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10話

                       10

 収容所は集落から南東へ1日ほど歩いたところにあるという事であった。

 ハルたちは村人たちがいつも通っているのであろう、草が刈り取られた土の道を進んで行く。

 もともとは舗装されていた道路であろうが、すでにアスファルトの隙間から雑草が生えて来ていて、舗装されているような平坦さはない。

 それでも身の丈ほどある草をかき分けて線路伝いに進むよりははるかに楽であった。


「ちゃんとした道を歩けるのは、ずいぶんとありがたいわね。

 それに、その収容所ってのがあるせいかどうかわからないけど、魔物たちが襲ってこないわね。

 これは楽よ。」


 確かに、集落を出てから半日ほど歩いても一度も魔物には出くわしていない。

 収容所が目を光らせているせいであろうか。


 ハルたちは順調に進んで行き、夜も更けたころには収容所の建物であろう、高い丸木を積み重ねた塀に囲まれた建物にたどり着いた。


「たのもー!、たのもー!」

 ミリンダは、3メートルはあるであろう、かがり火で照らされている高い門扉に向かって大きな声を張り上げた。


「ど、どうしたの?何をお願いしてるの?」

 突然のミリンダの行動に、ハルは慌ててミリンダを制しようとした。


「何を言っているのよ。こういった大きな門の前に立ったら、こうやって挨拶するのよ。

 ・・・たのもー!」

 ミリンダは尚も声を張り上げた。

 ハルも一緒に大声を上げた。


 しばらくすると、門扉の横の通用口が開き若い女性が現れた。

「こんにちは、私は秘書のマイキーよ。

 あなたたちはここで何をしているの?」

 マイキーと名乗る女性が、ハルたちの顔を見下ろしながら尋ねた。


 金髪で目鼻立ちがはっきりとした美人だ。

 洗濯されてアイロンがしっかりと掛かった、白いブラウスに紺のタイトスカートにハイヒールという出で立ちで、ぼろの継ぎはぎを着ている村人たちとは大きな違いがあった。


「こんにちは、あたしたちは旅のものです。ここは、魔物たちの収容所ですか?

 この先の集落の人たちに話を聞いて、ここに提案があってきました。

 あたしたちの話を聞いてください。」

 ミリンダが直立不動の体勢で、勢いよく話し出した。


「話というのは、どういったことかしら?」

 マイキーがやさしく尋ねてきた。


「はい、魔物たちの扱いに関してです。

 ただ収容しておくだけでなく、協力しあって一緒に生活できないかという提案です。」

 ミリンダは尚も直立不動のまま答えた。


「へえ、ずいぶんとちゃんとした提案ね。年の割に、えらいわねえ。

 じゃあ、ここの責任者・・・えらーい人に合わせてあげるわ。

 ついてきてね。」

 マイキーはハルたちを中へと入れると、そばの門番に扉を閉めておくよう指示して、自分はおしりを振りながら中へと歩いて行った。


 門の中は広い庭のようになっていて、小さな石が敷き詰められていて真ん中に表面を削った敷石が真っ直ぐ奥へと敷き詰められていた。

 敷石に沿って長い鉄製の足が付いた鉄かごにはかがり火がたかれ、道を照らしている。


 ハルたちはマイキーの後を追って奥へと進んで行く。

 正面から左右にかけて屋根つきの通路のようになっていて、途中魔物であろうか、狸の姿をしたものが洗濯物を持って足しげく走っていくのが見えた。

 その他にも通路の拭き掃除をしているウサギの魔物や、門番もロバの顔をした人型の魔物であったことを思い出した。

 正面奥のこあがりへの階段へ靴を脱いでから昇ったマイキーは、後ろを振り返ってハルたちを見た。


「ちょっと、ここで待っていてね。」


 ふすまを開けた先は6畳ほどの小部屋であり、ハルたちも靴を脱いで上がり込み正座をして待ち構えた。

 中は行燈の明かりであったが、ろうそくの明かりに慣れているハルたちにとっては、かえって明るいくらいに感じていた。

 しばらくするとニワトリの姿をした魔物が、お茶とお菓子を持ってやってきた。


 どうやら魔物たちとの共存は、始めたばかりのハルたちの村よりはるかに進んでいるようであった。

 それなのに、魔物たちを収容する費用として収穫の8割を要求することに、ハルは不思議そうな顔をした。


「こんなに魔物たちとの共存化が進んでいて、協力し合って働いているのに、あの村には法外な税を要求しているのが不思議って考えているわね。実はあたしもそう。」

 ミリンダが真面目な顔をして、ハルの顔を覗き込む。


 やがて、ふすまの向こうに幅広の影がやってくるのが見えた。

 影はハルたちのいる部屋の前で止まり、ふすまを開けた。


「がっはっは!いやあ、どうも。魔物収容所へようこそ。

 よく、こんな不便なところにお立ち寄りくださいました。


 何やらご提案があるそうで、お聞かせくださいますか?

