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110話

                   18

 来た時同様に、バスとトラックに分乗して、ホテルへ向かい宿泊手続きをした後は、各自何も言わずに部屋へ直行だ。

 考えて見ればハルたちは、この旅で初めてホテルの部屋で宿泊することになる。

 いくら野宿に慣れているとは言っても、ようやくぐっすりと眠ることができただろう。


 既に夜明けに近い時間であったのと疲れが出たのか、ハルが目覚めたのは既に10時を回っていた。

 身支度を整えてホテルのロビーへ出てみると、既にジミーやミッテランはロビーでくつろいでいた。


 ミリンダを迎えた後で、少し早目の昼食をとってから、部屋へ戻り荷物を片付けて再びロビーへ戻ると、迎えの車が到着していた。

 バスとトラックに分乗して向かった先は、広い敷地の大きなお屋敷だった。


「ナノミクロン城へようこそ。」


 綺麗に手入れされた庭園の片隅の駐車場でバスから降りて、大きな扉の正面玄関へ向かうと、その両脇に立番していた軍服姿の兵士たちに、笑顔で挨拶された。

 兵士たちが扉を開けてくれて中へ入り少し進むと、そこは巨大なシャンデリアが吊ってある、大広間だった。


「へえ、綺麗・・・・、本当のお城みたいねえ。」

 ミリンダがうっとりと辺りを見回す。

 洋式の窓にはレースのカーテンがかけられ、窓枠にも綺麗な装飾が施してある。


「ご苦労様でした。

 皆様のご活躍のお礼をしたいと、国王陛下が謁見の間でお待ちです。

 どうか、奥へとお進みください。」


 出迎えてくれたのは、綺麗なドレスに身を包んだ、マルニーだった。

 マルニーの示す方向に、ハルたちは進もうとしたが、トン吉たち魔物はその場で歩みを止める。

 先へと進みたがる、レオンをトン吉が抱えて押しとどめている格好だ。


「どうしました?皆さんをお待ちしております。

 どうかお進みください。」

 そんなトン吉たちの様子を、不思議そうにマルニーが見つめる。


「あ・・・あっしらのような魔物連中が、王様の所へなんか出向いてもいいんですかい?」

 トン吉が少し緊張気味に尋ねる。


「もちろんですよ。

 あなたたちのご活躍がなければ、今回の探索はうまくいかなかったのですから。

 国王にも、そう報告しております。


 ですから、ご遠慮なさらずに・・・、但し、大変申し訳ありませんが、蜘蛛の魔物さんだけは・・・代表の方というか代表の蜘蛛だけ、2〜3体だけの参加でご容赦ください。」

 マルニーは申し訳なさそうに、頭を下げる。


「そうかい?それだったら遠慮していた兄貴を連れて来るよ。

 ちょっと待っていてくんな。」

 マルニーの言葉に、嬉しそうにスパチュラは玄関へと駆けて戻って行った。


「すいません、少し待っていてください。」

 ジミーはマルニーの元へやってきて、頭を下げる。

 数分後、スパチュラは2体の手のひらサイズの蜘蛛を連れて戻ってきた。


「では、参りましょう。」

 マルニーは優雅な足取りで先導していく。


 大広間を越え、長い廊下を歩いて行くと、突き当りに衛兵が立っている扉がある。

 どうやらそこが、謁見の間のようだ。

 マルニーに従い、一同緊張の面持ちで中へと入って行く。


 そこは、30畳ほどの小ホールとも言えそうな部屋だった。

 部屋の奥は少し高いステージのようになっていて、そこには豪華な椅子が置かれている。

 真ん中のひときわ大きな椅子には、白髪の恰幅のいい中年男性が鎮座している。


 真っ赤なガウンを羽織ったその姿は、冠をかぶってはいないが、やはり国王だろう。

 そのすぐ横には、紫色の煌びやかな軍服に身を包んだ青年が一人、椅子を挟んだ反対側には豪華な純白のドレスに身を包んだ美女が二人、立っている。


