104話
12
「何もないわよ・・・。」
マイキーはぶっきらぼうに、前を向いたまま呟くように答える。
「済みません・・・、私たちは魔法が使えないのです。
我が国では魔法が使えずに、農作業に貢献できないものが、役人や軍人になっているのです。
国の人々の大半が、魔法が使えるのですが・・・、長い間、他の地域へ攫われていく迫害が続いていました。
その影響か、魔法が使えない者の一族が長く地に留まる事が出来、土地を開墾し大地主となって行ったのです。
そうして、国の半分以上の土地を所有しているマイキー姉さまのお父上が、初代国王として選ばれたのです。
それでも、魔法が使えない代わりと言ってはなんですが、一族の面々には特赦な能力が備わっております。
国王はじめ、第1王子、第1王女共に文武に秀でておられ、ご兄弟共にS国の国立大学を首席で卒業され、更に第1王子がフェンシング、第1王女が空手の世界チャンピオンでもあります。
まあ、今この世界では世界大会に参加できる国もほとんどないので、ローカルチャンピオンなのですがね。
第2王女のマイキー姉さまは、語学が堪能で世界中の言語を幼少時から取得されていました。
私は・・・、一目見ただけでその人の能力が分ります。
でも、それだけで、この場で役に立つようなことは、何も出来そうもありません。」
マルニーは申し訳なさそうにうつむいた。
「そ・・・、そうなの。でも別に、魔法が使えないからって、そんな悪い事でもないのよ・・・。
かえって、冒険だのなんだのに誘われるわ、最初からメンバーに入っているわで、ろくなことがないのよ。」
ミリンダが焦って、落ち込むマルニーを励まそうとする。
「そうそう、大丈夫。
おいらなんて、魔法学校へずっと通っているけど、ちっとも魔法が使える様にならないし・・・、人それぞれ得意分野があるわけだから、お互いに助け合って行けばいいのさ。」
更に、ジミーも加わって来た。
「でも、そうなると・・・本当に打つ手なしってところね。」
ミリンダが腕を組んだまま唸る。
「あまりやりたくはない方法なのだが・・・、わしの糸を短く切って粘着玉でそれぞれの足の裏に貼り付けることができる。
蜘蛛が蜘蛛の糸に絡まったみたいで見栄えは悪いのだが、この程度の長さの針なら問題はないだろう。」
突然、蜘蛛の魔物が口を開いた。
「あ・・・ああ、そうかい。そいつは名案だ。
ちょっと試してくれるかい?」
ジミーの依頼に応じて、蜘蛛の魔物は短く吐きだした糸に粘着玉をつけ、其々の足の裏に貼り付ける。
そうして、緑のカーペットとも言える針のむしろに足を踏み出した。
「おお、平気だぜえ。さあ、乗りな。」
蜘蛛の魔物は、姿勢を低くしてみんなをのせる体制を取る。
みんな急いで背中に乗り移り、ようやく出発だ。
「おおっ?おっちっち!」
ところが、蜘蛛の魔物が一歩踏み出した途端、草が一気に伸び1メートル以上の長さになってしまった。
これでは、蜘蛛の魔物の糸も貫通してしまう長さだ。
「どうやら、簡単には通さない雰囲気ね。」
それを見たミリンダが、真顔で呟く。
「燃えろ!!!」
ハルが唱えると、巨大な火の玉がハルの手から発せられ、遥か彼方まで草を燃やして進んで行く。
長く伸びた草も一瞬で燃え尽きて行く。
「ブー!」
更に、トン吉が火炎を吐き、伸びあがってくる草までも焼き払った
「さっ、今のうちです。」
そう言われて、蜘蛛の魔物は急ぎ足で進んで行く。
その後もハルの火の玉とトン吉の火炎で草を焼き払いながら、進んで行く。
地面は相当に熱いのだろうが、蜘蛛の魔物は下駄代わりに自分の糸の上に乗っているので、それほどきつくはなさそうだ。
それでもあとからあとから伸びる草よりも早く進まなければならないので、息つく暇なく進んで行く。
そうしてようやく緑のカーペットを越え、暗闇の中へと入った。
