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38話

                    13

「あれ?開かない。」

『ドンドンドンドン!』

「もう大丈夫ですから、ここを開けてください。」

 ジミーは扉を開けようとしたが、鍵がかかっているのか開かない為、扉を叩いて大声で呼びかける。


「中で、縛られているのかなあ。

 仕方がない、この新型弾で・・・。」


 ジミーが新型弾をマシンガンに装填しようとしている時に、扉の向こう側で『ゴトン』と大きな音がした。

 ジミーが扉を開くと、中には閂を持ったマイキーが立っていた。


「マイキー、無事だったのか。」

 ジミーはほっとした様子で、息を大きく吐いた。


「私は無事よ・・・。

 ある時は美人秘書、またある時・・・。」

「いや、もう分っているし、今は自己紹介は良いから。

 それよりも、中はどういった状態だ?」

 ジミーは、勢いよくいつもの決め台詞を言おうと構えたマイキーを制した。


「ちっ、つまんない・・・。

 中は・・・・、悲惨な状態よ。」

 マイキーは無表情で答えた。


「悲惨?」

 その言葉を聞いた村人たちは、マイキーを押しのけて洞窟の奥へと駆け出していく。

 ハルたちもその後に続く。


 洞窟は、奥へ行くにしたがい上り坂になっていて、途中から地面は乾いていた。

 恐らく、中には空気が溜まっていて、沼の水が張った状態でも、水は入ってはこなかったのだろう。

 しばらくすると、中からほのかな明かりが見えてきて、加えて話し声も聞こえてきた。


「いらないと言っていた、生贄なんか連れてくるから、締め出しを喰らうのよ。

 今回は開けてあげたけど、もしこれ以上言う事を聞かないと、ひどい目に合わせるからね。」


「早く、食事の支度をしなさい。

 かわいいお嫁さんが待っているのよ。」


 奥から聞こえてくる声に、引き寄せられるように進んで行くと、そこには大きなソファに座った2人の人間がいた。

 肥え太って、2重顎どころか4重顎か5重顎のようになり、シャツからはみ出したたるみきった腹を抱える、女のようだ。


 彼女らは背を向けたままソファにどっかと腰かけ、テーブルの上の食べ物を漁っている。

 駆け寄ってきた村人たちは、我が目を疑うかのように、指で何度も目を擦った。

 そうして、一言ずつ小さく呟いた。


「瑞葉・・・。」

「桔梗・・・。」

 その言葉を聞いて、焦って振り向いた2人は形ばかりの悲鳴を上げた。


「きゃー、助けてー。」

「生贄を太らせてから食べるなんてやめて・・・。

 私は、もうお腹いっぱいで食べられないわ・・・。」

 2人は急いで立ち上がろうとしたようだが、自分の体重が邪魔してソファから尻を持ち上げられない。


「最初に来た娘・・・、瑞葉と言いましたか・・・。

 彼女に事情を話して、形式だけの祝言を上げようと思ったのです。

 ところが彼女は絶対に嫌だと拒否をしました。


 仕方がないので、彼女を帰して別の娘をお願いすることにしました。

 しかし、彼女はここを出て行くつもりはないと言うのです。


 丁度、お供え物の料理を食べさせたのですが、気に入ったらしくもっと要求するようにと言ってきました。

 私は村の人たちが困るから、それは出来ないと拒否しましたが、だったらその辺の村々から強奪して来いと言われました。


 それが出来なければ、いまここで死んでやると言うのです。

 死なれては困るので、村の方々には申し訳ありませんが、供え物を少し増やすように要求しました。

 なにせ、私の魔法の力は弱くて、別の村を襲うなんてことは、出来そうもありませんからね。」

 トン吉の手のひらの上に乗ったまま、連れられてきた竜の化身は、引き続きいきさつを説明しだした。


「それで、お供え物を要求し始めたのね。」

 ミリンダが納得したように頷いた。


「はい。こんなことはいつまでも続けられないので、2人目の娘を要求しました。

 要は、形だけでも夫婦になれればいい訳です。

 1人目は失敗したけど、2人目は大丈夫だろうと思ったのです。


 ところが、2人目も同じでした。

 彼女たちは結託して私の事をこき使い、日に日に食べ物の要求も強くなってきました。

 更に、3人目を要求するという私に反対して、脅迫してきました。


