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16話

                      16

「ようやく出来上がったぞ。

 急いで作ったから設計図も何もない。

 同じものは二つと作ることは出来ないから、大事に扱うのだぞ。

 これが、爆弾の位置を知るセンサーだ。」


 所長は、ジミーに手のひらサイズの四角く薄いタブレット状のものを手渡した。

 表面には四角いモニターとスイッチがあり、モニターにはいくつもの線が格子状に並んでいて、真ん中に白い光の点滅がある。


「この点滅が爆弾の位置を表す。下のスイッチが範囲の切り替えだ。

 今は最大になっているから画面の端から端までで500kmだ。

 爆弾は大体ここから300km先、つまり東京のど真ん中辺りにあることになる。

 近づくにつれて、捜索範囲を縮めて行けば最終的には1mの誤差で爆弾の位置を検出することが出来る。」

 所長の説明で、ジミーは操作スイッチを色々と切り替えては、画面の状態を確認していた。


「OK,大丈夫。これで爆弾の位置はバッチリだ。

 準備が良ければ、そろそろ出発だぜベイベー。」

 ジミーはハルたちの顔を見回した。

 ハルたちはゆっくりと頷いた。


「いや、ちょっと待ってくれ。

 ミリンダちゃんはその格好で行くのかい?

 朝持って行った服の中にはパンツルックもあっただろう?

 この都市の中にいるのであれば構わないが、道なき道を歩いて行くのだよ、いいのかい?」


 ハルは朝着替えた服の上から皮の胴巻きと皮の小手を付けていたが、ミリンダは先ほど着替えたドレスのままであった。


「ちゃんと履き替えたわよ、ハイヒールを運動靴にね。

 洋服はこれで十分よ。

 なにせ行った事もないような遠くへ行って、見知らぬ人たちに出会うかもしれないのだから、精一杯おめかししていかなくちゃね。」

 ミリンダは当たり前のように言った。


「いや、でも・・・スカートじゃなくてズボンなど、もっと軽装の方がいいのじゃないか?」

 所長は尚も詰め寄った。

「大丈夫ですよ、ミリンダはいつもこのような服だけど、魔物にだって負けません。」

 ハルも安心しろとばかりに所長の方を向いた。


 所長はしぶしぶ納得したようだ。二人のやり取りを見ていたジミーも苦笑いしていた。


「そうか、わかった。

 まあ、最初のうちは移動だけだから大きな危険はないだろう。

 よいか、車で行ける道はほとんどないだろう。そこからは歩きだ。


 更に、この辺の魔物を追いやった時に、北だけではなく南へもかなりの数を追いやっている。

 その為、北関東は魔物たちの巣窟になっているかもしれん。

 十分に注意していくのだぞ。

 危ないと少しでも感じたら、すぐにでも瞬間移動して北海道へと逃げ込むのだ。いいな。


 あと、これは銀次さんにだ。

 時間がなくてガーゼのマスクを2つ繋げただけで申し訳ないが、この紐を耳に掛けてガーゼの部分をエラに当てるとよい。

 そうして水を常にかけて湿らせておけば、エラが乾燥して息が出来なくなることもないだろう。」


 所長は繰り返し念を押した。

 ジミーは何の心配もないとばかりにアクセルを空ぶかししたかと思うと、勢いよくジープを発車させた。


 銀次も言われた通りにマスクを顎に引っ掛けて、ガーゼの部分をエラに押し当てペットボトルの水を振りかけた。

「やあ、これはいい。

 建物の中では太陽が直接当たることもなく、息は出来ていたけど乾燥気味で少し息苦しかったんだ。

 ずいぶんと楽になりました、ありがとう。」

 銀次は振り返って大きな声で所長に礼を言った。

 所長は車の影が見えなくなるまでじっと見送っていた。


 車は順調に進み、途中魔物たちに襲われそうにも何度かなったが、車のスピードにはついてはこられないようで、何とか逃げ切った。

 やがて、旧福島県を抜け茨城県から群馬県の端についたころには、すっかり夜も更けていた。


 それまでは草丈は高いが草原であり何とか走行できていたが、がれきや倒木などでこれ以上進むのは困難と感じられた。

 この辺りは繰り返し行われた爆撃で、土地の形までもが大きく変わっているようであった。


「車で行けるのはどうやらここまでの様だ。

 これからは歩きで沼とかを越えて行かなければならない。

 過酷な旅になるが、急がなければならないので、皆頑張ってくれな、ベイベー。」

 ジミーはジープから食料の段ボール箱を下ろした。

 ついでにいくつものパイプをおろし、それを組み立てテントを作った。


「ここを、おいらたちの一次キャンプとしよう。

 食料で十分に重いからテントは持ってはいかない。

 ハル君たちは野宿などは慣れているだろ?問題ないな、ベイベー?」

 ジミーの問いかけにハルたちはにっこりとほほ笑んで見せた。


「今日は、このキャンプで休んで明日の朝早くに出発しようぜ、ベイベー」

 ハルたちは缶詰の夕食をおいしく平らげ、テントの中で寝ることにした。

 外では銀次が寝ずの番をした。


「ハローハロー、所長聞こえますか?こちらジミー、どうぞ。」

 翌朝、ジミーが携帯用無線機で、所長に呼びかけていた。


 高い建物のほとんどが崩壊した今では、アンテナを伸ばせば日本中どこでも受信可能なはずであった。

 これが駄目なら、ジープに取り付けてある衛星を使用した無線機を使うことになるが、こちらは大きいので取り外したとしても、持ち運ぶことには向かない。車固定のタイプである。


