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69話

                    3

「ジミー先生、おはようございます。」

 週明けにハルが学校へ到着し、教室へ向かって廊下を歩いていると、丁度ジミーが急ぎ足で通りかかった。


「あ・・ああ、おはよう。」

 ジミーは紙束を抱えたまま、そっけない返事をしながらすぐそこの部屋の扉を開けて、中へと入って行った。


 扉には通信室と表示されている、仙台市へ定時連絡の時間なのだろうか。

 ハルが、扉のガラス越しに中の様子を伺うと、ジミーが手に持っている紙束に書いてある文字を、無線機のマイクに向かって読み上げているように見える。


 何か重要な連絡をしている様子だが、こんなことは今までになかった事だ。

 首をかしげながら、ハルはそのまま教室へと向かった。



『ガラガラガラガラ』始業時間になり、ジミーが教室へと入ってくる。

「起立、気を付け、礼」

『おはようございます。』

 生徒たち4人が元気にあいさつをする。


「ああ、おはようございます。」

 それに対して、ジミーも軽く頭を下げる。

 いつもの朝の光景だ。


「先生、朝は忙しそうにしていましたけど、何をしていたのですか?」

 ハルが手を挙げて、ジミーの朝の行動内容を確かめる。


「ああ、あれか。昨年末に、仙台市長が亡くなられただろ。

 ハル君たちに仙台市へ瞬間移動で連れて行ってもらったから、覚えているだろ。

 ゴローさんには、詳しい説明もなしに、突然の休校と冬休みが早まってしまって、申し訳なかったと思っている。」

 ジミーは思い出したように、ゴローに向かって頭を下げた。


「いえ、大丈夫です。

 家へ戻った時に、権蔵さんを迎えに来たミリンダちゃんに理由を聞いたから、知っていました。

 何より、無理やりこのクラスで勉強させていただいている身の上なので、文句などありませんよ。」

 ゴローは軽く首を横に振りながら、笑顔で答える。


「そうか。実は、新しい仙台市の市長を決める選挙の投票が、昨日の日曜日だったんだよ。

 おいらは、この村へ出向してきている先生たちの票を数える、選挙管理委員という訳さ。

 昨日の夜までに投票してもらった内容を、仙台市へ連絡していたというわけ。」

 ジミーが真顔で返事を返す。


「へえ、で?結果はどうだったの?」

 ミリンダは、選挙と言う初めて聞く言葉に興味津々といった様子だ。


「いやあ、この村に出向してきている、数人の先生たちの投票結果だけじゃあ、何もわからないよ。

 でも、多分・・・所長が推薦している市役所の助役さんが当選するんじゃないかと、おいらは勝手に考えている。

 所長の同級生で、信頼のおける人だ。


 まあ、年齢条件さえクリアーできれば誰でも立候補は可能だから、何人もの対立候補者が出ているようだ。

 でも、おいらの知っている限りじゃあこれといった人はいないし、多分間違いはないだろう。」

 ジミーは頭を掻きながら答えた。


「今日の夜には開票が終わって、明日の朝には新市長が誕生する。

 さあ、そんなことよりも、授業を開始するぞ。」

 ジミーはそう言いながら、黒板へと向かった。


---翌日---

「ええっ、そんなあ。何かの間違いではないのですか?どうぞ」

「ガガガたしも、そう思いたいのだが、正式な開票結果だガガ・・・・

 新市長には、新人の神部さんが選ばれた。」


「神部・・・神部・・・聞いたことありませんが、役所関係の人ですか?

