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1話

RPG風冒険活劇です。あまり、過激な戦闘シーンなどなく、平和裏に進んでいこうというストーリーです。

                       1

 かつて西暦として広く世界で使われていた、時の経過を表す年月日という指標が忘れ去られてから久しい頃、最終戦争で汚染されつくした大地にでも、わずかながらだが生き延びて日々の糧を得ている人々がいた。


 核を用いた最終戦争は、人類の持つ倫理という通念から、起こりえないだろうと誰もが考えていた。

 しかし、21世紀初頭の経済不況により貧富の格差が広がり、それは一つの国の中の出来事というよりも、国家間での格差につながって行った。


 最初は貿易摩擦などの小さな火種が、段々と過去の歴史解釈による領土問題へと繋がり、国家レベルでの対立構造が加速度的に拡大していく。

 それは、それぞれの国を支援する国までにも広がり、やがて世界規模の戦争へと発展してしまう。

 そして、押してはいけない核のボタンが押されることになってしまったのだ。


 生き残った人々は爆心地から遠く離れた地方都市の生き残りではあるが、すべてを燃やし尽くした戦争の爪痕は大きく、栄華を誇った文明という言葉すらも忘れ去られようとしていた。

 人々は自給自足の生活を余儀なくされ、時代は数百年以上逆行してしまった感がある。


 少なくとも、この他の地から隔絶された世界ではそうであった。

 そこは電気・ガス水道などといったインフラもなく、もちろん電化製品などない、全て人手に頼った原始時代のような生活を強いられていた。

 彼らは小さな生活共同体コロニーを作り、それぞれの地区で独立して生活していた。


 作物の生育や漁業や酪農の収穫による地域差により、コロニーごとに力の差が出来ると、強いコロニーが弱いコロニーを支配していくと言った、格差の構造がここにも出来てきた。

 近代火器などは存在しない中、人々はある能力に目覚める。


 それはかつて持っていたが文明が進むにつれて使われなくなり、やがて退化して、持っていたことすらも忘れてしまったのを思い出したとも、あるいは核戦争による放射能の影響により蘇ったとも言われている。


 “魔法”が使えるようになった。


 力の強い大人の男性に対して、女子供は魔法の力を磨いてそれに対抗していった。

 やがて魔法の力で行動範囲を広げていった人々は、かつて同じように世界に存在していたが、人類の文明が発展していく中で、存在が薄れて行った者たちの復活を知る。


 それらはかつて“魔”と呼ばれ、恐れられていた存在であった。

 地球上のあらゆる生物同士を掛け合わせたような、その異形な姿は見た人々を恐怖に陥れさせた。

 魔物達は特殊能力と魔法を駆使し、人間たちの生活環境にとって脅威となっていった。


 新たに出現した敵の存在とともに、コロニー間でのいさかいは治まり、協力し合って魔物に対抗していくこととなった人々は、また大きな共同体である村へとまとまりつつあった。

 集団の力を持って人々は魔物に対抗して、自分たちの生活範囲から彼らを排除していった。


 元々は個々に生きてきた魔物も、それに対抗して集団を形成しつつあり、かつては地球上の生物の頂点に立っていた人類と、それに対抗する魔物との2大勢力圏が確立されつつあった。


 そんな中、一人の少年が旧文明の遺跡から持ち帰った一つの箱から物語が始まる。

 ここは、かつて日本と呼ばれた国の北の地方、北海道の東で釧路と呼ばれた都市のあったところ。

 核のミサイルは日本国中に射ち込まれ、もちろん北海道もその対象外となることはなかった。

 しかし、主な目標は道央および道西に集中していた為、被害を免れた生き残りの人々が多かった場所だ。


 それでも市内の建物はすべて、見る影もなく破壊されつくしていて、人々はより内陸の川の上流に住処を求めて移住していた。

 広大な湿原が広がる、かつて世界遺産として登録された自然であり、その自然の恩恵は核による放射能の影響を感じさせずに、文字通り人々の生きる糧となっていた。


 少年の名はハル、大きな目が印象的な11歳という年齢からは、少し小さ目な体つきをしている。

 服装はと言えば、かつて日本経済の発展に大きく貢献した紡績などの産業もなく、本来ならば裸同然の格好での生活を強いられるところであったが、共同体が幸いにも遺跡を含め旧文明の都市跡から焼け残った衣類などを掻き集めて、今では各家庭に配給していた。