「ハロー、こちらは青森のトンネル口の所長だ。

 ガ・ガ・ガ・・・昨日から運転を交代しながら ガ・ガ すみなしで進んでいる。

 すでに、北海道側の扉は開いて先頭は北海道へと上陸しているところだ。


 ありったけの車やバスで移動しているが、ガ・ガ・ガ 人数が大変多いので、すべての人が渡りきるまでに今日一日かかるだろう。

 わしは最後尾で出発するが ガ・ガ・ ンネルの中では無線が使えないので、ちょうどよかった。

 そちらは順調か?どうぞ。」

 少しノイズが混じるが、交信はおおむね良好だ。


「こちらは、ガ・ガ・ガ です。ガ・ガ・ガ・ガ・ どうぞ。」

「うん?急にガ・ガ・ ノイズが多くなった。

 それも、変なノイズが・・・。


 ジミー!口で言っていないか?ガ・ガ・ガ・ どうぞ。」

 所長が慌てて切り返してきた。


「えへへ、ばれちゃいました?こちらは順調です。

 昨日の晩までに旧群馬まで来ました。

 これからは歩きになります。

 何もなければ爆弾への到着は、5日後の予定です。どうぞ。」

 ジミーはいたずらっぽく頭を掻きながら返答した。


「そ、そうか。順調で何より。ガ・ガ・ガ」

「ハルです。トンネルの中の魔物さんたちも一緒に避難できるようにお願いします。どうぞ。」

 ハルがジミーの持っていたマイクを奪い取って話しかけた。


「了解、ハル君たちの名前を出したらガ・ガ・ガ トンネルの中のガ・ガ・ガ達は協力的で、我々人間を先導してくれているらしい。

 ガ・ガ・ガ・ 一緒に北海道へ避難するよう話をするよ。どうぞ」

 所長の言葉に、ハルもほっと胸をなでおろしたようだ。


「では、我々はこれから出発します。どうぞ。」

 ジミーはハルからマイクを受け取り交信を再開した。


「了解した。

 ガ・ガ・ガ 明日になれば、マイキーからも連絡が入るだろう。

 ガ・ガ そちらも朝の定時連絡は忘れるな。では、頑張ってくれ。」

 所長の返信を聞き、ジミーはマイクを無線機に戻して大きなリュックを背負った。


 当面の食料を詰めたリュックである。

 足りなくなったらハルたちの瞬間移動でいつでも取りに来れるよう、残りは置いて行くことにした。

 それでも、何か特徴のある風景などがなければ戻れないそうなので、そうそう頻繁に進んでは瞬間移動という事は出来ないのである。


 食料と言っても缶詰なので、動物や魔物に見つかっても食べ方が判らないから置いたままでも大丈夫だろうという事であった。

 ハルたちも自分の分の食料をリュックに詰めて背負い、よろよろと重さに耐えながら立ち上がった。


「ちょっと、このリュック詰めすぎなんじゃない?

 いくらなんでも一日歩けばそれなりに特徴のある場所に出るだろうから、瞬間移動で行き来できるわよ。

 だから1日分だけを詰めればいいんじゃない?」

 ミリンダがあまりの重さに音をあげた。


「これから進むのは、我々が行ったことのない未知の道だ。・・・うまい?


