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111話

黄泉の国の謎はどうなっているのか。 天国への階段編スタートです。

                       1

「やれやれ、どうやらマイキーはここが自分の生まれた国だという事を、すっかり忘れてしまっているようだな。」

 マイキーが日本へすぐに引き返すと言って、奥へ引っ込んで行ったことに、国王は悲しそうにため息をついた。


「多分、出発の準備をしているのだろう。

 しばらく時間がかかるので、ちょっと、この年寄りの話を聞いては頂けないでしょうか?

 なあに、この国の建国に関わる話で、つまらん事ではあるが、時間つぶしにはなるでしょう。」

 国王は、至極絢爛豪華で立派な玉座から身をのりだし、おもむろに話し始めた。


「は、はい。勿論、ありがたく、お言葉を頂戴いたします。」

 ジミーが代表して、右ひざをついた体勢で頭を下げたまま答える。

 威厳ある国王の雰囲気に押され、全員体を堅くしたままだ。


「いや、そんなかしこまった姿勢はお止めくだされ。

 わが娘、マイキーの盟友と先ほどおっしゃられたではないですか。

 ただの友達の親の話程度に聞いてくだされ。」


 国王に、やさしく言われ、ジミーもハルたちも緊張を解き、ようやく少し楽な姿勢で国王を見つめた。


「我が国は、元はS国へ属していたと表向きにはそうなっておるが、当初S国は認めていなかった。

 戦後の最近になって、ようやくそう言った表現が、許されるようになったのです。

 もともと、我が地域は国境沿いにあり、周辺4ヶ国と接する環境にありました。


 その為、周りの国から人々をさらいにやってきていて、そう言った迫害が何世紀にも渡っていました。

 そのような恥ずべき歴史を持った地域を、自国として受け入れる国があるはずもなく、人道的立場から人身売買のような行為を止めるよう計らってくれた時にでも、独立国として自分たちで自分たちの事を守るよう、申し付けられたのです。


 独立してようやく迫害の歴史から逃れられると考えたのもつかの間、すぐに最終戦争とも言える世界戦争が勃発しました。

 魔法を使える我が国民の事を知っている国が多かったのか、戦争が始まってすぐに我が国上空には巨大な核爆弾が降ってきました。


 人類が対抗できない力を持っているかもしれない我が国民を、早々に抹殺してしまおうと考えての事でしょう。

 当時のわが国には、それなりに攻撃魔法に長けた者も居たので、爆弾を弾いて近隣の国へと進路を反らせることも、発射した国へと送り返してやることもやろうと思えばできました。


 しかし、わしらはそうはしなかった。

 あえて爆弾を受けることにしたのです。」

 国王の口から、とんでもない過去が話されようとしていた。


『ば・・・爆弾を・・・?』

 誰もが異口同音の言葉を口にする。


「そうです。あえて攻撃を受け、そのような行為は一切無駄であることを、分らしめようとしたのです。

 まず、数名がかりで光の障壁で爆弾を取り囲み、万一の場合に備えました。

 そうして、障壁の中で爆弾の破壊力を無効にすべく、魔法で打ち消して行ったのです。」


 国王の言葉に、ハルたちは最初の冒険で、ハルとミリンダが魔封じの魔法を使って核爆弾の爆発を止めようとした、苦い経験を思い出した。

 魔法使いとして未熟だったハルたちには無理でも、成熟した魔法使いであれば、同様の事が可能という事だろうか。


「十名の排他魔法使いが犠牲とはなりましたが、それでも最小限の爆発で済み、光の障壁内だけで外には被害が及ぶことは避けられました。

 光の障壁を操っていた、5名の守護魔法使いも、この時に犠牲になりました。

 しかし、それでも最小限の犠牲で被害を防ぐことができたと、今でも考えております。


 S国には、この時の我が国の対応を評価され、元はS国に属していたという存在証明を許可されたと同時に、今もって友好的な関係が続いております。


 なぜ、今になってこのような事を打ち明けたのかと申しますと、我がまま娘が支度をする間の時間つぶしという事もありますが、我が国にもあなたたちのお役に立てるような魔法使いがいるという事を説明したかったのです。

 なにせ、5年前にマイキーが日本へ旅立った時には、忍者を連れてくるなどと言った絵空事を本気にはしておりませんでした。


 自慢であった兄姉の評判が地に落ち、更に好きでもない相手から結婚を迫られ、それらからただ逃れるために、日本へ旅立ったものと考えておりましたゆえ、マイキーには自由にさせておりました。

