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13話

                     13

 ジミーの後に続いて、よろよろと歩きながらようやく研究所の入口へとハルたちはたどり着いた。

 そこで、音もなくガラス扉が開くのを見て、ミリンダが腰を抜かせて座り込んだ。


「な、何よ!透明人間?透明なドアボーイが扉を開けているの?」

 ミリンダはきょろきょろと周りの人影を探した。


「これが先ほど説明した自動ドアってえもんだよ、ベイベー。

 ここに立つと勝手にドアが開くのさ、便利だろ?」

 ジミーがミリンダの手を引き立たせてから、中へ入るようにハルたちを促した。


 研究所の1階は吹き抜けになっていて、高い天井にはきれいなガラスのシャンデリアが吊られていた。

 ジミーは右手奥のエレベーターホールへと歩いて行き、上行きの呼び出しボタンを押した。

 やがてエレベーター扉の上の光の点がゆっくりと一つずつ左へと進んできて、チンという音とともに扉が開いた。


「また腰を抜かさないように先に言っておくけど、これが先ほど説明したエレベーターってえ乗り物だ。

 この高ーいビルの上の方まで勝手に連れて行ってくれる。さあ、乗り込んでくれ、ベイベー。」

 ジミーに促され、ハルたちはエレベーターに乗り込む。


 心なしかミリンダは震えているようであった。

 エレベーターが上昇している間中、ミリンダはハルの手をしっかりと握りしめて放さなかった。

 やがてエレベーターは静かに止まった。


「さあ、着いた。降りてくれ。」

 ジミーが言うが早いか、ミリンダは飛び降りるような勢いでエレベーターから降り、ハルたちもそれに続いた。

 降りた先は広い研究スペースの様で、数人の白衣を着た若い男女が実験器具を操作していた。

 その一番奥の大きな机に座っている人のところまで、ジミーは歩いて行く。


「どうも、所長。近くだっていうのにご無沙汰しています。

 本日は魔法を使える人間と、壁を通り抜けられる魔物を連れてきました。

 なお、魔物は悪いことをした犯罪者じゃないので、お手柔らかに。」

 ジミーは後ろに続いているハルたちを、白髪交じりの中年の男性に紹介した。


 周りの研究者と同じように白衣を着ているが、器具の操作もせずに大きな肘当ての付いた椅子に腰かけていた。


「なに?魔法を使える人間だって? おお、そうか。

 やはり私の考えは間違ってはいなかったんだ。

 人間も魔法を使うことが出来るんだ。

 そうだろう?君たちが魔法を使うことが出来るのかい?」

 所長は飛び上がって喜んで、ハルたちの両肩を交互につかんで顔を覗き込んだ。


「はい、僕たちの村では若い人たちは皆魔法が使えます。

 でも、父さんや母さんを含めて若い人たちは3年ほど前の魔物たちとの戦いで亡くなってしまい、今では僕たちのような子供しか魔法は使えません。

 おじいさんのような年寄りは、頭が固くて魔法は使えないんだって聞いています。」

 ハルは、はきはきと所長に答えた。


「おお、そうか。やはり子供たちのように純粋で物事を疑わない心でなければ魔法は使えないのかもしれんな。

 でも、この都市の子供たちは普段から文明に毒されているから、魔法のことなんかは信じられずに使うことが出来ないという訳だろう。

 君たちの村は文明がないから、その魔法の力で魔物たちと戦っているという訳だな?」

 所長はハルとミリンダの顔を交互に見比べていた。


「そうよ、あたしのパパとママも3年前の戦いで犠牲になったのよ。

 それでも最後の力で魔物たちを塔に封印して、あたしもそのおかげで3年間も眠っていたけど、それでも村には平和が訪れたのよ。

 今は魔物を退治して言う事を聞かせて、年寄りばかりの村の労働力として役立てようとしているわ、共存生活ってやつよね。」

 ミリンダがハルの言葉に付け加えて説明した。


「おう、そうであったか。

 我々も魔物たちを手なずけて、労働力として使い共存して行こうとして、北に収容所をつくったのだ。


 長年の研究で、魔物たちが魔法を使う時に体の表面に弱い電気で覆われる、いわゆる静電気だが、そのことを発見してから、静電気を感知するとその電気を利用して、自動的に首周りのチェーンの長さが縮んで行くペンダントを発明したのだよ。

