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108話

                  16

「どうしたっていうの?

 すぐに戻って、兄さんたちへの誤解を晴らさなきゃいけないのよ。

 こんなところで、のんびりとはしていられないわ。」


 マイキーはすぐにでも銀色の扉を開けて、現世へ戻りたい気持ちで一杯のようだ。

 珍しく感情をあらわにしている。


「だめだ、マイキーに依頼をされて、ここへ調査に来た訳だが、このチームのリーダーはあくまでもおいらだから、おいらの命令には従ってもらう。

 おとなしく一緒に戻ってくれ。」


 今度はジミーにしては珍しく、厳しい口調でマイキーに命令する。

 マイキーは渋々蜘蛛の魔物の背中へ乗り込んだ。

 そうして、丸太小屋へ一同Uターンする。

 勿論、地獄ステージから連れて来た面々も後に続いて歩き出す。


「われわれは、入口へ戻ります。

 そこからでも帰れますよね。」

 ジミーは蜘蛛の魔物の背中の上から、丸太小屋の入口でトロンボを押さえつけているダロンボにそう告げる。


「あ・・・ああ。

 入口からでも戻ることは出来る。


 しかし、先ほどおめえさんに言われたことだが、この世界での時間の進み方が十倍ってぇことがわしにも飲み込めてきた。

 そう言えば、わしらには、この国へ入って来た亡者たちは、必ずあの現世へ続く扉から戻さなきゃなんねぇっておふれがあるんだ。


 つまり、現世へ続く扉から出れば、現世と変わらない経過時間で出られるが、入口へ舞い戻った場合は、ここでの十倍の時間経過したまま、戻されてしまうんじゃあねぇのかぃ?