 しかし、あなたたちのような優秀な方たちがおいで下さり、この度一つのヤマを越えることができました。


 更なる問題解決へ向けて、少しでもあなたたちのお役に立つような者を選び、準備させておりますので、どうかご同行をお願いいたします。

 決して、あなたたちの足を引っ張るような者ではございませんので、お願いいたします。」

 そう言うと、国王は玉座に腰かけたまま、深々と頭を下げた。


「あ・・・ありがたきお心遣い・・・、感謝いたします。

 こちらといたしましても、一人でも優秀な仲間が増えることは、ありがたいと感じこそすれ、不満に思う事は全くありません。


 どうか、お顔をお上げください。

 こちらのほうが恐縮してしまいます。」

 ジミーに促され、国王がようやく頭を上げる。


「おおそうですか・・・、ではすぐに連れてこさせます。」

 国王はそう言って、配下の者に指示を出した。


 配下の兵は、すぐに謁見の間を出て行く。

 ところが、丁度行き違いのタイミングで、マイキーが戻ってきた。


「すぐに空港へ向かうわよ。」

 謁見の間の奥の扉の向こうへ引っ込んだマイキーは、十分もしないうちに戻ってきた。

 その手には、旅行用のキャリアーバッグのハンドルが握られていた。


「おいらたちは全員荷物をかたして、すぐに出発できるようにしているから、大丈夫だ。

 でも・・・折角5年ぶりに帰ってきた故郷なのに、いいのかい?


 もう少しゆっくりして行った方が、お父さんである国王様とか、兄弟の王子、王女様が喜ぶんじゃないのかい?」

 ジミーは先程まで身に付けていたヒラヒラのドレスから、体のラインが強調される、薄手のセーターにタイトスカートという見慣れた格好に戻ったマイキーに、心配そうに尋ねた。


「いいのよ、国民優先!」

 そう言いながら、マイキーは謁見室の入り口ドアへ、スタスタと歩いて行く。


「国王様が、おいらたちをサポートする魔法使いを付けて下さるって言っているんだ。

 もう少し、それを待たなければいけない。」

 ジミーはそう言って、マイキーを呼び止める。


「平気よ、小さな国だもの。そいつが家に居たところで、すぐに来られるでしょ。

 税関で待たせておいて。」

 マイキーはそう言い残し、謁見の間を出て行こうとする。


 ジミーが国王の方へ振り返ると、国王はどうぞそのままとでも言わんばかりに、右手を小さく振ってサヨナラの挨拶をしているようだ。

 仕方なく、ジミーたちも荷物を持って後に続く。


 ハルが心配そうに後ろを振り向くと、手を振っている国王が実に寂しそうな顔をしているのが辛かった。

 長い通路を通って大広間を抜け、入って来た大きな扉の玄関を通って外に出る。

 待ち受けていたバスとトラックに、いつものように分乗して、さあ出発。


「待ってください、私も参ります!」

 すると、バスの右後方から若い女性が呼び止め、運転手はすぐにバスを停車させた。

 バスのドアから乗り込んできたのは、誰あろうマルニーだった。


 彼女を乗せると、バスはゆっくりと発車した。

 よほど急いで詰め込んだのだろう、柔らかい素材のキャリーバッグはごつごつとあちらこちらが変形して突き出しており、綺麗な直方体になっていない。


 しかも、閉まりきらないチャックの口元から、白い布切れがはみ出している。

 自宅への往復で着替える暇もなかったと見え、着ているのは先程までと同じく、ヒラヒラのレースのスカートのワンピースドレスだ。


(この格好で日本まで行くのだろうか。

 飛行機とは言っても、只の輸送機なのだが・・・)とジミーは、その様子を少し気の毒に感じていた。


 すると、彼女はそのままバスの最後尾へ向かい、そこでおもむろに持ってきたキャリーバッグを開けると、ドレスを脱いで着替え始めた。

 彼女の姿を目で追っていたジミーは、思わず目を反らし、ついでに隣の座席に座っているハルの頭も押さえて、後ろを見せないようにした。


(目の毒、目の毒・・・。)

 ジミーはそう呟きながら、ぎゅっと目をつぶっている。


「どうもすみませんでした。

 あなたが色々と質問して下さったおかげで、ムーリーのしでかした悪だくみが明らかになったというのに、あんな形で穏便に終わらせてしまって。

 国王による厳粛な審判と見せかけて、身内可愛さと言われても仕方がない、結果となってしまいました。」


 サングラスをかけたまま、しっかりと目を閉じて、更に頭を下げて絶対に後ろに目が行かないように耐えているジミーの右わきから、声が聞こえてくる。

 その声はマルニーのものとすぐに判った。


「い・・・いえ、おいらも国王様が最初に判決を下された、死を持って償うという罰は、あまりにも重すぎると思っていました。

 まあ、王族の方たちの名誉を穢したのですから、普通なら当然とも感じられますが、それにしても何とかならないものかと考えていたものです。


 だから、あのような穏便な結果に収まって、おいらもほっとしております。」

 ジミーは目をつぶって頭を下げたまま答える。


「そうですか、お優しいんですね。

 それはそうと如何なさいました?

