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3話

                       3

「畜生、いまだに居座って居やがる。

 この娘の像さえなければ、塔の上にいるボスに合うことが出来るというのに、一体いつまで待たせるつもりだ。

 最早3年だぞ。」


 魔物はぶつぶつと文句を呟きながら、また今日も塔の2階へと続く入口に立ち誇っている1体の像に近づいて行った。


 体長1メートルほどの大きなトカゲだが、器用に2本の足で直立している。

 どうやら太い尻尾で体を支えてバランスを取っている様子だ。


 ここは、封印の塔の1階部分。

 1階までは外とつながっているが、2階への階段の入口は1体の像に阻まれて進めないようになっている。

 更に塔全体に封印の魔法が施されていて、その他の窓などの出入り口からは全く行き来できない状態だ。

 像はフリルの付いたドレスを着た少女のブロンズ像のようで、階段の入口を塞ぐように立っている。


 魔物が尚もぶつぶつと文句を言っているところに、草原を下りてハルがやってきた。

 ハルは躊躇せずに、封印の塔の入口から中へとリアカーごと入ってきた。


「へえ、この塔の入口は封印されているって聞いてきたけど、中へ入れちゃった。

 今日は運がいいなあ。

 早速洞窟の鍵を探そう。」


 塔の中へと入ってきたハルは、魔物には目もくれず辺りをきょろきょろと見まわして、鍵が落ちていないか1階フロアーを探して歩いた。


「だめかあ、1階には落ちていないみたいだね。では2階へ上がろう。

 えーっと、2階への階段はどこかな?」

 ふーっと大きく息を吐いたハルは、辺りを見回して階段への入口を探した。


 すると、ふと立ったままハルの方をじーっと見つめている影に気が付いた。

 先ほどから塔の1階にいるトカゲ系の魔物である。


「やいやい、さっきから俺様を無視して何をやってやがるんだ?

 どうやら人間の子供のようだな。どうやってここまで来た?

 外には弱いとはいえ魔物がいっぱいいるはずなんだが・・・。


 まあいい、外の魔物程度なら倒したり逃げたりも出来たのだろうが、俺様はそうはいかない。

 久しぶりのごちそうだぜ。

 お前を捕まえて食ってしま・・」


 魔物は涎を垂らしながら、勝ち誇ったような顔をして、ゆっくりとハルに近づいてきた。

 しかしその言葉を終えるより先にハルは叫ぶ。


「燃えろ!!!」

 魔物の体は一瞬のうちに炎に包まれる。


「あっちっちー、あちちっちー。」

 魔物は叫びながら体を床や壁にこすり付けて、何とか火を消した。


「ふーっ、恐ろしいガキだな。

 きちんと相手の話を最後まで聞いてから話しましょうと、学校で習わなかったのか?

 近頃のガキはこれだから困るな。


 でも、大丈夫。

 トカゲ系でもカメレオンの血を引くレオン様の力を見よ。」

 レオンの体はみるみる周りの壁に溶け込んで行き、どこにいるのかも判らなくなってしまった。


「くっ、くっ、くっ。

 俺様がどこにいるかもわからないだろう?

 お前はこの見えない敵のレオン様に、最後は捕まって食べられてしまうのだよ。


 逃げようとしても駄目だ。

 お前が入ってきた入口は既に俺様が塞いだ。

 塔の2階へと続く階段の入口は、忌々しい人間の小娘が鋼鉄化の魔法を用いて封じ込めてしまったため、通ることは出来ん。

 お前はここで死・・」


 レオンの話が終わるのを待つことなく、ハルは魔法を唱えた。

「炎の竜巻。燃え尽きろ!!!」

 ハルの体を中心として渦を巻いた大きな炎が、塔の1階部分全体へと大きく広がっていった。


「ぎゃーっ。」

 叫び声とともに姿を現したレオンは、炎に包まれたまま飛び跳ねながら塔の外へと飛び出していった。


「そうかあ、塔の入口が封印されていたんじゃあなくて、2階へと続く階段が封印されたんだね。

 魔物さん情報ありがとう。

 今日は運がいいなあ。


 さて、その階段はどこかなあ。」

 ハルはあたりを見回して、1体の黒光りした像が立っている方へと進んで行った。


 それは今にも動き出しそうな、かわいい少女の像であった。

 ハルは何度も像の顔を見ていたが、突然ひらめいたように叫ぶ。


「鈴姉ちゃん? 鈴姉ちゃんなの?

 さっきの魔物が、鋼鉄化の魔法を使ったって言っていたけど、元に戻せるかな?

