5話
5
「ふぁっふぁっふぁ。
意外と素直に洞窟の鍵を持ってきたものだな。
もう少し抵抗するかと思っていたのに。
なに、素直な子供は大好きだよ。名前は何という?」
大きな豚を思わせる顔をした魔物のボスは、口の両側にある牙のせいで常に半開きのままの口元から、だらしなく涎を垂らしながら高笑いしていた。
頭は豚そのものだが体は丸々と太った人間の胴体で、短い手足が出ている。
手の指は2本しかないようだが、同じく2本指の後ろ足で立って歩くことが出来るようだ。
「あたしの名前は鈴よ。
要求通り洞窟の鍵を持ってきたんだから、パパたちを返して!」
自分の手のひらサイズもあるような大きなカギを魔物のボスの目の前にちらつかせて、幼き日のミリンダは塔の最上階に立っていた。
くるくるときれいにカールされた肩までの髪の毛に、ぱっちりと大きな目とすっきりと通った鼻筋が印象的な少女である。
フリル付のスカート部が大きく広がった赤いワンピースに赤いエナメルの靴を履いている。
魔物のボスの座っている向こう側には、鈴の両親とハルの両親がどちらも化石化の魔法で、身動きできない状態にされて立っていた。
「鈴だと?あのリンリン鳴る鈴か?
ほーっ、かわいい名前じゃないか。
それにここは戦場というのにずいぶんと派手な格好をしているな。
まるでパーティにでも出かけるような。」
魔物のボスは、なめまわすような陰湿な目つきで鈴の頭から足までを眺めていた。
「ふんだ。遠くへお出かけするときは、精一杯おめかしして出かけるのよ。
それがレディのたしなみなの。
それよりどうするの、パパたちを返すの?返さないの?」
鈴は、なおも魔物のボスの前に洞窟の鍵をちらつかせて見せた。
周りには恐ろしい風貌をした魔物だらけで、助けとなる人間は一人もいないのである。
しかし、人間たちの執拗な攻撃に会い、魔物たちも無傷ではなかった。
多くの魔物たちが傷つき、これ以上戦闘が長引くことは、魔物たちにとっても良いことではないと考えられた。
ましてや、たった一人の少女だけで戦場の中心である塔にやってくるとは考えられないのである。
今もこの塔の外には多くの人間たちが武器を持って待ちかまえている可能性もあるのだ。
恐ろしい魔物たちに囲まれても怯まない、鈴の凛とした態度が、更に魔物のボスを恐れさせていた。
「まあ、いいだろう。
洞窟の鍵さえ手に入れば、洞窟を通じて仲間の魔物たちが続々とこの地にやってくるのだから。
そうすればお前たち人間たちを征服するのは簡単だ。
鍵を持ってきた褒美にこいつらは解放してやろう。
束の間の自由を味わっておくとよい。」
魔物のボスが魔法を発すると、鈴の両親とハルの両親の化石化が解け、体に生気が戻ってきた。
鈴の両親は鈴に駆け寄り抱きしめると、すぐに塔から降りるように言った。
「鈴よ、かわいい娘。
折角助けに来てくれたというのに、私たちはすでに魔物のボスの魔法で体がぼろぼろで、
治癒魔法を使ったとしても、すぐに魔物たちと戦うことは出来ないだろう。
最早我々の村には、魔物たちと互角に戦うことが出来る人間は一人もいなくなったことになる。
その上洞窟を通じて新たに魔物たちがやってきたら、村は遠からず全滅だ。
私たちの最後の力を振り絞って魔物たちを引き留めておくから、お前はすぐにこの塔を離れなさい。
命に代えてもこの塔から魔物を出さないように封印して見せる。だから急いで行きなさい。」
鈴の母は目に涙を浮かべながら、微笑んで鈴の体を再度きつく抱きしめ、階段へと続く通路の方向へと鈴の体を押しやった。
ハルの両親はそれぞれ自分の体に炎と吹雪を纏い、魔物たちの動きをけん制していた。
「さあ、早く。今のうちだ。逃げなさい。」
鈴の両親は立ち止ってこちらを眺めている鈴の目を見つめてから、階段の方へ向かうよう指示した。
鈴は何度も振りかえりはしたが、最後はその指示に促されるように塔の階段を駆け下りて行った。
「鍵を持ってきた褒美として自由にしてやったのに、逆らいやがるか。
えーい、それならば化石化などして捕えておく必要もない、こいつらを殺してしまえ!」
魔物のボスは、魔物たちに総攻撃をかけるよう命じた。
5階、4階、3階と駆け下りていく毎に、悲痛な叫び声が聞こえてきて、鈴は立ち止って戻りたくなるのを必死でこらえて降りて行った。
ようやく塔の2階から1階へと降り立ったときには、すべての叫び声は聞こえなくなっていた。
少し前に断末魔のような叫び声がしたのが最後であった。
塔の1階部分の壁は全てオレンジ色に光り輝いていて、魔法による封印が塔全体を覆っていることが判った。
しかし、自分が降りてきた階段部分だけオレンジ色の光で覆われていないことが判り、鈴は愕然とした。
「私を逃がそうとして、階段部分だけの封印を待っていたけど、力が尽きてしまったという訳?
