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67話

鬼編の続編開始です。

                   1

「おはようございます。マイキーよ。」

 3学期の始業式の日に、教室の扉を開けて入って来たのは、マイキーだった。


 腰まで届きそうな長い金髪、見つめるだけで吸い込まれそうな瞳、筋が通った高い鼻、少々厚みがあって意味深な唇に、細い輪郭の顎のライン。

 顔立ちはいつもの通りのマイキーそのものだ。


 極寒の北海道でありながら、薄手のぴっちりとしたタートルネックセーターに、黒のタイトスカートに黒いストッキングと言う、均整のとれたスタイルがなまめかしい、およそ小学校の教壇に立つにはふさわしくない格好で登場だ。


「あっ、マイキーさんだ。

 お久しぶりです。九州での戦い以来ですね。

 お元気でしたか?」

 1番前の席に座っているハルが立ち上がり、元気よく挨拶をした。


「おはよう、私はあなたたちが知っているのとは、別のマイキーよ。」

 ところが、本人は知らんぷりだ。


「えーっ、だってえ・・・。仙台市警察の潜入捜査官のマイキーさんですよね。」

 それでもハルは、尚も問いかける。


「ふふん、さすがね。この変装を見破るとは・・・。

 そうよ、ご推察通り、私は潜入捜査官マイキーよ。


 でも、そのつもりで名前を呼ばれると潜入捜査だってことが分ってしまうわ。

 だから、私の事はレディMと呼んでね。」

 マイキーは、そう言いながらいつものポーズをとる。


「レディMさん・・・。」

 言われてハルは、小さな声でそう呟きながら席に着く。


「かえって、怪しくない?レディMって。

 それに、マイキーさんが潜入捜査官だってことは、あたしやハルも、それにゴローも知っているのよ。」

 ミリンダが、顔をしかめながらマイキーを見つめる。


 ミリンダは雪焼けで、顔が真っ黒だ。

 しかし、スキーやスノボで冬休み中楽しんでいた訳ではない。

 魔法効果が強力になって来たので、村での練習は危険と判断し、人里離れた場所へ行って修行していたのである。


 そうなのだ、冬休み前に噂された、夜になると見られた火柱や閃光は、ミリンダの魔法が原因だったようだ。

 山奥での修行とは言っても、行き帰りは瞬間移動なので、食事や睡眠は村でとり、魔法の練習の時だけミッテランと2人で移動していたのである。


 ミッテランが若い時に修行した場所へ、連れて行ってもらったようだ。

 ミリンダは、元々あった才能から更に努力を重ねることにより、上級魔法に磨きをかけた様子だ。


「それはそうと、今日はどういった用件ですか?レディMさん。

 それに、ジミー先生は?」

 ゴローが廊下の方を見回しながら、不思議そうに尋ねた。


「ジミーはお役御免よ。今日から、私がこのクラスの担任の先生になったから、慕うように。

 それと・・・、今日からこのクラスに転入生が来ました。

 さあ、入って・・・。」


 マイキーに呼ばれて教室へと入って来たのは、かわいらしい少女だった。

 先ほどゴローが教室の外を見回した時に、窓越しに確認したジミーとは違う、背の低い影の正体である。

 その顔には3人ともに見覚えがあった。


「初めまして、ホースゥ です。

 チベット から来た。まだまだ 修行中。どぞ、よろしく。」


 ホースゥは深々と頭を下げてお辞儀をした。

 どうやら、日本語が話せるようになった様子だ。


「彼女は、竜神と行動を共にする必要があるという事で、その召喚者であるハル君がいる北海道のこの村に来たがっていたのだけれど、言葉も通じないところでは生活に支障が出るので、私が仙台市で日本語を教えていたのよ。

 これからも日本語の勉強の為に、このクラスに転入することになったので、よろしくね。」

 マイキーが彼女に続いて、言葉を添えた。


『こちらこそ、よろしくお願いいたします。』

 クラスの3人は声をそろえて挨拶を返した。


「それはそうと、ジミーさん・・・お役御免って・・・。

 何も言わずに仙台市へ帰っちゃったってことですか?」

 ハルが驚いた表情で、目を大きく見開いて尋ねる。


 その言葉に、マイキーはこっくりとうなずく。

 クラス中に、何とも言えない気まずい空気が流れ出した。


『ガラガラガラガラ』丁度その時、不意に教室の扉が開き、そこには巨大な芋虫が立っていた。

 いや芋虫ではなく、人だ。しかも所々からTシャツにジーパンとサングラス・・・が見える、ジミーだ。


 彼は口には猿轡をかまされ、両手は縛られているロープを何とか解いて、肘から先をようやく自由にした位で、それ以外は頭からつま先までロープでぐるぐる巻きにされた状態だ。

