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72話

                  6

 所長を加えた一行が、大阪の街中へ到着した時には、既に夜になっていた。


「おひさしゅう・・・。

 覚えててくれてはる?」

 迎えの車から出て来たのは、若くかわいらしい女性だった。

 九州の爆弾騒ぎの時に同行した、大阪市警察のロビンこと勝呂敏美だ。


「いやあ、懐かしいでんなあ。」

 ロビンは、笑顔でハルたちを出迎えてくれた。


「お久しぶりです、ロビンさん。」

 ハルも笑顔で挨拶を返す。


「おっ、相変わらず、礼儀正しいなあ。若いのに・・・えらいでえ。」

 ロビンも、笑顔でハルの頭を撫ぜながら言葉を返す。


「では、お疲れでしょうが、こちらまで・・・。」

 ロビンに案内されて、市役所ビルの会議室に一行は入って行く。


『ガタガタガタガタ』すると、途端にビルが揺れ出した。

「えっ?地震?」

 ミリンダが、きょろきょろと辺りを見回しながら呟く。

 天井に設置された蛍光灯から垂れたスイッチの紐が、ゆっくりと揺れている。


「そのようでんなあ、このところ、地震が多くなってきましてなあ。

 高ーいビルですから、ちょっとばかり揺れますが、大した地震ではありません。


 戦争の前には大っきな地震が、この辺りにあったっちゅうことでしてなあ、それを聞いてから、あんまり気にしなくなりましたわあ。」

 ロビンは何でもないよとばかりに答える。


「今回のご用件は、この地震と関係する事なんですか?」

 ジミーが質問をする。

 どうやら、応対するのはロビンだけで、会議室にはその他の参加者はいないようなのだ。


「いえ、ちゃいますねん。

 実は、お聞きしている鬼と関係するのかしないのか・・・。

 うちの警察署長とか市長さんたちは恥ずかしいから連絡するなっちゅうてたんですが・・・、念のためにと思いまして・・・。」

 対するロビンは、どうも歯切れの悪い様子だ。


「一体どうしたというのです?

 今までの鬼たちの行動は一見すると、とても不可解なものばかりです。

 その為、どんな些細な出来事でも鬼と関わりがあるやもしれませんから、ご連絡いただければ調査いたしますよ。」

 煮え切らないロビンに対して、所長が催促する。


「そうでっかあ、ではお言葉に甘えまして・・・。

 京都市の山間にある集落なのですが、ここは京野菜畑とか茶畑とかがある、自然豊かな場所です。


 さほど人口が密集している場所ではないのんですが、それでも千戸を超える集落で、3千人ほどが暮らしています。

 その集落で年明け以降、雨が降り続いていますねん。」


『雨?』

 ロビンの口から意外な言葉が出て来た。

 聞いていた一同、思わずその言葉を口にする。


「雨・・・というと・・・。雨粒弾(レイニー)のように地面や野菜やお茶などに穴が開いて、収穫が出来なくなると言った事ですか?」

 ジミーが聞き返す。


「いえ、別にその雨に当たったからと言って、野菜に穴が開いたりとかの被害はありません。

 それでも、お日さんが出ないので、収穫は絶望的ですがね。


 でも、今は時期が冬だから主な畑も休んでいますし、そんなに困っている訳ではありませんねん。」

 ロビンは首を振る。


「では、どういった事で、困っているのですか?」

 所長が再度尋ねる。


「長雨が続くと言ったことも問題なのですが、もともと、冬の時期は雨や雪が多い地域なので、最初はそれほど気にもしておりませんでした。

 それにしても、既に1ヶ月以上も止むことなく続く雨というのは、これまでに例がありません。


 しかも、長雨は山間の一部地域に集中しておるんですわ。

 山間だけあって、土砂崩れの危険性もあるっちゅうことで、警戒しているのですが、強い雨が降り続いて土砂が部分的に崩れそうになると、途端に雨の量が落ちますねん。


 そうして崩れるギリギリのところまでで止まるもんですから、いつまでたっても警戒は解けませんねん。

 仕方がないので、住民は夜間だけは避難している状態ですわ。」


「ほう・・・、長雨ねえ。」

 ロビンの言葉に、所長が腕を組んで考え込む。


『ガタガタガタガタ』そうしているうちにも、またビルが揺れる。

 ロビンが何ともないとばかりに、笑顔でみんなの顔を見回す。


「大丈夫よ、釧路だって地震が多い地域だから、慣れっこよ。」

 ミリンダも平然としている様子だ。


(くっせえなあ・・・。)

「うん?」

(くっせえっていうんだよ。鬼のにおいがプンプンするぜえ。)


「ああ、剣の精のおじさん・・・・。

 鬼の臭いがするって、剣の精のおじさんが言っていますよ。」

 ハルが元気に手を挙げて発言する。


「け・・・、剣の精?」

 ロビンが不思議そうに、ハルの顔をしげしげと見返す。


「ああ、ハル君が持っている剣は鬼封じの剣と言って、精霊が宿っているようなんだ。

 その剣の精がハル君の頭の中に話しかけてくるんだね。


 でも、やっぱりその雨は鬼が起こしている可能性が高いってことだね。

 早速行ってみましょう。」

 ジミーがハルの剣について知らないロビンに、簡単な説明をする。


「分りました・・・、じゃあ、本日はもう夜なんで、ここはホテルに1泊してもらって、明日の朝に向かう事にしまひょう。」

 ロビンの言葉に、ミッテランやジミーの顔がゆるむ。

 また、ビデオ映画三昧の夜が待っているのだ。


(一刻を争うんだ、すぐに行った方がいい)

