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24話

                       24

「じゃあ、判りました。僕を食べてもらって構いません。

 そのかわりにあそこにいる男の人に爆弾を処理させてください。

 そうすればたくさんの人間たちだけでなく、魔物たちも助かります。だからお願いします。


 それと、向こうの2人とここにいるスパチュラ、銀次さんは助けてあげてください。」

 ハルは意外にも軽く、自分の身を捧げる提案を切り出した。


「ほー、お前が犠牲になって他の者たちを助けようってえのか、立派な考え方だな。

 だけど、子供のお前ひとりを食ったところで、俺様の1食分にもなりゃしねえ。駄目だな。」

 ところが、ハルの捨て身の提案にも魔王は首を振った。


「恐らくはお前さんが穴から落とした衝撃で、起爆装置のスイッチが入ったんだろう。

 それまでは多少の衝撃なら大丈夫だったんだろうけど、これからはそうはいかない。


 よーし、爆弾を処理させてくれたら、おいらも食ってもらっていいぞ。

 筋肉質だから、ちょっと硬いかも知れないけど、体は大きいぞ。どうだ?」

 ジミーもハルに続けとばかりに叫んで、マシンガンを床に置いて両手をあげた。


「あ、あたしも、いいわよ。

 こんな地下じゃ瞬間移動できないから、爆弾が爆発すれば死んじゃうんだし、同じことだわ。

 ハルにばっかりいい恰好はさせられないわよ。


 まあ、かわいいあたしだと特別に甘ーいスイーツってところかしらね。

 取り合いにならないように気を付けてね。

 整理券でも配ったらどうかしら。」

 ミリンダは、こんな事態にもかかわらず、ほほに手を当ててにっこりとほほ笑んだ。

 しかし、3人ともにその瞳は笑ってはいなかった。


「あっしも、犠牲になりましょう。

 でもあっしを食うと魔物どうしの共食いってえことになりますな。」

 銀次もハルの提案に加わってきた。

 3人とともに命を捨てても爆弾を処理しようと心を決めたようだ。

 人間たちのみならず、魔物まで含めての捨て身の覚悟に魔王も話を信じる気になりつつはあった。


「あ・・・あたいは・・・」

 スパチュラも続いて言おうとしたが、言葉が出てこなかった。


「こ、この玉が大きな爆弾?爆発する?どうなるの?日本が沈没する?」

 魔王は自分が持っている発信機の言っていることを、しっかり聞き取ろうと耳を付けた。


 そして尚も爆弾の上で飛び跳ねて見せた。


 何回目か跳ねたとき、爆弾からカシャンという音がして、大きく揺れだし熱を持ってきた。

 ハルは目の前の魔王を突き飛ばしてから、爆弾を抱えて瞬間移動した。

 それは、対岸のホームのジミーたちの目の前であった。


「ば、爆弾を処理できますか?それが無理なら、爆弾を抱えてどこでもいいから瞬間移動して見ます。」

 ハルは爆弾に乗ったまま叫んだ。


「無理よ、こんな地下じゃ自分の居場所も認識できないから、瞬間移動なんか失敗するだけだわ。

 下手をすれば、どこか地中深くや、海中などにでも移動してしまうのが落ちよ。」

「ハル君が瞬間移動したところで、日本国内であればどこへ飛んでも結果は一緒だ。

 それならば、今は人の住まないこの東京で爆発させた方がまだましだね。

 少しでも生き延びられる人が増えるかもしれない。」


 ミリンダはハルの手を引いて、爆弾から降ろす。

 ミリンダ達を取り囲んでいた魔物たちも、一斉に眩いばかりの光の方向へ注目した。

 球体が閃光を放ち砕け散りかけた時、横からハルが叫ぶ。


「父さん、母さん、そしておじいさん、僕に力を貸してください・・・。

 エリミネ・・・何だったか忘れたけど、とりあえず、抑え込め!!!」

 ハルは開いた両手を爆弾の方に差し伸べて、力を込めて魔法の呪文を唱えた。

 すると、膨張を始めた爆弾は動きを止めて、そのままの形で固まった。


「魔封じね。強大な爆発のエネルギーを魔法としてとらえて、それを封じ込める。

 うまいやり方よ、成功するかもしれない。あたしも手伝うわ。