 ・・・ご、ごほん。何があるかわからない。

 ここに一次キャンプを設置して予備の食料をおいておくのも用心のためだ。

 基本的に最低限必要な分は持っていく。5日の行程なので5日分の食料だ。

 ここの分はあくまでも何かあった時の予備であり、頻繁に取りに来るのではない。

 判ってくれ、ベイベー。」


 ジミーのリュックは自分の食料の他に、爆弾処理の道具に無線機やみんなの毛布や着替えなども入っていて、ハルたちのリュックの4倍はある大きさである。

 それを背負ったままジミーは両手でミリンダの両肩を押さえて、目を見ながら真剣に説明した。

 ミリンダも、その迫力に負けたのかようやく頷いた。


「あっしのリュックはまだまだ余裕がありますよ。

 ミリンダちゃんの分もハル君の分も半分入れてあげましょう。」


 銀次がミリンダのリュックを取り上げて、中身の半分を自分のリュックに移し替えて、ミリンダに戻した。

 ハルも最初は抵抗していたが、銀次に半分持ってもらうこととなった。

 ジープは目立たないように、木の枝や草をのせてカモフラージュして置いた。


 一行は道なき道を歩き出した。

 爆風で破壊されがれきと化した建物や、倒木などが行く手を阻んだが、銀次の怪力で持ち上げてどかしたり、ハルたちの魔法で焼き尽くしたりしては進んで行く。


 しかし、昼食を終えた後に爆弾で出来たクレーターであろうか、大きな円形状のくぼみに行く手を阻まれてしまった。

 左右を見渡してもうっそうと茂った大木の森と、倒壊したビルのがれきの山に囲まれていて、迂回するにはもう一度戻って別のルートを探すしかなさそうである。


 途方に暮れていたが、ミリンダがクレーターの端に白く太いロープが結ばれているのを見つけた。

 ロープは真っ直ぐに向こう側へと延びていて、先は見えないが間違いなく対岸まで到達しているものと想像できた。


 1m以上の太さのロープであり、まずミリンダが乗ってみて飛び跳ねたが、揺れることもなく安定していた。

 渡りに船とばかり、一行はこのロープを辿って進むこととした。


 ロープを渡っていくと、はるか下には雨水がたまったのであろうか、クレーターが湖のようになっていることが判った。

 恐らくは長い年月が経過すれば、水量も多くなり船や泳いで渡ることも可能なのであろうが、現時点では底の方に水が溜まっているだけの状態だ。


 底にあるわずかばかりの水の影響なのか、霧のために先がかすんだ状態で、慎重に進んで行くと真っ直ぐに伸びたロープに直角に交わる横方向のロープが絡んでいるの見えた。

 それも一本だけでなく、進んで行くと等間隔に横のロープが絡んでいることが判ってきた。

 ハルたちは見覚えがあるその形を頭の中で想像していた。


「蜘蛛の巣?蜘蛛の巣だっていうの?

 このロープが蜘蛛の糸ってことだと、どれだけ大きな蜘蛛よ?」

 ミリンダは想像しながら縮み上がった。


 その時、先頭を進んでいるジミーの目の前に、羽を広げると2mはありそうな大きなカラスの魔物が飛んできた。

 引き返そうと後ろを振り向いたが、後ろにも大きくて目つきの悪い鳩の魔物が翼を広げて立ちはだかっていた。挟み撃ちである。


「こんなところまで人間が来るなんて、最近では全くなかったことだ。

 イノシシなどはもう食いあきた。

 お前たちを食ってしまうぞ。

 それが嫌なら持っている食べ物を置いて行け。」


“ガ、ガ、ガ、ガ”カラスの魔物の話が終わるか終らぬうちに、ジミーはマシンガンの引き金を引いた。

 魔物の体は粉々になりクレーターの中へと落ちて行った。


「炎の竜巻、燃え尽きろ!!!」

 ハルの魔法で鳩の魔物は炎に包まれ、悲鳴とともに燃え尽きてしまった。


「珍しいわね、ハルが魔物を殺してしまう強い魔法を使うなんて。

 今までは少し火傷させたり凍らせたりするだけだったのに。」

 ミリンダがハルの魔法に感心するように腕を組みながら言った。


「所長さんが行っていたでしょう?魔物たちを魔法でやっつけても、魂がばらばらになるだけで死んだりはしないって。またいつか魂同士がくっついて復活するって。

 爆弾が爆発して日本が沈没しちゃっても、魂の状態ならぷかぷか漂ってるだけだから平気でしょ?

 魔物の姿でいるより安全だよ。


 だから、これから出会う魔物たちはみーんな魂に戻してあげるんだ。

 そうすれば日本が沈没しちゃっても、どこかで魔物に復活できるでしょ。」


 ハルの考えにミリンダ達もなんとなく納得した。

 そう考えれば確かに後ろ髪引かれることなく、強力魔法や銀の弾丸を魔物たちに撃ちこんでいける。

 魔物を倒してハルたちは尚もロープを辿って進んで行った。



「蜘蛛の巣に蜘蛛が引っかからないのはどうしてか知ってる?

 それはこの縦糸だけを歩いているからだよ。

 横糸にはものをくっつける玉がいくつも付いているんだって。」

 ハルの言葉通り、横糸には半透明の小さな粒がいくつも付いていた。


 やがて他の縦糸も見えるようになってきた。

 間隔が狭まってきたためであり、巣の中心が近いことを表していた。


 ハルたちはその先に黒い巨大な影があることを見つけた。

 それは数十メートルはあろうかという巨大な蜘蛛であった。

 蜘蛛はハルたちを見つけると、いきなり白い糸を吐きかけてきた。


「炎の竜巻、燃え尽きろ!!!」

 ハルは魔法で糸を焼き払って、大きく後ろに飛びのいた。

 しかし、その先は横糸でありハルは粘着質の玉に足を取られ動けなくなってしまった。


 ミリンダ達はと見ると、ミリンダもジミーも銀次も蜘蛛の糸で体中ぐるぐる巻きにされ身動きが出来ないようである。

 物を通り抜けられる銀次ではあるが、くっついた糸が相手ではどうしようもなさそうだ。


「どうした小僧、お前ひとりになってしまったぞ。」

 巨大な蜘蛛の魔物は不敵に微笑んだ。



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