしていたが、やがて何も言わなくなった。


「少し、やりすぎなんじゃない?」

 ハルが心配そうにミリンダに話しかける。


「九州の時のように、騒がれたら大変よ。

 今度はもっと長時間だから、暴れ出すかも知れないわ。


 前のゴローだったら、せいぜい血を吸いまわるくらいだけだと思っていたから気にしなかったけど、ダークサイドなんて切り札を出されたら、飛行機がおっこっちゃうかもしれないでしょ。


 こうしておけば身動き取れないから、安全よ。

 死にはしないわ、ゴローだもの。」

 ミリンダは冷静に答える。


「ま・・・まあ、飛行機嫌いのゴローさんだから、少し落ち着くまで様子を見るっていうのも、ありだよね。」


 ジミーも、無理に棺桶の蓋を開け様とはしなかった。

 大方の考えは、ちょっとの間だけなのであったが、全員がゴローの存在を忘れ、到着するまでこのままなのであった。


「じゃあ、出発よ。」


 プロペラが勢いよく回り出し、輸送機が滑走路へと進む。

 ゴローを除いた全員が席に付き、シートベルトを締める。

 輸送機は轟音を響かせながら、飛び立った。


 眼下の仙台の街がみるみる小さくなっていく。

 機は西へと向きを変え、水平飛行を始める。

 やがて海を渡り、大陸上空へ差し掛かった。


 日本同様、地上には爆撃の爪痕が生々しいのだろうが、上空からの景色では巨大なクレーター状の穴が所々見受けられるだけで、緑も戻って来ていて、きれいな景色が眺められる。


「ここは?」

「うーん、今一。」

「こっちはどうですか?」

「うん、いいわね。」


 ハルとミリンダ、ミッテランに加えてホースゥが仲良く眼下の景色を眺めながら、言葉を交わしている。


「皆さんお揃いで仲良く、景色を楽しんでいるのですかね?」

 ジミーが笑顔で近寄ってきた。


「ううん、中継ポイント。」

 ミリンダが視線を動かさずに、窓の外の景色を眺めたまま答える。


「中継ポイント?」

 聞きなれない言葉をジミーが、繰り返す。


「はいそうです。僕たちは、瞬間移動に使う中継地点を観察しているんです。

 ヨーロッパの国までは、遠すぎて一回だけの瞬間移動じゃ辿りつけません。

 何回も瞬間移動を繰り返すことになりますけど、その為の中継地点を見つけているんです。


 なるべく平坦で広い場所が最適です。」

 ハルも視線を動かさずにそのまま答える。


「地形の動きと太陽の位置を確認しながら、方角と距離をイメージするんだけど、飛行機は早すぎるからちょっとでも目を離すと、距離感が分らなくなってしまうの。


 それでも距離の短い日本での移動であれば、ざっと見ているだけでも頭の中で位置が把握できたけど、こんな長距離だとしっかりと地上の景色を見続けて認識しておかないと、似たような地形ばかりだから混乱してしまうのよ。