 えーっと、モンブランタルトミルフィーユ・・・封印(エリミネ)魔法(スペル)!!!」

 ミリンダも一緒に、両手を広げて爆弾に向かって魔法を唱えた。


 赤く高熱を発しようとしていた爆弾も、元の黒色に戻ったように感じられた。

 開きかけた地獄へのふたが、再び閉じられようとしていた。

 魔王も、そして魔物たちもハルとミリンダの様子をまじまじと眺めている。


「今のうちに、爆弾の処理をして!」

 ミリンダが苦しそうに力を込めながら叫ぶ。

 ジミーが爆弾の元へ向かおうとするが、再び爆弾の表面の亀裂から光が漏れだしてきたので、足を止めミリンダ達を振り返る。


「ぐうっ!」

 両手を伸ばしたまま意識を集中しているハルが、苦しそうに悶える。

 動きを止めたのはほんの少しの間だけで、すぐに爆弾は膨張をはじめ、表面の色も赤銅色に染まりつつあった。


「だ・・・、駄目みたいね。あたしたちだけでこんな大きな爆発を抑えるのは無理のようよ。

 魔封じは失敗すると、魔法者に効果が降りかかってくるのだけれど、あたしたちだけでは納まりそうもないわね、威力が大きすぎるわ。ごめんなさい・・・。」

 ミリンダも苦しそうにして、気が遠くなりそうな所をなんとか耐えている様子だ。

 心なしか、ハルもリンダも体が透けて消えかかっているように感じられた。


「もう止めるんだ、君たちが先に消えてしまう。」

 ジミーがハルたちを制しようと、手を伸ばした。


 その瞬間、魔王は自分で爆弾を足に吊り下げて飛び上がり、向かい側のホームの上方へ素早く移動した。


「ふ、ふ、ふ。どうやらお前たちが言っていたことは本当のようだな。

 こいつは爆弾とやらで、処理をしなければ大きな爆発を引き起こす。

 日本が沈んじまうのかい?更にたくさんの爆弾が落ちてくるのかい?


 だが、最早処理は間に合いそうもない、封じ込めることも失敗だ。

 すぐに爆発してしまうみたいだな。

 それもこれも、どうやら俺が悪いみたいだ・・・。


 すまない、責任は取らせてもらうよ。

 おーい野郎ども、爆風が飛び散らさないように、この爆弾を取り囲んじまいな。」

 魔王がまずその羽で、巨大な球を包み込むように体でくるんだ。


 更に魔王の呼びかけに応じて、ハルたちに襲い掛かってきていた魔物たちは、何も言わずに次々と球体に飛びついて行き、幾重にも重なって行った。

 唖然としたハルたちが耐え切れずに力を緩めた途端に、鈍い重低音とともに真っ白な光が球体から幾つもの筋となって漏れ出してきた。

 その光景を見ているハルもミリンダも、その場にへなへなと崩れ落ちた。


魔物たちはその漏れ出した光に向かって次々に飛びついて行き、真っ黒な球を取り囲む帯状の魔物たちの渦は途切れることがないように続いて行った。

 ようやく意識を取り戻したハルたちは、このいつまで続くか知れない壮大な光景を、固唾を飲んで見上げている。

 やがて、黒い球にほころびが出来た様に、光が漏れだす点が大きくなってきたようだ。


「あっしも参りまーす。」

 言うが早いか、銀次は漏れ出る光に向かって黒い球体に飛びつきほころびを塞いだ。


 その後も黒い球はその大きさを小さくしては、魔物たちが飛びついて行くといったことを繰り返して、なんとか形を維持していた。

 やがてどれだけの時間が経ったのであろうか、すごく長い時間だったようにも、あるいは意外と短かったようにも感じる。


 飛びついて行く魔物たちの群れの終わりが見えようとした頃、ようやく魔物たちの体で作られた黒い球は音もなく灰となって床に崩れ落ちた。

 後には熱も光もなく、静寂な空間だけが残った。

 魔物たちが身を挺して爆風からこの世界を守ったのである。


「熱かっただろうに、すごーく熱かっただろうに。

 そんなところに飛び込んで行くなんて・・・・。」

 黒い球の行方をじっと見つめていたハルの目から、とめどない涙があふれていた。

 ミリンダもジミーも涙を流しながら無言で、崩れ落ちた灰の塊をただ見つめていた。


「ハル君とミリンダちゃんが言葉だけではなく、実際に命を懸けてまで爆発を阻止しようと必死になっている姿を見て、魔物たちも信じる気になったんだと思うよ。 君たちのおかげだ。」