パパ?ママ?死んでいないわよね。封印をかけて眠っているだけよね?」
鈴は泣きながら自分が降りてきた塔の上階を見上げながら叫んだ。
しかし、何の返事もない。
自分の両親の気配は一切この塔からは消えてしまっていた。
鈴は全てを察したように2階へと続く階段の入口に戻り、そのままそこで鋼鉄化の魔法を唱えた。
―――――
「鈴、起きなさい。鈴?鈴ったら」
やさしい声が、まどろみの中の鈴を揺り起こす。
鈴は暖かなベッドの上で上半身だけ起き上がり、眠い目をこすりながら声のする方向を見た。
寝室の隣のキッチンで、鈴の母が朝食の支度をしていた。
「早く起きなさいったら、今朝はあまり時間がないの。
起きたら髪の毛をとかしてあげるから、早く支度しなさい。」
母親の問いかけにも、眠い目をこすりながら空返事をするだけであった。
鈴は母親と同じくるくると巻き上がった髪の毛が大好きであった。
黒髪よりも少し赤みがかった髪の毛は、周囲の子とは異なっていて違和感はあったが、それでも母親と同じ色で、同じように癖のある巻き髪が大好きであった。
「鈴、いよいよ今日は魔物たちとの最終決戦だ。
それなりの犠牲もあったが、なんとか魔物たちを南東の塔まで追い詰めることが出来た。
後は魔法が使える者たちで塔を攻撃して魔物たちを一網打尽にするだけだ。
圧倒的に我々に有利な状況だ。
パパとママはこれから早めに南東の塔へと向かうから、早く朝ごはんを食べて留守番をしていなさい。
今日の夕方には決着がつくだろう。今夜は祝杯だぞ。」
鈴の父が居間から寝室へと顔をのぞかせて、眠気まなこの鈴に早くベットから出るように促した。
「だめ、今日の戦いで魔物たちの反撃にあい、パパとママは捕まってしまうの。
南東の塔へは言っては駄目・・・」
鈴は起き上がって両親に告げようとしたが、体はピクリとも動かず、ベッドにくぎ付けであった。
大きな声で叫ぼうとしても声にならない。
必死に言葉を発しようとするのだが、伝わらないのだ。
鈴の両親は時々笑い声を交えながら朝食の準備を続けていた・・・・・。
―――――
「ミリンダ? ミリンダ、起きて。
夜明けだよ、封印の塔へ向かって出発するよ。
今日は運よく雲一つない快晴だよ。」
ハルが、ベッドで寝ているミリンダの体を揺り起こしていた。
「ハル?」
ミリンダは、周りの様子を見渡した。
崩れかけたレンガの壁を利用して、屋根代わりのテントの布を張ったミッテランの住まいである。
ミリンダは昨日の出来事を思い起こしていた。
「夢?夢だったんだ・・・」
ミリンダは、茫然としながら小さくつぶやいた。
多少の意識はあったとはいえ、鋼鉄化で固められていた為、3年前の出来事が昨日のことのようにはっきりと覚えている。
ましてや、今日はこれから南東の塔へと乗り込んで魔物たちと戦うかもしれないのだ。
その感情が封印されたと思っていた、あの時の出来事を思い出させたのであろう。
ミリンダはゆっくりとベッドから立ち上がって大きく伸びをした。
「さあ、起きたのだったら朝食を食べちゃいなさい。
封印の塔へは結構時間がかかるから、早めに出るわよ。」
ミッテランはハルたちを朝食の食卓へと促した。
昨夜同様豪華に肉や野菜や果物がいっぱい並べられている。
「どうせこれが最後だから、ありったけの食材を使ったの。全部食べてね。
あー、でもみんなやられてしまうという事ではないのよ。
今日封印の塔へ行って、弟たちの仇が打てたら、私もここを引き上げて村へ引っ越そうと思うの。
もう一度魔法学校を開きたいわね。
でも、老人たちばっかりだから教えるのは相当に骨が折れそうね。
ミリンダとハル君以外の子供たちはまだ小さそうだしね。」