 3人目なんか要求したら、私がヘタレであることを、村のみんなにばらすというのです。

 か・・・神の私をですよ、ヘタレなどと・・・。」


「ふん、とんだ腰抜けの、ヘタレやろうね・・・。」

 ミリンダは竜の化身の言葉に、きつい言葉を返した。


「ま・・・、またヘタレなんて言われた・・・。」

 竜の化身は、トン吉の手のひらの上に蹲ってしまった。


「それで、村への供え物の要求が日に日に増して行ったという訳か。

 あんな小さな集落じゃあ、蓄えなんかもそうはあるはずもないと分っただろうに・・・。」

 ジミーは悲しそうな顔をして竜の化身を見つめた。


「は・・・はい、そうです。

 こんな悲惨な事は、すぐにやめたい。

 それでも彼女たちが許してはくれない。


 仕方がないので、彼女たちには内緒で3人目の娘を要求したのです。

 この娘と、形だけの契りを交わせば全ては終わるのですから。」


「それで、その光景を見ていたあたしたちが、沼の水を吹き飛ばして底を曝け出したわけね。

 どうしてあたしたちが来た時に、娘たちにこき使われているから、連れ帰ってくれって言わなかったの?

 あたしたちが生贄にされた娘さんたちを、助けに来たって分っていたわよね。」

 ミリンダがうなだれている竜の化身に向かって問いかけた。


「は・・・、はい。

 それはもう、分ってましたよ、そう言われましたしね。


 でも・・・、あの時は・・・。

 なにせ、すごい美人の娘さんが来て、ああ、こんなにきれいな娘さんだったら、私のいう事を素直に聞いてくれて、契りを交わしてくれるのではないかと思ってしまって。


 だから、早くあなたたちを片付けて、あの娘さんと契りを交わすという事しか考えていなかったです。

 それに・・・前の娘さんたちを解放して、竜神はヘタレと言われるのも嫌でしたしね。」

 竜の化身は、恥ずかしそうに顔を赤くして答えた。


「あんたのその小さなプライドの為に、死んでしまった人もいるのよ。

 人って言ったって、吸血鬼だったけど・・・。

 ちょっと変な奴だったけど、でも死んでしまったのよ。」


「す・・・、済みません。」

 竜の化身は、ますますその身を小さくして謝った。


「しかし、村の人たちを苦しめた、無理なお供え物の要求も、もとはと言えば生贄にされた娘さんが原因だったのか。」

 ジミーは深刻な顔をして、ソファに座ったままの村娘を眺めた。


「ち・・・違うの。本当に違うのよ・・・。」

「そうよ、私たちは竜神に無理やり食べさせられていたのよ・・・。」

 肥え太った娘たちは、立ち上がることも出来ずに、その場で必死に言いつくろっている。


「何を言っても無駄よ。

 あなたたちのここでの行動は、私がビデオに収めてあるわ。」

 マイキーがハンディのビデオカメラを立ち上げて、そのモニターを村人たちに見せた。


 そこには、マイキーを連れてきた竜の化身に、食べ物を投げつけて罵倒する姿や、それでもかいがいしく食事の世話をする竜の化身の姿が、沼の水を吸い上げられて竜の化身が様子を見に行くまで録画されていた。


「し・・・仕方がなかったのよ。

 突然、生贄なんかにされて、こんなところへ閉じ込められて・・・。」

 1人の娘が、俯き加減で話し出した。


「しかし、竜の化身は、最初の娘さんを村へと戻したがっていたそうじゃないか。

 こんなところに居るのが嫌なら、どうして、その時に帰らなかったんだい?」

 ジミーがそんな娘に問いかけた。


「だって・・・、生贄にまでされた挙句に、こいつは気に入らないから帰すなんて戻されたら、一生分の恥じゃない。もう、お嫁にだって行けないわ。


 だったら、死んでやるって言ったら、あいつが慌てだして・・・、何でもいう事を聞きそうだったから、利用してやろうと考えたのよ。

 私を生贄に捧げた、村の人たちにも恨みがあったしね。」

 娘はツンと上を見上げながら答えた。


「あたしが来た時には瑞葉が居て、あいつを利用して楽しい生活を送ろうと言われて・・・。」

 もう1人の娘も普通に答えた。


「お姉さんたちの為に、村の人たちは、食べるものもなくなって・・・、吸血鬼のゴローさんに血を吸ってもらって空腹を紛らわせて、それでも農作業をして必死にお供え物を続けていたんですよ。


 お姉さんたちの事が心配だから、逃げることも出来ずに、何とか救い出そうとして・・・。」

 平然とした顔の娘たちに、ハルが涙ながらに訴えた。


「きゅ・・・吸血鬼?

