表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/169

80話

                   14

「それよりも、一体あいつらはどうしたっていうの?

 とっくに約束の時間は過ぎているというのに、何をやっているのかしら。」

 ミリンダは、周りをきょろきょろと何度も見回しながら、ひとり言の様に呟く。


 丁度その時、ハルたちの頭上を無数の白く細長い物体が横切り、敵の攻撃である光の球や炎の玉を空中で弾き返して行くのが見えた。

「津波!!!」


 更にグラウンドの端から大波が押し寄せ、一瞬で市民たちを遠くへと押し流して行った。

 後には、光の障壁に守られたハルたちと、市長たちが残っただけとなった。

 マイキーも市民たちと共に、津波に流されてしまったようだ。


「ようやく来たのね、遅いわよ!」

 ミリンダは少し怒ったように頬を膨らませながら、後ろへ振り返って叫んだ。


「悪い悪い、待ち合わせ場所の旧魔物収容所が分らなくってなあ、迷ってしまった。

 でも、あれは既に建物とは言えないぞ。瓦礫の山だ。」

 ミリンダ達の視線の先に居たのは、巨大な蜘蛛の魔物とその上に乗った蜘蛛系の魔物に加え、魚系の魔物3匹だった。


 河童の召喚獣に破壊された魔物収容所は、収容していた魔物の危険性がないことが分り、その役目を終え、そのまま放置されているのである。


--------------

「ほー、そうかい。

 鬼と言う大悪党を倒す戦いと言う訳だな?

 いいだろう、参加させてもらうぜ。


 この世界を、鬼とかいう訳の判らない者たちに渡して堪るかっていうんだ。

 協力するぜ。」

 蜘蛛の魔物は、躊躇なく答えた。


 ここは、北関東にある巨大なクレーターに張られた蜘蛛の魔物の巣の上だ。

 1年と少しぶりに、ハルが瞬間移動してきたのだが、蜘蛛の巣の張り具合と言い前回と全く変わりがなかった。

 蜘蛛は、定期的に巣をたたんでは作り直す習性があるそうだが、さすがにこの規模の巣ではそうそう作り直すことは無いようだ。


 もっとも、こんな巨大な蜘蛛の巣にかかるような獲物がいるはずもなく、ただ単に蜘蛛の魔物が自分たちの住処としているだけなので、壊れない限り定期的に作りかえる必要もないのであろうし、簡単には壊れそうもない。

 蜘蛛の魔物は相変わらずの大きさだ、これなら召喚獣にも引けを取らないどころか、大きさでは圧倒しているだろう。


「そ・・・それで・・・。

 蜘蛛の魔物さんは大きすぎて、瞬間移動できないので歩いて仙台市まで来てもらうしか・・・。

 道順を説明しますから、歩いて待ち合わせ場所まで来てください。」

 ハルは、申し訳なさそうにうつむき気味に話した。


「おう、問題はないぞ。

 話を聞いた限りでは、仙台市まで1日あれば到着するだろう。

 でも、わしとしては仙台市と言う近場だけではなく、どこへだって出向くつもりだぞ。


 西日本へだって数日で辿りつけるだろうし、北海道までだって、昨年お前さんたちが通って来たという、海の下を通る洞窟と言うやつを通って行きたいものだなあ。

 ここからずうっと北へ向かって行って、大きな横穴を通って行けばいい訳だろ?簡単な事さ。」

 蜘蛛の魔物は平然と答える。


「は、はい。北海道で戦いになりそうなときは、ぜひお願いいたします。

 でも、今回は敵が仙台市に居るので、仙台市での戦いになりそうです。

 そうミリンダが言っていました。


 つきましては、待ち合わせ場所である魔物収容所でアンキモさんと言う魔物と合流して、仙台市の大きなビルの裏手にあるグラウンドを目指してほしいのです。」

 ハルは、蜘蛛の魔物に簡単に記した地図を渡しながら話す。

 今回も手書きの地図のようだ。


 長方形を2つ縦に逆くの字型に描いていて、時計の針で言うと8時を指している格好だ。

 縦に伸びた長方形の下端から1/4程、中央右よりから伸びた線が、まっすぐ上へ向かっている。

 長方形の2/3ほどの地点で、その線が右に少し折れ、そこに大きな黒丸が描かれている。

 そこから右端へ向かって、点線の矢印が続いているものだ。


「ほう、そうか。真直ぐ北へ向かって行き、魔物収容所からは東へ向かって進む・・・と。

 その、アンキモとかいう魚系の魔物たちも、わしの背中に乗せて連れて行ってやるぜ。」


「よろしくお願いします。」

 ハルは缶詰を詰めたリュックを、蜘蛛の魔物に手渡した。

 目一杯の食料を詰め込んだものだ。


「おお、缶詰かあ、ありがたいよ。

 移動の最中は、いちいち巣を張ってはいられないからなあ。」

 蜘蛛の魔物は、うんうんと頷いた。


「じゃじゃーん!登場。」

 丁度その時、ハルの傍らの横糸に、ミリンダがスパチュラを連れて現れた。

 スパチュラは粘着玉を躱したが、ミリンダは粘着玉に足を浸かってしまい身動きが取れなくなってしまう。

 それを、蜘蛛の魔物が器用に持ち上げて縦糸に乗せ換えてくれる。


「おう、スパチュラじゃねえか。

 お前も一緒に行くのか?」

 蜘蛛の魔物は、嬉しそうに人型の蜘蛛系魔物に対して話しかける。


「ああ、行くよ。親友の頼みだからな。

 本当ならあたいだけでも先に現地へ行きたいんだけど、兄貴じゃあ缶詰のふたをうまく開けられないだろう?

