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103話

                 11

「とうちゃーくっと・・・、意外と快適だったわね。

 なにより、下の景色を見なくて済むから良かったわ。」


 対岸へ着くと、すぐにミリンダは立ち上がって、蜘蛛の魔物の背中から降りる準備を始めた。


「そのまま乗っていた方がいい。

 先へと進むぞ。」


 蜘蛛の魔物が、伸ばしてきた糸を崖に突き出た岩に括り付ける。

 折り返し分を含めて、3本の太い糸がこの谷を結びつける。


「こうしておけば、ちょっとやそっとじゃ切れない丈夫な橋代わりになるだろう。」

 蜘蛛の魔物の言うとおり、直径1メートルはある太い糸が3本より集まった橋は、隣のつり橋よりも安定しているようだ。


「この先の様子は判ったのかい?」

 ジミーが蜘蛛の魔物の背中の上から、飛び太郎たちに尋ねる。


「へい、この先は少し進むと真っ暗な空間に変わりますが、更に突き進むとそこは一面の銀世界でさあ。」

 飛び太郎が答える。


「銀世界?雪が積もっているというのかい?」

 不思議そうにジミーが尋ねる。


 洞窟へ入ってから、太陽を拝むこともないが、ぼんやりと明るく、また、寒さを感じるような気温でもないのだ。

 それが、銀世界へと変わるという事は、どういった事だろうか。


「へい、あっしらも東北を住処としていることから、寒さには強いつもりでおりやしたが、それ以上の寒気です。


 空を飛ぶ羽根とも言える胸ビレが凍りつき、危うく落下しかねないところでした。」

 飛びの助が、自慢の胸ビレをばたつかせながら答える。


「僕も、さすがに耐えられなくて、途中で戻って来たよ。

 でも、さっきの橋よりもずっと長く続いているよ。」

 ゴローも寒そうに震えている。


「ふうむ・・・、今度は寒さか・・・。

 弱ったなあ、防寒具は準備していないぞ。」

 ジミーが頭を抱える。


「大丈夫よ、あたしに任せておいて・・・、みんな乗って・・・出発よ。」


 ミリンダに誘われて、ゴローと飛び太郎、飛びの助が蜘蛛の魔物の背中に飛び乗る。

 そうしてゆっくりと再発進だ。

 少し進むと、成程その場所までは薄明りで周りが見えていたのだが、突然の暗闇に変わってしまった。


 更にそのまま進むと、今度は突然目の前が一面の銀世界に変わった。

 まるで、目の前にあったシャッターが瞬時に開いたような感覚だ。


「うわっぷ・・・、凍えるように寒い・・・。」

 先頭に座るマイキーが、身を低くしながら呟く。


「大丈夫よ・・・任せて・・・。

 モンブランタルトミルフィーユ・・・・極大火炎(ウルテイム)・・・の温風版!!!」

 ミリンダが唱えると、暖かな温風が辺りを包み込んだ。


「おう、これは良い、歩きやすいぞ。」

 蜘蛛の魔物の周囲、十メートル以上の範囲で、地面に降り積もった雪も解け始めたようだ。


「ねっ、大丈夫でしょ。

 京都の山間の村を救うために、2週間も毎日かけさせられた魔法だもの、手慣れたものよ。」


 ミリンダは自慢げに胸を張る。

 蜘蛛の魔物が進むにつれて、温風範囲も一緒に移動していく。

 どうやら、ミリンダを中心にして、効果範囲が動いて行くようだ。


 そのまま1時間も進むと、またも暗闇に変わり、更に進むと今度は太陽が降り注ぐ、南国に切り替わった。


「へえ、こりゃいいや・・・、寒いのは、こりごりだぜ・・・。」

 蜘蛛の魔物もほっと一息入れた様子だ。


 ところがすぐに様子は一変する。

「おわあっちっち・・・。」


 蜘蛛の魔物が、足を地につけていられないのか、ダンスでもしているかのように、8本の足を交互に上げ下げし始めた。

 地面の砂は、やけどするくらいに焼けているようだ。


「極寒の後は、灼熱地獄?