 それとも、大学の先生とかですかね?どうぞ。」


「いや、普通の会社員だった人だが、ガガガ・・の秋に脳溢血で倒れて危篤状態で病院へ運ばれたらしい。

 1時は死亡とガガガ・・・たが、生き返ったガガガガ・・・。

 死の淵から這い上がって来た候補者として、ガガガだいになっていた人だ。」


「へえ、そうですか。

 意外な伏兵と言うところですね。


 それにしても、そんな知名度の低い人が良く選ばれましたねえ。

 よほど、うまい選挙戦を繰り広げたのですか?どうぞ。」


「いや、当初から助役の1人勝ちと言う事で、大勢はガガガ・・・っていたような選挙戦ガガガ・・・。

 しかも、相手は締切ガガガガ・・に立候補した新人。

 ところが選挙戦の後半、ガガガ・・で巻き返したらしい。


 まあ、選挙戦はガガガ・・の運ともいうから仕方がないさ。ガガガ」

 所長の選挙戦の分析とも言えるような返事が返ってくる。

 意外なほど、落ち込んでいる様子はなさそうだ。


「でもそうなると、市長と副市長はセットのようなものですから、所長は今回、副市長にはなれないのではないのですか?どうぞ。」


「ああ・・・ガガガうだ。かえって楽だよ。

 今までだって、無理やりやらされていたようなものだから、実を言うとほっとしているくらいだ。

 これで、研究所の仕事に没頭できる。」


「そうですね、魔法の研究も少しは出来そうですね。どうぞ。」

「ああ、そちらへ行く頻度もガガガ・・増えそうだよ。楽しみだ。」


「了解しました。

 他の出向している先生たちには、選挙結果を伝えておきます。

 では、定時連絡を終わります。」


 ジミーはそう言うと、マイクのスイッチを離し、ほうっと一息ついた。

 所長が推薦していた候補者が落選したのに、非常に冷静な連絡だったと感じる。

 まあ、陰で市長を操るために応援していた訳でもないだろうから、実質的には他の誰が市長になろうと、大きな問題ではないのかもしれない。


 ただ、前市長の頃から市役所で働いていた助役さんであれば、仙台市の今後の方針も大きく変化することはないだろうが、全く無関係だった人が新市長になったという事は、今後の仙台市のかじ取りが懸念される。