 あたいが付いて行って食べさせてやるよ。」

 スパチュラは、明るい笑顔で答えた。


 手には、やはり缶詰が詰まったリュックを持っている。

 ミリンダが渡した物だろう。


「じゃあ、決戦は2日後ですから明日には出発をお願いします。」

 そう言い残して、2人は中空へ消えた。



「ほう、鬼かあ・・・・。

 昔話に出てくる鬼と一緒なのかねえ。」

 多少なりとも人間であった時の記憶がある様子のアンキモは、空を見ながらしばし考え込んだ。


 ここは、かつて北海道と本州を繋ぐ鉄道の青函トンネルの青森側の入り口付近だ。

 元はトンネル内で暮らしていたのだが、食料調達係の銀次を失ったために、トンネル中央部での生活では不便となり、外の世界へと出て来たのだ。


 それでも、昔と異なり強い魔物たちは大半が収容所へと入れられ、アンキモ達を阻害するようなものはいないので、生活的には不便を感じてはいない様子だ。

 食料調達の為に、夜間はトンネルから出てきて海に潜って魚を獲り、昼間はトンネル内で寝るといった生活をしているようだ。


「まあいいさ。

 何か得体のしれない輩が、俺たちの知り合いの人間たちの町を襲ってきているという事だな。

 困ったときはお互い様だ、協力するぜ。


 銀次ほどじゃないが、仲間には戦闘能力に長けた奴もいることはいる。

 近頃はめっきり戦う事なんかなくなったから、腕は多少なまっているかもしれないが、魚を獲るために海の中を泳ぎまわっているから、動きだけは素早くて現役だ。


 あとは、勘を取り戻すために少し時間を頂ければ大丈夫だろう。

 なあに、任せておいてくれ。

 決して足手まといになるようなまねはしない。

 しっかりとした戦力になるよう、準備しておくぜ。」

 アンキモは力強く答える。


「そ・・・それが・・・、戦いは2日後なのですが・・・。」

 アンキモに対して、ハルが言いにくそうに告げる。


「やっ、そうかい?じゃあ、間に合いそうもないなあ。

 よしわかった、俺が直々に行ってやる。

 うちの若い衆の参加は、次の機会ってことで勘弁してくれ。」

 アンキモは、頭を掻きながら答えた。


「すみません、一人でも多くの仲間が必要なんです。

 お願いします。」

 ハルが深々と頭を下げる。


「いいって事よ。知らない仲でもないし、遠慮するな。

 ここから、旧文明の時に鉄の箱が走っていたという鉄のレールを辿って南下して行けばいいんだな。

 その先にある小さな村を過ぎてさらに南下すると、待ち合わせ場所の魔物収容所と言う訳か。


 そこで、巨大な蜘蛛の魔物と合流して一緒に向かうというわけだ。

 分ったよ、待っていてくれ。」

 アンキモも、協力することを躊躇なく承諾した。


 よほど、ハルたちを信頼しているのだろう。

 アンキモの隣には、去年よりも一段と血色がよくなった娘が笑顔で立っている。


 ハルたちは、缶詰を詰めたリュックに加え、ガーゼのマスクを2つ繋げたエラカバーも手渡した。

 最初の冒険の時に、銀次の為に所長が考えてくれた、エラカバーだ。


「これを耳に掛けて顎に引っ掛けます。

 そうして、エラの所にガーゼが当たる様にして、あとはガーゼに常に水を含ませておけば、息苦しくなりません。」

 マスクの使い方を教えた後、瞬間移動して基地へと戻っていった。


--------------------

 そうして、決戦の日を迎えたのである。

 少し遅れたが、彼らの登場は戦況を大きく変えた。

 蜘蛛の魔物は、のっしのっしとグラウンドを歩いてきて、ハルたちの後方に陣取る。

 蜘蛛の糸で敵の攻撃を撃退できる体勢だ。


「やったあ、市民の人たちがみんな流されてしまったから、市長たちに直接攻撃を仕掛けられるよ。

 それに、蜘蛛の魔物さんの防御力があれば、ホースゥさんも攻撃に参加できる。」

 ハルがその場で飛び上がって喜ぶ。


「おお、そうか彼らにも協力を依頼していたという訳か・・・。」

 東京での爆弾処理の時の話を通じて彼らの事を知っていた所長は、ハルたちの準備の良さに感心して何度も頷いていた。

 今までも只運よく物事が解決していた訳ではない、彼らの周到に練った作戦と仲間たちの協力で解決してきたことが、改めて理解できる。


「攻撃するなら今よ。

 モンブランタルトミルフィーユ・・・・極大火(ウルテイ)・・・」

 再度ミリンダが極大魔法を唱えようとした瞬間・・・・。


「ほう、すごい魔法ですね。

 切り札の登場と言ったところでしょうか。

 では、こちらも切り札を・・・。