ミッテランは明るく微笑みながら、スープをハルによそってくれた。
お腹いっぱいになるまで食べた後、ハルは庭に出てミッテランに魔法を見てもらうことになった。
「じゃあ、昨日言ったように味方に影響しないように、魔法を出してみて。」
ミッテランはハルを暖房用の薪の前に立たせて言った。
ハルは嫌がる魔物を無理やり引っ張ってきて、薪の隣側に立たせた。
「炎の竜巻、燃え尽きろ!!!」
魔法とともに、ハルの体を中心に炎の渦が広がって行き、やがて薪に達して大きな火炎となった。
しかし、そのすぐ隣に居る魔物には何の影響もない。
「やったあ!」
ハルは嬉しそうに飛び上がった。
こわごわ震えていた魔物は、ほっと一息ついた様子だ。
「どうやら、魔法効果をコントロールできるようになったわね。
一晩で習得するのだから、筋が良いわ。」
ミッテランはハルの頭をやさしく撫ぜながら微笑んで見せた。
「でも・・・、折角周りの人に迷惑をかけない方法を覚えたので、もっと強力な炎の魔法を唱えようとしたのですが、炎の竜巻以上のものは出来ません。
どうしてでしょうか?」
ハルは不満そうに頬を膨らませた。
今までは周りを気遣って強い効果の魔法を避けていたようだ。
「魔法と言うのは、その効果をイメージして目標にぶつけるものだけど、唱える時に精神を集中させるでしょう?
強力な魔法の時には、今よりももっと強く精神を集中させなければならないの。
だから、私たちは強い魔法を使う時には、精神を集中させるための言葉を唱えるわ。
いわゆる呪文ね。
それと、強い魔法効果をしっかりとイメージすることも必要ね。」
「あたしの呪文は、モンブランタルトミルフィーユよ。
どれも、旧遺跡で見つけた雑誌で見ただけで食べたことはないけど、スイーツと言って甘くてとってもおいしいらしいわよ。
見た目もきれいでかわいいし、それらを食べた時を想像すると、とっても興奮して強力な魔法を繰り出せるわ。」
ミリンダはうっとりと宙を見上げながら教えてくれた。
「どんな言葉でもいいけど、気持ちを落ち着かせるものとして、大切な人の事を思って唱えてもいいわ。
まあ、魔法に慣れてくれば、強い魔法のイメージも掴めるだろうし、呪文もおいおい考えて行けばいいでしょう。
封印の塔へ行くまでにも弱い魔物たちは一杯転がっているから瞬間移動はせずに、そいつらの相手をして、魔法になれましょうね。
ミリンダも3年間眠っていたようなものだから、なるべくたくさんの魔法を使って感覚を取り戻すのよ。
いいわね。
但し、倒すのではなく加減して追い払う程度にするのよ。」
「え、えー!」
ミリンダがつまらなさそうに口を尖らせて叫んだ。
「だから言っているでしょう、魔物たちとの共存を考えているって。
それに、魔法効果を弱める練習をすると、今度は魔法効果を強くすることも覚えていくわ。
だからいいわね、加減して唱えるのよ!」
ミッテランの言葉に、渋々ミリンダは頷いた。
魔法効果を高めることが出来るという一言が効いているようだ。
「じゃあ、封印の塔へ向けてしゅっぱーつ。」
ミリンダの号令とともに、ミッテランたち一行は封印の塔に向かって南東方向へと出発した。
途中、魔物たちに襲われることもあったが、ミッテランは手を出さずにハルとミリンダだけに戦わせた。
魔法効果を加減しても二人の魔法は強力で、草原にいる弱い魔物たちは敵ではなく、すぐに散り散りに逃げ出して行った。
ハルは少しずつではあるが魔法効果をコントロールする事を、自然と意識できるようになって来たと感じていた。
ミリンダも、固まっていた時に使えなかった魔法を駆使して、感覚を取り戻していく。
「えへへ、どう?
