表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/169

83話

                3

『えーっ!玉が無くなったあ?』

 恐らく、別の部屋に居たジミーも、ハルやミリンダ達と同じタイミングで、声を合わせて叫んだことだろう。


「どういう事よ。」

 厳しい目つきで、ミリンダが上空の竜神を睨みつける。


「いや、それが・・・。

 わしにもどうしてだか分らんのだ。


 天界にあるわしの宝物蔵に、確かに玉を保管してあったはずなのだ。

 先に捕えた2つの玉も、あとから3玉を加えた時にはあったのだ。

 大切なものだから、毎日中身を確認していた。


 そうして、お前たちから封印の儀式の準備が出来たとして、呼び出される時を待っていたのだ。

 ところが、今朝になって宝物蔵へと行って見ると、4玉が無くなっているではないか。

 最初に持ち帰った欠けた玉を残して、他の玉が全て消えてしまったのだ。


 わしは、あの玉をどこかよそへと移した覚えはないし・・・また、地上と違い玉が単独で活動するとは考えられん。

 誰かが持ち去ってしまったとしか思えんのだ。」

 竜神は力なく頭を下げた。


「まったく、何をやっているのよ。

 この玉は、ここにあってはならぬものだから、わしが預かっておく・・・なんて偉そうなことを言っていながら、誰かに持ち去られたって?


 ちゃんと、その宝物蔵には鍵を掛けておいたの?」

 ミリンダが、厳しい口調で問い詰める。


「いや・・・、天界の宝物蔵には鍵などかける必要はない。

 基本的に天界では、他の神に対しては不可侵の取り決めがあるからな。

 それに、鍵よりも強力な結界が施してあって、わしの目を盗んで中へと入ることなど、ままならんはずだ。」


『ガラガラガラガラ』竜神が力なく返事を返した時に、教室の扉が開いた。


「大変だ、研究所の金庫に保管していた葛籠の中の最後の玉が消えたらしい。」

 ジミーが勢いよく教室の中へと入ってきて叫ぶ。


「えーっ?そっちもー?」

 ミリンダはその場に崩れる様にして、座り込んでしまった。


「そっちもーって?」

 竜神の話を知らないジミーが、不思議そうな顔をして聞き返す。


「竜神様の所の玉もなくなったそうです。

 兎も角、所長さんを連れてきて、みんなでもう一度詳しく話を聞きましょう。

 竜神様も今はいるしね。


 ジミー先生、すみませんが所長さんに研究所裏のグラウンド迄出てきてくれるよう、伝えてもらえますか?

 僕が迎えに行ってきます。」

 ハルはそう言いながら、教室を後にした。


「おっ、そうか、分った。」

 ジミーは、もう一度無線室へと駆け出して行った。



「いやあ、ついにあの布の解読が終了して封印の儀式が出来るようになったため、もう一度金庫の中の玉を確認しようとしてみたら、葛籠はそのままあったのだが、中身の玉が消えていたのだ。

 中部の村から葛籠を運び入れて、その時に確認した時には玉は確かにあった。


 それから私は金庫を一度も開けてはいない。

 しかし、玉が無くなっていた。」

 ハルに連れられて教室へとやってきた所長は、何が起きたのか分からないと言ったうつろな目つきで、ようやく状況を説明した。


「もしかすると、あの葛籠自体には玉を封じ込めておく力は、なかったのかも知れないですね。

 中箱を布で縛って、更にこの鬼封じの剣で結び目を支えて初めて、封印の効果があったのではないでしょうか。」

 ジミーが、ハルが背中に抱える剣を、右手でポンポンと叩きながら話す。


「うむ、まさにその通りだろう。


 中部の村でも娘たちが箱から1つずつ玉を取り出したその後で、すぐに玉は消えてなくなってしまったという。

 死んだ人に憑りついて悪さをしでかしたわけだが、全ての玉を葛籠から取出してしまった後になって、残りの玉も次々とどこかへ消えて行った。


 そうして仙台市の新市長たち一派に憑りついたという訳だ。

 まあ、新市長の場合は、立候補の前から憑りついていたものと考えられるがね。


 つまり、封印の剣があってもそばに置けばいいという訳ではなく、正式な箱に入れ、布でがんじがらめに縛った状態で、封印の剣で留めなければ玉を封じておくことは出来なかったという事になるね。」

