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22話

                       22

「えーと、次はここの電極間にプラ板を挟み込んで、無力化すると・・・。よーし、出来た。」

 ジミーは不発弾処理の現場で、大きな時限爆弾の処理をしていた。

 隣にはジミーに処理技術を教える教官が居て、ジミーの作業を見守っている。

 ジミーはしわのない精悍な顔つきをしていて、サングラスもせずに軍服を着用している。

 若い時のジミーの姿の様だ。


「いいぞ、ジミー。この時限爆弾の処理は終了だ。次はこっちの不発弾だ。

 戦争中に落とされて都市の周りに幾つも落ちているものの一つだ。

 核弾頭ではないから放射能の心配はない。

 しかし爆発すれば、この建物を全て吹き飛ばすくらいの威力は十分にある。注意して処理しろよ。


 まずは液体窒素で凍らせてから信管を抜くのが安全だ。

 出先ではなくこのように設備が整った場所で処理する時は、出来るだけ安全な方法を選択するように。」

 教官の指示通り、ジミーは液体窒素を爆弾に吹きかけ凍らせた。


 爆弾の黒い金属表面は、見る見るうちに霜で白く変わって行く。

 ジミーは爆弾の先端部分をレンチを使って緩め、凍傷にかからないように厚手のシリコン製ゴム手袋を履き、ゆっくりと手で回しながら爆弾の先端部分を外して行く。

 やがて、先端の金属部分は取り外され、慎重に台の上に置いた後、先端を取り外した爆弾に向き直った。


「難しいのはこれからだぞ。信管を取り外すのが一番難しいんだ。

 信管が挿入されている部分の壁に少しでも触れたら爆発して一巻の終わりだ。

 慎重にゆっくりと外すんだぞ。」

 教官は厳しい顔でジミーを見つめた。


 ジミーも承知していますとばかり、ゆっくりと頷く。

 保護されていた先端カバーが取り外され、むき出しになった信管をジミーは息を殺してゆっくりといろいろな方向から眺めた。

 ひび割れなどの異常がないことを確認してから、両手で信管の先端をしっかりと持ちゆっくりと右へ回した。


 しかし、信管はびくともしなかった。

 本来ならば信管は右に45度回ってロックが外れ、そのまま引き出されるはずであった。

 しかし、不発弾であり信管が固く動かない状態であったからこそ、起爆できずに不発弾となった物なのだ。


 このような状況は慣れたもので、ジミーは慎重に小さなハンマーで信管の先端周りを軽く一周叩いた。

 少し叩いては回りを確認し、駄目ならばまた少し叩くと言ったことを何度も繰り返し、ようやく信管を回すことが出来、ロックを外せた。


 ここからがさらに難しい。

 信管を真っ直ぐに引き抜かなければ、周りの壁に信管の挿入部分が少しでも触れたら爆発の恐れがあるのである。

 ジミーは息を殺しながら、慎重にゆっくりと信管を引き抜いて行く。

 そして何とか信管を引き抜き、挿入されていた部分の先端にある2本の電線を慎重に断ち切った。

 これで、ようやく処理は終了である。ジミーは額の汗を右手の甲で拭い、ほっと一息ついた。


「よくやった、では次は小さな爆弾処理だ。

 小さいが人一人を殺傷する力は十分にある。

 気を付けて処理するように。」

 教官は、小さな四角形の箱型爆弾をジミーに手渡した。


 ジミーはその爆弾を持った瞬間に違和感を覚えた。

 妙に軽いのだ。


 それでも、慎重に上蓋四隅についている小さなねじをドライバーで外し、わずかに上蓋を引き上げる。

 そうして仕掛けがないことを目視で簡単に確認してから、上蓋を取り外した。

 ところが、その時にカチッとスイッチが入った音がした。

 起爆装置が作動してしまったのだ。


 上蓋の裏側には、肉眼では見つけにくいほどの細い糸が結び付けられており、上蓋を外すと糸が引っ張られて起爆する仕掛けのようだ。