 どうやら、その状態で廊下をぴょんぴょん跳ねてきたようだ。


「突然後ろから襲われて、ハンカチに仕込んだ麻酔薬で眠らされ、気づいたら体育館の用具倉庫の中だったよ。

 しかも身動きできないように縛られて・・・。

 何とかロープを緩めて動けるようになったから良かったものの、冬場は外で使う体育用具を運び出すことはあまりないから、下手をしたら春まであのままだぞ、なんてことをするんだ。」


 ジミーは不自由な両手で何とか猿轡を緩めて、マイキーに向かって怒鳴りつけた。

 見かねたハルが、ジミーの元へと駆け寄りロープを一緒に解いてあげる。


「ずいぶんと早かったのね、1ヶ月は大丈夫と思っていたのだけれど・・・。

 さすがは優秀な捜査官といったところかしらね。

 仕方がないわね、このクラスの担任の座は譲るわ。


 おもしろそうだったのに、残念ね・・・・。」

 マイキーはそう言うと、そのまま教室を出て行ってしまった。

 後には、マイキーの顔を模ったゴム製のフェイスマスクと、金髪のカツラだけが残されていた。



「マイキーの奴め・・・。

 鬼たちの情報を探るため、竜神の背中に乗って天へと昇り、高みの集団の中へ潜入するというのを、絶対に無理だからとおいらが反対したことを恨みに思って、このクラスを乗っ取ろうとしたのだろう。

 危ういところだった。


 改めて紹介する、このクラスに転入してきたホースゥさんだ。

 彼女は17歳だけど、日本語がそんなに達者ではないことと、どちらにしてもこの地ではこのクラスが最上級生という事なので、小学校6年生の、このクラスへ転入することになった。


 高校どころか、中学校もまだできてはいないからね。」

 ようやく戒めから逃れたジミーが、教壇に立ってホースゥを紹介した。


「へえ、さっきレディMだっけ・・・マイキーさんがホースゥさんは竜神と行動を共にするって言っていたけど、どうしてポチなんかと一緒に居ようとするの?」


 ミリンダは、ホースゥがチベットへ帰っていないことが不思議でならなかった。

 前回の九州の1件で竜神を天へと昇らせることは成功しているので、目的は果たしているはずなのだ。

 難破して船がないのならば、釧路よりも西日本の都市か仙台市に居たほうが、よほど手に入りやすいだろう。


「師匠 言った。

 東の地 災い起きる そして闇に包まれる。

 やがて 全世界 闇の中。

 それ 防ぐ 竜神 助ける。」

 ミリンダの問いかけに対してホースゥは、たどたどしい日本語で答えた。


「ふーん、その災いの原因が鬼なのね?


 それにしても、へったくそな日本語ね。

 なーんとなくは判るのだけど・・・・。

 日本語の勉強を兼ねると言っていたけど、2年生のクラスから始めたほうがいいくらいね」


「普通にも話せます・・・・けど。

 外国人は皆こういう話し方が必要だと、マイキーさんに教わりました。

 だから こう 話す です。


 外国人、日本語うますぎると、警察捕まる。

 刑務所行きね。」

 ホースゥは、まじめな顔をして答える。


「マ・・・マイキーの奴・・・・。


 ホースゥさん、マイキーがいった事は嘘だよ。

 日本語がうますぎて警察に捕まるなんてことがある訳ないじゃないか。

 うまく話せるほうが、大歓迎だよ。


 その方が、授業の進め方も簡単だしね。

 一人だけ日本語に問題があると、どうしてもそのフォローに時間を取られてしまうから・・・。」

 ジミーはマイキーが残して行った、フェイスマスクを苦々しく見ながら、ホースゥに説明した。


「良く判りました。

 場所によっては、日本語がうまい外国人も捕まらない町もあるとマイキーさんは言っていたので、ここは大丈夫なのですね。


 そうであれば、私は普通に話すことにします。」

 ホースゥは安心したように、にこやかな笑みを浮かべた。


「日本中、どこへ行っても、日本語がうまくて捕まることはないわよ。

 もし、捕まるとしたら、マイキーにそそのかされた潜入先の馬鹿な役人が捕まえる位ね。」

 ミリンダが、呆れた様に呟いた。


「それはそうと、ホースゥさん、召喚の護符を持っていたでしょ?