 雨粒弾(レイニー)で雨でも降らそうかしら・・・。」

 ミリンダが汗をぬぐいながら、呟く。


「今度は僕に任せて。

 氷の竜巻・・・凍りつけ!!!」


 ハルの体から発せられた氷の粒は渦を巻いて、蜘蛛の魔物の体の周囲を取り囲む。

 すると、先ほどまで襲い掛かって来ていた熱風が、心地よい冷風に変わった。


「まだ、うまくコントロールできないけど・・・、ちょっとくらいは我慢してね。」

 ハルが言うとおり、時々小さな氷の塊や、水滴が降りかかってくるが、熱風よりははるかにましだ。


 ミリンダも進行方向に雨を降らせて砂を湿らせ、蜘蛛の魔物が歩くのを少しでも助ける。

 そうして、またまた1時間も進むと、暗闇に切り替わり、その先は薄暗く湿った雰囲気のする空間だった。


「今度は暑くもなく寒くもないわね。

 切り立った崖もないし・・・、まあ進みましょ。」


 立ち上がって先を見通そうとするミリンダの号令の下、蜘蛛の魔物が歩を進める。

 次の瞬間、辺りを眩いばかりの閃光が包む。


「○△□※!!!」


 誰もが目を閉じ、ドーンという衝撃を予測したが、恐る恐る薄目を開けると、辺りを光のベールが包み込んでいた。

 ホースゥが瞬時に光の障壁を張ったのだ、しかも蜘蛛の魔物を含めた広い範囲で。


「ありがとう、ホースゥさん。助かったわ。」

 ミリンダが笑顔で礼を言う。


「いえ、何でもありません。

 でも、このままでは動けませんね。」


 ホースゥの言うとおり、光の障壁に囲まれていては、進むことは出来ないのだ。

 極大火炎や氷の竜巻のように、何度も唱えて連発する魔法と異なり、光の障壁は一定範囲を防護すると、それを解かない限りはその範囲を出ることも出来なくなるのだ。


「襲ってくるのが雷と分れば対処の方法はあるわ。

 大丈夫よ、光の障壁は解いても。」


 ミリンダに促されて、ホースゥは光の障壁を解く。

 そうして蜘蛛の魔物はまた歩き出した。

 すぐに、天空から稲光がギザギザに走ってくる。


雷撃(ライガー)!!!」

 ミリンダが唱えると、襲い掛かってくる雷に、別の雷がぶつかって瞬時に消えた。


「毒を持って毒を制すじゃないけど、雷には雷をぶつけるのよ。」

 ミリンダは得意げだ。


 尚も進み続けると、幾本もの雷が襲い掛かってくる。

雷撃(ライガー)!!!、雷撃(ライガー)!!!、雷撃(ライガー)!!!」


 都度、ミリンダが唱えるが、そのうちの1本がそれて、ほぼ直角に曲がり、横方向から襲ってきた。

「ブー!!!」

 すぐにトン吉が炎を吐いて、稲光を撃退する。


「へえ、面白そう。僕もやってみよう。燃えろ!!!」

 ハルの右手から発せられた炎の玉が、降りかかってくる稲光に当たって、それを消滅させる。


 その後はミッテランも加わり、まるでシューティングゲームでもしているかのように、4人で稲光を殲滅させながら進んで行く。


「なんか、結構楽しかったわねえ。

 物足りないくらいだわ・・・、もう一度戻ってみる?」


 雷地帯を通り過ぎて、またもや暗闇に差し掛かった時に、ミリンダが残念そうに後ろを振り返る。


「駄目だよ・・・、遊びに来た訳じゃないんだから。先へ進むよ。」


 ミリンダの言葉に一旦立ち止まった蜘蛛の魔物だったが、ハルに言われて再び前へと歩き始めた。

 やがて、いつものように暗闇に切り替わり、その先には緑の空間が広がっていた。


「ふぁあ、緑のカーペットよ。

 草原がずっと続いているようね。

 今までと違って、素敵な所ね・・・、いたっ!」


 蜘蛛の魔物の背中から飛び降りて、しゃがみこんで草に触れようとしたミリンダが、突然叫ぶ。


「ど・・・どうしたの?」

 慌ててハルが上から覗き込む。


「どうしたもこうしたもないわよ。

 何よこれ、草のように見えて、まるで針じゃないの。」


 それは、ピンとまっすぐに伸びた十センチくらいの草だが、触ってみるとびくともしないくらいに堅く、しかも先端が鋭利に尖っている。

 まるで一面に針を敷き詰めたようだ。


 ミリンダが痛そうに人差し指を口に含んでいる。


「極寒地獄、灼熱地獄と続いて、雷地獄・・・さらに今度は針のむしろか。

 まるで、本当の地獄へ迷い込んだようだな。」

 ハルとミリンダの様子を見ていたジミーが、茫然と呟く。


「えーっ、地獄って・・・、悪いことをした人が死んだあとに連れて行かれるところでしょ?

