79話
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梅雨の晴れ間の正午ごろ、仙台市近代科学研究所裏のグラウンドに、ハルたち一行が瞬間移動してきた。
平坦で広い場所であるために、いつも瞬間移動の際の目標として使われている場所だ。
ミッテランにミリンダ、ジミーにホースゥ、トン吉に加えゴローや所長、更に神田と神尾とレオンもいる。
ミッテランの瞬間移動能力で、一緒に移動してきたようだ。
「約束の時間通りに現れましたね、いい心がけです。
それにしても、果たし状とは・・・・前時代的な・・・。」
既にグラウンドには4つの影があり、ハルたちに向かって大声で声をかけてきた。
仙台市市長と副市長に市役所の助役に加えて、細身の美女が佇んでいる。
市長の手には、一通の封書が掲げられているようだ。
その表面には『果たし状』と大きく書かれている。
それを見た所長は、頭を抱えた。
相手を一網打尽にする名案があると聞かされて、連れてこられただけなのだ。
「あんたたちのように、陰でこそこそ悪だくみをするような悪党は、闇討ちにしてもいいんだけど、全員を順々に倒していくのは手間なのよね。
どうやら、逃げ足だけは早そうだし。
それならば一度に相手をしようと、送った訳。
約束通りに来るとは、いい心がけね。
正々堂々と・・・勝負よ。」
対するミリンダも、大声で返事を返す。
「それはそうでしょう。
私の洗脳にかからずに姿を消した皆さんを捜索していたのですが、一向に足取りがつかめませんでした。
その後、何人か連れ去った様子でしたが、非常にうっとおしく感じていたのです。
そんなあなた方が、自分から出てきてくださるのですから、大歓迎ですよ。
ちなみに、京都と大阪での事は陽動作戦とも言えるもので、秘密裏に行動して神獣が作れればよし、見つかってしまった場合は、すぐに逃げると決めて行っていたことで、決してあなたたちが恐ろしくて逃げたわけではありません。
侮らない方が、身の為ですよ。
おかげさまで、私は正体がばれることなく、活動を継続できましたからね。」
市長は余裕の表情だ。
「ふん、何が陽動作戦よ。全然効果がなかったわね。
それに、本当の作戦のテレビを通じての洗脳だって、つまらない番組ばかり放送して・・・、そりゃ折角始めた放送だから、何か重要な話でもあるかもと考えて、真剣に番組に耳を傾ける大人たちは兎も角、ちょっとでもつまらなければ、すぐにテレビの前から離れてしまう子供たちには全く効果がなかったわよ。
まあ、アニメとか戦隊モノとか、コントなど子供たちが好きそうな番組を流しておいて、その合間にちょっとだけあんたが出てくるような番組を流されれば、分らなかったけどね。
大人たちだけに目が行って、あたしたち子供にまで注意を払わなかった、あんた達の負けよ。」
ミリンダも、口では負けていない。
「それでも、大人たちに無理やりにでもテレビを見せられて、どの都市でも次々に子供たちが洗脳されて行っているではないですか。
失敗とまでは、言えないと考えていますがね。
まあでも、ご忠告をありがたく受け止め、この次の全世界へ向けてメッセージを出す場合は、子供向け番組も入れさせていただきますよ。」
市長は、そんなミリンダに、軽く感謝の会釈をして見せた。
「そんな余裕でいられるのも今のうちだけよ。さあ、みんな・・・・」
「天と地と水と炎に宿る神々と精霊たちよ・・・・」
「△□○」
「召喚せよ!!!」
ミリンダの号令で、ハルたち3人は一斉に召喚魔法を唱える。
凄まじい轟音と稲光と共に、4体の召喚獣が召喚された。
竜神と九尾の狐に白虎・・・加えて猫のミケだ。
『×△□』
対する市長たち側も唱えると、3体の召喚獣が現れた。
巨大な亀と金色に煌めく羽根と長い尾をもった鳥に加え、青色の竜が召喚されたようだ。
「玄武と朱雀と清龍ね。
ホースゥさんの白虎と合わせると、4神になるわね。」
ミッテランは、召喚された敵側の神獣を見て感心するように呟いた。
「でも、清龍よりもポチの方がよっぽど大きいし、竜らしく見えるわ。
それにミケも加えれば、こちらは神獣4体だし、圧倒的に有利よね。」
そうなのだ、竜神以外は十数メートルの大きさの神獣であり、百メートルは優に超えるほどの大きさの竜神1体分に比べても見劣りするくらいだ。
更に、ハルたち側には4体の召喚獣がいて、加えてミリンダの極大魔法が使え、更に初級魔法とはいえ強力に磨き上げた神尾と神田の魔法力があるのだから、圧倒的有利な状況に見える。
にもかかわらず、市長たちには焦りの色も見えない。