 ご気分でも、悪いのでしょうか?」


 マルニーにそう言われて、ジミーが頭を下げたまま、恐る恐る目を開けると、既にマルニーは着替えが終わって、ジミーの右後方の座席に座っていた。

 マイキーの隣の席だ。


 彼女も、この季節には寒いのではないかと思われるくらい、体にピッタリの薄手のセーターに、黒のタイトスカートに黒のストッキングという格好だ。

 体の線がはっきりと見て取れる様な、なまめかしい格好の美女二人が並んで座っている様は、まさに圧巻だ。


「い・・・いえ、具合は悪くはありません。

 もう、お着替えになられたのですね。」

 ジミーはようやく顔を上げて、笑顔で後ろを振り向く。


「あ・・・ああっ、すいません、気を遣わせてしまいました。」

 マルニーはようやく、ジミーたち男性が一緒に居る狭いバスの中で、若い娘が着替えをしたのだという事を認識したのか、耳たぶまで真っ赤に染めて俯いた。

 どうやら、マイキーに遅れずについて行く事ばかりに気が行って、周りが見えていなかったと思われる。


「でも、マイキーに続いて、マルニーさんまで日本へ向かわれるという事ですけど、大丈夫ですか?

 その・・・内務大臣とおっしゃっていましたけど、お仕事の方は・・・。」

 ジミーが心配そうに尋ねる。


「はい、内務大臣と申しましても、小国ですし、今はそれほど忙しくはありません。

 今回、皆さんがお見えになられて、我が国の為にお力をお貸しくださった件のお礼も兼ねて、日本を訪問して友好関係を構築するとともに、内政状況を勉強させていただくという名目で、出張にしてまいりました。


 公式な訪問ですから、問題ありません。」

 マルニーはジミーの質問に満面の笑顔で答える。


「でも・・・、現状の日本は首都すらはっきりとはしていない状態です。

 それなりに文化的な生活ができる都市はいくつかありますが、国としてのまとまりはまだできておりません。

 また、外国と国交を結ぶという件に関しては、簡単には事が進まないと考えています。


 いまだ、戦後の混乱から脱出できていない状態ですが、よろしいのでしょうか?」

 ジミーはそれでも心配とばかりに尋ね返す。


「ええ、全然問題ありません。

 友好関係を結びたいのは当然ですが、国交をすぐに結べなくても問題はないのです。

 また、内政状態が不安定でも構いません。


 なにせ、そんなことはあくまでも出張の名目でしかありませんから。

 私の目的は、マイキー姉さまをお手伝いして、行方不明になった国民たちを黄泉の国から救い出す事です。」

 マルニーは、はきはきと答える。


「だったら、このままこの国に残られても、さほど変わりはないかと考えますがね。

 マイキーは日本へ帰って作戦会議だなんて言いましたけど、会議をしたから如何こうなるとも、今の時点では何とも言えませんよ。


 結局は、半年先に戻ってきて、あの黄泉の穴から救出に向かうなんてことになりかねないのですよ。

 それでもいいのですか?」


 ジミーはなおの事、問いかける。

 なにせ、もしそうなった場合、彼女は半年間何をすることもなく、棒に振ることになるのだ。


「いえ、それでも構わないのです。

 私が国を離れることも、目的の一つではあるのです。」

 マルニーは、思いもかけないことを口にした。


「へっ?もしかすると、あなたも誰かに結婚を迫られているとかですか?」

 ジミーが、彼女も5年前のマイキーと同じ状況なのかと、瞬時に思い当たった。


「いえ、そんなことではないのです。

 私の兄のムーリーは極刑を免れたとはいえ、国王様がおっしゃられた通り、この小さな国では居場所がないくらい、その恥ずべき行いが全国民に知れ渡ってしまいました。


 しかし、彼は内弁慶と言いますか、外国へ行ってやり直すなどと言ったことが全くできない、弱虫なのです。

 でも、一つだけ特技があります。

 それは私と同じく、一目見るだけで、その人の能力を見極める力です。


 この能力は、登用した役人の適性をみて、適材適所に配置する時に大いに役立ちます。

 様々な能力者がいる我が国でも、この能力を持っているのは私とムーリーだけです。


 ナノミクロン家の執事であるクロッキーにも同じような能力がありますが、彼の場合は相手の能力よりも好みを把握することに長けていて、能力の見極めは弱いのです。

 その能力は、外国から訪れた要人のもてなしなどには役立つため、彼は外務大臣の補佐的な役割もしております。


 その為、私が国を離れれば、ムーリーに頼らざるを得ない状況となります。

 あのような事をしでかしたとはいえ、実の兄ですので、何とか立ち直る機会を与えてやれないかと考えていたのですが、丁度良い機会ととらえ、私が日本へ向かう事に致しました。


 その為、数日とか数週間とは言わずに、年単位での滞在を希望いたします。」

 すっくと立ち上がったマルニーの瞳には、決意が感じられた。



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