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94話

                   2

 既に、仙台空港には米軍の長距離輸送機が待機していて、ヨーロッパへ向けて出発準備は整っているという事のようだ。

 米軍の都合もあり、出発日の変更は困難という事で、ハルたちは急いで出発の準備に取り掛かる。


 一番問題になりそうなのは、ミッテランの魔法学校だ。

 ようやく魔法効果を理解して、使う事が出来る者が現れ出したというのに、この時期に学校を放り出してしまうと、また、元の状態に戻りかねない重要な時なのだ。


「初心者クラスは、アマンダ先生がいるから問題ないと思うけど、やっかいなのは初級と中級クラスね。


 一番上達の早いヒロ君ですら、ようやく炎の魔法を安定して出せるようになったばかりだから、まだ教える側としては力量が足りないわよね。


 仕方がない、中級クラスは休止して、初級クラスもアマンダ先生に見てもらって、ヒロ君を補助に・・・。」


 夕方の校庭に魔法学校の生徒たちを整列させたまま、ミッテランは頭を抱えながらも、何とか対応策を絞り出そうとしている。


「大丈夫よ、ミッテランおばさん。

 うってつけの奴らがいるじゃない、初級だけだけど極めた奴ら・・・。」

 そんなミッテランに、横からミリンダが助け舟を出した。


「ああ、そうね・・・、彼らなら・・・。」

 すぐに、二人の姿は中空に消え、次の瞬間4人となって現れた。


「俺たちが、ガキどもの世話?いやなこった。


 魔法の修業なんてのは、最初のとっかかりは教えてもらっても、ある程度慣れたら個々に行うもんだ。

 俺たちはそうやって身に付けた。


 魔法学校なんて甘やかしていると、おままごとみたいな魔法しか身に付きはしないぜ。」

 ミッテランたちに付き添われて出現した神田と神尾であったが、二人の返事は冷たいものであった。


「そう言わないで、少しの期間だけでも面倒を見てあげてよ。」

 ミッテランは、尚も神田達を説得しようとする。


「いやだね。大体俺たちは、先生なんてがらじゃないぜ。」

 神尾は、ミッテランの依頼を真っ向から突っぱねる。


「私からもお願いします。

 魔法学校で子供たちを指導してあげてください。」

 そこへ、ホースゥが割り込んできた。


「おお、ホースゥの姉ちゃんか。


 姉ちゃんには、召喚獣の護符を貸してもらったり、最初の間だけだが魔法を見てもらって世話にはなったから、なんとか期待には応えたいんだが・・・、いや、やっぱり駄目だ。ガキは苦手だ。」


 少し心が傾きかけた様子の神田だったが、やはり断られてしまった。


「ねえ、お願いよ・・・、魔法学校がうまくいかないと、ミッテランさんが来てくれないのよ・・・。

 私からのお願い・・・、聞いてくれるなら・・・、あとで、いい事してあげる・・・。ふっ。」


 マイキーが神田と神尾にしだれかかりながら、耳元でささやく。


「こ・・・子供は見ちゃいかん。」


 すかさずジミーがハルの目と耳を両手で塞ぐ。

 ミリンダの目と耳は、ミッテランが塞いでいるようだ。


「いい事って・・・、や・・・やる、やります、いえ、やらせてください。」

 マイキーの色気ある説得に、神田も神尾も途端に態度を変えた。


「そう、ありがとう。

 楽しみにしていてね。


 でも、私たちが帰って来た時に、魔法学校の生徒たちが上達していなくては駄目よ。

 だから・・・、一生懸命教えてあげてね。」


 マイキーはそのふくよかな唇を、舌で舐めるようにしながらウインクをする。


『は・・・、はい。任せてください。』

 神田も神尾も直立不動の姿勢で答える。


「じゃあ、よろしくね。」


 魔法学校の臨時講師も決まり、ミッテランも心置きなく参加できることになった。


「後は、ハル君たちの授業だな。おいらは国語と数学の担当だから、それ以外はアマンダ先生たちと学習要綱を検討しなければならない。ちょっと時間がかかるよなあ。」

 ジミーが考え込む。


「別に、いいんじゃない?

