41話
とりあえず、構想もまとまったので、続編開始です。
1
「おはようございます。
この学校も、創設して早半年が経ちました。
その間、中部地方へ行方不明者の捜索に行ったり、そこで知り合った吸血鬼のゴローさんが転校生として入学してきたり、色々なことがありました。」
朝会の時間に、いつもよりジミーが熱を入れて話し始めた。
10月になり季節はすっかりと秋めいてきて、木枯らしが吹き始めている。
いよいよ凍りつくような、寒い冬がやってくるのだ。
「そうね、その後に遠足をしたり運動会をしたり、色々と行事があったわね。
中でも一番好きだったのは、夏休みよ。
それまでは、学校なんかなかったから、うちのおじいさんに言われて漢字の勉強や、権蔵さんに日本の歴史を習うくらい。
後はミッテランおばさんに魔法を教えてもらうか、自由に過ごしていたわ。
これは、鋼鉄化で固まっていた前も後も同じだったのよ。
それが、学校が出来て日曜以外は毎日学校でしょ。
本当に息が詰まる思いだったわ。」
ミリンダは亡きゴローを偲び、代わりに学業に目覚めたのだったが、当のゴローが復活してしかも同じクラスに入学してきたことにより、その意欲がそがれて元に戻ってしまったのであった。
「そんなことないよ、毎日しっかり授業があって、ためになることを学ぶことが出来るから、学校が出来てこんなうれしいことはないね。
なにせ前はおじいさんたちに、ひらがなや漢字の文字を教えてもらう以外は、簡単な計算の仕方を教わることと、これまで言い伝えられてきた歴史を教えてもらうくらいしか、なかったもの。
算数や理科なんかは、旧遺跡から見つかった本を使って自分で勉強するしかなかったからね。
いろいろな知識を身に付けられるという事は、本当にうれしい事だよ。ねえ、ゴローさん。」
「そうだね。僕は長い間生きて来たけど、学校へ通ったことは一度もなかった。
更に人とはなるべく関わり合いを持たないようにして生きて来たから、簡単な計算も出来ない駄目吸血鬼だった。
でも、この学校へ入れてもらって、少しずつでも計算の仕方などが判ってくると、今までに自分はいかに損をしていたのかってことが、よく判って来たよ。」
ハルの問いかけに、ゴローが深く頷きながら答えた。
最初は全く対応が出来なかった四則演算も、今では九九を覚えて2ケタまでの計算なら、何とかできる様になって来たようだ。
以前はハルとミリンダの2人しかいなかったので、ミリンダの我儘が通る傾向が強かったが、今ではハルとゴローの2対ミリンダの1の為、ハルたちの意見の方が強くなったのである。
ゴローはハルの強い味方となっている。
「損した事って何よ。
何年経っても、年も取らずに長生きできているのだから、得しかしていないでしょ?」
ゴローの言葉に、ミリンダが反論する。
「いやあ、随分損をしているよ。
戦国時代に、敵に囲まれて殺される寸前だった武将さんを助けて、報奨金と言うのを貰った時でも・・・
その報奨金を八百屋さんなどに持って行って、果物を貰ったりしたのだけど、いつも適当にそのお金を出してリンゴや柿と交換するだけだった。
おつりを貰うと言う概念がなかったから、どれだけ大きな貨幣を出しても、いつも果物1つと交換さ。」
ゴローは恥ずかしそうに顔を赤らめて、頭を掻いた。
「へえ。でも、たまたま、出したお金がその果物の値段とぴったりだったという事もある訳でしょ?」
ミリンダは別に不思議でもないという表情だ。
「うーん、そうとも取れるけど、貰った報奨金には金で出来た細長い小判や、銀で出来た四角いお金もあったのさ。
でも、いつも果物一つと交換だった。
この間、研究所の所長さんに聞いた話では、金で出来た小判は、旧文明の頃の貨幣で数万円の価値があるはずだって言っていたから、さすがにリンゴ1個の値段では高すぎるよね。
まあ、この格好だったから、随分と怪しがられて、出したお金も何回も確認していたくらいだからね。
お釣りなんか渡そうともしなかったよ。」
ゴローは仕方がないとばかりに、ため息交じりに笑みを浮かべた。
「えーっ?ゴローさんは戦国時代生まれだって言っていたけど、その頃から、そんな恰好でいたの?」
ハルが驚いて、ゴローの服装を上から下までしげしげと眺めた。
真っ黒のタキシード姿に、これまた真っ黒の大きなマントを羽織っている。
この格好でいたのであれば、当時ならば相当に目立ったであろう。
「この格好は、吸血鬼としてのトレードマークだからねえ。
ずいぶん昔から、この格好さ。
空を飛ぶ時は蝙蝠に変身するのだけど、変身を解くと自動的にタキシードとマント姿に戻るくらいだからね。」
ゴローはマントの襟をつかみながら答えた。
「それは、目立つわねえ。
なにせ、周りの人たちはちょんまげ姿に着物でしょ?