 所長は神妙な面持ちで答えた。


「そう言ったことも、あの布には書かれていたの?」

 ミリンダが問いかける。


「いや、布には封印の儀式のやり方と、確かに封印の方法として玉を納めた中箱を布で包んだ後に、その結び目に鬼封じの剣を括り付けると書いてはある。

 しかし、こうしなければ封印の効果がないと言ったような記述ではないのだ。


 あくまでも、封印の儀式の方法としての記述のみだった。

 それに、あの大きな玉は最後まで消えずに残っていた訳なので・・・油断していたとも言える。」

 所長は小さく首を振った。


「まあでも、そう書いてあったという事は、やはり鬼封じの剣で布の結び目を封じなければならないとも取れますよね。

 竜神様の宝物蔵でも、鬼封じの剣で封じていなかったから玉が消えたと言えるでしょう。」

 ジミーが何度も頷きながら話す。


「何!竜神様の所の玉も、一緒に消えたというのか?」

 この言葉に、所長は驚いたように教室の窓から外を見上げた。


 ハルに連れられて学校へと到着した時から、外に竜神が控えていることは既に承知していて、仙台市で玉が消えたことの相談でやって来たのだろうと、所長は考えていたようだ。


「いや、わしの宝物蔵には先ほども話したように強力な結界が張ってあって、わしに気づかれずにあの玉を取り出すことなど、まず出来るはずもないのだ。

 ましてや、玉に封じられて力の弱った状態では結界を抜けることも叶わず、誰かの介添えがなければ玉だけでどこかへと行く事はありえない。」

 竜神はジミーの言葉を冷静に否定した。


「でも、玉が無くなったのは事実でしょ?

 偉そうなこと言っておいて、実に頼りないんだから・・・。」

 ミリンダの冷たい視線に、竜神はうな垂れる。


「まあまあミリンダちゃん、起こってしまったことを責めても仕方がない。

 まずは、今後の対策を練るためにも、情報収集が必要だね。

 竜神様は、鬼の玉について調べているという事でしたけど、何かわかったことがありましたか?


 我々が調べていた、葛籠の中で中箱を包んでいた布にかかれていた文字の調査結果は、このようなものです。」

 所長は、解読した内容をかいつまんで竜神に聞かせた。


「そうか、わしが調べた内容と合致しているな。

 その他にも分ったことがある・・・。」

 竜神は所長の問いかけに対して、ゆっくりと語り始めた。



「奴らは、善鬼と五鬼だ。」


「前鬼と後鬼?いわゆる前の鬼と後ろの鬼ですか?

 そう言った鬼を操る呪術者の話が、過去の日本で伝えられていたような気がしますが・・・。」

 竜神の言葉に、所長が反応する。


「いや、違う。ゴキは五つの鬼と書いてゴキと読む。」

「五つの鬼?」

「そうだ、右腕(うわん)()左腕(さわん)()右足(うそく)()左足(さそく)()(とう)()だ。

 頭鬼の場合は、闘う鬼と書いて(とう)()と呼ばれることもあったようだがな。」


「ふーん、人間の体の一部の様ね。」

「まさに、その通りだ。

 頭と四肢、そうして体に当たるのがゼンキという訳だ。


 善鬼はセンキやゼンキともいい、こちらも戦う鬼と書いたり、集合体の元となる様に全ての鬼と書いてゼンキと呼ぶ場合もあるが、わしに言わせると善い鬼と書いてゼンキだ。

 善悪の善だな。」


「えーっ?善鬼って善い鬼って事なのでしょ?

 じゃあ、どうしてあたしたちに悪い事を仕掛けようとしてくるの?」

 ミリンダが納得できないとばかりに、竜神に向かって叫ぶ。


「善いと言っても、決して人間にとって善い鬼という訳ではない。

 しいていうなれば、この星に住む全ての生き物というか、この星にとって善い鬼とでも言おうかな。」


「この星にとって・・・、うーんさっぱりわからない。

 この星にとって善い鬼なら、この星の住人である、あたしたちにとっても善い鬼であるはずでしょ?