 あれ、貸してくれない?


 それを使えば、あたしでも召喚獣を呼び出せるわけでしょ?」

 ミリンダが、ホースゥの前で両手を合わせて、拝むようにお願いした。


「護符は2枚ありますので、1枚はお貸しすることも出来ます。

 でも、多分若い方では徳が足りないので、召喚は困難と考えます。」

 対するホースゥは、あまり乗り気ではなさそうだ。


「えーっ!護符にも年齢制限があるの?」


「直接召喚術を使うより、護符の力が働く分軽減はされますが、それでもある程度の年齢の徳と魔力が必要となります。

 その為、20歳以上の人を対象に護符は作られています。

 あなたは、随分若く見えますけど、何歳ですか?」


「12歳・・・実際は15歳だけど、3年間眠っていたようなものだから、12歳相当といったところね。

 魔力に関しては大丈夫よ、直接召喚魔法を使うくらいの魔力もあると思っているわ。


 問題は、年齢と積み重ねた徳というやつよ。

 こればっかりは、練習とか努力とかでは短期間で解決できそうもないから・・・。」

 ミリンダは、困ったような顔をして俯いた。


「そうですか・・・、じゃあ後で護符をお貸ししますから、試してみましょう。

 私も対象外の年齢ですが、何とか護符の力で召喚出来ます。

 もしかすると、あなたも可能なのかもしれませんね。


 竜神様の戦いのときに、召喚魔法を使える人が一人でも多く居たほうがよいに決まっています。

 2枚護符があるからと言って、両腕に付ければ2体の召喚獣を召喚出来る、と言った事にはなりませんから。

 もう一人、使える方がいた方がありがたいのです。


 その方が、竜神様のお役に立てるでしょう。」

 ホースゥは、自分のカバンの中から長方形の紙片を取り出して、ミリンダに見せた。

 召喚用の護符だ。


「別に、ポチの役に立とうと思っている訳じゃないのよ。

 どちらかというと、ポチの方があたしたちの役に立たなくちゃいけないの。

 これは、あたしたちの戦いなのだから・・・。」


「どっちでもいいじゃない。

 敵は鬼たちなんだから、竜神さんと協力して戦おうよ。


 それよりも、ホースゥさんは光の魔法が使えるでしょ。

 あれ、すごくきれいだから、後で見せてくれませんか?」

 ハルが嬉しそうにホースゥの方を見て、微笑んだ。


 九州での戦いの時に見た、光の魔法による魔法障壁はハルにとって初めて見る物であった。

 少なくとも、ハルの周りでは光系の魔法を使える魔法使いには出会ったことはない。

 ハルの両親は炎系と氷系の魔法使いであったし、魔法の指導をしてくれているミッテランは天候系の魔道士であり、その1番弟子ともいえるミリンダも同様なのである。


 昔の村であったならば、若者たちの大半が強力な魔法を使いこなしていたので、中には特殊な魔法技量を持った人もいたのかもしれないが、幼いハルはその時点では魔法教育を受けてはいなかった。

 魔法は使い方によっては大変危険な物なので、ある程度の分別ができる年齢(10歳程度)になるまでは、教えることも使わせる事も、魔法を使っている所を見せる事さえ禁じられていたのである。


 魔法を使える人がほとんどいなくなったために、より魔法効果を信じやすい低年齢の子供にまで魔法教育を始めた、今の状態は緊急避難的で異例ともいえるのだ。

 その為、魔物たちを除けば、ハルが知って居る魔法使いは、4人だけなのである。

 ホースゥが使う光の魔法は、ハルの目には新鮮に映ったことだろう。


「ええ、良いですよ。

 だったら、授業が終わった後にでも、ミリンダさんの召喚魔法の実験の時にお見せしましょう。」

 ホースゥもやさしく微笑み返す。


「じゃあ、色々あって少し遅れたけど、授業を開始します・・・。」

 ジミーはようやく教壇に立って、教科書を開いた。



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