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6話

                        6

 ミッテランたちは用心深く塔への入口から1階部分を覗き込んだ。

 奥にある2階へと通じる階段の入口には、黒光りしている少女の像がそのまま佇んでいた。


「どうやら、まだバレてはいないみたいね。」

 ミリンダは塔の中へと入り、自分の姿に形作られた像へと進んだ。

 ハルとミッテランもそれに続く。


 3人は慎重に像を動かして階段へと進み、もう一度像を戻して再び封をした。

 これで、外から誰かが来ても封印が破られていることには、簡単には気付かないだろう。

 3人はゆっくりと2階へと続く階段を昇って行く。

 この時に、塔の入口の影から中を伺っている2つの浅黒く光る目には、3人の誰もが全く気付いていなかった。


 魔物たちは冬眠から覚めてはいないようで、塔の中は物音一つしない静寂の空間であった。

 3人は静かに足音を忍ばせながら、3階、4階、5階そして最上階である6階へとたどり着いた。


 6階の中央の広間には、あの時と同じように魔物のボスの巨大な飾り椅子が置かれていて、そこには魔物のボスがそのまま腰かけているのが見えた。

 しかし、全く動かない。


 どうやら椅子に座ったまま冬眠している様子であった。

 その周りには、恐らくはハルやミリンダ達の両親も含まれているのだろう、魔物たちと勇敢にたたかった人間たちの亡骸が点在していた。

 更にその周りには、椅子やソファが並べられ、数匹の魔物たちがそこで座ったまま冬眠していた。


 ミリンダは足音を立てないように注意しながら、魔物のボスのところに近づいて行く。

 あのときに手渡した洞窟の鍵は、紐で吊られて魔物のボスの首から下げられていた。


 ミリンダは魔物のボスを起こさないように、慎重に注意しながらゆっくりと鍵を首から外そうとしていた。

 ようやく鍵が取り戻せた瞬間、先ほど昇ってきた階段の方から大きな声がした。


「皆さーん、お目覚めの時間ですよー。

 忌々しい塔の封印は、このレオンが取り外しました。

 いつでも外へと出られますよ。

 レオンですよ、レオンがやりました。」

 おしりと額にやけどの跡がくっきりと残っている魔物だ。


 昨日ハルにひどい目にあわされて塔から逃げ出した奴である。

 どうやらミッテランたちが2階への階段を昇っているのを影から見ていて、少女の像を動かすことが出来ることに気付いたようである。

 レオンは階段から中央へ進んで来てなおも叫び続けた。

 それに呼応して、魔物のボスや手下たちが少しずつ目を覚ましだした。


「凍れ!!!」

 白黒まだら模様の牛の頭部を持つ人型の魔物が冬眠から目覚めて動き出そうとしたが、ハルの魔法で全身が凍りついてしまった。


「うまいわ、ハル君。殺さずに動きを封じてね。」

 他の目覚めかけた魔物たちを再度眠らせているミッテランが、ハルの様子に感心してほめたたえた。


雷撃(ライガー)!!!」

 ミリンダは、取り戻した鍵を握りしめて目の前の魔物のボスに向かって魔法を唱えた。


 魔物のボスに雷のような衝撃が走る。

 しかし、かえって魔物のボスの目を覚まさせてしまったようだ。

 魔物のボスはミリンダの襟首をつかんで振り回そうとする。

 それを何とか振りほどいて、ミリンダは魔物のボスとの間に滝のような水の壁を作り出して、攻撃を防ごうとしていた。


「氷の竜巻、凍りつけ!!!」

 ハルは尚も冬眠から目覚めようとする魔物を凍らせていた。


 魔物たちは目覚めたばかりで動きが鈍いので、恐ろしいように魔法が決まった。

 しかし、魔物のボスに関しては、そう簡単にはいかないようで、ミリンダは苦戦しているようだ。


「どうやら、洞窟の鍵を持ってきたお嬢ちゃんのようだね。

 お嬢ちゃんのパパたちを解放したために、長い間この塔に封印されてしまって大変だったよ。

 折角約束通り解放してやったのに、その気持ちを裏切るとは人間ってやつは本当に信用できん。

 閉じ込められた我々の恨みを思い知れ!」


「こっちだって3年間も鋼鉄化で固まっていたのよ。そういう意味ではおあいこだわ。

 パパとママの仇、許さないわ。」

 魔物のボスの迫力に対して、ミリンダも一歩も引いてはいなかった。


 やがて魔物のボスの炎の力でミリンダの水の壁が蒸発して無くなろうとしたとき、そこにミッテランが割って入ってきた。


「フレン・ドアスカメッセ・・・至極(スペシャル)暴風(サンダ)雷撃(ストーム)!!!」

 ミッテランが唱えると、魔物のボスの体を大きな閃光が貫き、ボスの体が透けて中の骨が見えた様に感じるほどであった。

 ボスは頭から煙を出して床に這いつくばった。


 それを見て、魔物のボスにとどめを刺そうとミリンダが魔法を唱えようとする。

「モンブランタルトミルフィーユ・・・(キラー)暴風(サンダ)・・・」


 しかし、魔法を唱え終わる前にミッテランが止めに入った。

「待って、殺してはだめよ。

 ボスを殺せば他の魔物たちも一斉に目覚めて攻撃してくるわ。

 目的の鍵は手に入ったんだし、このまま押さえつけておく方が得策よ。」

 ミッテランは静かにミリンダを制した。


「じゃあ、もう一度封印するっていうの?