「ふう、草を2段階に燃やしながらだから、結構大変だったわねえ。
今日の所は、これで休憩かしら。」
今回はミリンダは何もしていないのだが、それでも何か起きた時の為に常に身構えていたし、朝からの魔法の連発で疲れも出ているようだ。
暗闇を抜けると、そこは暑くも寒くもなく、また針のような緑のカーペットも何もなかった。
ただ、ひたすら平坦な道が続いているようだ。
「そうだね、まだ明るいけど疲れているだろうし、今日の所はここでキャンプをはろう。
なにせ、これから先、どんなことがあるのか分からないからね。」
ハルとトン吉、ジミーの3人でマイキー達用のテントを張る。
「さあ、じゃあ明るいうちに授業だ。
まずは算数で、その次は豪華、マイキー先生の科学だぞ。」
ジミーは上機嫌で、教科書をリュックの中から取り出す。
すかさず、ハルにゴロー、ホースゥの3人が教科書を手に、ジミーの前へ集合する。
やや遅れて、ミリンダも集合だ。
「ハル!ハル!」
ところが、トロンボがハルの肘を持って、どこかへ連れて行こうとする。
「だめだよ、これから勉強だから・・・、お・べ・ん・き・ょ・う。」
ハルがトロンボをたしなめる。
それでも、トロンボはハルの手を引くことを止めようとはしない。
「遊びたいの?でも・・・、お勉強だからね。
あとで、授業が終わったら遊んであげるから・・・。」
そう言いながら、ハルは自分の手持ち用黒板をトロンボに手渡した。
トロンボは、周りをきょろきょろと見て、ミリンダ達が黒板を手に座っているのを確認すると、自分も素直にハルの隣に腰かけた。
そうして、トロンボも参加して授業が始まった。
「じゃあ、中学校の科学レベルでは、解説はこんなところね。
もっと深く知りたい人は、あとで私の所へいらっしゃい・・・、手取り足取り、じっくりと教えてあ・げ・る。」
そう言い残して、マイキーは教科書を閉じ、スタスタとテントへ戻って行った。
「ハル!ハル!」
先ほどの言葉を理解しているかのように、トロンボがハルの袖を引っ張る。
「ああ、約束だものね、でも何して遊ぼうか・・・。
そうだ、平らな地面だから・・・。」
ハルはそう言うと、黒板用のチョークで地面に大きな輪をいくつも繋げて書いて行く。
「ケンケンパーっていう遊びだよ。
ミリンダもおいでよ。」
ハルが傍らで休んでいるミリンダを誘う。
「えーっ!そんな子供の遊びなんて・・・。
ゴロー、それからホースゥさんも、遊び方教えてあげるわよ、来て。」
ミリンダは、隣に座っていたゴローとホースゥにも声を掛けた。
かなりやる気の様子だ。
そうして、5人でキャーキャー言いながら遊び始めた。
やがて、辺りが暗くなってきた。
「うーん、遊ぶのもここまでだねえ。
でも、どうして洞窟の中で日差しも射し込まないのに、明るくなったり暗くなったりするんだろう。」
ハルが、辺りを見回しながら不思議そうに呟く。
「分らないけど、ずっと真っ暗よりははるかにましよ。
ありがたいと感謝していれば、いいのよ。」
対するミリンダは、そっけない返事だ。
まだまだ遊びたがるトロンボを何とかなだめて、みんなの元へと向かう。
既に、レオンが支度を終えていて、夕食のスープなども出来上がっていた。
翌日、ハルが目を覚ますと、既に辺りは明るくなっていた。
隣で寝ているトロンボが、むずがったのかサングラスや帽子どころか、ロングコートさえもはだけて寝ていたので、急いでコートの袖を通して体を隠し、顔にもマスクを掛けながら、辺りを見回す。
マルニーは、まだテントの中で寝ている様子で、ほっと一息だ。
トロンボも目を覚ましたので、みんなの所へ一緒に歩いて行く。
既に、ジミーは起きていて、トン吉や飛び太郎たちと打ち合わせをしている所だ。
「じゃあ、ここには何もない空間がずっと続いているだけというのかい?