 とは言っても、戦後の復興の為に、産めよ増やせよの基本的な姿勢は変わることはないだろうし、生存者がいる各地との連携を深めて行く事も変わりはないだろう。

 そう思い直して、ジミーは無線室からハルたちの待つ教室へと向かった。


---それから数日後---

「放送・・・ですか?」

 仙台市役所の市長室で、2人の男が机を挟んで相対している。


 一人は白衣姿の近代科学研究所の所長で、もう一人は市長室の奥にある大きく立派な椅子に腰かけている、所長よりは若干若くみえるが、精悍な顔つきの男性だ。

 恐らく彼が新市長なのであろう。


「そうです。西日本の都市では既にテレビやラジオによる放送が行われているそうではないですか。

 情報をいち早く正確に伝えるためには、そういった放送が一番であることは、戦前の生活から明らかです。

 何よりも、庶民の娯楽として大きな意味があるでしょう。


 私の市長戦の公約の目玉は、仙台市の市民生活を豊かにすることでした。

 戦前の技術を全くの一から研究し直すのは骨が折れるでしょうが、西日本ですでに確立している技術であるならば、この仙台市でも取り入れるのは容易いでしょう。


 大至急、放送網の確保をお願いいたします。」

 神部新市長は、そう言いながら深々と頭を下げた。


「わ・・・分りました。

 そうであれば、直ちに西日本と連絡を取り、技術者を派遣してもらいましょう。」

 一礼をした後に所長は、部屋を出て自分の研究所へと向かった。


 大至急、西日本の都市へ無線連絡をして、技術者の支援を仰がなければならない。

 お互いに協力し合う約束は出来ているので、支援してもらう事は簡単であろう。


 しかし、都市の復興開始から30年経過しているとはいえ、未だに戦前の文明生活は復活しているとは言えない。

 何よりも、戦前の生産技術の復興は未だに道半ばであり、今使用している電化製品や車など全ての物は戦前の遺物を修理したものばかりだ。


 その為、まずは技術力の向上を第一にして、戦前並みの生産技術の確保を最優先に突き進んできた。

 娯楽要素であるテレビやラジオなどの放送は、後回しにしていた要件の一つなのだ。


 確かに生活環境の中では、憩いの時間も必要ではあるのだろうが、旧文明の遺産とも言える電化製品を使い果たしてしまっては、石器時代のような生活に逆戻りしてしまうのだ。

 しかも、文明生活を味わってしまった今の人々では、そのような生活は耐えられないだろう。


 旧文明に追いつく程度の技術力の確立は、早急に成し遂げなければならない。

 それも、一部分だけではなくて総合的に復活させる必要性があるのだ。

 所長としては、主要方針の変更に関して大いに不満があるのだが、新市長の公約に掲げられた項目であれば、果たす必要性はあるのだろう。


 なにせ、その公約を評価されて新市長に当選したのだろうから。

 こうなれば少しでも早く放送技術を確立して、また生産技術の向上に力を注げられるような体制に持っていくしかないと彼は前向きに考えることにした。



「では、これから初級魔法を披露します。

 魔法力と言うのは、それを信じる心の力です。

 手足が自由に動くことと同様に、魔法も自然に使える物だと認識して唱えてください。

 火弾(ファイアー)!!!」


 一方こちらは、北海道のハルたちの村、ミッテランが大人数の前で魔法を披露している。

 新年早々から臨時開校した魔法学校が盛況のようだ。

 九州からの移住者の大半が興味を持ち、ほぼ全員が参加する形で入門講座が始まった。


「こちらは、炎ではなく水の力で攻撃する魔法です。

 雨粒弾(レイニー)!!!」

 ミリンダが唱えると、広場の一角に瞬く間に雨雲が出現し、大粒の雨が降り出した。


「この魔法は攻撃用だけど、水の量を増加させると敵の攻撃を防ぐ水の壁としても使えるから、必ず覚えたほうがいい魔法ね。」

 ミリンダは食い入るような視線で真剣に魔法効果を見ている大人たちに、自慢げに魔法を披露している。


 20代から40代までの120人もの生徒が一気に増えたため、それまで入門講座を手伝っていたアマンダ先生だけでは追いつかず、とりあえずミッテランはじめミリンダやハルなどが1/3ずつのクラスを受け持ち、魔法を披露して彼らに魔法力を認識させることからスタートすることにした。


「よう、召喚魔法の時のように、護符を腕に貼り付ければ使えるようになる魔法っていうのはないのか?」

 目つきの鋭い中年の男性が、魔法を披露しているハルに向かって太い声で尋ねてきた。


 神田だ。彼も魔法学校に参加していたのである。

 勿論、彼の隣にはひげもじゃ顔の神尾の姿もある。


 召喚魔法を伝授してもらった時のように、手っ取り早く魔法も使える様になりたいと考えているのであろう。

 そんな質問に対して、ハルは困ったような表情で一人の若い女性の方に視線を移した。

 ホースゥである。


 彼女も魔法学校への協力を申し出たのだが、魔法の言葉がチベット語であり、分りにくいことから魔法の披露は行わないこととなった。

 それでも協力できることがあるならばと、この場に参加してきているのである。


「炎の魔法や水の魔法に氷の魔法、其々の魔法を護符に封じて、その護符を通して魔法を使うことは可能です。

 でも、一つの魔法に対して1枚の護符が必要となり、両腕に護符を貼り付けたとしても、2種類の魔法しか使えるようにはなれません。


 効率が悪いので、効果が大きな召喚魔法以外で護符を使った魔法の収得は行われていません。

 簡単な魔法であれば、すぐに覚えられるので、学習した方が早いし色々な魔法が使えるので効率が良いです。


 要は魔法の力を信じる心です。」

 背の低いホースゥは、グラウンドの端に置かれた演説用の壇に上がって大きな声で群衆に向かって説明した。


「おお、やっぱり頑張るしかないのか。」

「仕方がないなあー。」

 そんな彼女の言葉に対して、大半の群衆は頷きながら決意を固めた様子だ。


「ちっ!しょうがないなあ。」

 ところが、ひげもじゃと目つきの鋭い男たちの態度は違っていた。


 不機嫌そうに舌打ちをした後うつむいたが、それでも魔法の授業には参加する様で、立ち去る気配は見せなかった。

 農作業が終わってから夜に行われている割には、活気あふれる授業となりそうな雰囲気だ。


-----またまた数日後---

「現物を確認したところ、都市内にある旧テレビ局の施設にある機材の半分以上は、問題なく使用できそうです。

 保存状態も良く、バッテリーなどを交換すれば、ハンディタイプの機材も使用可能な状態です。」


 仙台市の近代科学研究所の応接室で、数人の男たちが所長を前に書面を見ながら報告をしている。

 彼らは、西日本の都市から派遣されてきた、放送関連の技術者たちである。

 仙台市からの要請に対して、翌週には技術者を派遣してくれたのだ。


「では、次に行わなければならないことは、受信機の確保ですね。」


「はい、そうです。

 テレビやラジオなど、放送電波を受信する装置が必要となります。


 これらは、旧文明の遺跡から状態が良いものを選別して収集し、修理すれば使えるでしょう。

 修理とは言っても、故障していない部品同士を組み合わせて使えるようにする、いわゆる2個1や3個1ですがね。」

 作業着の下からネクタイ姿がのぞく、いわゆる技術者然とした若い男が所長の質問に答える。


「テレビやラジオなどの受信機の程度の良いものは、既に他の電化製品を収集した時に一緒に集めてきて保管してあります。

 当面は使う事もないと考えていたのですが、早くも必要となる時が来たという訳ですね。

 申し訳ありませんが、うちの技術者たちに受信機の修理の方法を伝授いただけますか。」

 所長は、ゆっくりと頭を下げた。


「お安いご用です。

 我々も、出来る限りお手伝いさせていただきます。」

 所長に対面する形でソファに座っていた、リーダー格と思われる中年の男も同様に軽く会釈を返した。


 これで、数ヶ月もすればテレビ放送が始まるだろう。

 その頃には、全家庭は無理でも公共施設にはテレビやラジオなどの受信機を配備できるだろうと、所長はもくろんだが、市長からの要求は、もっと厳しいものであった。



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