 それでも構わないけど、封印して永遠に閉じ込めるのでは大して変わらないんじゃない?」

 ミリンダは少しふくれたような顔つきでミッテランを見た。


「うーん今の状況だと、封印もしなくてもいいかもしれないわね。

 魔物たちだって、今日やっつけられて敵わないことが判っただろうし、反省もしているだろうし、これからは仲良く一緒に暮らしていけるんじゃないかな。」

 ミッテランは魔物のボスの頭に魔法をかけて燻っている煙を消してあげた。


「まあ、魔物たちの態度次第だけどね。

 それによっては、もう一度封印をすることになるかもしれない。今度は永遠にね。」

 ミッテランは魔物のボスの方を見ながら答えた。


 すると、魔物のボスも起き上がって卑屈な笑みを浮かべ、腰をかがめながらミッテランに話しかけてきた。

「へっ、へっ、へっ。

 命さえ助けていただけるのなら、もう人間たちに逆らったりはしません。

 封印も堪忍して下さい。3年間も冬眠していてもう飽き飽きですよ。


 ここにいる魔物たち全員で誓います。

 決して悪さはしません。

 だから一緒に生活していけるようお願いしますよ。」

 魔物のボスはもみ手をしながらミッテランにすり寄ってきた。


 ミッテランは不気味に感じながら少し後ずさりしてから答えた。

「お前たちをどうするかは、一旦村へ戻ってから長老たちと話し合うこととしよう。

 それまでは一旦封印することになるぞ。今この塔には魔物は何匹いるのだ?」


「へい、お助けくださるのでしたら、少しの間封印されることはへっちゃらですよ。

 今この塔にはボスであるあっしを含めて100ほどの魔物が居ます。

 前の人間たちとの戦いで受けた傷も、この冬眠で癒えていますからみな元気ですよ。

 力仕事などバリバリにこなしまっせ。」

 魔物のボスは尚もミッテランにすり寄ってきた。


 ミッテランは懐から数本の堅く縒られた紐を魔物のボスに手渡した。

「昨晩の占い通りの数のようだな。

 今までに作った魔封じの紐を掻き集めて来た。

 この紐を自分の首に巻いて結ぶのじゃ、よいな。」


 魔物のボスは、紐をネックレスのように首に巻いて結んだ。

 残りの紐も、目覚めた魔物たちに手渡してそれぞれの首に結びつけた。

 ハルは自分が凍らせた魔物たちの首に、ミッテランから紐を受け取り結び付けた。


「これは、魔封じの紐じゃ。

 細工がしてあって、一度巻き付けると私以外の手では外れないようになっている。

 害のない弱い魔法なら大丈夫だが、強力な魔法を発すると勝手に短くなって首が閉まるようになっている。

 人間たちに逆らって魔法を使おうとしたら、首と胴が泣き別れなんて事にもなりかねないから注意するのだぞ。


 丁度あるから100匹分手渡しておくので、残りの魔物が目覚め次第、そいつらの首にも結び付けるように。

 これは我々人間たちが魔物たちと平和に一緒になって暮らしていこうとするときに、最低限必要な処置だ。いいな。」

 ミッテランは厳しい口調で魔物たちに向かって言った。


 しかし、魔物たちはボスも含めてとりわけ逆らう様子もなく素直に話を聞いていた。