腰から刀を下げていたのよね。
怪しい奴だなんて言って、警察に連れて行かれることはなかったの?」
「いやあ、そうでもないよ。
当時の日本は既に南蛮貿易をしていたから、外国人も来ていたし、ズボン姿の人も中には居た。
でも、やっぱり顔が南蛮人っぽかったから、お金の事は判らないだろうと思われていたのかな。
この格好が目立つようになったのは、江戸時代に入ってからだったね。
どうしてそうなって行ったのかは、追い追い勉強するだろうから、その時にね。」
「ふーん、大変だったのねえ。
でも、簡単な引き算も出来なかったんだから、そりゃあなめられるわねえ。」
ミリンダが、納得といったように頷いて見せた。
「ミリンダちゃんも、そうはならないように、しっかりと勉強をした方がいいと思うよ。
なにせ、最近はまた勉強に身が入らないみたいで、後から入ったゴローさんの方が勉強の進み具合が早いから、いずれはゴローさんに抜かれてしまうようなことに、なるかもしれないよ。」
ジミーが、ここぞとばかりにミリンダにはっぱをかけた。
「大丈夫よ、なにせゴローはゴローだもの。
あたしを追い抜くようなことはしないわ。」
そう言いながら、ミリンダは最近覚えたばかりのウインクをゴローに放った。
「ミ・・・ミリンダちゃん・・・。
美しい・・・・。」
ゴローの瞳がハートの形になっている。
「ご・・・ゴホン!
話が横道にそれたようだが、今日の議題は修学旅行に関してです。」
『修学旅行?』
ジミーの言葉に、3人の生徒は同時に反応した。
「そう、修学旅行。
小学6年生のこのクラスも、あと半年ほどで卒業です。
と言っても、同じこの学校で、中学1年生になるだけだけど、それでも君たちにとっては、最後の小学校生活だ。
その記念として、どこか遠くに旅行をしようと思っている。
ところが、この学校自体が半年前に出来たばかりだから、修学旅行も初めてで行き先の候補すら上がってはいない。
そこで、生徒である君たちに行きたいところをアンケートすることにした。
行きたいところを決めて、明日の朝会でそれぞれ発表してください。
言えば必ず行けるとは限らないけど、出来るだけ実現したいので、考えてきてください。
一番みんなが行きたいと思う場所を、投票で決めましょう。」
『へえー!』
『やったあー』
ジミーの言葉に、全員から歓声が上がった。
「じゃあ、それはそれとして・・・授業を始める。
きょうは、まず漢字の勉強だ。
はーい、国語の教科書を開いて・・・。」
「げげぇっ!