 その為、服のサイズなどは多少我慢する場合が多く、ましてやデザインや色・柄など選ぶことは出来なかった。

 そんな中でも、気に入った服が支給されると同じ物ばかり着てしまう為、お気に入りの服は継ぎはぎだらけの状態となってしまい、ハルの今着ている服も例外ではなかった。


 現在の文化レベルでは、新規に紡績ができるようになるまでは、なお数年から数十年は必要と考えられ、現在ある残された資源を大事に使用していくしかない状態であった。


 すでにハルの両親は他界し、おじいさんに育てられている。

 コロニー間での共同体制が整ってきたとはいえ、子供たちの学校などはなく、教育といえば弓矢を用いた狩りや投網や釣竿を用いた漁などの実践的なものか、長老たちによる語り継がれてきたかつての文明の話を聞くことぐらいであった。


 ハルはかつての摩天楼のようにそびえ立つビル群や、地上を走る車や列車などの文明の話が大好きで、何度もかつての文明の話を聞かせてほしいとせがんで、長老たちを悩ませたものであった。


「ハルにいちゃん、また魔法見せて。」

 集落の広場に居ると、いつの間にか子供たちが集まってきて、ハルの周りを囲んだ。

 ハル以外は7歳以下の幼い子供たちであり、11歳のハルはこの中では年長者で、おとなしい性格ではあったが何をするにもリーダー的存在であった。


「いいよ、燃えろ!!!」

 ハルが魔法を唱えると、広場の片隅にあった枯れ枝がたちまち燃え上がる。


『わー!』

 十人ほどの子供たちは一斉に歓声を上げた。


「凍れ!!!」

 ハルがもう一度魔法を唱えると、燃えていた枯れ枝の炎は、そのままの形で青白い氷となった。


「やっぱり、ハル兄ちゃんはすごいや。この村の大人の誰も使えない魔法が使えるんだもの。」

「僕もやってみたい。燃えろ!!!」


 小さな少年が円陣から前へ出てきて、別の枯れ枝に向けて魔法を唱える。

 しかし、何の変化もない。

 少年はがっかりしたように肩を落とす。


「うーん、もう少し集中したほうがいいかな。

 魔法で炎が出せることを心の底から信じて、それが当たり前の事のような感覚かなあ。

 手や足は難しく考えなくても、自由に動かせるだろ?