 それに、大体鬼って何よ。昔話に出てくる鬼の事?角も生えているし。

 だったら、悪者よね。いい話はあまり聞かないわよ。」

 ミリンダは尚も納得できずにいる。


「そうだな、人間たちに伝わる昔話にも鬼の話は数多く出てくる。

 しかし、彼らがその鬼と同じかどうかはわしにも分らん。


 わしだって、最近になって奴らの存在を知った。

 それに奴らは、鬼と言っているが実質的には神の一部だ。」


「神の一部?

 神様だったら、尚更あたしたちの味方のはずじゃないの?

 どうして、人間に敵対しようとするの?」


「神は、人間・・・・この星の人間たちの必ずしも味方ではない。

 お前たち人間が、この星に対してしてきたことを、考えればわかるだろう。

 豊かだった自然を破壊して、森林を伐採し、資源採掘と言っては山を削る。


 汚染物質を川や湖に垂れ流し、生き物が住めない環境にしてしまうところだった。

 それを反省して、環境にやさしい行いを続けていたかと思ったら、今度は世界規模の核戦争だ。

 下手をすれば、地上から全ての生き物が姿を消しかねないところだった。


 それで人間だけでも絶滅してしまえば良かったのかも知れないが、しぶとく生き残って、また地球上に広がって、その活動範囲を広げようとしている。

 神々にとって、人間と言う存在は地球という星に、害をなす悪として認識されつつある。」


「えーっ?じゃあ、あたしたち人間は、神様の怒りをかって滅ぼされてしまうの?」

「そうは言っていない。

 しかし、そう考えている神もいるという訳だ。

 今回の鬼たちは、そういった神の先鋒部隊と言ってもいい。」


「ふーん、じゃあ、人間を良く思っていない神様がいて、中には人間の味方の神様もいる訳でしょ?

 ポチみたいに。」


「まあ、そうだ。わしのようにな。

 仕方なく人間たちの味方をしているものもいるのだが、極めて少数派だと覚えておくがいい。


 と言っても、大半の神々は中立派とも言える状態で、今のところはどちらの派閥にも加担せずに、見守っている状態ではあるのだ。

 実際のところを言うと、この星にばかり構ってはいられんといったこともあるしな。


 しかし、今後の展開次第では中立派の神々が、どちらに傾くのか分からない。」

 竜神は、厳しい口調で答えた。


「でも、神様っていえば、万物の・・・つまりは地球上の生き物の創造主でしょ?