 それによって、収容した魔物たちが悪さをしないように矯正しているのだ。


 だが、そこの所長が悪さをして北の集落に迷惑をかけていたようだな。

 そもそも、この地方に住み着いていた魔物たちを、先の代から北へ北へと追いやったのが始まりなのだ。

 ところが北海道と繋がるトンネルが閉じられたことにより、魔物達の行き場が無くなり戻ってくるようになったものだから、仕方なく魔物たちとの共存という方法を考えたのだが、北海道の人たちにとってはいい迷惑だったわけだな。


 なにせ、北海道はどこも爆撃がひどく生存者などはないと思われていたものだから、魔物たちを追いやる場としか考えてはおらなんだ。

 いやあ、申し訳なかった。わしが代表してお詫びする。」

 所長はハルたちに深々とお辞儀をして謝った。


「別に、あたしたちに謝らなくてもいいわよ。

 あたしたちが住んでいることを知らなかったんだし、仕方がないわよ。

 済んだことだし気にしなくてもいいと思うわ。」

 ミリンダがばつが悪そうに答えた。

 ハルも隣で頷いた。


「いやあ、そうか。ありがとう。

 ところで、魔法というやつを見せてもらえんか?

 ただしここは室内だから、あまり強力ではないやつがいいのだが。」

 所長のリクエストに応えて、ハルが炎の魔法を机の上で披露して見せた。


「おお、すばらしい。

 人間が唱えることにより、魔法が発揮されるという実例だ。

 ちょっと、こっちへ来てくれ。」

 所長はハルたちを研究室の奥へと連れて行った。

 そこは、ドラジャたちなどの魔物たちのものと思われる骨格標本がいくつも並べられていた。


「これが、ドラジャの骨格だ。見ての通り上半身は蝙蝠で下半身は蛇だ。

 ところがこれだけではなく、基本的な骨格は人間のものに近いのだ。

 更には、カブトムシなどの昆虫の外皮で覆われたものもいる。

 色々混じっているドラジャがいるが、基本的には蝙蝠と蛇、そして人間が合わさり追加でいろいろなものがくっついた物の総称がドラジャだ。


 その他の魔物も基本的には同じだ。

 基礎となる動物や植物に人間が加わって初めて魔物となる。

 動植物や人間が混じると言っているが、生きた人間と動植物が合体したのではない。

 死んだ人間の魂と死んだ動物や昆虫及び植物の魂が、合体したものと考えておる。


 こういった動植物や昆虫などの外観を持った魔物たちと、頭など一部が動物や昆虫だが体は人間という人型魔物も存在する。

 絶対とは言わないが分布としては、森や草原などに多く生息するのが動植物や昆虫などの外観を持った魔物であり、都市跡などに多く生息するのが人型の魔物であると言える。


 それぞれの生活環境で形態が変わってくるのであろう。

 知能的には圧倒的に人型の魔物の方が高く、ボス系の魔物に多く強力な魔法を使ったりする場合が多い。」

 所長は、少しずつ形が違うドラジャの骨格標本を並べて見比べさせながら説明を続けた。


「どうしてこのようなことが起こったかというと、あの世界大戦が原因だ。

 歴史書によるとそれまで70億以上もの人がこの地球には住んでいた。

 それがあの戦争でほとんどが死滅し、今ではそのうちの1%も居ないだろう。


 更には一寸の虫にも5分の魂というとおり、この星に住んでいたあらゆる生き物・・・動植物たちや昆虫たちにも大きさは異なるが魂がある。

 その魂は人間の魂も含め死んだら天へと昇って天国か地獄へ行くことになる。

 そこで魂が浄化されて生まれ変わるのだ。これを輪廻転生という。


 ところが、あの戦争であまりにもたくさんの命が失われたために、天国も地獄も満杯になってしまい、行き場を失った魂が地上を長い間さまようこととなったのだ。

 その魂が、人間の魂を核として色々な動植物や昆虫・魚たちの魂とくっついて塊となって生まれたのが魔物だ。


 行き場を失い浮遊している魂があまりにも多く、密度が高くなったためにお互いが干渉しあい合体するようになったという訳だ。

 人間の魂を核としなかった動植物たちだけの魂の集合体は、元々低級霊と言われて実体化できずに憑りつく対象の人間を探してさまよう訳だ。


 全ては戦争が原因なのだよ。

 そして、人間の魂を持っている魔物たちは、人間の言葉を唱えて魔法を使えるというのが、わしの研究成果だったのだが、肝心の人間が魔法を使えないため、この説は認められていなかったのだ。