 それと同じ感覚で自由に炎を操って、枯れ枝を燃やすことを考えてみるのさ。


 難しい事じゃあない、本当に信じる気持ちが重要なんだ。

 絶対に出来るから、そう信じて、もう一度やって見て。」

 ハルは少年を励ますように、やさしく微笑んだ。


「うーん・・・、燃えろ!!!」

 少年は目をつぶり、意識を集中して念じた。


(ボワッ)すると、枯れ枝に小さい炎が上がった。

 小さな炎は風に吹かれてすぐに消えてしまったが、立ち上る細長い煙が、確かに炎が存在した証を記していた。


「やったあ!」

 少年は飛び上がって喜ぶ。


「うまいぞ、ヒロ。筋が良い。

 初めてにしては上出来だ。

 僕なんて、炎が出るまでに1ヶ月以上もかかったからね。」


 ハルは自分の事のように喜んでみせた。

 褒められた少年は、まんざらでも無いように、満面の笑みを讃えて少し恥ずかしそうに、ほほを赤く染めた。


「また、昔の街へ行くんでしょ。

 今日こそは僕も連れて行ってよ。」

「僕も。」「僕も一緒に連れて行って。」


 少年がハルにお願いをすると、他の子供たちも一斉にハルにすがりつくように願いだす。

 少年たちに囲まれているハルは、少し困ったようにしながら後頭部を軽く掻いた。


「もっと、すごい魔法を見たいかい?」

『見たい!』

 ハルが呟くと、周りの子供たちは一斉に口をそろえて声を上げた。


「じゃあ、危ないから少し離れて・・・。」

 ハルはそういうと、周りを取り囲んでいた子供たちを、自分の後方へ誘導し、数メートルの距離を取らせた。


「炎の竜巻、燃え尽きろ!!!」

 ハルが魔法を唱えると、ハルの体の周りに無数の小さな炎が発生し、その炎はぐるぐるとハルの周りを回りだしたかと思うと、やがて一つの大きな炎の塊となって目の前の切り株に襲い掛かった。

 広場中央にあった切り株は大きな炎を上げて燃えだした。


『うわー、すごいや。』

 子供たちはその炎に見とれて、しばし動けないでいた。


「広場の真ん中で、根が大きくてどかせなくて邪魔だった切り株だから丁度いいよね。

 昔の街は人気がなくて魔物たちの住処になっているから、すごく危険だよ。

 今は強い魔物は出てこないから、僕一人だけなら何とか対応できているけど、危険だから皆は連れていけないよ。

 ごめんね。」


『えーっ、ケチ!』

 子供たちは一斉に頬を膨らませる。


「今の魔法なら、大勢の魔物たちに囲まれても、みんなやっつけられるんじゃないの?