 ここは開かれた収容所を目指しております。

 住民の方々の提案は何でも参考にさせていただき、より良い収容所として発展していけるよう、努力していきたいと考えております。

 よろしくお願いいたします。」

 恰幅の良いスーツ姿の男はハルたちの前で深々と頭を下げた。


 と言っても、お腹がすごく出ているので、腰毎曲げて上半身が前に突き出している格好だ。

 お腹周りのシャツのボタンがはじけそうになっている。

 手には葉巻を持ち、指には大きな宝石が付いた指輪をしていて、笑うと口の中からは金歯が光って見えた。


「提案って言ったって・・・。

 あたしたちはここの住民じゃなくてただの旅人なんだけど・・・

 ここはずいぶんと、魔物たちとの共同生活が出来ているようですね。」

 ミリンダは言葉に詰まったが、それでも話を続けようとした。


「そうですね、ここには500匹を越えるいろいろな種類の魔物たちが居ます。

 その魔物たちに農作業や家事などの仕事を覚え込ませて、我々人間の役に立てようと教育訓練している施設なんです。


 建物の奥には広大な農地があり、ほぼ自給自足の生活が出来ています。

 それもこれも、魔封じのペンダントと屈強な200人の看守たちのおかげなんですがね。

 がっはっは!申し遅れました私はここの所長である柳小路と申します。」

 豪快に笑った所長は、丁寧に礼をしてハルたちに名刺を手渡した。


「実は僕たちは、この先の集落の人たちに収穫の8割もの税を要求されているって話を聞いて、やってきました。魔物収容所で使う経費だって聞いていたのですが、それなら僕たちの村のように魔物たちと共存できれば、法外な税も取らなくて済むようになるんじゃないかと、提案しに来たつもりなんです。


 でも、すでにここは魔物たちとの共存関係が出来ていて、更には自給自足が出来ているっていうことだし、集落の税は必要ないんじゃないのですか?」

 それまで黙っていたハルが、立ち上がって話し出した。


 その行動に少したじろいだが、柳小路は気を取り直してハルの顔を見つめて答えた。

「いやあ、自給自足といったって、この先の集落で上がる農作物を含めてようやく一杯一杯といったところなんですよ。なにせ、看守含めた人間と魔物含めたら800近くもいるわけですから。

 がっはっは!」

 柳小路は頭を掻きながら豪快に笑った。


「でも、あの集落の人たちは食べるものも食べないで税を納めているのが現状です。

 少しでも税の割合を少なくすることも出来ないでしょうか?」

 ミリンダがすがるように柳小路に詰め寄る。


 柳小路は1歩後ずさりして、天井からぶら下がっている太い房を右手でつかんだ。


「そうですなあ、税に関してはこの収容所では決めかねますので、都市へと問合せしなければなりません。それまでここで頭を冷やして待っていてもらえませんか?」


 柳小路が房を引っ張ると、ハルたちの足元の床がパックリと割れ、ハルたちは奈落の底へと落ちて行った。


「いたたたたあ、落ちた拍子に頭を少し打ったよ。こぶが出来てる。

 ハルは大丈夫?」

 ミリンダが心配そうに、一緒に落ちてきたハルの方を覗き込んだ。


「うん、少し腰を打ったけど大丈夫みたい。

 それよりも、閉じ込められてしまったみたいだね。」

 ハルは、自分たちが落ちてきた上を見上げた。


 すでに落ちた床は閉じており、周りはほとんど光の指さない暗がりであった。

 しばらくすると次第に目が慣れてきたせいか、少しは状況が見えてきた。


 ここは、床下に深い穴を掘って作られた地下室のようである。

 3m以上は深さがあるであろうか。

 ハルの上にミリンダが乗って背伸びをしても、半分にも届かない状態であった。

 空を飛ぶような魔法が使えないハルたちにとって、脱出は困難と考えられた。

 まずは回復呪文で、落ちた時に傷んだ部分の治癒をした。


「所長、先ほど訪ねてこられた子供たちは、どういたしました?」

 マイキーが所長室へと戻ってきた柳小路に尋ねた。


「いやあ、この収容所で魔物たちと共存しているという事に感動したって言って、喜んで帰って行ったよ。あんなに喜ぶんなら、畑とか田んぼとかで魔物たちが作業しているところも見せてやればよかったと思うよ。

 もう遅い時間だし忙しいみたいで、すぐに帰って行ったよ。」

 柳小路は笑顔でマイキーに答えた。


「そうですか、門番からはあの子たちが帰って行ったという報告がまだないものですから。

 後で確認してみます。」


「いやあ、それには及ばんよ。

 わしが秘書には連絡をしておくから、あの子たちが帰ったことをいちいち忙しい君に連絡しなくても良いと言い渡しておったのだよ。がっはっは!」

 柳小路は豪快に笑った。


「そ、そうでしたか。お心遣い痛み入ります。」

 マイキーは深々と頭を下げた。


 マイキーが下がった後に、柳小路は一匹の魔物を所長室へと呼び出した。

 ここの魔物たちのボスで、全身を真っ黒な毛で覆われている、熊系魔物クマゴンである。

 クマゴンは所長室へ着くなり小声で所長に囁いた。


「聞きましたよ、所長。まずいんじゃないんですか?

 旅人とはいえ、子供たちを閉じ込めるなんて。

 中央の都市にばれたら、無事じゃすみませんよ。」

 姿かたちの割に臆病なクマゴンは、青ざめた顔をして所長の顔を見つめた。

 (と言っても黒い毛で顔色は判らないのだが・・・。)


「大丈夫だよ、バレやせん。

 なんせ、ここは野中の一軒家で誰もあの子たちがここへ来たことを知らない。

 知っていたところで、確かに来たけどすぐに帰って行ったと言えば、調べようがないだろう。

 びくびくするな。

 何日か閉じ込めておけば、弱ってくるだろう。

 それをお前たち何匹かで始末するんだ、分かったな。


 今の日本を、二人だけで旅をしているというからには、何かしらの力があるのかも知れんが、あんな小さい子供たちなんか、お前たちなら造作もないだろう?


 それと、この先の集落だが税のことでまた文句を言っているらしい。

 懲らしめる意味で、子供たちを始末したらまた集落へ行って田畑を荒らして来い。

 そうすれば不満どころではなくなるだろう。判ったな。」

 柳小路は不敵な笑みをうかべて、クマゴンに囁いた。

 クマゴンは不安げに、それでも仕方なく頷いた。



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