今までの事を考えると、何か仕掛けがありそうな気がするんだが。」
飛び太郎たちやゴローからの報告を聞いたジミーが、納得できないとばかりに念を押して確認する。
「僕も、それほど遠くまでは行けてはいないけど、少なくともここから数キロくらいまでは、何もない普通に歩ける空間が広がっているだけです。
ここまで色々な苦難があったけど、もう打ち止めって事なんじゃないですかね。」
ゴローが、まじめな顔をして答える。
「まあ、そうだったらありがたいのだけれど、そんなことは・・・まずないわね。
かといって、進まなければならないのだから、注意して進みましょ。」
いつの間にか来ていたマイキーが、いつものように抑揚のない調子で話しかけてきた。
「そう言う事だな、じゃあ、朝食を取ったら出発だ。」
缶詰の朝食を終えると、蜘蛛の魔物の背中に全員乗り、出発だ。
「グゥオー!」
それは、いきなり現れた。
身の丈十メートルは優に超える、巨人が・・・いやよく見ると頭には角があり、肌が青く毛皮のパンツをはいている。
鬼だ。よく見ると、すぐ後ろには肌の色が真っ赤な鬼もいる。
赤鬼と青鬼の大群が襲い掛かって来た。
「お・・・鬼?」
マルニーが恐怖の表情を見せる。
無理もない、自分よりはるか大きな、しかも角を生やした鬼が襲ってきたのだ。
「召喚せよ!!!」
「△□○」
ミリンダとホースゥが召喚魔法を唱える。
すぐに、九尾の狐と白虎が召喚される。
「天と地と水と炎に宿る神々と精霊たちよ、わが願いを聞き入れ、わが手足となりて役目を果たす、使途を授けよ。
いでよ、九兵衛とミケ!!!」
「・・・・・・・・・いでよ、ポチ!!!」
次いで、巨大な秋田犬と三毛猫が召喚されたが、竜神は出てこない。
「あ・・・あれ?」
ハルが不思議そうな顔をして天を仰ぐが、どこにもその姿は見られない。
九尾の狐と白虎と九兵衛は、すぐに鬼たちに飛び掛かる。
ミケは相変わらず、ミッテランの上空に留まったままだ。
「炎の竜巻、燃え尽きろ!!!」
渦を巻いた炎の玉が、襲い掛かってくる巨大な鬼たちに降りかかる。
しかし巨大な鬼たちは、それを避けようともせず、炎をものともせずにそのまま襲い掛かってくる。
「仕方がない・・・。煉獄の炎、浄化せよ!!!浄化せよ!!!浄化せよ!!!」
やむを得ず、ハルは真っ赤に燃える煉獄の炎をぶつける。
『ガガガガガガ』ついで、ジミーのマシンガンがうなりを上げる。
こちらも煉獄の炎弾だ。
高温の炎は巨大な鬼たちに有効な様で、鬼の体の一部が真っ赤に輝いたかと思うと、あたかも風船が破裂するように弾け飛んでいく。
そうして、次々と巨大な鬼たちを倒しながら突き進んで行った。
やがて、いつものように暗闇の空間に入り、巨大な鬼たちも襲ってこなくなる。
「ふう、ようやく通り過ぎたわね。
何よあれ、あれが鬼なの?
ずいぶんと大きかったけど、鬼ってあんなに大きいものなの?」
ミリンダが不思議そうに尋ねる。
「うーん、どうなんだろうね。
日本には色々な伝説があって、おいらたち人間とほとんど変わらない大きさの鬼の話もあるし、今回のように巨大な鬼の話も伝えられているよ。
でも、ここで初めて出会う鬼の話を、マイキーのお兄さんたちはしていたんだろう?
おかしいと思わないか?
数分で逃げ帰ったら、とても鬼の姿は見ることができないはずだ。」
ジミーは腕を組んで考え込む。
「そ・・・そう言えば、話は変わるけどミリンダちゃん。
君は竜神様に年を3つ取らせてもらって、初めて召喚魔法を使えるようになったんじゃなかったか?
鬼を退治して元の年に戻ったのに、さっき九尾の狐を召喚していただろ?