 やはり死んで前世での記憶が無くなった人間の魂は、下手な記憶がないから純粋に魔法の力を信じて魔法を唱えることが出来るのだろう。

 そして文明が完全になくなってしまった北海道では、生きていくために魔法の力が必要となり、その力を使えるようになって行ったと考える。


 恐らくは考え方が純粋な子供たちが最初に使えるようになって、それを見ながら少しずつ年長者も取得していったのだと考えられるな。

 だから、北海道でも年寄りは魔法が使えないのだ。

 頭が固くて心の底から魔法が使えると信じることが出来ないからだろう。」

 所長の説明はまだまだ続いた。


「この魔物という生き物・・・生き物というのは少し語弊があるのだが・・・。

 魂の寄せ集めなのだが、通常のナイフで刺したりピストルで鉛の弾を撃ち込んでも、倒せない。

 衝撃で少し後ずさりするくらいだ。

 もともと魂の集合体なのだから当然と言えば当然なのだが、この世に実体化して他の生き物に影響を与えているわけなのだから、倒す方法がない訳ではない。


 銀のナイフや銀の弾丸などを使うのだが、これでも合体した魂が分裂するだけで、見かけ上は退治できたように見えるが、しばらくすると別の集合体となったりして復活する。

 中には結合の意識が強くて、ばらされても元の魂の集合体に戻る奴も多い。

 更にはその時に別の魂をも引き込んで、より大きな魔物になる奴までおる。


 これは、魔法攻撃によって魔物の息の根を止めたとしても同じことだと考えている。

 ここにある剥製は魔物たちを眠らせてから特殊な樹脂で固めたものであって、魔物たちの死骸そのものではないのだ。

 つまり、通常のやり方では魔物を本当にこの世から消し去ることは出来ず、時間をおいたら復活してしまうという事なのだ。


 これは、戦いで人間が犠牲になって本当に死んでしまうことを考えると非常に不利な状況だ。

 そこで、この弾の出番だ。

 この弾は先の戦争で人類を破滅に追いやった水素爆弾をモデルに作られているが、特殊な方法で放射能などは外には漏れない構造となっているから、使う方は安全だ。

 この弾が魔物に当たると、魔物の体の内部で6000度以上の熱を発生する。

 その灼熱で魂ごと焼き尽くしてしまうという物だ。

 ジミーに持たせて、先ほど試し打ちさせたのだが、うまくいったようだな。」

 所長は、金色に光る弾丸を一つ拾い上げてハルたちに見せた。

 クマゴン達を葬った弾丸であろう。


「でも、それじゃあ魂は生まれ変わることが出来なくなってしまいますね。

 死んだ者の魂は天国か地獄へ行って、そこで魂が浄化されて生まれ変わるんでしょ?

 魂が焼き尽くされたら、生まれ変わることが出来なくなってしまいます。

 それじゃあ、かわいそうです。」

 ハルが不満そうに唇を尖らせた。


「そ、それはそうだが・・・。

 でも、いまだに天国も地獄も空きがない状態が続いているはずだ。

 なにせ生き残った人間含めすべての生き物の数が減っているから、新たに生まれる生命の数も減っている。つまり新たに生まれる数よりも死に行く数の方が多いのが現状なんだ。


 これでは魔物たちが増え続ける一方で、ますます人間たちが住みにくくなってしまう。

 ある程度は魔物の絶対数を減らして、人間たちが住みやすい環境を整えなければ・・・。」

 所長はやむを得ないとばかりにハルたちを説得しようとした。


「いや、おいらもこのちびっこが言っていることが、正しいと思うようになってきた。

 全ての生き物たちは不完全であり、であるからこそ過ちも犯すもんさ。

 だからこそ、死んでからそれまでの過ちを浄化して、新たに生まれ変わって行くんだ。

 そうやって魂が成長していくんだと思う。


 その魂を焼き尽くしてしまっては、魂の成長も望めないよね。

 それに、本来なら天国へ行くはずだったのに、空きがないから行けなくて魔物になった奴だってたくさんいるはずだ。

 おいらも実験の片棒を担がされていたけど、もうやめます。これは返します。」

 ジミーは腰にぶら下げていたマシンガンの弾のカートリッジを所長の机の上に置き、代わりに銀の弾のはいったカートリッジを受け取った。


「そ、そうか・・残念だが仕方がない。

 言われてみればもっともだ。

 魂は生まれ変わって成長するのに、途中で消滅させてはいけないな。

 申し訳ない。人々の安全な生活を案じるあまり考え違いをしていたようだ。


 これからは魔物たちとの共存に力を入れて研究を進めるよ。

 そうすれば、少しずつでも生き物の数が増えて天国や地獄の空きも出来てくるだろう。

 地獄の空きが増えて待っていられるのも、困ったものではあるがね。」

 所長は納得したように笑って答えた後、新型の弾のカートリッジを保管庫にしまって鍵をかけた。



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