112話
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前日同様、何をするわけではないのだが、バスは国境付近の大きな建物の前へ停車した。
そうして、ジミーたちは荷物を抱えて建物の中へと入って行く。
形だけでも通関しないわけにはいかないのだろう。
そこには、いつの間に来たのか、執事のクロッキーと彼に連れられた若者の姿があった。
「先ほど、王様からご用命がありました、排他魔法の使い手と治癒魔法の使い手です。
どちらも若いですが、前途有望な若者たちです。」
クロッキーに紹介されたのは、背は高いが、まだ幼さが少し残る2人の青年だった。
「初めまして、ゴランと申します。
光の障壁など守護魔法も使いこなしますが、基本的には治癒術師です。
死んだものを生き返らせることは出来ませんが、それ以外であれば大抵の治療は可能です。
皆様のお役に立てるよう頑張りますので、よろしくお願いいたします。」
茶色の髪に黒色の瞳の青年は、自己紹介の後に深々と頭を下げた。
がっしりとした体格は頼もしい感じを印象付けるが、外観に似ず、ずいぶんと礼儀正しい様子だ。
「俺はネスリー、排他魔術師だ。
全ての魔法を無効化することができる。
俺がいれば、他の魔法使いは何もすることは無くなる。
なにせ、魔法という行為は全て打ち消されてしまうからな。
せいぜい、俺の足を引っ張ることが無いよう、気を付けて行動するようにしてくれ。」
こちらの方は、痩せてひょろっとしているにもかかわらず、随分と横柄な態度だ。
「自己紹介ありがとう。
おいらはジミー、警察官であり学校の先生でもある。
マイキー達に関しては、おいらたちよりも知っているかも知れないから、紹介は省くとして
こちらは、大魔道士であるミッテランさんと、冒険者であり魔法使いであるハル君とミリンダちゃん。
二人とも、年は若いが使う魔法の威力は相当なものだ。
更に、チベットから来た修行僧であるホースゥさん。
彼女は光の守護魔法と召喚魔法など、守備と攻撃両面で強力な魔法を扱う事が出来る。
その隣はゴローさんと言って、吸血鬼だ。
蝙蝠に変身して、空を飛んだりできる。
また、ダークサイドという、物理力が反転する、最高の切り札を持っている。
その他はおいらたちを助けてくれる、ありがたい存在の魔物達だ。
まずはトン吉さん。彼は・・・」
ジミーが引き続き、魔物たちを1体ずつ紹介していく。
「そうして、最後が今は巨大化出来ないので分割しているが、実際には数十メートルはあろうかという蜘蛛の魔物の兄弟達だ。
日本へ帰れば、巨大化した姿を見ることができるよ。」
各メンバーの紹介が終わり、互いに頭を下げて挨拶をした。
黄泉の国へ一緒に冒険をしたマルニーも含めて、当面はこのメンバーで活動して行く事になりそうなのだ。
マルニーに加えて、ゴランとネスリーが仲間に加わった。
「じゃあ、行くわよ。」
マイキーの号令で、建物の反対側へ回り込んできたバスとトラックへ分乗して、空港へと出発だ。
バスは山道を延々と下り、平坦な道に変わってからも更にひた走る。
やがて国境を越え、高いビル群がそびえ立つ近代都市を通り過ぎ、広い空港施設に到着した。
「じゃあ、ゴローが飛行機を嫌がるし、あたしたちが長距離の瞬間移動に慣れるためにも、別行動で帰るわね。」
ミリンダ、ハル、ミッテランに加え、ホースゥとゴローが、空港へ到着と同時に、真っ先にバスから駆け下りる。
「それは構わないけど、ホースゥさんは大丈夫なのかい?