 人間だって、その生き物の中のうちのひとつなのだから、そんなに毛嫌いしなくてもいいじゃない。

 過ちを犯したのであっても、反省させて立ち直らせるくらいの、おおらかな気持ちを持ってくれたっていいんじゃないかしらね。」

 ミリンダが頬を膨らませる。


「いや、我らは高みに存在するから自らを神と名乗ってはいるが、万物の創造主といった意味の神ではない。

 我らも元は創造主に作られた存在なのだろう。

 わしが天へ昇る前までは、竜の化身であったようにな。


 高みと言うのは、まさに天空に存在する空間で、物理世界から確認することは出来ない、別次元だ。

 この物理世界の中心に存在すると言ってもいい。

 そこは、全ての生物たちから極僅かな生体エネルギーを受け取っている。

 我らの力の源だな。


 個々の生物から受け取る量は微量でも、何十億、何百億と言う生物たちから立ち上るエネルギーは莫大で、高みに昇ると、このエネルギーを自分のものとできる。

 高みへと昇った他の同胞たちと分け合う形ではあるがな、それでも膨大なエネルギーを受け取ることが可能だ。


 地球規模の星に住む生き物のエネルギーであれば、恒星の一つや二つは、軽く消し飛ばすくらいだ。

 だから、我らは互いに不可侵で、神同士の争いをしないよう取り決めをしているのだ。


 ところが人間たちは、その生体エネルギーの源である地球上の生物たちを、抹殺しかねないような戦いを起こしてしまった。

 少数の生き残りとなって、ようやく自然の営み通りの世界が来るのかと期待していたのが、今また人間たちがこの地球上の支配者として復活しようとしている。


 そうなる前に、滅ぼしてしまおうと考えるのも、無理はないという事だ。」

 竜神は、目をつぶりながら首を振った。


「しかし、僕が聞いた話では、鬼たちこそが平和な世を良しとせずに、大きな争いを画策していたと聞いています。

 僕の両親は、そのような悪行を止めようとして、逆に殺されてしまったのです。


 つまり、世界中で起こっていた争いごとも、そうやって鬼たちに引き起こされていた可能性もある訳ですよね。」

 それまで口をつぐんでいたゴローが、突然立ち上がって叫んだ。


「ああ、奴らは大量の人間たちの魂を昇天させる代わりに、高みへ上る権利を得たのだ。

 奴らが画策した戦いに巻き込まれて死んでいった多くの人々の怨念を引き連れて・・・というより、怨念を踏み台にして高みへと昇ったのだな。」


「ふうん、まさに悪徳も徳っていうやつね。

 悪いことも秀でてやれば、高みへも登れるってわけね。」

 ミリンダが、納得したように何度もうなずく。


「いや、一概にはそうとも言えないが、それだけ人間に対する評判が悪いという事だ。

 人間を滅ぼすために、災いを起こす者を高く評価するきらいがある。


 ところが、そのうちの1体が手傷を負っていたがために、昇華しきれずに不完全な形になってしまった。

 すると、奴らの本体とも言える善鬼が覚醒できなくなってしまったわけだ。

 奴らも元は個々の人間達だったが、長い年月を経て力を獲得する方法として、お互いの連携をより緊密にして行ったのだろう。


 その方法は間違ってはいなかったのだろうが、そのうちの1体が崩れたことによって、彼らの連携がうまく取れなくなり、完全な形で高みに昇ることができなくなってしまったという訳のようだ。

 過去の戦いのときも、善鬼が覚醒していなかったのと、頭鬼が手傷を負っていて不完全な形でいたがために、奴らの力は半減していたと考えられる。


 結果的に玉に封じ込められて、鬼封じの剣と共に封印されたという訳だ。

 善鬼を覚醒させるためには、完全な形の鬼が5体揃う必要がある。


 その為、鬼封じの剣の封印を解かれた今回は、そのうちの1体の代わりとして神獣を使おうと画策し、ドラゴンや河童を天に昇らせようとしていたようだな。」

 竜神は静かに話し終えた。


「ふうむ、段々と今回の騒動のつじつまが合ってきましたね。

 それはそうと、先ほど地球規模の星とおっしゃいましたが、その言葉の裏には地球以外にも生体エネルギーを出している・・・つまりは生物がいる星があるかのように伺えますが、その星はどこなのですか?」

 所長がさりげなく、人類にとって究極の謎とも言える事柄の質問をした。


「うん?いや・・・生物がいる星・・・。

 他に無いともあるとも・・・、その事に関しては、わし等に頼らずに、自分たちで調査して結論を出すべきであろう。

 わしからは何とも言えん。」

 質問に対して、竜神はお茶を濁すような回答をしただけであった。


「まあ、どちらにしても、あの鬼たちを倒すしかないんでしょ?

 まずは、召喚獣を天に昇らせないようにすればいい訳よね。」


「いや、そうとも言えん。

 先ほども言ったように、わしの宝物蔵から玉を盗み出すことは、簡単ではない。

 恐らく、一部の神がただ応援するのではなく、味方に付いたと考えられる。


 つまり、彼らは頭鬼の代わりの神を既に見つけたという事になる。

 その為、頭鬼の玉は必要なくなったのだろう。

 頼みの綱は、地上で保管していた善鬼の玉であったのだが、それも消えたとなると・・・・ちと厄介な事だな。」

 ミリンダの言葉に、竜神は大きく首を振った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