この辺じゃあ、あたしに対抗できるような強い魔物は皆無ね。
でも、これじゃあ塔の魔物たちに対抗するだけの力を付ける練習にもなりはしないわ。
もっと手ごたえのあるような・・・、そうだわ大きさだけなら、あの魔物で十分ね。」
ミリンダは道端の奥まったところに生えている、2mほどの大きな植物系魔物に標的を定めたようだ。
「だめよ、その魔物は・・・。」
ミッテランが焦ってミリンダを止めようとする。
「大丈夫よ。あたしの魔法なら一瞬で・・・。
モンブランタルトミルフィーユ・・・暴風雷撃!!!」
眩いばかりの閃光が行く筋もの稲光となり、強風と共に魔物に襲い掛かった。
しかし、クリーム色の花弁の一部が焦げただけで、魔物は無事であった。
「えーっ?じゃあ、もう一度・・・。
モンブランタルトミルフィーユ・・・サ・・・あれ?」
ミリンダはもう一度魔法を唱えようとしたが、言葉が出てこなかった。
「モンブランタルトミルフィーユ・・・暴風雷撃!!!」
突然どこからかミリンダの声で魔法の呪文が響き渡り、ハルたちを稲光が襲い掛かった。
3人とも寸でのところで躱したが、次々と魔法が発せられ、息をも付かせぬ勢いで攻撃魔法が襲い掛かってくる。どうやら、目の前の植物系魔物がミリンダの天候系魔法を発しているようだ。
「モンブランタルトミルフィーユ・・・暴風雷撃!!!」
「モンブランタルトミルフィーユ・・・暴風雷撃!!!」
植物系魔物は魔法に慣れていないのか、狙いは定まってなく、手当たり次第辺り一面に攻撃を仕掛けてきているようだ。
しかし、いずれはハルたちの身に強烈な魔法が降りかかるのは時間の問題と思えた。
「炎の竜巻・・・燃・・・」
「ハル君、攻撃魔法は駄目。
フレン・ドアスカメッセ・・・封印魔法!!!」
ミッテランはハルの魔法を制しながら、自ら魔法を唱えた。
「魔封じよ。
相手の魔法効果を封じて、魔法を唱えた相手に魔法効果が逆戻りする魔法ね。
あの魔物は、借りフラワーといって、自分が攻撃された魔法を借りて相手に魔法攻撃を仕掛けてくる植物系魔物よ。
魔法耐性が強いから、魔法で倒すことは容易ではないわ。
そのくせ、どんな高等魔法でもその力を借りて反撃してくるから、強い魔法を唱えれば唱える程こっちが苦しくなるのよ。
ハル君の銀のナイフで、根から掘り起こして切り刻んでやって。
魔法攻撃には無敵に近いけど、物理攻撃にはすごく脆いわ。」
ミッテランは両手を借りフラワーに向けて大きく伸ばしながら、真剣な表情で力を込めている。
借りフラワーはその大きく伸びた茎を揺らしながら攻撃を仕掛けようとしている様子だが、唱える魔法は封じられている。
「魔封じは相手の魔法を封じるけど、少しでも気を抜くと弾き飛ばされて、魔法者にそのすべての魔法効果が降りかかってくるから注意が必要よ。
私もここまで大きな借りフラワーは初めてよ。
抑え込むのも限界があるから、早く退治してね。」
ミッテランは苦しそうな声を上げ始めた。
ハルは、腰のさやから銀のナイフを取出し、借りフラワーを根から掘り起こした。
大きく一抱え以上もある借りフラワーを目の前にして、ハルもどうしていいかわからずに、ミッテランの方に振り返った。
「貸して。」
ミリンダがハルから銀のナイフを受け取り、大きな茎を細かくぶつ切りにして行った。
すると、借りフラワーは消滅して消えてなくなった。
「借りフラワーは植物系の魔物だから、そのテリトリーに入ってこちらから攻撃を仕掛けない限り、何もしないわ。