 ジミーの肩越しに見ていた教官が、それを見てすぐにドアを開けるとジミーを突き飛ばして部屋から出して、爆弾を自分のお腹に付け、ドアをロックした。


 突然の事に、何もできないジミーはオロオロとしている。

 赤いパトライトが警報を鳴らし、ドアの窓部分にもシャッターが下りた。


「警報、警報。爆弾処理失敗。

 爆発の恐れがあります、すぐに退避してください。警報、警報」

 赤いパトライトとともに、合成音声の警報がジミーのいる廊下に鳴り響いた。

 そして先ほどまでジミーが居た部屋から鈍い音とともに、閃光が漏れてきた。


「警報、警報。爆弾処理失敗。椎名教官爆死。

 繰り返す、爆弾処理失敗。椎名教官爆死。」

 無機質の合成音声が繰り返し放送され、ジミーはその場に立ち尽くしていた。


 やがて、爆弾処理室の中の煙が薄れドアがゆっくりと開き、そこには教官が立って待っていた。


「ジミー、これで君の爆弾処理は185戦して150勝35敗だ。

 今回は訓練だったから良かったが、本物であれば君か私かどちらかが死んでいただろう。

 君のおかげで私はすでに20回は死んでいることになっている。


 不発弾のような大きな爆弾なら慎重に処理するようだが、小さな爆弾に関しては意識が行き届かないようだね。

 爆弾の大きさに関わらず、もう少し慎重に処理をしないと、本当に明日が来なくなるかもしれないよ。」

 教官はジミーに苦言を発していた。


「お言葉ですが椎名教官、自分の爆弾処理成績は140戦して140勝無敗です。

 教官のおっしゃっている処理の失敗は全てこういった訓練の時であり、実際の爆弾であればもっと慎重に処理しています。

 訓練だとちょっと気が抜けるというか・・・。」

 ジミーは下半身は直立不動の体勢を作りながらも、頭を掻きながら答えた。


「しかしだなあ、こういった日頃の訓練が万一の場合のミスを防ぐものなのだ。

 訓練をおろそかにしてはいけない。

 これからも実践、訓練問わず慎重に処理するという事を忘れないように。判ったな。」


 ジミーは爆弾処理の道具の確認をしながら、遠い昔の都市での爆弾処理をしていたころを思い出していた。

 あの頃厳しく指導してくれた教官も今はいない。

 不発弾処理の最中に犠牲になったのだ。


 それも、教官の処理が失敗したのではない。

 都市へと爆弾を持ち帰ろうとしたときに、運転していた兵士がハンドルを切り間違えて路肩の溝に脱輪し、その衝撃で不発弾が起爆してしまったのである。


 教官はそれでも爆発の瞬間、運転していた兵士をかばって兵士に覆いかぶさり、自分は犠牲になったが兵士の命は救われた。

 ジミーは時限爆弾の電極間に挟み込むプラ板を眺めながら、教官の姿を偲んでいた。


「なあに、どうしたの?黙ったままで。それはなあに?」


 マットから起きあがってきたミリンダが、まだ夜が白みかけたばかりだというのに、起きてじっとしているジミーに不思議そうに声をかけてきた。

 ジミーは笑って首を振った。

「何でもないぜ、ベイベー。」

 ジミーはプラ板を何事もなかったように道具箱に戻して、ミリンダの方に向き直った。


 夜が明けて軽い朝食を済ませた後、ジミーはまず定時連絡を行った。

「ハローハロー、こちらジミー。所長聞こえますか?どうぞ。」

「こちら所長。少し前にようやく最後尾がトンネルを出たところだ。

 ガ・ガ・ガ れで、全員が北海道へ到達した。

 マイキーの連絡では、ガ・ガ・ガ 西日本ではすでに九州へと ガ・ガ なんしているらしい。問題なさそうだ。

 なお、トンネルの中の魔物たちだが、日本が沈んでも魚系の魔物は泳ぎが達者だから問題ないそうだ。

 このままトンネルに残ると言っている。どうぞ。」

 北海道へとすでに避難した所長の声が聞こえてきた。