 何よそれ。何を言っているのか分からないけど、ちょっとやりすぎたとは思っているわよ。


 でも、ずっと感じていたのよ。

 村での生活なんて、毎日毎日、食べたいものも食べられずに、ひもじい思いをして・・・。」

 瑞葉と言う娘が、それほど悪びれずに答えた。


「お前が、余り食事を採らなかったのは、ダイ何とかいう事の為に、カロリとかを抑えるためではないか。

 わしらは、自分たちの食いもんがなくても、娘であるお前には決してひもじい思いをさせるつもりはなかった。


 それをお前は、太るからと言っては、米は駄目だの、あれは駄目だのと言って、勝手に食べ物を制限していただけではないか。」


「そうだ、それは桔梗に対しても同じだ。

 特に、旧文明の遺跡を回っている時に見つけた、洋服類とファッション誌と言う本を見てからというもの、痩せなければサイズが合わなくてかわいい服が着られないだの、こういったスタイルでなければいけないだのと言いだして、ほとんど食事を採らない日々が続いたのではないか。」

 瑞葉の父親に続いて、別の中年男性も言葉を続けた。

 恐らく桔梗と言う娘の父親なのだろう。


「そうよ、ダイエットよ。

 旧文明時に流行した、かわいい服を着るには、カロリー制限をしなければならないの。


 でも、そう言った我慢をする生活にも疲れていたのよ。

 そんな時にここへ来て、誰にも見られることなく、食べて寝るだけでいい楽園のような生活に出会ったのよ。


 分っていたのよ、村では無理してお供え物をしているって。

 でも、どうしてもやめられなくって・・・。エーン・・・。」


 瑞葉はそう言って大声で泣き出してしまった。

 つられて桔梗も泣き出した。


「すみませんでした。

 ふがいない娘たちの起こしたことで、ご迷惑をおかけしたばかりか、危ない目にまであわせてしまって。


 ましてや、命を失われた吸血鬼のゴローさんには、本当に謝っても、謝っても償いきれない思いがします。

 それでも、こんななりをしていたとしても、この娘たちは私たちの家族です。

 村へと連れて帰ります。」


 村の長老はそう言うと、村人たちに指示をして、何とか肥え太った娘をソファから立ち上がらせて、ゆっくりと出口へと向かった。


 残りの村人たちが、部屋中に積み上げられている、お供え物の食料を、運び出そうとしている。

 ジミーたちも両手に持てるだけの食料を抱えて出口に向かった。

 唯一ハルだけが、手には白い布を持っているだけだ。


「どうしたの?