 どうやら、本当にこれ以上戦う気はなさそうである。


「えーっ、ってことは、この塔の封印を解いた功労者である、このレオンも紐のネックレスをしなければならないという事ですな。

 ちょっと見はあまりセンスがいい色使いとは見えませんが、まあいいでしょう。

 私のファッションセンスであれば、どのような色使いのものでも着こなして見せますよ。

 さあ、渡してください。」

 戦いの最中に柱の陰に隠れてじっとしていたレオンが、飛び出してきて話に割って入った。


 不意を突かれてきょとんとした表情のミッテランは、魔物のボスの方に向き直って問いかけた。

「この者も、100匹の魔物の中に含まれておるのか?」

「いいえ、入っておりません。

 というより我々の仲間の記憶がありません。

 もしかすると部下の部下のずうーっと下の部下の一人かもしれませんが、覚えておりません。」

 魔物のボスは、頭をかきながら答えた。


「うーむ困ったな。魔封じの紐は100本しか持ち合わせてはおらんのじゃ。

 作るには1週間以上かかるし、そうすると1本足りないという事になる。

 どうしたものかの。」

 ミッテランは困った顔をして、ミリンダ達を見た。


「このレオンは、もともと封印の塔の外にいたのよ。

 それでも村へ行って村人に悪さするでもなく、ずっとこの塔に貼り付いて3年間いたような奴だから、特段の害はないと思うわ。

 大した魔法も使えないんだから、紐もいらないんじゃない?」

 ミリンダの言葉にハルも大きく頷いた。


「そうか、それじゃあレオンとやら、お前はそのままでよい。

 人間たちには悪さをしないことを誓えば堪忍してやろう。良いか?」

 ミッテランはレオンの方に向き直って問いかけた。


「は はい、よろしいですよ。

 元から私は人間たちに悪さをするような極悪魔物ではありませんから。


 ただ、たまに風景に溶け込んでいて、突然姿を現して人間たちを驚かせて楽しんでいただけです。

 たわいもないいたずらですよ。

 これからは、そのようないたずらも一切しないことを誓います。」

 レオンは怯えたような表情を隠すことも出来ず、ひたすらミッテランの言うことに従う姿勢を見せた。


 ミッテランは冬眠から覚めた魔物たちを塔の6階に集め、そのまま待っているように指示したのち、1階へ降りてから階段の入口に立たせてあった少女の像の魔法を解いてリアカーに戻した。

 そして今度は階段の入口に封印の魔法を放った。

 階段の入口はオレンジ色の光の壁となって何物をも通さない状態となった。


 ミッテランたちは洞窟の鍵のほかに、ハルやミリンダの両親およびそのほかの魔物たちとの戦いで犠牲になった人たちの身に着けていたネックレスや腕輪・指輪などを形見代わりに拾い集め、亡骸とともにハルの持ってきたリアカーに積んで瞬間移動で村へと運び入れた。

 あの戦いの後、ろくな弔いが出来ていなかった村人たちは大いに喜び、戦いの犠牲者を正式に弔う儀式を行うこととなった。

 弔いの式典も兼ねての宴は、その晩遅くまで繰り広げられた。



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