84話
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「えーっ、じゃあ大変なんじゃないの?
その、善鬼ってやつも覚醒してしまう訳でしょ?
下手をすれば、全員玉から出てしまって、すごーく強くなって、あたしたちの力じゃ敵わなくなってしまっているんじゃない?」
ミリンダが、悲鳴にも似た叫び声をあげる。
「まあ、そうなりそうだとも言える。
しかし、すぐにどうこうといったことはないだろう。
頭鬼を含めた親密な関係であった奴らであれば別だが、新たな神が加わった五鬼の面々が、善鬼と同調して初めて善鬼が覚醒する。そうなるためには、まだ少しの猶予はあるはずだ。」
竜神は、まだあきらめてはいない様子だ。
「そうですね。それに玉が消えてから、人に乗り移って活動するまでに、最短でも2〜3ヶ月位日数がかかると想定されています。竜神様の所で玉が消えたのは、大体いつごろの事か分りますか?」
所長が天を見上げて問いかける。
「わしは毎日宝物蔵を確認していて、消えたのが分ったのが今朝になってからだから、昨日から今日の早朝にかけてだ。」
竜神が少し上方を見上げながら、思い出すかのように答える。
「研究所の金庫は、昨年の10月末に葛籠を運び入れてからは、葛籠自体の調査は何もしていません。
それでも、年末の棚卸の時に内容物を確認していますので、少なくともこの時点まで玉はあったことになります。
それから半年の間の、いつ玉が無くなったのか分りませんが、竜神様の所の玉と連携して無くなったのではないとすれば、まだチャンスはあるはずです。
まずは最後の玉、善鬼の玉を追いましょう。
他の玉が動き始める前に見つけることができれば、覚醒していないのであれば、結構簡単に捕えることができるかも知れません。」
所長が何度もうなずきながら提案した。
「うむ、そうだな。地上では善鬼の玉を追ってくれ。
わしはわしなりに、奴らに加担して力を貸すような神を調べて見る。では、よろしく頼むぞ。」
竜神はそう言い残して天へと帰って行った。
「なーにが、よろしく頼むぞよ。
全く頼りにならないんだから・・・。」
ミリンダが、竜神の去った空を憎々しげに見上げている。
「まあまあ、天界でも色々とあるのだろう。
我々、人間の味方の神様は、ほんの少数派だって言っていたじゃないか。
そんな中で、我々の為に動いてくれているのだから、ありがたいと感じなければいけないよ。」
所長は、そんなミリンダをやさしく諭した。
「ふん!ポチはポチらしくしていればいいのよ。」
ミリンダの怒りは、簡単には収まりそうもなさそうだ。
「それはそうと、少しヒントになりそうなことが・・・・。
最初に鬼が乗り移って九州で事件を起こした人が神宮寺で、仙台市の新市長は神部で副市長が神城に助役が田神。なにか、思いつきませんか?」
ジミーが腕を組みながら、所長に問いかける。
「ああ、そう言う事か・・・・、みんな名字に神の1字が付くね。
そうなると・・・、2番目に鬼に乗り移られた、北の村の長老の名字にも神がつけばいいのが・・・、残念ながらそうではなかったはずだよ。
うろ覚えだが・・・確か渡辺とかそういった普通の名字だったはずだ。
仙台市に戻ったら、もう一度調べてはみるが、どうやら違うようだね。」
所長は、少し感心するように頷きながら答える。
「なあーんだ、だったら、あいつらを問い詰めてやろうと思っていたのに・・・・。」
ミリンダが、少しがっかりしたように肩を落とす。
「九州から来た、神尾さんと神田さんでしょ?
でも、あの二人は元気だし、死にそうな病気も持ってはいないと思うよ。
鬼の玉は、死んだ人に憑りつくんでしょ?
だったら、最近亡くなった人を聞いて回ればいいんじゃない?」
ハルがいつものように、元気よく手を挙げて提案をする。
「うん、そうだね。
とりあえず、うちの所員たちを使って、仙台市のみならず西日本や九州の町に向けても連絡を取る様にして、最近お亡くなりになられた方について、調査を開始するとしよう。
と言っても、今年になってからと考えると、既に半年だから結構な人数がいると思う。
まさか、その全員の墓を暴くわけにもいかないだろうから、結構大変な調査にはなるだろうが、他にこれといった手掛かりがあるわけではないから仕方がない。
君たちも、北海道内で亡くなった方について、調べておいて欲しい。」
所長は、教室内に集まった面々の顔を見回しながら指示を出した。
「分りました。
こちらの調査はすぐに終わるでしょう。
西日本の都市や、九州の町の事に関しては、詳細な調査はハル君たちに協力してもらって、直接出向いて調べましょう。何かわかったら、連絡ください。」
所長の指示に対して、ジミーが代表して返答をする。
「では、よろしくお願いします。」
所長はハルと共に教室を出て行き、仙台市へと瞬間移動していった。
「釧路では、コロニーの人たちを含めると、今年に入ってからお葬式は3件あったわね。
うちのおじいさんが、お経をあげに行っていたから覚えているわ。
念のため、神田達には聞いてみるけど、九州からの移民者には不幸はなかったはず。
まだ、若い人たちの集団だしね。まずは、そこのお宅へ行ってみるわね。」
ミリンダは、そう言い残して教室を出て行った。
翌日。
「釧路では、墓地に埋めると冬場のお墓参りがつらいので、共同の納骨堂を作って火葬にした後の骨壺を保管しているの。
昨日、納骨堂へ行って、ゴローに今年亡くなった方の骨壺を確認してもらったけど、異常はなかったみたい。」
朝礼の時間になって、ミリンダが昨日の様子を報告する。
「うん、ミリンダちゃんが苦手のようなので、僕が代わりに確認をしたけど、骨壺には異常はなかったよ。だから、今のところは大丈夫みたいだね。
一応、家族の方に許可を貰って、骨壺の口をロウで封じたから、念のために週に1回は骨壺を確認してくださいって、お願いをしておいた。」
ゴローが、ミリンダの話をフォローする。
「そうか、ありがとう。
所長から連絡があって、中部の村も含めて、各地には亡くなった方のお墓の再確認をお願いしたそうだ。いずれ、連絡があるだろう。
じゃあ、とりあえず、この件はこれくらいにして、授業を開始しよう。
今日は、数学の勉強だ。」
ジミーはそう言いながら黒板へと向かった。
「この方程式は、xに・・・・。」
『ガラガラガラガラ』「はあ、はあ、ジミー先生。仙台の研究所から緊急連絡が入っています。」
息を切らせながら、アマンダ先生が教室へ駆け込んできた。
「えーっ、そうかい?