 ジミーは未だ跪いて動けないでいるハルたちの方に振り向いて答えた。


「いやあ、今日は調子が良かったものだから、爆弾も押さえこめるかなあなんて思ったけど、全然無理で後悔していたところよ。

 ほんとに、ハルと一緒にいるとろくなことにならないんだから・・・。」

「ありがとう、ミリンダ。一緒に魔封じの魔法をかけてくれなかったら、僕一人だけでは力が足りなくて、すぐに消滅していたと思う。無事だったのはミリンダのおかげだよ。」

 ハルはようやく立ち上がってから、ミリンダに手を差し伸べた。


「いやあ、それほどでもないけど・・・。

 あたしはハルの保護者だって言ったでしょ。

 出来の悪い弟のようなもんよ。守ってあげなくちゃね。」

 ミリンダは少し顔を赤らめて、微笑んだ。


「あたいは、あたいは銀次さんが飛び込んだのを見たけど、どうしても怖くて飛び込んでは行けなかった。魔物たちは皆犠牲になったのに、あたいだけは足がすくんで動けなかった・・・。」

 天井から糸でぶら下げっていたスパチュラが、床まで降りてきて涙を流した。


「それは、おいらたちも一緒さ。

 魔物たちだけじゃなく、おいらたち人間も爆風を防ごうと飛びついて盾になってもよかったんだろうけど、おいらたちも足がすくんで何もできなかった。ただ見ているだけしかできなかったよ。


 爆弾の影響を防ごうとして飛び込んで行った銀次さんたちは本当に立派だった。

 だけど、だけれどもさ、犠牲になることだけがすべてじゃない。

 この世に生まれた命は、それぞれに役割を担っているっておいらの教官がいつも言っていた。


 おいらたちは銀次さんや魔王を含めて爆弾の犠牲になった魔物達、せっかく彼らが残してくれたこの世界を無にするようなことなく、少しでもみんなが住みやすい明るい世界になるように努力していこうじゃないか。

 それが残されたおいらたちの役割さ。一緒に努力していこうぜ、ベイベー。」

 ジミーは無理に作った不格好な笑顔で、何とか明るく振る舞おうとした。


 その言葉にスパチュラも大きく頷いた。

 ハルもミリンダも同様であった。

 皆、先ほどの目に焼き付いたであろう壮大な光景を思い起こしながら、床に散った灰に手を合わせていた。

 しばしの沈黙の後、立ち去る準備を始めようとして、ふと思い立ったのか、不意にミリンダが大きな声で叫んだ。


「あーっ!」

 一同驚いてミリンダの方に振り返った。

 ミリンダは慌てた様に天井を指さしていた。


「銀次さんが居なくなって、ここをどうやって出るのよ。

 あたしたち閉じ込められてしまったってこと?」

 ミリンダの発言にジミーも言葉を失った。

 そして辺りを見回した後、ホームから線路へと飛び降りてその先の暗闇に懐中電灯の光を当てていた。


「旧文明時はここを鉄の箱が走っていたんだろう?

 このトンネルを辿って行けば、どこからか地上へ出られる階段が見つかるかもしれない。

 前と後ろどっちに進めばいいかわからないけど、えーいここはコインで・・・。」

 ジミーはポケットから大きなコインを取り出して宙へと放ち両手で受け止めた。


「よーし、表だから前だ。こっちに行こう。」

 ジミーは先陣を切って歩き出した。

 ハルたちも続いて線路に降り立ち、ジミーの後へと続いた。

 スパチュラは天井を伝って彼らに続いていた。



「ハローハロー、聞こえますか所長。

 爆弾処理は失敗してしまい、爆弾は爆発してしまいましたが、魔物たちが犠牲になって身を挺して爆風を防いでくれたおかげで、爆発の被害は外には漏れませんでした。我々も大丈夫です。