この間は、随分と移動先が定まっていない様子だったけど。」
ジミーが心配そうに確認する。
「だから、それも修正する為に、練習がてら一緒に帰るのよ。
心配ばかりしていたら、先へ進めないわ。」
ミリンダは、きっぱりと返答をする。
対するホースゥは申し訳なさそうに、少し顔を赤く染めている。
「じゃあ、分った。十分に、気を付けて帰ってくれ。
多分、君たちの方が先に付くだろうけど、仙台市の所長の家にでも泊まって待っていてくれよ。」
ジミーは、分ったとばかりに大きく頷いた。
「かなりな長距離だから、当然ながら何回にも分けて瞬間移動しなければならないし、飛行機とそんなに時間的に変わらないかも知れないわね。
まあ、最初のうちだけは仕方がないわね。
慣れてくれば、回数も減るから移動時間も早くなるし、大人数を運ぶこともできるようになっていくわ。」
ミッテランが言葉を付け足す。
途中の休憩時の食料なのだろう、全員が缶詰などを詰めてバッグはパンパンだ。
「ああ、じゃあ、ホースゥさんの事もあるし、こっちが先に付いたら、やっぱり仙台で待っているよ。
向こうで落ち合おう。」
ジミーは笑顔でハルたちに手を振る。
「じゃあ、行きます。」
ハルの号令で、5人は一瞬で中空へと掻き消えた。
「ああっ!一体どうしたのですか?」
瞬間移動を初めて目にするのか、ゴランが驚きの表情を見せる。
「彼らは、瞬間移動で日本へと向かいました。
魔法の力で移動するのです。」
ジミーがゴランたちに説明をする。
「すごい魔法ですねえ。さすがだ。」
ゴランは、彼らが消えた空間をうっとりと見とれているようだ。
「ほお、やはり日本の忍者たちは、相当魔法の技術に長けておりますな。」
クロッキーは感心したように何度もうなずく。
「ふん、取るに足らない、見世物魔法さ。」
対して、ネスリーは、どうという事もないとばかりにそっぽを向いた。
「じゃあ、そろそろ飛行機に乗り込みましょう。」
ジミーに誘導され、クロッキーを残し全員が輸送機に乗り込む。
3人ほど人数が増えたのだが、5人は別行動なので、座席には十分な余裕がある。
米軍機は、そのまま空港を飛び立ち、日本へ向かった。
「では、迎えのバスに乗ってください。」
1日がかりで日本へ到着した一行は、仙台市郊外の飛行場に迎えに来たバスに乗り込む。
「わしは、合体して自分で歩いて行くよ。
その方が楽だ。」
蜘蛛の魔物の兄弟が積み重なり、淡い光を放つと、巨大な蜘蛛の魔物が現れた。
するとスパチュラに加え、飛び太郎、飛びの助がすぐにその背中へ飛び乗る。
そうして近代科学研究所へ到着した一行は、蜘蛛の魔物だけをグラウンドに残し、ビルの階上へとエレベーターで向かう。
会議室には、既に所長とハルたちが待ち受けていた。
「お疲れ様。向こうでの大体の話は、ミッテランさんたちから既に報告を受けた。
まあ、私を置いてきぼりにした件は、水に流そう。
相当に危険な冒険だったようだしな、私が行っても足手まといになるだけだったろう。
それはそうと、次に黄泉の穴が開くのは、半年も先なのだろう?
日本へ集合して、一体どうするつもりだ?」
所長は、不思議そうに尋ねてきた。
確かにそうなのだ。誰もが半年先に、もう一度マイキーの国へ出向く以外に方法はないと考えているのだ。
今ここで、何か出来ることは少ないと思われる。
「しかも天国への階段へ向かう先は何もわからんのだから、作戦の立てようもないのではないか?」
所長が念を押すように、問いかける。
「そんなことはないわ。
私の予想では、次に黄泉の穴が開くのは、ここ、日本よ。」
マイキーが突然口を開いた。
「どういうことだい?
ダロンボさんが何か教えてくれたのかい?」
ジミーが目を丸くして尋ねる。
「そんなことはなかったわね。
でも、言っていたでしょう、世界中に黄泉の穴があって、順に開いて行くって。
たまたまあの日に開くのが、私の国だっただけよ。
日本でも、黄泉の穴はあるはずよ。」
マイキーは平然と答える。
「そ・・・そりゃあ、ダロンボさんもそうはいっていたけど、実際に日本のどこかとか、何時開くとかまでは教えてはくれなかっただろ?
それは、おいらたちもあの場ではそこまで考えずに、聞きもしなかったからなのかもしれないけど。
でも、聞いたからと言って、教えてくれたかどうか・・・。
黄泉の国の事を、大々的に広めたいと言った風ではないように感じたよ。」
ジミーは残念そうに言葉を返す。
「ヒントは・・・、日本の象徴よ。」
マイキーはそう言いながら、みんなの顔を見回した。
『日本の象徴?』
誰もが、ピンとこずに首をかしげる。
「富士よ・・・、富士山。」
『富士山ー・・・?』
「そうよ、富士山はふじ・・・数字に直すと24(ふじ)と書けるわね。
つまり、2月4日に何かがあるのよ・・・その何かが黄泉の穴が繋がる日ではないかしら。」
マイキーは得意げに解説する。
「私は、黄泉の穴の事を知っていたから、この国でも同様の場所がないか、5年間ずっと各地の文献を探っていたのよ。
そこで、辿りついたのが富士山という訳。」
「そうか、富士か・・・。
あり得んことはない。」
所長も納得な様子だ。
「でも・・・、24でふじだなんて、なんかこじつけ臭い。」
ミリンダが、渋い顔をする。
「いや、そうでもないのだ、これが・・・。
言われて初めて気が付いたが、2月4日の前日・・・、2月3日は節分だ。
節分と言えば?」
今度は所長が、なぞなぞを出して皆の顔を見回す。
『鬼!』
みんな一斉に、ある事柄を思い出す。
「そうだ、節分の豆まきで鬼を払うが、もしかすると2月4日に黄泉の穴から出てくる鬼を、寄せ付けないようにしていた、風習なのではないかな。
その可能性が、充分に考えられる。
伝説や風習等に関して、それなりに意味や歴史的事実などの背景があったことが証明されたケースは、各地に存在するからね。」
所長は真剣な表情で答える。
「たしかに、言われてみればそう考えられなくもない。
ダロンボさんたち鬼には狂暴性はなかったけど、その風貌から、見かけた人たちは恐れおののいたに違いない。
逃げ惑ったり、もしかしたらその時たまたま手に持っていた、豆を投げつけた事もあったのかも知れない。
そうして鬼たちが引き上げるのを見て、鬼は豆を嫌うという事になり、2月4日の前日に鬼たちの苦手な豆をまいて、鬼を寄せ付けない風習が出来たと考えれば・・・、納得がいく。
トロンボ君が外の世界に興味を持ったみたいに、他の鬼たちも時々は現世へ出ていたのだろうからね。」
ジミーも納得とばかりに、手を叩く。
「ふうん、でもそうだとして、富士山に登ればいいって感じ?