今朝の定時連絡の時には、急ぎの案件はなかった様子だったけど・・・。」
ジミーは訝しそうな顔をしつつも、チョークを置いた。
「すまない、ちょっと中断だ。各自、今のところをもう一度計算し直しておいてくれ。」
そう言い残して、ジミーは無線室へと駆けて行った。
「ジミーです、どうしました?」
無線室のマイクに向かって、ジミーが話しかける。
「ガガ・・・ミーか、授業中の所すまない。
実は、北の村のガガ老の名字だが、渡辺で間違いがなかった。
しかし、どうやら婿養子のようで、旧姓はカミコウチというらしガガガガ・・。
カミコウチのカミは神様の神で、高い土地と書いて神高地だ。
やはり、ジミーの想像通り、今までに鬼たちがガガ・・いた人たちの名字には神の1文字がガガガ・・事になる。
これが、絶対条件かどうかはわからないが、今、この条件で最近亡くなった人や重病患者を調べている。
そちらでも、一応名字を気にして再調査してくれ。ガガガ」
所長が、最新の調査状況を告げてきた。
「了解しました。
ミリンダちゃんたちには、もう一度事情を説明して、再調査してもらいます。」
ジミーは無線機のマイクを置いた。
「それから、これはハル君たちへのお願いなのだが・・・・・。」
同時に、新たな指示が所長から下された。
「釧路には、名字に神の文字がつく人はいないわね。
珍しい名前だもの、そんな人がいれば覚えているわ。」
ミリンダが、教室へと戻ってきたジミーの問いかけに答える。
「そうですね、九州からの移民の方たちを含めても、ミリンダが気にしていた神尾さんと神田さんだけですね。
二人には昨日出会ったけど、ピンピンして魔法の練習に励んでいました。
まず問題ないでしょう。」
ハルが言葉を添える。
「じゃあ、北海道内では該当者なしだ。
明日の定時連絡の時に、所長には報告しておくよ。
それから、このリストが今の所判明している、神の文字が付く人たちで重病を患っている人たちだ。
仙台市と西日本の都市と九州の町まで含めると、10名いるようだ。
いざという時には、これらの人たちが鬼に乗り移られないように、隔離しなければならないと考えているそうだけど、どこかにいい場所がないだろうか?
まさか、竜神様に頼んで天界の宝物蔵へ運び入れるという訳にもいかないだろう?
例えば、どこかの医療施設を借りて、ホースゥさんの光の障壁で守ってもらうとか・・・だなあ。」
ジミーが新たに指示された案件を、ハルたちに相談する。
「うーん、ホースゥさんの光の障壁でも大丈夫だろうけど、10人ともなると・・・
ホースゥさん、どれくらいの時間なら光の障壁を保っていられるの?」
ミリンダが難しい顔をしながら、ホースゥの方へと振り返る。
「はい、この間の戦いのときもそうでしたが、大きな空間を光の障壁で守るのはとても体力を使います。
小さな空間であれば、寝ていても障壁を保つことも可能ですが、範囲が広がるととても無理です。
寝ないで頑張ったとしても、1日から1日半・・・長くて2日と言うところでしょう。」
ホースゥは申し訳なさそうに頭を下げる。
「い・・・いいのよ、ホースゥさんのせいじゃないわ。
無茶な要求が悪いのよ。
鬼に憑りつかれるのを防ぐのだから、あたしやハルの水の壁は何の役にも立たないし、ミッテランおばさんだって守ることは難しいと思うわ。」
ミリンダが腕を組みながら、難しい顔をして唸った。
「そ・・・そうか、まず無理だなあ。
そうなると、見張りを強化して、鬼に乗り移られたらすぐに知らせられるようにするしかないか。後手に回ってしまうが仕方がない。」
ジミーは、半ばあきらめ気味に腕を組んだ。
「封印の塔であれば大丈夫ではないでしょうか。
この間まで基地として使っていましたが、未だに強力な封印の力は働いています。
入り口だけを注意していればいいですし、何だったらミッテランさんに頼んで入口も封印してもらう事も可能です。
ただ、何もないのでベッドや施設など運び入れる必要はあります。
でも、あそこならば、鬼たちに乗り移られるのを防ぐことは出来そうですけど・・・。」
ハルが少し立ち上がって提案する。
「そうね、封印の塔なら何とかなりそうね・・・。」
ミリンダもハルの言葉に頷く。
「そうか、分った。所長にはそう連絡しておく。
じゃあ、授業再開だ・・・。」
ジミーはチョークを持って黒板へと向かった。