 だったら、僕たちが一緒でも大丈夫でしょ?」

 先ほどの少年が、不満そうな顔つきでハルの顔を見上げてくる。


「強い魔法だって、魔物を倒すために使うんじゃないよ。

 魔法を唱えて、相手がひるんだすきに逃げるのが一番さ。

 相手だって生き物だからね。


 それに、今の魔法は魔物だけじゃなく誰にでも炎が向かって行くから、みんなが周りにいると、魔法を唱えられないんだ。

 だから、僕一人だけの時しか使えない、ごめんね。

 それから、うちのおじいさんには内緒にしていてね。」


 ハルはそういうと、一瞬で広場から姿を消した。

 残された子供たちは、口々に不満を漏らしながらも、戻って来たハルの土産話を期待しながら広場を後にした。


 かつての文明の名残である都市の廃墟は、ハルの格好の遊び場であった。

 当時は札幌と呼ばれ、ここ北海道の中心であった大きな都市だ。

 近くには自衛隊の駐屯地もあり、先の戦争時には特に無数の爆撃を受けた地域である。


 しかし、その時の核爆弾による放射能の影響は、長い年月でほとんど消え去ってしまっている。

 爆風や熱にさらされて、ほとんどのものが原型を保っていない状態であったが、それでもその破片を家に持ち帰っては眺めて太古の文明を思い描いているのが好きであった。


 特に札幌にかつて存在していた地下街は、シェルターの役割も果たし、場所によっては爆弾の影響を免れていて、当時のものそのままの形で見つかることも稀にはあった。

 ハルの住んでいる村からは数百キロもの距離があるのだが、瞬間移動の魔法で瞬く間に行き来が出来るのであった。


「おや?こ・・・これは・・・!」


 いつものように、暗い地下街を松明で照らしながら散策していたハルは、地下街の一番奥にある店の中の斜めに傾いた棚に、何とか引っかかって残っている箱を見つけた。

 それは、これまで見つけたものよりも損傷が少ないもので、上下に切り替わるスイッチのようなものや、大きな丸いノブが付いていて、回せるようになっていた。


「やったあ、旧文明の遺物を手に入れたぞ。」

 ハルは急いで地下街から表へと上がり、瞬間移動で村へと戻った。

 後で村の長老の一人でもあるおじいさんに使い方を習おうと、持ち帰ってきたのだ。


「今日はこんなにいいものを拾えて、運がよかったなあ。

 失われた文明のことが少しでも判るような、重要なものだったらいいんだけどなあ。」

 おじいさんが夕食の支度をしている隙に、ハルは自分でいろいろなところを、まずは触ってみた。


 すると突然、箱から大きな音が出てきた。

「ガーガー、ピィー。こ・ち・ら・は・ ピィー、不発弾処理部隊・・・ガーガー・・・」

 驚いた少年は、その箱をテーブルの上から落としそうになり、慌てて押さえた。

 そして台所にいるおじいさんのところへ飛んで行った。


「おじいさん、大変です。

 あの箱の中に人が居ます。

 とても小さな人のようですが、うなり声をあげて苦しそうです。


 助けてあげなければなりませんが、どうすれば良いでしょう?」

 ハルは、囲炉裏の前で子牛の骨のスープの味を見ているおじいさんを見上げながら、居間のテーブルの上の黒い箱を指さした。


 おじいさんの頭は禿げあがってしまっていて、白い口ひげを蓄えた細目で目は開いているかどうか分かりづらいのだが、ハルの行動を見守っていてアドバイスしてくれる頼もしい存在であった。


「ハルや、また遺跡に行ってきたのじゃな。

 あそこは爆風や熱で建物が崩れやすくなっていて危ないから、行ってはならんと何度も注意しておるじゃろ?

 昨日大丈夫じゃったから、今日も大丈夫ということはないのじゃよ。


 いくら瞬間移動で簡単に行けると言っても、わしら年寄りは魔法が使えんのじゃから、ハルが向こうでけがをしたりしてもすぐには助けに行けんのじゃよ。


 どうやら、昔の文明の跡をどうしても見たいとせがまれて、1週間もかけてはるばる遺跡まで連れて行ったのが失敗だったようじゃな。

 行ったことがない土地であれば、瞬間移動でも行けなかったのだから・・・。」

 おじいさんはうなだれながらやさしく、しかし真剣にハルに説教をした。


「ごめんなさい、禁じられていた遺跡に行ったことは謝ります。

 でも、あそこは破壊されつくしたとはいえ大きな都市であったために、爆撃を免れた個所も何か所かあります。

 その為、旧文明を知ることが出来るただ一つの場所なんです。


 それよりも、今はあの箱に閉じ込められた小さな人を助けることが先決です。

 どうすれば助けられますか?」

 ハルはおじいさんを食卓のテーブルに連れて行き、先ほどと同じように箱のスイッチを触った。


「ガーガー、繰り返す。

 ガーピィー・・・・。

 我々は・・・・弾処理部隊。


 ・・・・かつて、東京・・・・ガーガー・・・落ちた・・・・不発弾・・・・・水爆・・・・起爆スイッチ入った・・・地震・・・ガーピィ・・・爆発・・・日本・・・沈没・・・」

 黒い箱からはなおも同じ言葉が、何度も繰り返されていた。


「これは、テレビというものじゃな。

 かつての文明でどの家にも必ずあった便利な受信装置じゃ。


 箱の中に人が入っているのではなくて、ずーーっと遠くの場所で話したことが、この箱を通じて聞こえるのじゃ。

 決して人が閉じ込められているわけではないから、安心するがよい。


 でも、かつての戦争で放送局などは全て破壊されたと思っておったのじゃが、今でも放送を続けているという訳なのか。

 この地は、海も山も分断されていてほかの土地との行き来が出来なくなって久しいが、他の土地では文明が蘇っているのかもしれんな。


 でも、その土地の絵も映るという事を聞いていたが、絵はどのように映るのじゃろ?」

 おじいさんが尚も箱に付いたスイッチを色々と触っていたら、そのうちに何の反応もしなくなってしまった。


「・・・・・・・・・・・・・」


「こりゃいかん、壊してしまったかな?