 だから、悪い事はいわねぇ、素直にあの扉から帰ぇりな。

 まあ、あとにも先にも、入口へ戻った奴らなんか、あの1回っきりだったけどな。


 仮にそれを望むんだとしても、せめて連れ出した老人たちだけでも、あの扉から返してやった方がいいんじゃねぇか?」

 ダロンボは、心配そうにジミーの顔を覗き込む。


「いえ、大丈夫ですよ、おいらは、もうちょっと別の事を考えています。

 しかも、もし、おいらの考えが正しければ、それほど大きなロスにはならないはずです。」

 そんなダロンボに対し、ジミーは自信たっぷりに答える。


「そ・・・そうかい・・・、だったら、止めやしねぇよ。

 でも、帰りだからと言って、ダンジョンを飛び越えて行く事は出来ねぇよ。


 しっかりとクリアーして行かなきゃなんねぇが、まあおめえさんたちだったら平気か。

 サービスで、第7、第6ダンジョンは、鬼も鬼の人形も出現しないようにしてやる。

 でも、他のダンジョンは駄目だ。


 設定を変えるのは、結構大変なんでな。

 それでいいか?」

 ダロンボは、あきらめた様に小さく首を振って、その後真面目な顔をして確認してくる。


「はい、そこまでして頂けるとはありがたいです。

 では、さようなら・・・。」


 ジミーがそう言うと、トロンボがダロンボの腕を跳ね除けて、蜘蛛の魔物の背中へと飛び乗って来た。

 よほど、ハルの事がお気に入りなのだろう。

 ようやくできた、人間の友達という事なのかもしれない。


 ハルの隣で、嬉しそうにしている。

 ハルも、まんざらでもなさそうに、笑顔でトロンボを迎える。


「おおっと、待ったぁ。

 トロンボが行くんじゃ、仕方がねぇ。

 わしも同行させてくれ。


 入口からそっちの世界へ飛び出されても大変だ。

 おめえさんたちは元の場所へ戻れるが、トロンボだけは今接点がある場所へと飛ばされちまう。


 また、行方不明になられちゃ、かなわねぇからな。」

 ダロンボは、仕方なさそうに丸太小屋の階段を下りて、蜘蛛の魔物の背中へと乗り込んだ。


「そうですか、予想はしていましたが、入るときは半年に1度の接続の時にしか入れなくても、出る時には自動的に元入った場所へと戻れるのですね。」

 ジミーは嬉しそうな笑顔で問いかける。


「ああ、そうさ。

 それぞれの亡者たちには、どこから入ったか印がついていて、どの出口から出ても、元の場所へと戻るってぇ仕掛けよ。


 人にやさしい親切設計だろ?」

 ダロンボは自慢げに胸を張る。


「じゃあ、行きましょう。」


 ジミーの号令で、蜘蛛の魔物がゆっくりと歩き出す。

 後ろには一般人が付いてくるため、いつものスピードは出すことができない。

 そうして、地獄ステージへの入口へと差し掛かった。


「じゃあ、長い道中となり申し訳ないが、このまま進んでくれ。」


 ジミーは止まって確認する蜘蛛の魔物に、進むよう指示を出す。

 そうして、先へ進むと、そこは何もない空間だった。


「おっとそうだった。地獄ステージは、基本的には各ステージごとに出口へと直結しているから、反対方向からは入れないんだった。


 だから、地獄ステージを突っ切って、第7ダンジョンへ出たようだな。」

 ダロンボが、突然思い出したかのように告げる。


「そうですか、それは助かります。

 でも、どうやらもうすぐ、この世界での夕方のようですね。


 今日の所は、ここまでにして、先へ進むのは明日にしましょう。」

 ジミーは、第7ダンジョンでキャンプをはるよう指示を出した。


「駄目よ、すぐ報告しなければならないから、休まずに先へと進むのよ。」

 そんなジミーに、マイキーが反発する。


「いや、蜘蛛の魔物の背中に乗っている我々だけならともかく、歩いて付いてくる人たちがいるんだ。

 彼らの事も考えてやってくれ。しかもみんな、かなりのお年寄りだ。


 それに、第7、第6ダンジョンには何の仕掛けもないって言っていたから、休憩するにはここがうってつけだ。

 なあに、明日1日あれば十分に戻れるから、今日の所はここで休んで、体力を回復しよう。


 ハル君たちの授業もしなければならないからね。

 今日は、科学と社会だ。

 マイキー、頼むよ。」


 ジミーは蜘蛛の魔物の背中から降りて、テントを張りだした。

 トン吉と飛び太郎、飛びの助やレオンも手伝って、今回は3つテントを張る。

 2つは地獄ステージから連れて来た、一般人向けのものだ。


 その間、マイキーは渋々ハルたちの授業を始めた。

 前日同様、ハルの隣には手持ち黒板を持ったトロンボが座って、一緒に授業を受けている。


 その様子を見ているダロンボの表情は、複雑なようだ。

 あまり、人間たちの習慣に親しむことを、うれしく思ってはいないのだろうか。

 マイキーが早々に授業を切り上げた後、ハルたちは昨日と同様に、トロンボと遊び始めた。


 この時は、ダロンボも加わって、大いに騒いだ。

 やがて、暗くなってから食事となった。

 1ヶ月分の食料を持ち込んでいた為、大勢の一般人が加わっても、量的にはずいぶんと余裕がある。


「こりゃあ、うめぇなあ・・・。」

「スッパ!スッパ!」

 トロンボと一緒に、ダロンボも缶詰の食事をおいしそうに平らげた。



 翌日、朝食を終え出発となった。

 マイキーは既に蜘蛛の魔物の背中に乗って、早く出発する様催促をしているようだ。


「一般の人の足では、急いでも各ダンジョンを進むのは1日以上かかると、ダロンボさんは言っていましたね。」


「ああ、そうだ。」

 ジミーの問いかけに、ダロンボが頷く。


「ミッテランさん、ここで瞬間移動は出来ますか?」

 ジミーが今度は、ミッテランの方を向いて尋ねる。


「ええ、大丈夫よ。


 太陽は見えないけど、ダンジョンごとに中はそれなりに明るいし、蜘蛛の魔物の背中の上とはいえ、歩いて進んだ軌跡が頭の中に入っているから、ダンジョン内であれば入口まで飛べるわ。」