 村にとって貴重な食料だから、運び出さなきゃだめよ。

 竜の化身が作った材木の壁は、いつ崩れてもおかしくはないんだから。」

 ミリンダは、トン吉に持てるだけ食料を持たせると、尚もその上にうず高く積み上げようとしている。


「うん、ちょっとやることがあるから・・・。」

 ハルはそう言うと、洞窟の外へと出て、地面をさすっている。

 何かを集めている様子だ。


「どうしたの?」

 積み上げられた食料の山で、前が見えないトン吉に、右だ左だと指示をしながらミリンダがやってきた。


「うん、ゴローさんの亡骸の灰を集めて持って行ってあげるんだ。

 後で何かに詰めて、埋めてあげようと思って。」

 ハルは、ゴローが燃え尽きた時の灰を布に集めて居たようだ。


「そうね、供養になるわね。」

 ミリンダも、手に持っていた食料を、更にトン吉の荷物の上に投げやって、灰を一緒に集め出した。

 何とも後味の悪い結末となったが、とりあえずは解決だ。



 洞窟から全ての食料を運び出した後で、ミリンダが沼の縁で暴風雨波(ハリクロン)の魔法を唱える。

 竜巻を伴った強い雨風が吹き荒れ、竜の化身が作った材木の壁を破壊していく。

 沼底へと続く道に左右から勢いよく水が流れ込み、やがて大きな渦を作る。

 そうして、沼は元の穏やかな姿に戻って行った。


 村人たちも、ハルたちもまた、一言も発せずに黙々と作業を続け、そうして村へと戻って来た。

 座敷牢に残っていた村人たちに、持ち帰った食料が分け与えられると、夢中になってそれを頬張り、そうしてそれぞれが意識を取り戻して行った。


 どうやら血を吸いあっている時は、ただ日常動作を繰り返すだけで、意識がはっきりとしていないが、腹が満たされると意識が回復する様子だ。

 ゴローが言うとおり、馬鹿がうつっていた訳ではなさそうだ。


 また、腹が満たされてさえいれば、お互いの血を吸いあう欲求もない様子であった。

 佐伯巡査に続いて、大友巡査も意識を回復した。


「まあ、詳しくは仙台市へ帰って、病院で検査をしてもらわなければならないけど、たぶん大丈夫だろう。

 しかし、竜神・・・竜の化身と言い、吸血鬼と言い何でもありだなあ。」

 ジミーは今回の冒険で起きたことを、もう一度思い返しているかのように、宙を見上げた。


 吸血鬼に関しては灰になってしまったが、竜の化身はまだいる。

 トン吉からそれを受け取ったミリンダが、魔封じの紐に糸を括り付けストラップのように持っているのだ。


「説明が遅れましたが、我々は旧仙台市・・・、東北の街です、そこから来ました。

 戦火で荒れ果ててしまった日本の中で、生き残った人々を探し集めています。


 この村の方たちにも、是非とも我々の街へ行って、一緒に生活をしていただきたいと考えています。

 旧文明の利器である、電気もありますし、それなりに安心安全な生活も出来ます。


 今回のように食べ物に困るような生活もしなくて済みます。

 是非とも、我々と一緒に向かいましょう。」

 村の奥屋敷の広間に、村人たち全員を集めてジミーが仙台市への移住を呼びかけた。


「確かに我々も、他に生き残った人たちがいないのか、常に探しておりました。

 旧仙台に、大きな街が出来ているという事は、本当にうれしい事ですじゃ。


 しかし、先ほどお見せした通り、お恥ずかしい者が暮らすような村ですじゃ。

 折角、救いに来てくださった、あなた様たちの恩をあだで返すようなことをしでかした村ですじゃ。


 向こうへ連れて行かれて、刑務所へでも入れられるという事ならば別ですが、一緒に付いて行って、平凡に暮らすなんてことは出来ようもありません。

 娘たちは今、座敷牢に監禁して、反省をさせております。


 私たちは、このままこの地に残り暮らしてまいりますので、お気遣いなきようお願いしますじゃ。」

 村の長老が残念そうにしながらも、頭を下げた。


「でも・・・、この地に留まるという事は、また食べ物に困るのでは・・・。」

 ジミーは、そんな村人たちをそのままにはしておけなかった。


「大丈夫ですよ。

 法外なお供え物さえしなければ、村には十分な収穫があります。


 ニワトリも居れば牛や豚も居ます。

 山へと入れば鹿も捕まえられます。

 贅沢を望まなければ、充分に暮らしていけます。


 今までも、何十年間もささやかではありますが、そうやって暮らしてまいりました。」

 中年の村人が長老の代わりに答えた。

 確か、瑞葉と言う娘の父親だ。


「判りました、住み慣れた地を離れたくない気持ちも分かりますし、無理には勧めません。

 まあ、ハル君たちも居るので、ちょくちょくこの地へと様子を見に来ますよ。


 その時にでも、気が変わったら申し出ていただければ、いつでも仙台市はみなさんを歓迎いたします。」

 ジミーは立ち上がって、ハルたちを見渡した。


「じゃあ、今晩中に荷物をまとめて、明日の朝早くにここを出よう。

 おっとそうだ、これはどうします?」

 ジミーは、ミリンダが持っているストラップと化した竜の化身の干物を長老の前に突き出した。


「りゅ・・・竜神様・・・。

 こ・・・、こんな恐ろしいもの、どうか村には置いて行かないでください。

 申し訳ありませんが、何とか処分していただけないでしょうか、お願いします。」

 長老は、ブルブルと震えながら両手を合わせて拝みだした。


「判りました。竜の化身は頂いて行きます。」

 ジミーはミリンダに竜の化身をそのまま持たせて、部屋へと戻って行った。



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