「ほう、4体の召喚獣ですか。
しかも1体は本物の竜神ではないですか、大したものだ。
でも、そんな有利な立場は長くは続きませんよ。
そこの女魔道士、こちらへ来てそいつらを蹴散らしなさい。」
市長はミッテランの姿を認めると、強い口調で命じた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
しかし、ミッテランはそんな命令を聞いても動こうとはしない。
「ふん、ミッテランおばさんに強力な暗示をかけたつもりでしょうけど、そんなものは既に解けているわよ。
残念だったわね。」
ミリンダの勝ち誇ったような口ぶりに、初めて市長に狼狽の色が見えた。
「さあ、観念しなさい。
モンブランタルトミルフィーユ・・・・極大火・・・」
ミリンダが極大魔法を唱えようとした瞬間・・・・。
「ふん、まあそういった事もあるでしょう。
簡単に暗示が解けないようにしたために、テレビを見ずにはいられなくなってしまったのでしょう。
想定内ですよ。
では、これはどうでしょうか?」
市長が後ろに振り返って手を挙げると、途端に人波が押し寄せてきた。
彼らは小走りで市長たち4人の周りを大人数で取り囲んでしまった。
「まずい、マイキーが一緒に居ることは計算のうちであったが、今度は市民たちを盾に取られてしまったようだ。」
そうなのだ、仙台市民が市長たちを守る様に、彼らを取り巻いてしまったのだ。
市長たちはあらかじめ洗脳した市民たちを、グラウンドの影に待機させていたようだ。
「これじゃ攻撃できないじゃない。
極大魔法はもとより、中級や上級魔法だって、これだけ一般の人がいたら唱えられないわよ。
あの人たちに当たってしまうもの・・・。」
この様子を見たミリンダは、口を大きく開けたまま絶句した。
圧倒的な召喚獣の力の差で敵の攻撃を排除し、強力な魔法攻撃で相手の動きを封じ、1体ずつハルの剣で倒していくという当初の案が、脆くも崩れてしまったのだ。
「そちらからはそうでしょうが、こちらからは攻撃できますよ。」
市長が手を振り下ろすと、召喚獣たちが一斉に咆哮した。
朱雀は舞い上がると急降下しながら炎を吹きかけてきたが、竜神が蹴散らす。
清龍の咆哮と共に、空からこぶし大の雹が振って来たが、これも竜神がその身を盾にして防いでくれた。
今度は玄武が足踏みをすると、ハルたちの立っている地面が大きく揺れて、地割れを起こし始めた。
堪らず瞬間移動して、少し後方へと場所を移す。
するとその位置目がけて、無数の光の球や炎の玉が飛んできた。
市長や副市長たちからの直接攻撃である。
「○△□※!!!」
間に合わないと思った瞬間、ホースゥが召喚を解いて光の障壁で防ぐ。
その少し上には、ミリンダやハルが唱えたとみられる水の壁があるが、いくつかの玉がすり抜けて降ってきている。
やはり、光の障壁のような完全防御は難しい様子だ。
「どうするのよ、何もできないじゃない。
召喚獣同士で戦っていたって切りがないわよ、本体を倒さなくっちゃ。」
上空では、こちら側と敵側の召喚獣同士の戦いが始まっている。
ミケは相変わらず何もせずに寝そべっているだけだが、九尾の狐は朱雀と戦闘を繰り広げている。
竜神が咆哮すると、一瞬で玄武が吹き飛んだが、清龍の相手をしている間に再召喚されてしまう。
市長たち召喚者を倒さなければ、終わることはないのだ。
数日前に準備万端と言う言葉を聞いて、さしたる検討もしないままこの場へついて来てしまったことを、所長は深く後悔していた。
百戦錬磨の相手は、ミッテランさんの洗脳を強化していて、いざという時に寝返るよう策略していた。
それは、強力な暗示を1週間と言う時間をかけて解いたことにより回避できたが、相手は次の手も打っていた。
恐らく、これがだめでも次の手の準備もあると予想される。
こちらは、市長たちと行動を共にしているマイキー頼りだったが、それよりも先に市民たちが乱入してきてしまっては、マイキーが何かしたところで事態が好転することはないだろう。
簡単に攻略できると高を括っていたミリンダ達を無理にでも説得して、慎重に作戦を練っておけばよかったと、反省していた。
自分の考えも甘かったのだ。
なぜか、彼らと行動を共にしていると、随分と簡単に難しい命題をクリアーしてしまうので、今回もうまく収まるだろうと勝手に考えてしまっていたことは否定できない。
「召喚獣たちの戦いではこちらに分があるけど、こちらからは市長たちに攻撃を仕掛けられないから、向こうの攻撃をただ防御するだけよね。
ホースゥさん、光の障壁はあとどれくらい持ちそう?