 えーっと・・・元に戻れー!!!」


 ハルは大きな声で叫んだ。

 しかし、像には何の変化も現れなかった。


 仕方がないので、像を動かそうとしたが、重くてハルの力ではピクリともしない。

 しかししばらくすると、ハルが触ったあたりから像の色が段々と変わってきて、肌や洋服の色が蘇ってきた。

 やがて全身が色づいて、一人の少女が復活したのだ。


「ふーっ、ようやく救出隊が来たのね。

 長かったわ。


 鋼鉄化をしていても少しは意識があるから、時間の経過はある程度分かるのよ。

 だからこそ、魔物ではなくて人間の手が触れると、鋼鉄化の魔法が切れるようにしていたのよ。

 ずいぶん時間がかかったけど、ようやく部隊をまとめて救出に来てくれたんでしょ?


 で?何百人で来たの?」

 鋼鉄化から戻った少女は、長い間固まっていた関節を戻すかのように、大きく伸びをしながらハルに問いかけた。


 肩までの巻き髪が印象的な、目の大きな美少女である。

 魔物との戦いに来たはずなのに、レースのフリルが付いた大きく広がったスカートの真っ赤なドレスを着て、靴はリボンが付いた赤いエナメル靴であった。


「鈴姉ちゃん。

 鈴姉ちゃんだよね。

 鍵は?洞窟の鍵は持っている?」

 ハルは飛び上がって喜んで、復活した少女に抱き付いた。


 少女は何のことかわからずにしばらく反応できないでいたが、やがて記憶が蘇ってきたのか抱き付いてきている少年に気が付いたようだ。


「ハル?ハルなの?

 大きくなってー。

 私と同じくらいに見えるね。

 ハルも一緒に救出隊に参加してくれたんだね。ありがとう。


 鍵って?

 洞窟の鍵なら魔物のボスに渡してしまったわよ。」

 少女はハルを抱きしめ返して喜んだ。


 ハルは先の魔物たちとの戦いで、老人たち以外の若者は全て犠牲になったこと、魔物たちを外に出さないように塔を封印して平和が訪れて、すでに3年経ってしまったこと、そして外の世界へと通じる洞窟の鍵を取りに来たことを説明した。


 そうして、ハルは鍵がないことを知り、がっくりと肩を落とした


「そうかあ、3年も経ってしまったんだあ。

 道理で長いなあと思っていたわ。


 でも、魔物たちに対抗できる救出隊の編成とかもあるから、時間がかかるのは仕方がないわね。

 さっきから他の人たちは見えないけど、救出隊はどこ?

 外で魔物たちと戦っているの?」


 ハルは少女の質問に対して、自分の顔を指さして答えた。

 何のことかわからずにハルの顔を見つめていた鈴であったが、ようやく事態を理解したのか驚いて叫んだ。


「えーっ!!

 ハル一人だけなの?

 どうするの、魔物たちは死んでいないんだよ。


 私のパパとママが塔全体を封印して、私が鋼鉄化して2階へと通じる階段を塞いだものだから、魔物たちはすぐに脱出することをあきらめて冬眠を始めたの。


 鋼鉄化していたけど、魔物たちが冬眠に入った気配だけは覚えているわ。

 だから洞窟の鍵を探すどころではないのよ。

 階段が通じるようになったことが判れば、冬眠から目覚めて魔物たちが塔から出てきてしまうわ。


 でも、3年間も鋼鉄化を続けてきて、すぐにまたあたしが鋼鉄化することは出来ないわ。

 少し時間が経たなければ無理。

 どうしましょ。」

 少女はあたりを見回して、ハルが引いてきたリアカーに目を付けた。


「これなら重いし、ある程度の期間なら誤魔化せるかもしれないわ。」

 少女はハルに手伝ってもらって、2階へと通じる階段の入口にリアカーを持って行って入口に立てかけ、魔法を唱えた。

 すると、リアカーは先ほどまで立っていた少女の像そっくりに形を変えた。


「写し身の魔法よ。

 まあ、実物よりは少し美しさで劣るけど、ちょっと見には分からないはずだわ。

 鋼鉄化していれば、無限大の重さになって誰にも動かすことは出来なくなるけど、写し身の魔法では形を変えるだけ。


 それでもリアカーは結構重いから、いかな魔物でも簡単には動かせないはずよ。

 これで、しばらくは大丈夫でしょう。

 後は見た目であきらめて、本気で動かそうと思わないことを祈るだけだわ。」

 少女は、自分そっくりに形作られた黒光りしている像を眺めながら、ほっと一息付いた。


「鈴姉ちゃん、大丈夫だよ。

 僕はさっきまでここにいたトカゲのお化けみたいな魔物も簡単に退治できたよ。

 この塔の魔物だって簡単にやっつけられると思うよ。


 だって今日は運がいいんだもの。」

 ハルは微笑みながら少女の顔を見て得意げに言った。


「あのトカゲの魔物?