仮に魔法攻撃を仕掛けて失敗しても、遠くへ逃げてしまえば大丈夫ともいえるけど、唱えた魔法を借りられると、魔法者はその魔法は使えなくなるの。
魔法を取り戻すには、その借りフラワーを倒すしか方法はなくなるのよね。
人間は不気味だから見つけても避けるけど、結構おいしいらしくて魔物たちは好んで借りフラワーを食べるようよ。
その為、強い魔物たちがいたころからあったのだろうけど、生えてもすぐに食べられてしまっていたから、目立たない存在だったの。
それが強い魔物たちが塔に封印されてからは、その辺の草原でも見かけるようになったのよ。
強い魔物を封じ込めてからの3年間固まっていた、ミリンダが知らなかったのも無理はないわ。
ハル君は平和主義者だから、向こうから仕掛けてこない借りフラワーを相手にしたこともなかったでしょうしね。
このように、まだまだ油断の出来ない魔物たちはたくさんいるのだから、不用意な戦いは避けて行くように心がけなくちゃ駄目よ。」
「はーい。ごめんなさい、ミッテランおばさん。」
ミリンダはしゅんとして肩をすくめた。
「でも、すごいわねえ、魔封じの魔法。
相手の攻撃を封じ込めて、その相手に魔法効果を返してしまうなんて、まさに無敵の魔法よね。
相手が強ければ強いほど、返す魔法も強くなるわけだから・・・・。」
ミリンダが感心したようにミッテランを見つめた。
「魔封じは高等魔法だけど、魔法の訓練を積んで得を高めればいずれは使えるようになるはずよ。
だから、面倒がらずにしっかり練習してね。」
『はーい。』
ハルもミリンダも大きな声で返事をした。
やがて一行は封印の塔を見下ろす草原へとたどり着いた。
すぐにでも草原を駆け下りて塔へと進みたがっているハルたちを制しながら、ミッテランが冷静に話しかけた。
「いい?回復系の魔法は小さな傷などはすぐに治せるけど、私の左腕のように一度失ったものは魔法では治らないのよ。
ましてや命を魔法で復活させることは出来ない。
だから自分の身の安全をまずは考えてね。
今回の目的は洞窟の鍵を取り戻すことであって、魔物たちを退治することではないわ。
私たち3人だけでは塔にいるすべての魔物たちを相手にすることは出来そうもない。
でも鍵さえ手に入れてしまえば、階段の入口を封印してもう一度塔全体を封印することも可能よ。
だから、まずは戦うことではなくて鍵を手に入れることを考えてちょうだい。
静かに行動すれば、ほとんどの魔物たちが冬眠から覚めることはないでしょう。
できれば眠っている隙に鍵を取り戻すことが一番いいわね。
もし仮に魔物が目覚めてしまった場合だけど、絶対に魔物を殺してしまっては駄目よ。
塔の魔物たちは仲間意識が強いので、仲間がやられると全員が一丸となって襲ってくるようになるわ。
魔物が目覚めてももう一度眠らせるとか、凍らせて動きを封じるとかで対処してね。」
ミッテランの言葉に、ミリンダは不満そうであった。
「でも、パパとママの仇をとりたい。
せめて魔物のボスだけでも倒すのは駄目?」
ミリンダは、ほほを膨らましながらミッテランを見つめ返した。
「気持ちはわかるけど、ボス一匹だけならともかく、塔にいる魔物たち全員を相手にすることは到底できないわ。
寝ている隙に鍵を奪ってくることが一番安全なの。
だから、耐えてほしいの。いいわね。」
ミッテランは真剣な眼差しでミリンダの目を見つめた。
今度もミリンダは渋々納得したようだ。