守るべき人数が多いから、大変よね。
あたしとハルで水の壁を2重にすれば、ある程度は攻撃を防げるから、辛かったら言ってね。」
ミリンダが、隣で精神を集中させているホースゥに声を掛けた。
「今のところは大丈夫です。
ですが、やはり防御範囲が広いので、ミッテランさんを閉じ込めていた時は1週間くらい平気でしたが、この範囲だと1日くらいが限界です。」
ホースゥは少しい辛そうに、顔をゆがめながら答えた。
「ふうん、結構がんばれそうね。
その後、あたしとハルで頑張ってその後はミッテランおばさんが頑張れば、3〜4日は持ちそうね。
食料は缶詰などを持ち込んでいるし、向こうの魔力が切れるのが早いか、こちらの魔力が切れるのが早いか、これはもう持久戦ね。」
ミリンダは、この状況でも意外と平気な様子でいる。
「いや、そうでもないぞ。
我々は平気でも、市長たちを取り巻いている市民たち。
先ほどから見ていると、どんどん顔色が悪くなって来ているのが遠目からでも判る。
もしかすると、向こうが放っている攻撃魔力は、周りの市民たちの生気を吸い取って、それをエネルギーにしているのかもしれない。
そうだとすると、いずれ市民たちは倒れてしまうだろう。」
所長の言うとおり、市長たちを取り巻いている市民たちの顔色は青ざめ、ふらふらと立っていることもつらそうにしている人も多い。
それでも、市長たちの周りから動こうとはしないのだ。
「えーっ!じゃあ、このまま待っていると周りの市民たちが倒れて行ってしまうってこと?
じゃあ、どうすればいいのよ。」
所長の言葉に、驚いたようにミリンダが叫ぶ。
「僕が一人で行って、市長たちを一人ずつ倒すよ。
ホースゥさん、ほんの一瞬でいいから光の障壁を解いて。
僕が瞬間移動して、市長たちのすぐ隣へ行くから。」
珍しくハルが攻撃を仕掛けようとしている。
ぐずぐずしていると、市民に犠牲者が出ると知ったからだろうか。
背中の剣を既に抜いて、準備万端の様子だ。
「駄目よ、ハルの性格じゃあ周りの人たちに当たると思って、剣を振り下ろせないでしょ。
それに大体、あんたは鬼に乗り移られているとはいえ、人に向かって直接剣を振るえる勇気があるの?
逆にあいつらに捕まってしまうのが落ちよ。」
「そ・・・そうかも知れないけど・・・・でも・・・。」
ミリンダに図星を指されて、ハルは力なくうなだれてしまった。
「こんな中央で、一塊になっているから狙い撃ちにされるんだ。
ホースゥ姉ちゃんの光の障壁とやらはいらないから、俺たちだけでも外へ出してくれ。
散開して、攻撃を仕掛けてやる。
その隙に、何とか挽回するんだな。」
神田も神尾も、決死の突撃を覚悟している様子だ。
「今、光の障壁を解くことは無理です。
敵の攻撃圧力は、どんどん増してきていて、いま障壁を解いたら一瞬で蒸発してしまいますよ。
それくらい凄まじい攻撃です。」
そんな神田達に、ホースゥは伏し目がちに首を横に振る。
確かに、上方へ目をやると、巨大な火炎や光の玉が間断なく降り注いできている。
こちら側から反撃する術がないことを知って、攻撃のみに力を注いでいるせいだろうか、凄まじいほどの破壊力を感じさせる。
「うーん、万策尽きたと言ったところか・・・。」
所長が顎に手をやりながら、うなる。