 あんなのは口だけで害にも何にもならないから、封印もしないでそのままにしておいたの。

 この塔の中の魔物は、そんなレベルじゃないのよ。


 パパやママとそれからハル父さんやハル母さんもみんなやられたのよ。

 退治することは出来なくて、命に代えて封印することがやっとだったんだから。


 だから変な事は言っていないで、まずはこの塔を出ましょ。

 私に行くところがあるわ。


 後それから、私のことは鈴姉ちゃんじゃなくて、ミリンダって呼んでよね。

 三田鈴なんて野暮ったい名前なんか使えないわ。

 ミリンダよ、あえて漢字で書くならミリンダのミは美、つまり美しいリンダってところね。」

 鈴は得意げにハルに向かって、自分の呼び名を告げる。


「ミリンダのミは美しいでもいいけど、リンダはなに?

 鈴をリンと呼んで鈴田?

 三鈴田でミリンダだよね。


 ただ、名前の字を並べ替えただけだから、ミリンダのミは三が本当だよね。」

 ハルの突っ込みに少しの間、少女は何も言い返せなかった。


「何でもいいけど、私のことはミリンダって呼ぶのよ!いい?」

 顔を真っ赤にして、頭から湯気を出さんとばかりに歯ぎしりしている少女を前に、ハルは思わず返事をしてしまった。


「は、はい。ミリンダ姉ちゃん。」

「よーし。

 3年眠っていたのだから、今はハルと同い年のようなものよ。

 姉ちゃんは無しでミリンダでいいわ。


 でも私の方がお姉さんという事だけは忘れないように。

 いいわね!」

 勝ち誇ったようにミリンダは、ハルを引き連れて封印の塔を後にした。


 ミリンダは村へ瞬間移動せずに、更に北西の方向を目指して進んで行った。

 人が通ることはないためか道といえるものはなく、背の高さほどもある雑草をハルの持っていた銀のナイフでなぎ倒しながら進んで行く。

 途中殿様バッタやドラジャなどの魔物たちが度々出現したが、ハルと二人で魔法攻撃して撃退した。


「うーん、ずーっと固まっていたから、このような弱い魔物たちの相手をするのはいいリハビリになるわ。

 魔法は練習でもある程度は上達するけど、やはり魔物など相手に対して魔法を使うことによって、早く上達していくのよ。

 一つの魔法を完全にマスターすることによって、使える魔法も増えていくわ。


 だからハルも面倒がらずにいろんな魔法を唱えるようにして、魔物を攻撃して魔法をマスターするのよ。

 炎系の魔法が得意なようだけど、同じ魔法ばかり使わない方がいいわ。

 魔物にも属性があって、炎系の魔法に強い魔物などいるから、いろいろな攻撃魔法の練習をしておくと戦う時に有利になるからね。」


 かつては魔法教室などがどの村でもあって、魔物に対抗すべく魔法の練習をしていたものであったが、封印の塔に魔物たちを封じ込めた戦いでほとんどの若者たちが犠牲になり、今ではハルたち子供に魔法を教えることもなくなってしまっていた。


 それでもハルは木の皮に書かれた魔法書を何度も読み返しては独力で魔法を身に着けていったのだが、やはりミリンダのコーチがうれしいらしく、喜んで炎系と氷系に加えて、風系や雷系の魔法を試して魔物たちに攻撃していた。


 やがて二人は、閑散とした広い平地にたどり着いた。

 かつては北のコロニーとして栄えた場所であったが、魔物たちに何度も襲撃されて滅んでしまったうちの一つである。


 家などは全て焼き払われたのか、わずかに燃え残った柱などが点々と立っている程度で、崩れかけたレンガの壁など住居として使える建物などは一つも残ってはいないように見えた。


「着いたわ、大魔道士ミッテランの地よ。

 かつてはここには一番大きな魔法教室があって、ミッテランが魔法を教えていたのよ。

 その為に魔物たちの一番の標的になって、村人の大半が犠牲になってしまった。


 でも、パパもママも、そしてハル父さんもハル母さんもみんなここの魔法教室で学んだのよ。

 来たのはずいぶん前だったから、瞬間移動で行けるかどうか不安で、魔法のリハビリも兼ねて歩いてきたけど結構近かったでしょ。」


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