 ミッテランは、問題ないとばかりに、何度も頷いて見せた。


「でも・・・、いっぺんに連れて行けるのは十数人までよ、結構距離もあるしね。

 一般の人たちは30人ほどでしょ。


 彼らの世話役にマイキーさんとマルニーさんについてもらうとして、3回に分ける必要があるわね。」

 そうして、更に言葉を継ぎ足す。


「ああ、それなら丁度いいですよ。

 そうやって、何度か瞬間移動している間に、おいらたちが蜘蛛の魔物と一緒に移動すればいいんです。


 マイキーとマルニーさん、降りてきて。

 一般の人たちを瞬間移動してもらいますから、一人は先へ一緒に行って、もう一人はここへ残って、残った人の世話をしてください。」


 ジミーがマイキー達に告げる。

 ここでの進み方を理解したのか、マイキー達はすぐに降りてきて、一般人たちに説明を始めた。

 なにせ、瞬間移動などした事がない人々だから、最初のうちは大変だ。


 そうして3つのグループに分けて、マイキーが先頭グループと一緒に瞬間移動することに決まったようだ。

 十数人が一瞬で姿を消す光景に、驚きと歓声のような、ざわめきが生じる。

 その様子を見定めて、ジミーは蜘蛛の魔物に先へと進むよう指示を出した。


 このダンジョンでは、何の障害もないので蜘蛛の魔物はフルスピードで進んだようだ。

 1時間もかからずに、次のダンジョンとつながる暗闇の空間手前まで到着した。


「丁度、3組目の瞬間移動が終わった所よ。

 次へ進みましょう。」


 ミッテランとマイキーはジミーにそう告げると、集団の先頭に立って暗闇の空間へ歩き出した。

 どうやら、マルニーが最後尾で、はぐれる人が出ないよう監視する役目のようだ。


 ジミーは蜘蛛の魔物に、集団を怖がらせないようにゆっくりと歩くようお願いした。

 そうして、次の第6ダンジョンも何の障害もないため、すぐに突破できた。

 第5ダンジョンは、針のむしろだ。


 ミッテランとマイキーは、先ほどまでと同様に、グループ分けした集団と瞬間移動する。

 こちらのグループにとっては、ダンジョンの障害は無効だ。


 ハルとトン吉は蜘蛛の魔物の先頭に立って、進む速さに負けないよう草を燃やす準備をする。

 既に、蜘蛛の魔物は自分の糸を短く吐きだし、それを各足の裏に貼り付けて、準備万端だ。


「ここでも、長く伸びあがる機能は中止だ。

 短いままの針のむしろにしておくから、進んでくれ。

 なんせ、おめえさんたちの場合は、特別仕様だったからなぁ。


 それだったら、燃やさなくても歩いて行けるだろぅ?

 手入れが大変だから、草を燃やすのは勘弁してくれ。」


 蜘蛛の魔物の背中の真ん中あたりに座っているダロンボが、頭を掻きながらハルたちにそう告げる。

 そう言われて、ハルたちはそそくさと引っ込み、蜘蛛の魔物は糸を下駄代わりに歩き出した。


 少し歩きにくさはあるようだが、それでも伸びあがる草を燃やしながら進んだ前回よりは速いペースで進んで行く。

 1時間ほどで、ダンジョンの入口へと辿りついた。


 既に、ミッテランたちは3組の移動を終え、待っていた様だ。


「じゃあ、次のダンジョンへ進みましょう。

 休みなしでも大丈夫かい?」

 ジミーが蜘蛛の魔物に、ねぎらいの言葉を掛ける。


「ああ、わしは平気だ。

 こうして長い距離を歩いていると、お前さんたちと一緒に東京まで行った時を思い出すぜ。


 あの時は仕掛けなんかなかったが、深い谷や断崖絶壁はあったし、山や砂漠もあった。

 結構大変だったが、歩きとおしただろ?」

 蜘蛛の魔物は平然と暗闇の空間へと歩を進める。


 こうして、次の雷ダンジョンはゲーム感覚で進み、灼熱地獄はハルとミリンダの魔法で、極寒地獄はミリンダの魔法で乗り越えながら進んだ。


「なんか、雷も数は少なかったし、灼熱も極寒も温度的にそれほど厳しくはなかったわねえ。」

 3つのダンジョンを渡りきったところで、ミリンダは物足りなさそうに呟いた。


「そりゃそうさ。さっきも言った通り、おめえさんたちの時はあまりにも簡単に進み始めるもので、特別仕様で対応したというわけさ。

 全ダンジョン、最大出力でな。


 一般の場合の条件は、今回のように緩めなのさ。

 なにせ、苦手を見つけるためで、人を傷つけるのを目的としてはいないからな」


 ダロンボは、にこやかな笑顔で答える。

 そうして、最後のつり橋も、蜘蛛の魔物が渡した糸を辿って、難なく乗り越えた。


「さあ着いた。意外と時間はかからなかっただろ?」

 ジミーは蜘蛛の魔物の背中から降りて、マイキーの元へと近づいて行き、意気揚々と話しかけた。


「ま、予想してたよりは早かったわね。

 じゃあ、出ましょ。」

 マイキーはぶっきらぼうに答える。


「それじゃ、お別れだね。」

 ハルがトロンボの手を握って目を見つめる。


「ハルー、ハルー。」


 トロンボは別れを分っているのか、悲しそうに目に涙を溜めている。

 そんなトロンボの頭をやさしく撫ぜながら、ダロンボが何か耳打ちをした。

 すると・・・。


「さよ・・なら・・・、また・・・きて・・。」

 トロンボが片言の言葉で、別れを告げる。


「うん・・・うん・・・、きっと、また来るよ。」

 ハルも目に涙を溜めながら、握ったトロンボの手を何度も上下に振った。


「じゃあ、このままでは出られないから、分解してくれ。」

 ジミーの合図で、蜘蛛の魔物は3百ほどの兄弟達に分割した。

 そうして、黄泉の穴へ続く暗闇を一行は真っ直ぐに進んで行った。



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