 無理な科目は自習ってことにしておけば、大丈夫よ。」

 そんなジミーに、ミリンダは余裕の笑顔だ。


「いやしかし、そんな訳には・・・。」


「大丈夫よ、科学とか社会科などは私が担当するから・・・、ちゃんと教職免許も持っているわよ。」


 マイキーがパスカードの中の免許証を見せびらかせる。

 そこには、中学校と高校の全科目の教員資格が記載されていた。


「なんだったら、高校の勉強も教えてあげられるから、ちょっとくらい帰国が遅れても平気よ。」


 マイキーのおかげで、また一つ問題点が解決された。

 心配事が解消され、一同急いで出発の準備に取り掛かった。


「連れて行く魔物さんたちはどうしようか・・・。」


「トン吉たちでいいんじゃない?

 馬吉とかキリン児とか、結構使えそうな奴らがいたじゃない。

 その辺のを、10匹くらい見繕って行けばいいわよ。」


 ハルの問いかけにミリンダは即答だった。


「でも・・・、あんまりたくさんの魔物さんたちを連れて行っちゃうと、この村が困るんじゃない?


 春になれば、田んぼも畑も忙しくなるし、手が足りなくなっちゃうんじゃないかと・・・。」

 お気楽なミリンダに対し、ハルは不安そうに答える。


「そうだね、トン吉さんたち魔物には、農作業の補助のほかに、この村を守るという重大な役目もある。


 そんな魔物たちを大人数で長期間、連れて行く事は出来ないだろうね。」

 ジミーもハルと同意見のようだ。


「トン吉たちはあきらめるの?じゃあ、どうするのよ。

 明日出発なのよ、時間がないじゃない。」

 ミリンダは、そんな二人の顔を交互に見ながら唇を尖らせる。


「居るじゃない、この間の鬼との戦いで協力してくれた魔物達。

 私は、仙台での戦いしか見てはいないけど、封印の塔での戦いのときにも協力してくれたんでしょ?


 報告書を読んだから、知っているわよ。

 すでに、蜘蛛の魔物とアンキモには使いのものを出しているわ。

 今頃は、仙台空港へ向かってもらっているわよ。」


 どうやら、マイキーは準備万端の様子だ。


「へえ、じゃああたしはスパチュラちゃんを誘ってくるわね。

 楽しくなりそうー。」

 ミリンダは、笑顔で中空へと掻き消えた。


「じゃあ、そんなに大人数をこちらから出さなくても済みそうだから、トン吉さんとレオン君の2名にお願いすることにしよう。


 後、所長は行きたがるだろうけど・・・どうしようか?」

 ジミーは少し思案気味に腕を組んだ。


「所長さんは行く気満々で、既に荷物をまとめているようだけど、彼がいなくなると仙台市が心配なので、出発日は明後日と連絡しておいたわ。


 今頃、引継ぎとかを必死でやっているでしょうけど、今日と明日の2日間でなんて出来るはずもないわ。

 そうしている間に、私たちはさっさと出発してしまうのよ。」


 そんなジミーに対して、マイキーは冷静だった。


「そ・・・そうか。気の毒だけど仕方がないね。」

 ジミーは申し訳なさそうに、俯き気味に答える。


「じゃあ、トン吉さんとレオンを連れてきます。」

 そう言い残して、ハルも中空へと消えた。


「外国っていうのは、遠いのか?」


「うん、でも飛行機で行くから、それに乗っているだけよ。」

 ハルと入れ違いに、ミリンダが人型の魔物を連れて現れた。スパチュラだ。


「そうか、あたいは兄貴の背中以外の乗り物には乗ったことがないが、大丈夫かな。」


「あたしだって、飛行機には九州への行き帰りで乗っただけよ。

 ゴローは落ちる落ちるって騒いでいたけど、全然揺れなくて、結構乗り心地はよかったわよ。」

 不安がるスパチュラを、ミリンダが励ましているようだ。


「ついにレオンも、海外デビューですかあ?