 ○○△×!」


 神部市長が唱えると、その場に3人の人間が出現した。

 市長の魔法により、瞬間移動して呼び出されたといった様子だ。

 3人はそれぞれ、大阪、京都、奈良の市長たちのようだ。

 彼らはともに無言のまま、其々市長、副市長、助役の前に立って攻撃の盾となった。


「えーっ!また?」

 これにはミリンダも呆れた様に、力なくその場に崩れる。


「ふうむ、敵もさる者・・・用意周到と言う訳か。

 しかも、今回は各人に一人ずつと言う少人数だから、向こうでも光の障壁とやらで保護するだろう。

 だから、もう一度津波の魔法を使っても、彼らを分断することは叶わないという訳だ。」

 所長は、納得したように腕を組んで頷く。


「何を敵に感心しているのよ。

 どうすれば攻撃できるのか、考えてよ。」

 ミリンダは、そんな所長に苦言を発する。

 その言葉に、所長は恥ずかしそうに顔を赤くしてうつむいた。


「俺たちなら、あんな親父たちには関係なく攻撃できるぜ。

 いっちょやってやろうか?」

 神田と神尾が息巻く。


「それはいかん。

 鬼に乗り移られた者たちは光の障壁があるから、君たちの魔法攻撃を喰らっても平気だろうが、西日本の市長さんたちはひとたまりもない。


 彼らだけが犠牲になるのが落ちだ。

 こちらからは、依然として攻撃は仕掛けられんよ。」

 そんな二人を所長が冷静に制する。


 そんな中、小さな黒い塊が市長たちの頭の周りを、ぐるぐると回りだした。

 少し大きめの黒い紙のようにひらひらと舞いながら、まとわりつくように市長たちの頭の上を飛び回っている。

 手で振り払おうとするが、寸でのところで躱してしまう。


 よく見ると、それは1匹の蝙蝠のようだ。

 ゴローだ。蝙蝠に姿を変えて、市長たちの気を反らそうとしているのだろう。

 今回は、敵が仇と思っているためか、簡単にはやられないよう素早く動いているようだ。

 それを見て、1体の大きな影も市長たち目がけてものすごいスピードで駆け出した・・・トン吉だ。



(・・っちまえ。)

「えっ?」

 ハルの耳元で、囁く声が聞こえる。

 瞬間、ハルが周りを見回したが、誰もハルの方を向いてはいない。


(切っちまえよ、このまま。

 この間みたいに、煉獄の炎を放って切っちまえよ。)

 どうやら、直接頭の中に響いている声のようだ。

 剣の精の声だ。


「でも・・・、西日本の市長さんたちに当たるから・・・。」

 その声に対して、ハルは首を振る。


(大丈夫だって、さっきみたいに大人数で取り囲まれていたんじゃどうしようもなかったけど、たった一人ずつじゃあ、充分に避けて攻撃を当てられるさ。

 しかも、今までの攻撃でお前さんの魔法のタイミングも分かったから、奴らに避ける暇も与えないくらいの高速で当ててやれる。


 さあ、浄化せよと叫びながら、あいつらに向かって剣を振れ。)

 頭の中の声は、尚もハルをはやし立てる。


「でも・・・、本当に大丈夫なの?」

 対するハルは不安げだ。


(大丈夫だって。前回だって俺様はちっとも嘘を言ってなかっただろ?

 今回だって、俺様の言うとおりにしていれば大丈夫。

 さあ、やってくれ。)


「分った・・・。信じるよ。」


「えーい、うっとおしい。」

 副市長が蝙蝠を払いのけて怯んだ隙を、眼光鋭く市長が睨みつけると、頭上の蝙蝠は一瞬で真っ赤な炎に包まれて、その場に落ちてしまった。

 その瞬間、トン吉が市長目がけて飛び掛かる。肉弾戦だ。


「浄化せよ!!!」

 このタイミングで、ハルは市長たち3人目がけて、袈裟がけに剣を振り下ろした。


 剣先から発せられた真っ赤な炎の玉は、目にもとまらぬ速さで駆け抜け、トン吉と西日本の市長たちの体をすり抜けて、正確に神部市長、神城副市長、田神助役の体に達し、彼らの体を煉獄の炎で包んだ。

 蝙蝠に気を取られていた3人は、更に駆け込んできたトン吉の体で隠され、ハルの攻撃には気が付かなかったようだ。


 ともに絶叫を発する暇もなく、燃え尽きて灰と化した。

 後には、3つの光る玉が残されただけだ。


 勝ったのだ、鬼たちを退治できたのだ。

 既に、日は傾きかけていた。


          続く



ようやく鬼編終了・・・と思ったら・・・、すいません。もうしばらくお付き合いください。次章、えっ?鬼たちはすべて退治して、玉になったんじゃなかったの?・・・という展開へ・・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