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49話

                  9

 所長とロビンは地下へと残し、ハルたち戦えるものだけ、玄関から表へと出てみる。

 表には、たった二人の男が立っているだけだ。


「お前たち、一体どこから現れやがった。大体何者だ?」

 ひげもじゃで、ぼさぼさ頭の男が、ハルたちの姿を見て不思議そうに問いかけてきた。

 さすがに、ハルたちが上空の航空機から瞬間移動して現れたとは、想像もしていない様子だ。


 2人の男たちの頭上には圧倒的迫力の白虎と九尾の狐が浮かんでいるせいか、マシンガンを構えたジミーを見ても平然としている。


 まだ、無線連絡をしてから30分ほどしか経過していないだろう。

 彼らは、山のふもとで米軍と対峙していたはずなのに、随分と早い到着だ。

 もしかすると、召喚獣に乗って駆けて来たのか?


 山頂で彼らと対峙する作戦であったので、いささか番狂わせだ。

 しかし、敵の戦力が分断した状態で対応できるのは、運が良い事ではある・・と所長は前向きに考えていた。


「我々は、東北の仙台市の住民だ。西日本の都市から依頼を受けて、九州のこの地のトラブルを解決に来た。

 先ほど、この地の市民代表の轟さんに話を聞いたが、あなたたちの言い分も分からないでもない。

 今後十分に協議の余地があると考える。


 だから悪い事は言わない、ここは一旦引いて公の裁量に任せてほしい。」

 とりあえずジミーが、説得を試みた。


「それは出来ねえなあ。

 あんたたちが何を聞いて、そんなことを言っているのかはわからないけど、今初めて会ったような奴らに言われて、はいそうですかってお縄にかかるほど、俺たちゃ間抜けじゃねえ。