 美女の1人には見覚えがある。

 誰あろう、マイキーだ。

 そうすると、もう一人の美女はマイキーの姉のミンティア第1王女で、反対側の青年が兄であるスターツ第1王子だろう。


 二人とも、不名誉な嫌疑が晴れて、ようやく公の場に戻って来たと言ったところであろう。


「おお、おお、遥か遠く忍者の国からおいで下さった勇者たちよ・・・、そなたたちの活躍のおかげで、我が子供たちの不名誉な記録を拭い去ることができました。


 本当にありがとう。

 感謝を表す言葉が見つからないくらいです・・・。」

 国王は、その立派な風貌とは違い、やさしく丁寧な言葉で感謝を告げる。


「もったいなきお言葉。

 そちらにいらっしゃいます、マイキー姫は我らが盟友と言ってもいいほどの関係でございます。


 友が困っていて、自分にできることがあるのであれば、それを助けるのは当然の事。

 大げさに感謝されるべきこととは、考えておりません。」


 珍しくジミーが神妙に答える。

 そういえば、城へ入ってからはサングラスも外しているようだ。


「おお、そうですか・・・、そのような素晴らしい関係を、今後も維持していただけるよう、私からもお願いいたします。


 まあ、お礼と申しましても、このような小国故、大したことは出来ませんが、どうかお受け取り下され。」


 そう言って、マルニーがハルたちの名前を一人一人読み上げ、国王自ら其々に勲章と記念品を手渡してくれた。

 何事にも動じないミリンダも、この時ばかりは緊張のあまり、足が震えていたようだ。


 なかでも、トン吉たち魔物は、人間のしかも一国の王に感謝の言葉を直接告げられ、列に戻って来た時には腰が抜けた様に、その場に座りこんでしまったほどだ。

 唯一レオンだけが平然と対応していた。


「さて、我が子供たち及びマイティ元親衛隊隊長の名誉は回復された。

 本日付で元の役職へ復帰する。


 そこで、現在中隊長以下の役職についている面々の処遇だが・・・、元はムーリー小隊として、黄泉の穴で7時間過ごして帰って来たという英雄と評価されていた者達だ。

 しかし、今回マイキー達の調査で、ムーリー小隊は一番簡単な最初のダンジョンへ足を踏み入れる事さえできなかった、腰抜けという事が分った。


 そのことを告げて再度証言を募ったところ、先へ進もうとする兵士たちにムーリーがどうしても進めないから入口へ戻るよう、泣いて懇願したこと。

 そうして現世へ戻って、スターツたちがすでに帰ってきているという事を知ると、自分達より先へ進んで行ったという事実を黙っているように、かん口令が敷かれたこと。


 そうしておけば、自分たちの得になると説得されたことを、各兵士たちが口をそろえて証言した。」

 国王は、無理に感情を押し殺しているかのように、淡々と調査内容を告げる。


「いやあ、分ってしまいましたか・・・、黙っていればそれなりの地位が約束されたものを・・・。」


 いつの間にか、ハルたちの傍に鋼鉄製の甲冑姿の男が混じって来ていた。

 ムーリーだ。

 彼は国王の言葉に、悪びれずに頭を掻いている様子だ。


「よって、それらの者たちは今の階級を剥奪する。

 元の1兵卒へ戻す。」

 国王の口調が少しきつくなったように感じる。


「いやあ、やっぱりそうですか・・・。


 そうなると僕も親衛隊隊長を解かれて、元の小隊長へ逆戻りですか・・・、ショックだが仕方がないか。」

 それに対して、ムーリーの反応は小さなものだった。


「しかしてその元凶とも言えるムーリー・・・、そちは実の兄であるマイティの名誉を貶めることもいとわずに、間違った証言をし、それがために我が子供たちは耐えがたい不名誉なレッテルを貼られることになった。