頂上が、黄泉の穴に通じているとか?噴火口とか・・かな?」
ミリンダが、不思議そうに尋ねる。
「いや、そうではないだろう。
私は見てはいないが(・・・・・・・)、マイキーの国の山の中腹にある、深い洞窟の中が黄泉の国へ通じる黄泉の穴だったんだろう?
そうだとすると、富士山でも同じことだ。
色々と調査の文献はあるが、富士山の裾野には風穴と言われる多くの洞窟が点在しているようだ。
もしかすると、そのうちのどれかが黄泉の穴なのかもしれん。」
意味深なことば使いをした所長が、傍らに居た所員に何かを告げると、所員は部屋を後に出て行った。
恐らく、資料を取りに行ったのだろう。
「じゃあ、その洞窟を一つ一つ探していく訳ね。
どれくらいの数があるの?」
「わからん、今資料を探しに行かせた。
しかし、戦前でも全ての風穴が見つかっていた訳ではなさそうだから、簡単にはいかないかも知れない。
現地へ行って、確認するしか方法はないだろう。
とりあえず、ある程度絞り込みはしたいので、まずは資料の調査から始めるとしよう。
2〜3日待ってくれ。」
所長はそう告げると、会議室を後にした。
「じゃあ、研究所の調査待ちという事で、おいらたちもお開きとしよう。
村へ戻ってもいいけど、またすぐに戻ってこなくちゃいかないから、ここへ泊るか?
ハル君たちの授業も、マイキーとおいらがいれば十分できそうだし、新しいメンバーも入ったから、親睦も含めて行動を共にした方がいいね。」
ジミーが残ったメンバーに、今後の対応をどうするか問いかける。
「そうね、瞬間移動で戻るのは簡単だけど、次の冒険が近いのなら、ここでみんなで過ごしていた方が、都合がいいわね。
どうせ、永い旅をすると言って出て来たのだし、残りましょ。」
ミッテランも、ジミーの提案に賛成した。
「じゃあ、釧路のメンバーは所長の家に泊めてもらうとして、マイキー達はどうする?」
「私は、ここに自分の家があるから、マルニーは一緒で構わないわ。
でも、あまり広くはないから、ゴランとネスリーはこっちに泊めて。」
マイキーは、相変わらず無表情で答える。
「じゃあ、分った。蜘蛛の魔物には、申し訳ないがグラウンドで寝泊まりしてもらう事にして、他の魔物たちは所長宅に十分な余裕があるから、大丈夫だ。
とりあえず、食堂で夕食にしてから、部屋へ向かおう。
ちょっと所長にお願いしてくるよ。」
そう言い残して、ジミーも部屋を出て行った。
「あのう、一つ質問があるのですが。」
突然、ゴランが口を開いた。
その視線の先には、ミッテランがいる。
「何か?私で答えられることなら、なんでも答えるけど?」
ミッテランは突然の問いかけに、不思議そうな顔をして言葉を返す。
「はい、あなたの左腕は少し特殊ですが、何かメリットはあるのですか?
その方が、使いやすいとか、動きが早いとかですか?」
ゴランはおもむろにミッテランに近づくと、その左腕を遠慮なく触りまくった。
それは、先ほどまでの礼儀正しい姿とは正反対の暴挙にも映る。
しかし、彼に伝わる感触は、只の木製の義手そのものでしかなかった。
期待していたような、特殊な機能を持った装置ではないようだ。
「あ・・ああ・・・。
これは仕方がないのだ、過去の魔物たちとの戦いで・・・、不覚を取った。
しかし、魔法で動かせるので、義手でも普通の生活なら不自由はない。」
ミッテランは、戦いで失った腕を恥じるかのように、顔を赤く染めながら答える。
「ああ、そうでしたか。
大変、失礼なことをいたしました。
あなたたちの魔法では、この腕は再生できなかったのですね。
ご無礼をお許しください。
ずっと気になっていたもので・・・。」
ミッテランの返事を予想していなかったのか、ゴランも顔を真っ赤にしながら頭を大きく下げ、言葉を続ける。
「では、私が再生してあげましょうか?」
「えっ・・・?」
一瞬、その場の空気が固まった。