 子供もいるようだから、手荒なことはしたくはねえが、邪魔立てするなら容赦しねえぞ。」

 目つきの鋭い、短髪の男が答えた。

 この男の方が、年長のようだ。


「そうだ、おとなしく武装を解いて捕まるならいいが、抵抗する様なら命の保証はないぞ。」

 ひげ面の男が意気込むと、それにつられて九尾の狐が構える。

 どうやらこの男が九尾の狐の召喚者のようだ。


「仕方がないわねえ。

 天と地と水と炎に宿る神々と精霊たちよ、わが願いを聞き入れ、わが手足となりて役目を果たす、使途を授けよ。

いでよ、ミケ!」


 ミッテランがそう叫ぶと、晴れ渡っていた空が一瞬で真っ暗になり、天空から注ぐ幾筋もの光と共に、1匹の神獣が舞い降りて来た。

 大きさだけであれば、ミケも白虎や九尾の狐には負けてはいない。


「お・・・お前たちも召喚獣を・・・。何者だ?」

 短髪の男は、予想もしていなかった出来事にきょろきょろとあたりを見回し、戸惑いながらも身構えると、白虎もうなり声を上げながら後ろ脚に体重をかけて臨戦態勢だ。


「ミケ、こっちに来なさい。」

 ミッテランはミケを呼び寄せて、地上に降ろさせると、皆を包み込むように横たわらせた。


「うん?召喚するだけで戦う気はないのか?」

 ひげもじゃの男は、そんな光景を不思議そうに眺めている。

 彼らの一瞬の躊躇が結果を分けた。


「あなたたちの相手は、こっちよ。モンブランタルトミルフィーユ・・・・・極大寒波(ウルトザード)!!!」

 ミリンダが唱えると、辺り一面が一瞬にして極寒の白に覆われる。


 あらゆるものが凍りつき、雫はたちまちのうちにつららとなった。

 一瞬で辺りを凍りつかせる寒波は、召喚させた神獣さえも凍りつかせてしまったようだ。

 しばらくすると、神獣はしぼんで消えてなくなってしまった。


「さあ、もう大丈夫ね。

 ジミーさんは、彼らを捕獲して。」


 ミッテランに言われて、霜柱を踏みしめながらジミーは2人の男の元へと歩いて行く。

 凍りついた彼らの両腕をロープで拘束する。


「でも、これじゃあ、気が付いたらもう一度召喚獣を召喚されて、襲い掛かってきますよ。」

 ジミーも、どうすればいいのか分らずに、ミッテランの方を振り返る。


 ミッテランは未だにミケにくっついていて、ホッカホカの状態だ。


「口に長い布で猿轡をかませるといいわ。

 魔法を唱えることが出来なければ、召喚出来ないでしょう。


 召喚魔法は高度だから、無詠唱では不可能だから。」

 ミッテランに言われたとおりに、ジミーは凍りついた2人の口に猿轡を噛ませた。


 これで、一応は拘束できたはずである。

 ハルがミケのぬくもりから出てきて、2人に回復魔法をかけてやる。


「ふぐ・・・ふぐ!」

 2人とも、猿轡で不自由な状態で、何か叫ぼうとしている。

 しかし、ジミーに促されて建物の中へと連れて行かれた。



「彼らは、ここにこうしておきますから、どうかこのままにしておいてください。

 絶対に猿轡を外さないでください。召喚獣を呼び出されると厄介です。」


 ジミーは開いている部屋の中央部に二人を背中合わせに座らせると、その状態でロープでぐるぐる巻きに縛り付けた。

 両手も後ろ手に縛り付け、両足も伸ばした状態で縛り付ける。


 こうすれば容易には身動きできないだろう。

 気の毒ではあるが、爆弾を解除するまでの辛抱だ。


「はい・・・でも我々は、彼らの主張に全面的に賛成している訳ではありませんが、西日本のやり方には不満を持っています。

 表だって主張していなくても、中には彼らを助け出そうとする人間も出てくるかもしれません。」

 轟は、ドアの錠を掛けた鍵の束をジミーから受け取りながら、ゆっくりと首を振った。


「彼らの主張はおいらも分かります。

 しかし、物にはやり方ってえものがあるのです。

 いくら自分の主張が受け入れられないからと言って、爆弾を使って相手を脅すというやり方は認められない。


 ですから、彼らが持っている爆弾を解除するまでは、彼らは閉じ込めておいてください。

 それから、平和的に話し合いをすればいいのですよ。」

 ジミーは落ち着いた様子で、轟の目を真っ直ぐに見つめた。


「そうですよ。

 彼らの召喚獣により、米軍にはかなりな犠牲者が出ていると聞いております。


 いくら、自分たちの考えに理があると思っているにしても、余りにも過激すぎます。

 人が流した血の上に成り立つ正義と言うのは、あってはならないと考えます。


 我々仙台市が、中立の立場で双方の話し合いの場を作ることも可能ですから、どうか今はご協力願います。」

 所長は、未だに納得できないと言った表情の轟に、頭を下げる。


「判りました。そこまでおっしゃるのであれば、協力いたします。」

 轟も、騒ぎが収束したらよろしくとばかりに、深々と頭を下げた。


 そうして、数人の町民を呼び寄せると、自衛隊員と召喚獣を扱う2人を閉じ込めた部屋を交代で見張る様に指示を出してくれたようだ。



 宿舎の捕虜たちは轟たちに任せて、ハルたちは建物を出て山頂へと山を登り始めた。

 ミケは召喚したまま連れて行く事にするようだ。