 ハルの頭の中に声が響き渡る。

「すぐ行った方がいいそうです。」

 席を立とうとする皆に、ハルが告げる。


「そ・・・そうか・・・。

 剣の精が言うんじゃ仕方がない・・・。

 今からでも行けますか?」

 ジミーがロビンに確認する。


「バスは準備してますから、問題はあらへんのやけど・・・。

 夜中になってしまいますよ?」

 ロビンが心配そうに尋ねる。


「仕方がありません、行きましょう。」

 所長も加わってきた。



 一行が京都の山間の集落へ到着した時は、既に日付が変わろうとしていた。

 それまでは曇り空程度だったのだが、集落へ近づくとやがて雨に変わってきた。


「ほんとにこの地域だけ雨が降っているのね。」

 バスを降りたミリンダが、傘越しに手を翳して雨粒の様子を見る。


 夜間には住民が避難しているとの言葉通り、どの家にも灯りは灯っていない。

 山間のデルタ地点に密集している集落は、確かに地崩れには弱そうだ。


「誰もいないみたいだねえ。どうする?」

 バスを降りてきたハルも、静かな集落を前にして誰ともなしに呟く。


(いや、臭うぜえ。いるぞ、鬼が・・・。)

「鬼がいるって。でもどうやって見つけるの?」


(どこかの家の中に隠れているのさ。

 構う事はねえ、手当たり次第に煉獄の炎で焼き払って行けばいい。

 住民は避難済みなんだろ?残っているのは鬼だけだ。)

 剣の精は物騒な言葉を吐く。


「駄目だよう、そんなことしたら鬼たちとやっていることが変わらなくなっちゃうじゃない。

 家とか住民の人には危害を加えずに、見つける方法はないの?」

 ハルがそんな剣の精に問いかける。


(難しいなあ。姿を現しさえすれば、鬼かどうかはすぐに判るんだが・・・。

 俺様には大体の居場所は判るが、隠れている場所までは特定できねえ。)


「ふうん・・・。

 ここに居るのは間違いがないけど、隠れていると、鬼を見つけるのは難しいって・・・。」

 ハルが周りのみんなに聞こえる様に話す。


「ようし、僕が家々を回って見て見るよ。」

 ゴローが蝙蝠に姿を変えて、集落の方へと飛んでいく。


「うーん、確かに住民は避難済みであれば、残っているのは鬼に乗り移られた人だけだろう。

 そうなると・・・、1軒1軒尋ねて行くしかないのか・・・。

 手分けしてやってみるか・・・大変だが。」


 所長が集落を見回しながら呟く。

 小さな集落とはいえ、千戸を越えるという話なのだ。


「まずは、竜神様を呼び出して見ます。

 召喚獣もいるかもしれないから・・・。


 天と地と水と炎に宿る神々と精霊たちよ・・・・・・。いでよ、ポチ!!!」

 夜の闇に差し込むような天空からの光に巻き付くようにして、神獣が舞い降りてきた。


「どうやらまた、鬼と対峙しているようだな。」

 竜神はそう言うと、目の前の山に向かって咆哮を浴びせた。


 すると、木々の隙間が何度も青白い光を放って点滅したかと思うと、やがて消えた。

 光を放った地点が、うねった線のように残像となって残るだけだ。

 やがて、それまで降り続いていた雨が嘘のように上がり、満天の星空となった。


『ボワッ』すると、集落の中の1軒の家の脇から青白い炎が上がる。

 その炎に包まれて、小さな黒い鳥のような影がのた打ち回りながら燃え尽きた。

 よく見ると、そこに人影があるようだ。


(奴だ、たたっ切れ!)

 すぐにハルの頭の中に声が響く。


「えっ?」

 ハルはすぐに背中の剣を抜いたが、その男の姿を見て少しためらった。

 月明かりに照らし出されたパジャマ姿の男は、遠目に見てもガリガリに痩せていた。


「ちっ!」

 剣を上段に構えるハルの姿を確認した男はそう呟いて、そのまま消えた。

 どうやら瞬間移動したようだ。


(馬鹿野郎、逃がしちまったじゃないか。)

 ハルの頭の中に叱責の声が響く。


「だってえー。」

 ハルが、情けない声を出す。


「逃がしてしまったか、仕方がない。

 とりあえず、行ってみよう。」

 所長とジミーは連れだって、男がいた家の前まで歩いて行く。


「表札には神城 龍平って書いてありますね。」

 ジミーが家の玄関を、懐中電灯で照らしながら話す。


「ロビンさん、この家の住民に関して調べられますか?」

 所長がロビンの方に振り返って尋ねる。


「はい・・・。こんなご時世ですから、写真なんて前世紀の遺物的な便利なものは残っておまへんでしょうが、それでも近所の人に聞いて、特徴とかを掴むことは出来ますやろと思います。

 それに、近所の人たちには警戒していてもらいますから、戻ってきたらすぐに判りますやろ。」

 ロビンは神城の名前をメモに取りながら答えた。


「ゴローさん・・・。」

 ハルが地面に散った灰を集めて袋に詰める。



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