 あ・・・、あたしは何も悪い事はしていないわよ。


 そりゃ、ちょっとはおふざけもしたけど・・・、それはあくまでもちょっとしたいたずら心で、子供がしでかした、たわいもない事で・・・。

 い・・・、今のうちに謝っておけばいいの?


 だったら・・・、ごめんなさい、ごめんなさい・・・おじいさんごめんなさい、権蔵校長ごめんなさい・・・おっとそれから・・・」


 ジミーの言葉にミリンダが、突然立ち上がり捲し立てる。

 そんなミリンダの肩を後ろから、ハルがちょんちょんと突く。

 

「ミリンダはどうか知らないけど、僕も、ここに居る他のみんなも地獄に落とされるような、悪い事はしていないと思うよ。

 それに、僕たちはまだ死んだわけじゃないから・・・。」

 ハルが慌てふためくミリンダを、呆れた様な顔で眺めている。


「そうだよ、地獄というのはあくまでも例えで、おいらだって本当の地獄を見たことがあるわけじゃない。

 まあ、時間的には丁度いいから、ここで昼食にして作戦会議と行こう。」


 ジミーの提案で、針のむしろを前に昼食をとることになった。

 一同、蜘蛛の魔物の前に車座になって、それぞれ缶詰を手にする。


「やはり、今回もはるか先まで緑の空間が続いています。

 左右の迂回ルートもなさそうです。」

 飛び太郎、飛びの助コンビが戻ってきて、缶詰を受け取り輪の中に入ってくる。


「ふうん、そうかあ、やはりこの草地を抜けるしか手はなさそうだなあ。」

 ジミーがフォークを口に運びながら、呟く。


「いくら鋭いって言っても、所詮は草なんだから、燃やしてしまえばいいのよ。

 ハル!ちょっと、この草を燃やしてみて。」

 ミリンダが、きょろきょろと辺りを見回し、大きな声でハルを呼ぶ。


「スッパ!スッパ!」

 ハルは、みんなとは少し離れた場所で、トロンボと一緒に肉の缶詰を頬張っているようだ。


 トロンボは依然としてシルクハットにサングラスで、ロングコートを着せられたままだ。

 マスクだけを外して、食事をしている。


 唯一、事情を知らないマルニーの反応が分らないため、マイキーからお許しが出ないのだ。

 ミリンダに呼ばれて、ハルがそのまま立ち上がる。


「ちょっと、燃やしてみて。」

 ミリンダがフォークを持ったままの右手で、目の前の草地を示す。


「燃えろ!!!」

 ミリンダに促されて、ハルが魔法を唱える。


 すると、数メートルの範囲にわたって、勢いよく草地は燃え上がり地面が現れた・・・と思ったら、その瞬間、地面から無数の細い草が伸びあがり、まるで早回し映像を見ているかのように、一面を緑で覆い尽くした。


「あれ、駄目みたいだよ・・・。」

 ハルが、申し訳なさそうに振り返る。


「うーん、駄目なの?

 トン吉とハルが二人で炎の魔法で草を燃やしながら、再び生えるまでの瞬間を辿って行くのはどう?」

 あきらめきれないミリンダが提案する。


「難しいだろうね。今見た限りでは、燃え尽きた瞬間に次の草が伸びあがってくる。

 燃えた隙間に足を置いたとしても、足の裏に伸びてきた草が刺さるだけだろうね。


 それに、その時はまだ炎の熱で熱いだろうから、いかな蜘蛛の魔物でも無理があるだろう。」

 ジミーは軽く目を閉じながら、首を横に振る。


「じゃあ、どうするのよ。

 極大寒波(ウルトザード)で凍らせても、かえってカチカチに凍るだけだし、打つ手なしってこと?」

 ミリンダは、不満顔だ。


「そういえば・・・、マイキーさんの国の人は魔法が使えるのよね。

 マイキーさんの魔法は見たことがないけど、マルニーさんも・・・、どんな魔法が使えるの?


 なにか、ここで役に立つような魔法はない?」

『おお、そうか。』


 ミリンダが突然思い出したように、マイキー達の方に振り向いた。

 その言葉に、みんなの視線が二人に集まる。



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