 ミッテランの魔法が使えないままだが、登山だけであれば問題はない。

 それよりも、残った召喚獣に備えて、そのまま待機させる方針のようだ。


「後は、爆弾を持っている敵のリーダーってやつを捕まえて、爆弾を解除するだけね。」

 ミリンダが、石ころだらけ山道を歩きにくそうに、よろけながら登って行く。

 靴は運動靴を履いているが、いつものフリル付ワンピースだ。


「いや、召喚獣は3人が使える様になったと、市民代表の轟さんは言っていた。

 つまり、最低でももう2体の召喚獣がいるはずだ。はあふう。」

 ごつい革製の登山靴を履いている所長は、慣れた足取りで山道を登って行く。


 ジミーやハルたちも全員登山靴を履いている。

 ミリンダだけが、ごつい靴は嫌だと言って、真っ赤な運動靴を履いているのだ。


「僕は、山登りは苦手なので、飛んで行く事にします。」

 ゴローは蝙蝠に変身して、ひらひらとみんなの周りを飛び回りながら進んで行くようだ。


「所長さん、もっとゆっくり登っても大丈夫ですよ。

 それと、最低でも2体って、どういう事ですか?」

 ハルが、先へ先へと登って行く所長に問いかけた。


 ハルも山登りなど慣れているのだが、山頂での戦いに備えて余計な体力は使わないよう、無理のないペースで進むようにしている。

 それに対して、どう見てもオーバーペースのような所長を、気にしているようだ。


「はあはあ・・・。

 ああ、難破船に乗ってきた高僧がいるだろう。はあはあ。


 女性という事だったが、彼女が召喚魔法を皆に伝授したという事は、彼女自身も召喚魔法を使えるという事で間違いがないだろう。

 しかも、召喚魔法の本家ともいえる。


 先ほどの不意打ちのような事が通じるかどうか、何とも言えなくなってきたようだね。ふぃー。」

 所長は、首から下げたタオルで滴る汗を拭いながら、大きく息を吐いた。


「無理をしない方がいいですよ。

 ミケに乗って行きますか?」

 見かねたミッテランが所長の所に近寄ってきた。


「いや、何とか・・・はあ、ふう。」


「ミケ、こっちにいらっしゃい。」

 ミッテランはミケを呼び寄せると、所長の前に腹ばいに寝そべらせた。

 ジミーがフォローして所長をミケの背中に押し上げる。


「背中の毛にしっかりとしがみついていてください。」

 ミッテランの言うとおり、所長はミケの長い毛にしがみついた。


「おおー、こりゃ随分と楽だ。」

 ミケは所長をのせたまま、ゆっくりと山を登って行く。


「なんか、蜘蛛の魔物さんを思い出すね。」

 ハルはそんな所長を見ながら、懐かしそうに呟いた。


「そう言えば、どうしてあいつらは召喚獣を使えるの?

 ポチは召喚魔法を使うには、徳がないといけないって言っていたじゃない。


 いくら、主張は正しいかもしれないけど、人を傷つけても平気なんて人たちに、徳があるなんて思えないわ。

 それがどうして、悪い事をしていた方の人間が召喚術を使える様になったの?」

 山道を登りながら、ふとミリンダは思いついたように、首から下げた竜の化身に向かって尋ねた。


「それはですねえ、悪徳も徳だからです。

 市民代表の話では、こちらに来てからは、みんな協力して働いていたって言っていましたが、ずっと永遠に真面目に暮らして行こうと思っていたのかは、計りかねます。


 期限付きで交代が来るまでと言う約束だったので、刑務所に入るよりはましと考えて、こちらで共同生活を営んでいたと考えるのが妥当でしょう。


 召喚魔法を使うには、非常に高い徳が必要になります。

 彼らのグループは200人と言っていましたが、そのうちの召喚魔法が使えるようになった3人は、相当な悪徳を積んできたと考えたほうがよろしいでしょうね。」


「ふーん・・・。悪徳ねえ。

 どっちが簡単?」

 突然ミリンダが、竜神を右手で掴みながら小声で尋ねた。


「へっ?どっちが・・・と言いますと?」

 竜の化身は、質問の意味が分からない様子だ。


「だからあ、いいことをして徳を積むのと、悪い事をして徳を積むのと、どっちが簡単かよ。」

 ミリンダは、右手に力を込めながら、もう一度小さな声で尋ねた。


「つ・・・潰さないで下さいよ・・・。

 それに、簡単とか難しいとか、そう思って徳を重ねるわけではありませんよ。


 その人が信じる事、それが人として正しい事であれば善行となり、過ったことであれば悪行となる訳です。

 ま・・・まさに今、ミリンダさんのこの、神をも恐れぬ行動は、悪行ともいえる訳でして・・・。」

 竜の化身は苦しそうに、悶えながら答えた。


「なんですって?」

 ミリンダは尚もその手に力を込める。


「く・・・くる・・・苦しい・・・。」


「ミリンダ?あなたは、人として外れるようなことがしたいの?

 違うでしょう?人として正しい事、つまり美徳を積むのよ。いいわね。」

 どうやら、その会話を後ろで聞いていたミッテランが、ミリンダに追いつき顔を覗きこみながらたしなめた。


「はーい、ミッテランおばさん。」

 ミリンダはつまらなさそうに、竜の化身から手を離した。



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