今のあたしの一番弱いところを・・・。」
ジミーの言葉に、ミリンダの顔が曇る。
「ゴローさんは、計算には弱いけど、文字はたくさん知っているものね。
僕なんかより、よっぽどたくさんの字を知っているよ。
だから、国語の時間になると、やっぱりミリンダが一番遅れているんだよね。」
ハルが、ゴローの方を振り返って、羨望のまなざしで見つめる。
「僕の場合、ただ単に長生きしているだけだけどね。
人との関わり合いは避けていたけど、看板の文字が読めなければ、どこへ行くにも不便だし、何よりも今の世の中でどういった事が起きているのか分からないと困るから、必死で文字を覚えたよ。
文字さえ覚えておけば、人と話はしなくても、大体の様子はつかめたからね。
なにせ、吸血鬼を見つけたから、みんなで退治をしようなんて立札を立てられていたら、大変でしょ。
でも、古い字体ばかりで中には途中から使われなくなった漢字も多いから、もう一度勉強しなおしさ。」
ゴローは、照れながら首を小さく振った。
「ねえねえ、もう決めた?
修学旅行の行き先・・・。」
給食の時間になった途端に、ミリンダが隣の席のハルに話しかけてきた。
今日の給食は、ご飯とみそ汁に、獲れたての秋鮭の切り身を焼いた物と漬物だ。
「ま・・・まだだよう。
仙台市は何回も行ったし、中部地方はまだ少ないけど、どうせ山だけで何もないし・・・
西日本にある文明を回復させた都市には行ってみたい気がするけど、車で何日もかかるでしょ。」
「あたしも、西日本の街に行きたいと思っているのよ。
大丈夫よ、中部の山のふもとまでなら瞬間移動で行けるから、そこからなら何日もかからないわ。」
少し戸惑っているハルに対して、ミリンダは明るく答えた。
「駄目だよう。
中部まで瞬間移動しても、それから先に進む車がないじゃない。
ミッテランさんだって、さすがにジープ1台は瞬間移動できるかどうかの限界だって言っているし、壊したら困るから、その実験だってしていないんだから。
そうなると、仙台市から車で数日で行って帰ってこられる範囲だから・・・、難しいよねえ。」
ハルはミリンダの考えを、簡単に否定した。
「うーん、この間行った時に、マイキー達のジープはそのままにして置いておけばよかったのよね。
トン吉たちは歩きで帰らせれば、充分に1台で帰ってこられたものね・・・。」
ミリンダは、残念そうに呟く。
「でも、大丈夫よ。何だったら1ヶ月くらい使って修学旅行すればいいわ。
そうすれば、西日本どころか海外にだって行けるかもしれない。」
ミリンダは、両手を組んで目をキラキラと輝かせた。
「ジミー先生、修学旅行は何日間の予定ですか?」
ハルが、教室の一番前の教壇で同じく給食を食べているジミーに、手を挙げて尋ねた。
「修学旅行?一応、2泊3日の予定だ。
あまり長期間になると、親御さんが心配するからな。
まあ、ハル君とミリンダちゃんの場合は、そんなこともないだろうがね。
来年以降のことも考えて、例外を作る訳にも行かないから、やはりその位が限界だろうなあ。」
ジミーは焼き鮭を頬張りながら答えた。
「ほら、無理でしょ?」
「うーん、困ったわねえ。
そういえば、ゴローは日本国中旅を続けていたんでしょ?
どこか景色が良くって食べ物がおいしくって、記念になるようなところはなかった?」
「えーっ、戦争前の日本なら、全国どこでも景色がきれいでおいしいものが食べられたのだろうけど、今の日本は爆撃の影響で、以前の風景を保っている地区はほとんどないよ。
仙台市とか西日本の一部の都市くらいだけど、そういったところを僕は避けて旅をしていたからね。
なにせ、今の時代にたった一人で旅をするなんてことは、異常な事のようだから。」
ゴローは申し訳なさそうに、うつむき加減で答えた。
「じゃあ、仕方がないわねえ。
家へ帰ったら、おじいさんやミッテランおばさんに聞いて、何とか候補地を決めなくちゃ。」
ミリンダは、掌に色つきのチョークで何か書いている。
恐らく忘れないようにメモしているのだろう。