 脅威は去りました。これから都市へと向けて帰還します。

 所長たちも戻ってきても大丈夫です。どうぞ。」


 ハルたちは線路伝いに3つ先の駅まで歩き、崩れずに残っている地上まで続く階段を運よく見つけることが出来、最初に地下へと向かった入口まで地上を歩いて戻ってきたのである。

 ようやく落ち着いて、ジミーが状況報告をしたところだ。


「そ、そうか、魔物たちとの状況はガ・ガ・ガ・ 判らんが、よくやった。

 こちらも良い発見があった。ガ・ガ・ 詳しくは都市へ戻るときに分かるだろう。」

 無線機の向こうでは、歓喜に沸く皆の喜びの声が漏れ聞こえてきた。

 所長の声もずいぶんと明るく高揚していた。


 しかし、ハルもミリンダもジミーの顔も笑顔はなかった。

「銀次さんだって、魂がばらばらになっただけだろうから、また一つになってどこかで復活するよね。

 もしかすると、僕たちより先に北海道への洞窟の中に戻っているかもしれないよね。」

 ハルが、落ち込んだ気持ちを奮い起こそうと無理に明るく振る舞って見せた。


 しかし、あの爆弾の高熱は魔物の魂をも焼き尽くす、ジミーの持っていた灼熱の弾よりもはるかに強力な熱であったろうことは、3人ともうすうす感じていた。

 それはつまり銀次を含めた魔物たちの魂の消滅を意味しているのだ。


「そ、そうだな。またどこかで会えるだろうぜ、ベイベー。

 元気出して行こー。」

 ジミーはしゃがんでハルたちとの目線を合わせ、ハルの両肩に両手を軽くのせて励ました。


 ハルも顔をくしゃくしゃにして小さく頷いた。

 ハルはジミーを抱えて、ミリンダはスパチュラを抱えて瞬間移動でスパチュラの巣である断崖絶壁まで飛んだ。


「おや、坊やも元気になったねえ。

 やはり何でも治り草が効いたみたいだね。本当にごめんよ。


 これからはむやみにここへ迷い込む生き物全てをすぐには餌にしないで、知り合いなのか用事があってあたしたちを訪ねてきたのか聞いてから、毒を注入することにするよ。」

 蜘蛛系魔物の母である花子は、相変わらず高い位置から声を響かせながらハルたちにあいさつした。

 ハルたちも空を見上げながら、微笑み返した。


「じゃあ、あたしたちは帰るけど、スパチュラちゃんも元気でね。」

 ミリンダはスパチュラの手を握りしめ別れの挨拶をした。

「あたいもみんなのことは忘れないよ。いつでも遊びに来ておくれ、いいね。」

 スパチュラは目に涙を浮かべながらも、表情は笑おうと必死で努力しているように見えた。


 別れを惜しんだ後、ハルはジミーを抱えて、3人は瞬間移動してジープの場所まで飛んだ。

 もう一度瞬間移動すれば都市までも飛べるのだが、ジープは貴重な資源なので乗って帰ることにした。

 ハルたちも所長たちが戻ってくるまで都市で待つつもりでいたので、まずは蜘蛛の魔物に爆弾処理が済んだことを告げてから、一緒にジープで戻ることとなった。


 ジミーとミリンダをジープにおいて、ハルは残った缶詰を山ほど担いで蜘蛛の魔物の巣まで瞬間移動した。

「やりました、爆弾は爆発しちゃいましたが、魔王さんたちのおかげで被害はありません。

 日本が沈んじゃうことも、世界戦争が再発することもなくなりました。

 蜘蛛の魔物さん、スパチュラちゃんはじめ、みんなの協力のおかげです。ありがとうございました。」


 ハルはうまいこと蜘蛛の糸の上へと瞬間移動できたが、そこは横糸の上であった。

 蜘蛛の魔物に縦糸へと体を移してもらい、ようやく荷物をほどくことが出来た。


「そうか、やはりわしの見立ては間違いではなかった。

 スパチュラは必ずお前たちの役に立つと思っていたよ。

 色々とあったが、よく頑張ったな。えらいぞ、坊主。」


 大量の缶詰の土産を貰い、蜘蛛の魔物は上機嫌であった。

 ハルは缶のふたの開け方を蜘蛛の魔物に教えてから、瞬間移動してジープの場所まで戻り、3人はジープで都市へと向けて出発した。



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