 離陸の時は座席に付いていなければならなかったから、日本海側の海岸線から記憶しているの。

 そこまでなら中部の村の探索の時に、ミリンダ達が行っているから、イメージは繋がるわ。


 一人一人バラバラに記憶すると、移動の時に不具合が出かねないから、みんなで同じ場所を記憶するのよ。

 最初のうちは皆で観察をして、大体の好みが分ったら、食事の時とか寝る時も交替で見て行って、あとでイメージを伝えて全員で記憶するのよ。


 イメージがうまく伝わらない時は、その担当者がその場所へ皆を連れて行って、全員で確認するの。」

 ミッテランも窓の外の景色を見たまま答える。


「ふうん、確かに瞬間移動が使えれば、帰る時も楽だろうし、ゴローさんも喜ぶだろうけどね・・・。

 ホースゥさんまで・・・。」


「私は、まだちょっと危ないのですが・・・、それでも自分だけなら瞬間移動できるようになりました。

 それなので、皆さんと一緒に中継地点を確認しています。」


「へえ、そうなんだ。さすがだねえ。」

 ジミーは感心したように何度もうなずきながら、ホースゥを眺める。

 すこし、うらやましそうだ。



 昼食を終え、夕食間近になってもまだ外の景色は明るいままだ。

 太陽もさんさんと照り輝いている。


「一体どうなっているのよ、お腹の空き具合から言っても、もう夕ご飯だというのに、これじゃあまだ昼前よ。

 またお昼ご飯をやり直すの?」


 外の景色を眺めているミリンダが、困惑の表情で訴える。


「時差の関係で、この辺はまだお昼だよ。


 飛行機はずっと西に向けて飛んでいるから、いつまでたっても日は沈まないのさ。

 みんな中継ポイントを決めるのに忙しそうだから、今日の授業はお休みにするけど、明日にでもマイキー先生に時差について習うといいよ。」


 ジミーが夕ご飯の缶詰を開けながら説明する。

 勿論、機内食などあるはずもないので、食事は缶詰だ。

 夕食の準備を終え、ハルに見張りを任せようとした時にハルが叫んだ。


「あっ!あれは・・・。」

 その叫び声を聞いて、みんなが窓の外へと注目する。


 それは、上空からでもその形がはっきりとわかるくらい巨大なサソリだった。

 砂漠の丘陵地帯を進むサソリは、何かを追っている様子だ。

 その先には・・・、いた、一人の人間が巨大サソリに襲われている様子がはっきりと見える。


 次の瞬間、ハルの姿は輸送機の中から消えた。


「は・・・ハル君?」

 ジミーは唖然として、それ以上言葉が出なかった。



「炎の竜巻、燃え尽きろ!!!」


 身の丈十メートルは優に超えるサソリの前に、突如中空から姿を現したハルの体から発せられた炎の渦は、正確にサソリの頭を包み込む。

 真っ赤な炎に頭部を包まれたサソリは、もがき苦しみながら砂へもぐって行った。


「はあはあ、危ないところだったね。大丈夫?」


 ハルは、背後で怯えている影に向かって、やさしく微笑みかけた。

 それは、青い肌に虎の毛皮のパンツ一丁姿で、額には突起のような物が一つ突き出ていた。

 背丈はハルと同じくらいで、どうやら子供のようだ。


「チョボビラク?」

 その子供は、何か話しかけてくるが、何を言っているのかハルには判らない。


「お・・・鬼・・・の子供?」

 ハルは茫然と、その場に立ちつくした。



「どうやら、襲われている人を助けに行ったようね。」

 眼下で炎に包まれるサソリを目撃したミッテランが、冷静に呟く。


「そ・・・そうでしょうけど、ハル君、この飛行機へまた瞬間移動して戻って来れますよね。」

 ジミーが慌ててミッテランにすがりつく。


「それは無理よ。

 大地は動かないから、目標を決めさえすればそこへと移動できるけど、飛行機は常に高速で飛んでいるから、位置が特定できないわ。


 それに、飛行機の外へ貼り付くならまだしも、その中へなんて器用に場所を指定できるわけじゃないの。

 大地へ移動するときだって、大体の感覚で少し高い位置へ出現して、着地するのよ。


 見える範囲なら、建物の中へでも外へでも移動できるけど、実際にその目で見ていなければ、細かな調整は無理よ。」

 ミッテランは尚も冷静に答える。


「じゃあ、どうすれば・・・。このままじゃ、ハル君は置き去りになってしまう。」

 ジミーには、どうしていいか分らなかった。


「大丈夫よ、あたしたちがこれからマイキーさんの国へ着くまで、移動ポイントを記憶するから。

 そこから辿って、ハルを迎えに行けるわ。」

 そんなジミーをミリンダが慰める。


「そ・・・そうなのかい?よかったあ。」


「それよりも、あの大きなサソリ・・・、一体どうなっているの?

 サソリなんて、旧文明時代の図鑑でしか見たことはないけど、手の平よりも小さいんでしょ?


 それが、襲っていた人間よりもはるかに大きかったわよ。

 魔物なの?それとも誰かの召喚獣?」

 ミリンダは別な意味での不安を口にする。


「そ・・・そうか・・・、世界は広いって言っても、さすがにあんな大きなサソリは・・・、異常だよな。

 新たな敵かも・・・。」


「敵も味方も・・・、大体襲っていた方と襲われていた方、どっちがどっちかも判らないわよ。

 それよりも、サソリ1匹だけかどうかも分からないから、心配ー。」

 ミリンダは不安そうに、下の砂漠地帯を眺める。


「着いたらすぐに救出に向かいましょ。」

 ミッテランの言葉に、ミリンダが窓の外を眺めたまま、こっくりとうなずく。



 輸送機が空港へと着いたのは、夜になってからだった。

 日本を出発してから、既に1日以上の時間が経過していた。


「じゃあ、マイキー申し訳ないがハル君を迎えに行ってくる。

 それまで待っていてくれ。」

 マシンガンで武装したジミーが、マイキーに告げる。


「分ったわ、私の国はここからまだ時間がかかるから、今日の所はここに泊まるつもりでいたので、問題ないわ。」


「そうなのかい?ここがマイキーの国だと思った。」

 言われたジミーは周りをキョロキョロと見回す。


 空港施設も、多少の戦火の影響はあるようだが、近代的なビル群が少し先に伺える、旧文明を残した地域のようだ。


「ここは、永世中立のS国よ。

 先の世界大戦でも、戦火から免れたわ。


 でも、それも最初のうちだけで、周りの国から戦争難民が流入しだして、敵国民をかくまっているなどとして、相手国から国境付近を攻撃されることもあったようね。

 私の国は、ここからまだ移動しなければならないの。」


「じゃあ、蜘蛛の魔物さんやスパチュラちゃんたちの事をお願いするよ。」


「そうね、蜘蛛の魔物には引き続きバラバラでいてもらいましょ。

 そうすれば、ホテルの部屋に入ることができるわね。

 全員入れるには、スイートルームが必要でしょうけど。


 ま、その辺は任せておいて。」


 マイキーから宿泊先のホテルの住所と名前を書いたメモを受け取り、ジミーはミリンダ達の方へ戻ってきた。


 それにしても、このように戦火を免れて文明を保った国があったとは、想像もしていないことだった。

 なにせ長い間、自分たちが住んでいる仙台市以外には生き残りはいないものと考えていたのである。


 それが、ハルたちの冒険により北海道にもわずかながらの生き残りが存在し、更に西日本では仙台市よりも多くの人々が存在していた。

 中部の村人たちも加え、日本国内で生き残った人たちは、互いを助け合い協力し合って旧文明を復興させて、豊かな生活を送ることができる様、日々頑張っている。


 それもこれも、世界中の他の地域で人の生息を確認できたのがチベット以外になかったからだ。


 こんなに文明を保ったままでいられたのなら、日本へ来て手を差し伸べてくれていても良かったのではないか、そうすればもっと早く日本の復興は成し遂げられていたのではないか。


 ・・・とそこまで考えたところで、思考は止まった。

 同じなのだ、この国でも周りの国の復興だけで手いっぱいで、極東の小国まで気が行かなかったのだろう。


 飛行機から見た地表の状態は、生々しい爆撃の後がまだまだ至る所に残っていて、復興どころか大半が手つかずの状態なのだ。

 まずは、自分たちの足場を固めてから、少しずつ復興援助の範囲を広めて行っているのだろうと、ジミーは自分の中で納得した。



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