 すまん、すまん。昔の装置に詳しい長老のところへ持って行って、なんとか直してもらうとしよう。

 今日はもう遅いから、明日の朝に持っていくとして、まずは食事じゃ。


 さあ、食卓に着きなさい。」

 おじいさんはハルを食卓へと追い立て、ハルもそれに従い、その日は食事を終えると遺跡での疲れが出たのか、そのままハルは眠りについた。


 ベッドや布団も何年も使用していて、マットレスなども継ぎはぎだらけだが、それでも中綿にする綿や羊毛などは、畑の綿花や放牧している羊などから供給されているのだ。


 翌日の朝は、日が昇るか登らないかの時間からハルにせかされて、それをなだめるのにおじいさんは相当苦労をしたようだ。

 朝食を終え、通りに人が行きかうような時間になってから、ようやくおじいさんは一人の長老宅を目指して出発した。


 このコロニーの家は、ほとんどが丸太を組み合わせたログハウスで出来ているのにもかかわらず、その家は四角く白い建材で出来ていた。

 プレハブというものらしいのだが、壁や屋根とかあらかじめ作られた部品を組み立てて家としているものであった。


 この長老は、どこからかその部品を運んできて、自分で家を組み立てたらしい。


 おじいさんは、玄関の脇に付いている白い四角い突起を押してみた。

 訪ねてきたときは、必ずこのスイッチを押すようにと、しつこく言われているものである。

 しかし、いつも何の反応もないのであった。


「権蔵さんはおるかね?」


 おじいさんは、家の中の様子を伺うように辺りを見回しながら、大きな声をかけた。

 すると、家の奥の方から何やらどたどたと音がして、段々と音が近づいてきたかと思うと、

 おもむろに玄関のドアが開いて濃い色のベストと作業ズボンを履いた、中年の男が現れた。

 黒い髪はくるくると巻き上がっていて、大きなぎょろぎょろと動く目が印象的な人だ。


「おや、ハルじいさんではないですか。

 どうしましたかね?