 そればかりか、不名誉を挽回しなければならない我が一族の弱みに付け込み、英雄と評される己の立場を利用し、娘のマイキーに結婚を迫った。

 本当に黄泉の国での異常に気づいていなかったのであれば、それでも許されよう。


 しかし、おまえは異常に気付いていながらその報告を怠り、あろうことか自分の部隊のメンバーに正常な報告をしないよう命じた。

 そのような恥ずべきことをしでかしたのが、我が親族であれば尚の事許しがたい。


 その罪は万死に値する、死をもって償え。」

 先ほどまでの優しい口調からは想像もできない、厳しい判決が下された。


「あ・・・う・・・。」

 それまで、へらへらとニヤついて聞いていた、ムーリーの態度が急変した。


 その表情は固まり、血の気の引いた顔は先程までと同一人物と思えない程であった。

 すぐに衛兵が駆けつけ、甲冑の両脇を抱えてその場から連れ出そうとする。


「お待ちください、国王様。

 私もマイキー姉さまに結婚を申し込むなどと言った、恐れも知れない大それたことをしでかした兄をたしなめようと、今回の探索隊に同行いたしました。


 愚かな兄の不埒な思惑は白日の下にさらされ、脆くも崩れ去りました。

 どうかこれ以上の弾劾は、ご勘弁いただけないでしょうか。

 いえ、自分の兄どころか、第1王子、第1王女様の名誉を汚した罪はぬぐえないのであれば、懲役などの刑でご容赦ください。


 どうか、死を持って償えなどという、極刑だけは・・・何卒・・・何卒・・・。」

 マルニーが衛兵たちにすがりつきながら、涙ながらに訴える。


「あんなヘタレとはいえ、死刑にするのは後味が悪いわ・・・。

 それに、小さな我が国は刑務所がないから、懲役刑を科すならS国へ預ける必要があるわね。


 あんな我が国の恥とも言えるヘタレを、他国に見せるわけにはいかないわ。

 そうなると・・・、出来る罰も限られるわね。」

 マイキーがボソッと国王に告げる。


「国王様、私からもお願いいたします。

 恥ずかしながら我が弟のしでかしたこと、出来心と簡単に片づけられることではないことは、重々承知の上でのお願いです。


 何卒、穏便なご配慮を・・・。

 私もふがいない弟の罰を、一緒に受ける所存でございます。

 まずは、復帰いたしました親衛隊隊長の地位は辞退させていただきます。」


 壇上の影に控えていたと見える、これまた立派な軍服に身を包んだ青年が、国王の元へ駆け寄って嘆願を始めた。

 どうやら、ムーリーの兄のマイティ親衛隊隊長のようだ。


「おやおや、今回の一番の立役者とも言えるマイキーに加えて、ムーリーに煮え湯を飲まされた形のマイティ親衛隊隊長までもが、あんな奴の減刑を申し出るとは。


 これでは、親衛隊隊長が居なくなってしまうのう。

 どうしたものか・・・。お前たちはどうだ?」

 そう言いながら、国王は笑みを浮かべながら左右に首を振る。


「私もマイキー達と同様な意見です。


 確かに、黄泉の国を制覇したはずの私たちを貶めたことは否めませんが、ムーリーだって我らが先へ進んだという事実は認識していたとしても、制覇したことは判ってはいなかったでしょう。


 もしかすると、そのすぐ先で逃げ帰ったと考えていたかもしれません。

 彼がしたことは、ただ単に、我々が先へ進んで行ったという事実を報告しなかっただけです。


 我々にも落ち度があります。それは、何の確認もせずに、現世へ続く扉を通って戻ったこと。

 それにより、数分で逃げ帰ったことになり、更に黄泉の国での記憶も失われてしまいました。


 黄泉の国での修行を終えた、一般的な帰り方であったとはいえ、なぜ今までにその国の事が語られてはいなかったのか、その時に深く思考すべきであったと考えます。


 記憶を失った今では、その時の我が考えは推し量る事しか出来ませんが、恐らく誰もが成し遂げたことがない、1回目にしての全ダンジョン制覇などと評され有頂天になり、何も疑うことなく勧められるがままに、現世へ続く扉から帰って来たものと考えます。