「了解しました。こちらは魔物の協力があり、すでに爆弾のすぐ近くまで到着しています。

 これから処理に向かうので、早いとこ高い山へと避難してください。どうぞ」

「了解した。いつ爆発してもおかしくはないので、ガ・ガ・ めに処理することは問題ない。

 こちらの避難を気にせずに処理を進めてくれ。ガ・ガ・ガ・どうぞ。」

「了解しました。これから出発します。」

 ジミーは無線機のマイクを戻して、身支度を整えた。


 地下では無線も届かないので無線機は必要ない。

 爆弾処理の道具だけ持っていけばよいだけの身軽な状況であった。

 ハルも着替えのシャツとズボンの上に、皮の胴巻きと皮の小手を装備した。


 ミリンダはというと、よほどお気に入りなのだろう、真っ赤なフリル付のスカートのワンピースと、リボンのついた真っ赤なエナメルの靴といった恰好であった。


 研究所でのいきさつを知っているため、無駄とは思ったが念のためにジミーがミリンダに声を掛けた。

「いやあ、ベイベー。よく似合っているけど、これからは洞くつ探検だ。

 きれいなおべべが汚れてしまうぜ。もっと動きやすい格好の方がいいんじゃないかな。」

 ジミーは柔らかくミリンダを諭すように話しかけた。


「だめよ、これはあたしの勝負服だから。これじゃないとだめなの。」

 ミリンダはきっぱりと拒絶した。

 がっくりと肩を落としたジミーをハルが慰めていた。


 ジミーは念のためマシンガンと弾だけは持って地下道へと進んで行った。

 地下道には当然のことながら電灯などの照明はなく、真っ暗な空間が続いているだけであったが、懐中電灯の明かりは松明よりも明るく遠くまで照らし出すことが来て、ハルたちは苦も無く進んで行くことが出来た。

 生き物が住めない焦土と化した東京は、魔物もいないはずであり爆弾を見つけることも簡単な作業と考えられた。

 時折がれきで階段が埋まっているようなところは、銀次の怪力でがれきをどかせたり、がれきが大きくて動かせないところでは、ジミーが持っていたダイナマイトでがれきを爆破して進んで行った。


「こ、この、ダイナマイトっていう爆弾は、大きな穴が開くけど危険じゃないの?

 音も大きいし、下手をすると天井が崩れてきて、みんな埋まってしまうんじゃないの?」

 ミリンダが、耳を塞ぎながら腰が引けたような格好でジミーに文句を言った。


「大丈夫だよ、天井が崩れてこないように加減して爆薬を使っているから。

 おいらは爆弾の専門家だぜ。

 でも、確かにあまり多くは使わない方がいいのは事実だ。

 長い年月で、壁とかも傷んでいるだろうしね。注意するぜ、ベイベー。」


 ようやく階段を下りきったらしく、平坦な横の通路に通じた。

 しかしそこは、これ以上先へと進むことは出来ない行き止まりであった。


「センサーで見ると、爆弾はまだまだ下の方にあるようだ。

 爆撃で埋まってしまって、この通路からはこれ以上進めないようだな。

 一旦地上まで戻って、別な入口を探すしかないかな。」

 ジミーがセンサーのモニターを見ながらうろうろと通路を歩きまわっていた。

 やがて奥の方を見に行ったミリンダが呼びかけてきた。


「ねえ、こっちへ来て見て。崩れかけたがれきのところに何かあるわよ。

 えっ、なに?きゃー!!」

 ミリンダの悲鳴を聞きつけて、ハルもジミーも急いで通路の奥へと駆けよった。

「あわ、わ、わ、わ。」


 ミリンダは目を大きく見開いて、一点を指さして腰を抜かしていた。

 その指の先には、一人の人間の干からびた死体が壁にもたれかかったままの恰好であった。

 迷彩柄の軍服を着て、ヘルメットを着用しており、軍人であることが容易に想像された。



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