あれは、どういう訳だい?」
ジミーが、ふと思いついたように、納得のいかない顔をしながらミリンダに尋ねる。
「ああ、召喚魔法ね。
ポチに年を取らせてもらって、何回か召喚魔法を使ったでしょ。
元の年に戻った後でも、ホースゥさんに借りた護符が剥がれることはなかったから、試しに召喚魔法を使ってみたの。
何回か試しているうちに、使えるようになったのよ。
九州で護符の力を借りて召喚魔法を操っていた、神田達の魔法の上達が驚異的だったように、高度な魔法を何かの力を借りたにしても使いこなすことにより、魔法使いとしての徳が格段に上がるみたいね。
ハルだって、上級魔法の煉獄の炎を呪文なしで使っていたじゃない。
ずいぶん上達したわね。」
ミリンダは嬉しそうに笑顔で、ハルの顔を覗き込む。
「うん。剣の精のおじさんの力を借りて、何回も煉獄の炎を鬼封じの剣から出していたら、いつの間にか呪文なしで使えるようになっていたみたい。
おかげで、強力な魔法を連射で使えるようになったけど、煉獄の炎だけで、他の魔法はまだ駄目だよ。」
ハルも嬉しそうに頭を掻いた。
そうしている間も、蜘蛛の魔物は歩を進めているので、すぐに視界が開け、また何もない空間が現れた。
「うーん、ここも怪しいなあ。
又、何か襲ってきそうだ・・・。」
ジミーの予想通り、先へ進んで行くと、すぐにいくつもの影が襲い掛かって来た。
「また、鬼?」
ミリンダが叫ぶ通り、今度も鬼の集団が襲ってきた。
遥か遠くから飛ぶように襲い掛かってくる・・・と思っていたら、すぐ目の前まで迫っていた。
今度の鬼たちは人間サイズの鬼たちだ。
蜘蛛の魔物も前足で襲い掛かってくる鬼たちを蹴散らすが、それでもそれを躱して、背中まで飛び上がってくる。
「燃えろ!!!」
「雷撃!!!」
『あ・・・あれ?』
ハルもミリンダも魔法を唱えるが、何も起こらない。
魔法が使えないのだ。
「フレン・ドアスカメッセ・・・至極暴風雷撃!!!・・・・だ・・・駄目だわ。」
「○△□※!!!・・・私も魔法が使えません。」
ミッテランもホースゥも同様なようだ。
『カチッカチッカチッ』「ま・・・マシンガンも使えない・・・。」
引き金を引いていたジミーが、あきらめた様にマシンガンを下ろす。
「どりゃあー」
トン吉が襲い掛かってくる、鬼を捕まえて投げ飛ばす。
「よいしょー」
続いて飛び太郎も、鬼を蹴り落とす。
飛びの助も負けてはいない。
「よっしゃあ、おいらだって、武芸百般・・・免許皆伝。」
ジミーも負けじと、襲い掛かってくる鬼を投げ飛ばしていく。
「フン!」
先頭に座っていたマイキーも、慌てず鬼を軽くいなして投げ飛ばした。
「私だって・・・、レスリングの代表選手ですからね・・・。」
マルニーも鬼の手を極めて、動きを封じる。
「いやー!」
一番後ろに座っていたミリンダに、後方から1体の鬼が襲い掛かってきた。
ところが、すぐに鬼の体に無数の糸が絡み付き、動きが取れなくなる。
スパチュラだ、彼女が糸を浴びせて鬼の動きを封じたのである。
「そおれ!」
糸でぐるぐる巻きにした後で、鬼を蹴落とす。
そうこうするうちに、行く手にひときわ大きな鬼たちが現れた。
先ほどのように十メートルを超えるという巨体ではなく、あくまでも人間サイズではあるが、がっしりした体格で存在感があり、見た目で大きく感じられる。
その鬼たちは、蜘蛛の魔物の足をものともせずに軽く躱すと、ひょいと簡単に背中に飛び乗って来た。
体の割に身も軽い様子だ。
その動きを認めると、ジミーたちに緊張が走った。
瞬時に油断なく身を低くして構え、鬼たちと対峙する。
「アッポ!アッポ!」
ところが、そんなジミーたちの間を抜けて、鬼たちの方へ走り抜けていく影があった。
ロングコートをたなびかせるその姿は・・・、トロンボだ。
「トロンボ、だめだよ・・・危ない!」
すぐにハルが叫んで、トロンボを追いかけようとするが、ジミーに止められてしまう。
「トロンボ?」
一番体の大きな青鬼の体に抱き付くように飛び込んだトロンボが、帽子やサングラスにマスクを外して微笑みかける。
「と・・・トロンボじゃねえか。
一体どうして、こんなところに・・・。」
その顔を見た青鬼は、驚いたように叫び声をあげ、次いでハルたちの方へと目を向ける
「えっ、知り合い?」
それを見ていたハルは、唖然として続く言葉もなかった。