 愚かな行為でした。

 これが実際の戦場であれば、どんな小さな落ち度であっても死へ直結しかねません。

 今回、その死に匹敵する不名誉を押し付けられましたが、当然の報いとして甘んじて受けましょう。


 その嫌疑もマイキーたちの活躍で晴れましたしね。

 既に、彼に恨みはありません。」

 スターツ王子は、晴れ晴れとした笑顔で答える。


「私も、異議ありません。」

 ミンティア王女も同意した。


「よしわかった。


 ムーリーよ、やさしい兄弟たちの温情により、極刑どころか懲役すら免れさそうだな。

 だが、この不名誉は我が国民すべてが知ることになった。

 小さな国故、住みにくいぞ。」


 国王は、感情を殺すようにゆっくりとした口調で、ムーリーに告げる。

 もしかしたら、最初からこうなることを予想していたのかも知れない。


「は・・・はい・・・。


 ご厚情、ありがたく受け止めさせていただき、国の端にて細々と生きながらえてまいります所存です。」

 ムーリーは甲冑姿のままで、跪いて頭を下げた。


「どうやら、これで一件落着と言ったところですね。

 それでは、我々はお役御免という事で、帰らせていただきます。」


 ジミーは国王に深々と頭を下げ、別れを告げる。

 国王も、やさしい笑顔で何度もうなずいた。


「姫様大変です。」


 ところが、その和やかな雰囲気をぶち壊して、一人の男が駆け込んできた。

 胸元がヒラヒラのいかにも執事然とした服を着た、クロッキーだ。

 クロッキーは右手に数枚の用紙を持ったまま、振り向いたハルたちを通り過ぎ、マイキー達のいる部屋の奥へと駆けて行った。


「姫様たちは、今回地獄に留まっていた全ての国民たちを救出して来たとおっしゃられましたが、リストと照らし合わせてみると、全然足りません。

 今回帰って来た者たちは、8年前から黄泉の穴に扉が設置される5年前までの間に行方不明になったもの達の、しかも一部の者だけです。


 それ以前も含め、過去十年間に毎年数名ずつ行方不明になっている者たちが、まだ残っています。」

 クロッキーはマイキーに対して、手に持った用紙を指し示しながら説明している。


「そんなこと言ったって・・・、中に居た人々は外国の人たちも含めて、全員帰ってもらったわよ。

 今の地獄には、一人も残ってはいないわ。」

 マイキーは、クロッキーに対してぶっきらぼうに答える。


「そうよ、中には人が隠れていられるような場所はなかったし、誰も残ってはいないわよ。」

 ミリンダも、そう叫ぶ。


「もしかすると・・・、天国への階段か・・・?」

 ジミーがポツリとつぶやく。


「もう一度、黄泉の国へ向かう必要があるわね。」

 マイキーがすっくと立ち上がる。


「で・・・でも・・・、既に黄泉の穴は塞がって言いますし、次に開くのは半年先になってしまいます。」

 マルニーが困ったようにうつむく。


「そんなの待ってはいられないわ。

 とりあえず、日本へ帰って作戦会議よ。」


 マイキーはそのまま、奥のドアから出て行った。

 恐らく自分の部屋へ着替えに行ったのだろう。


「どうやら、冒険は終わってはいないようだね。」

 ジミーが、皆にそう告げる。

 


続く


一件落着かと思いきや、まだ行方不明者は残っていました。

さて、どうやって黄泉の国へ行こうとするのでしょう。

次回、黄泉の国編(天国への階段)は舞台を日本へ移して物語が展開します。


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