 しかも馬吉さんたち幹部クラスを差し置いての指名だなんて・・・感無量です。


 ハルさんのありがたいご推薦でしょうか?

 このご恩は決して忘れません、必ずお役に立って見せます。」

 続いて、ハルが2体の魔物を連れて現れた。


「あっ!ジミーさんではないですか。

 この度はご指名いただきまして・・・・。」


 レオンは大声で話しかけながら、早速ジミーの元へお礼を言いに駆け寄って行った。


「う・・・うん・・・。実は、トン吉さんの他にあまり強い魔物を連れてはいけないから、村に迷惑を掛けちゃうから、レオンになったんだけど・・・、あんなに喜んでいるんじゃ、言えないよ・・・。」


 ハルが小さな声で、ボソッと呟く。


「はっはっは、いいじゃないですか。

 豚もおだてりゃ木に登ると言います。


 案外レオンも、いい働きをするかもしれませんよ。」

 そんなハルをトン吉がやさしくなだめる。


(それ・・・、トン吉さんが言ってはいけない例えだよ・・・)

 ハルは心の中で、そっと呟いた。


「じゃあ、これで全員そろいましたね。

 急な要請にもかかわらず、ご快諾いただきありがとうございました。


 まずは、今回の冒険の依頼者である、マイキーからご挨拶を。」

 ジミーの紹介で、マイキーが校庭に備え付けの、朝礼用の壇に上がる。


「こんにちは、マイキーよ。

 皆さんのご協力に感謝します。・・・・・・・・・・・・・・・」


「なあにが、ご快諾だのご協力よ、あたしもハルもミッテランおばさんも、最初から数に入っていて、本人の意志なんか関係なかったじゃない。


 ジミー先生だって、所長さんが了解したってだけで、参加が決まったことになっていたし、あたしたちって周りからは、もめ事好きの野次馬的な性格だと思われているのかしら・・・。


 しかも日本だけじゃなく、今度は遠い外国でしょ?」

 マイキーの挨拶を聞きながら、ミリンダがこぼす。


「まあまあ、いいじゃない。

 外国といったって、マイキーさんは知らない仲じゃないし、そのマイキーさんの国が困っているのなら、助けに行かなくちゃ駄目だよ。


 そりゃ、どんなことが起こっているのか、まったく知らされていないから、どうなるかは分らないけど、僕たちで出来ることがマイキーさんたちの助けになるっていうんなら、協力は惜しんじゃだめだと思うよ。」


 対するハルは、随分と乗り気のようだ。


「そうね、マイキーさんはその国の代表として、助けてくれそうな人たちを探しに来た訳でしょ。

 その白羽の矢に当たった訳だから、光栄と考えて協力しましょう。」


 ミッテランも、ふてくされ気味のミリンダにやさしく微笑みかける。


「分っているわよ・・・、あたしだって行くつもりではいるけど・・・なんかしっくりこないというか、もうちょっとこう・・・ボロボロの服を着て、みすぼらしい格好をしたマイキーさんが、涙ながらに訴えて・・・、みたいな設定が欲しいなあって思っていただけよ。」


「ぷっ!何だよそれ・・・。」

 その言葉に、思わずスパチュラが吹きだす。


「だってえー。」

 そんなミリンダを慰める様に、笑顔のスパチュラが肩を抱いた。


「出発は明日です。

 向こうの状況も良く判っていないため、解決にどれくらいの期間がかかるかも判りません。


 長い旅になりそうです。

 着替えなどの荷物をまとめたら、今晩はゆっくりと休んでください。

 明日の朝8時に、この校庭に集合です。遅れないようにお願いします。


 では、解散。」

 ジミーがみんなに呼びかけて、この場は解散となった。


「スパチュラちゃんは、うちに泊まればいいから・・・。」

 ミリンダに連れられ、スパチュラも校庭を後にする。



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