 後、うちを訪ねた際は、このチャイムのボタンを押して呼び出してくださいね。」

 権蔵は、玄関横の白いスイッチを指さして言った。


「押したのじゃよ。

 でも何の反応もないから、仕方がないので呼びかけたのじゃ。」

 ハルじいは、申し訳なさそうに答える。


「えっ?そうでしたか?」

 権蔵は、自分で白いスイッチを押してみた。

 何度押しても何の反応もない。


「そうですね、このスイッチを押すとこのボールの留め金が外れて、この先にある金属板に当たってチャイムが鳴るはずだったのですが、留め金がうまく外れませんね。

 また調整してみます。」

 権蔵は、白いスイッチを押しては留め金のフックの動きを確かめているようだ。


「それはそうと、本日はどういったご用件でしょうか?」

 ハルじい一人で来るのであれば、集会の事前打ち合わせなども考えられたが、今日は孫のハルを連れてのことである。

 権蔵はハルたちを居間に通しながら尋ねた。


「これなんじゃが、ハルが遺跡から拾ってきたものじゃ。

 テレビというものじゃないかと思うのじゃが、どうだろう。

 最初のうちは何やら声が聞こえていたのじゃが、すぐに聞こえなくなってしまったのじゃ。


 壊れてしまったのかな?見てもらえるかね。」

 ハルじいは、ハルが大切に抱えている四角い箱を権蔵に手渡した。


 権蔵は受け取った箱を上からも下からも見回していた。

 箱の裏側の小さなくぼみを押して四角い板を取り外すと、その中から小さく細長い円筒形の金属物を取り出した。


「これは、ラジオという物のようです。

 テレビと同じように離れた場所の声を聴けるものですが、これは絵は見えずに声だけ聞こえます。


 どうやら、壊れたというよりも電池切れのようですね。

 この円筒形のものが電池と言う、電気を蓄える入れ物です。

 前の戦争から何十年も経っているのに電池がもっていたのも不思議なくらいですが、どうやら限界だったようですね。」


 権蔵は、書棚から昔の電化製品のカタログのようなものを取り出して、ハルたちに似たような形をした電化製品を指示した。

 更に電池の上部に付いた白い結晶のような粒を払って、再度詰め直したりしていた。

 電池はぶくぶくといくつものふくらみが出来ていて、元の形状を保ってはいないようだ。


「この電池があれば、私の家のチャイムも、あのような機械式の装置を使わなくても済むのですがね。

 残念ながら、長い時間とともに電池は全て使えなくなってしまいました。


 新たに作ることも、文明を捨ててしまった今の生活環境では無理です。

 折角の文明の遺物でしたが、残念です。どのような内容でしたか?」

 権蔵は残念そうに、箱をハルの手に戻した。


「よくは聞き取れなかったが、何じゃったかのう・・・・不発弾とか言っていたな。」

 ハルじいは、昨日ラジオから流れてきた言葉を何とか思い出そうとしていた。


「そうです、ラジオの中の人は、不発弾とか処理するとか言っていました。」

 ハルもおじいさんの言葉に付け加える。


「不発弾?というと、爆弾の事ですね。

 かつての戦争で、雨のように大量に落とされて、世界中のあらゆる都市を破壊して行った。

 また戦争でも始まるのでしょうか?


 それよりも、外の世界ではすでに文明が発達しているという事なのでしょうね。

 この土地は隔絶された世界ですが、外の文明社会と連絡が取れるようになると良いですよね。

 戦争になるのなら、何としても止めなければならないでしょうし。」

 権蔵は、状況を冷静に分析して見せた。


「そうですよ、おじいさん。

 僕も外の世界に行ってみたいです。

 戦争になりそうであるなら尚のことです。

 戦争を止める必要があります。


 戦争ではたくさんの人が傷ついたり、亡くなったりするそうじゃないですか。

 そのような戦争は2度と起きてはいけません。

 村のみんなで行って、戦争を止めましょう。」

 ハルが立ち上がって叫ぶ。


「いや、無理じゃよ。

 この村が他の土地から隔絶されているのは、何も交流がないからではない。

 交流できないのじゃよ。


 この地は海で囲まれた大きな島じゃが、北と西の地は先の戦争の爆弾の影響で、山々の地形が変わるぐらい大きなクレーターがいくつも開いておる。

 しかもその先は外国じゃ。

 我々とは違う民族がかつて住んでいたと言われておる土地じゃ。


 東と南は少し行くと海に通じるのじゃが、ここも爆弾の影響で海の中に大きなクレーターが出来て、そこを中心に常に大渦巻きが発生しておるのじゃ。


 我々が持っている小さな船では、そこを越えることは出来ないのじゃよ。

 その為に漁も渦巻きの内側の沿岸部分だけでやっているのじゃ。」

 ハルじいは、ため息を付きながら首を振った。


「鍵のかかった洞窟はどうですか?

 かつて外の世界と人の行き来が出来る唯一の道でしたが、人の行き来は全くなく、ある時から魔物たちがあまりにもたくさんやってきたために、洞窟の扉に鍵をかけたと聞いています。


 30年ほど前のことと記録されていますが、外の世界で文明が発達しているのであれば、すでに魔物が大量に入ってくる心配もなくなっているのではないでしょうか?」

 権蔵は、木の皮に書かれた古文書を持ち出してきた。


 戦争前の書物は紙という薄くて白い四角いものに印刷されて、本という箱型のものに製本されたものが遺跡からいくつも見つかっていたが、戦争後では製紙の技術も印刷の技術もなくなっていた。

 唯一失われずにいた文字の記憶を辿り、当初は遺跡より持ち込んだ古い書物の上に書き込んでいたが、これでは過去の文明の記録が失われるとして、この時代で出来る技術で、文章を残すと取り決められたのであった。


 その為、現在ではカンナ掛けして薄い紙状にした木の皮に、炭で文字を書き込み歴史を綴った物が多く用いられていた。


「鍵のかかった洞窟か。

 遥か南西の地じゃ。

 遺跡のある地から、さらに南に下ったところじゃな。


 相当に遠いがコロニーはこの島の南側の海岸沿いに点在しているから、コロニーを伝って行けば何とかいけるじゃろう。

 あそこの扉を開くには、まず長老会の承認が必要じゃな。明日にでも長老会を招集して皆の意見を聞くとしよう。」

 ハルじいは、権蔵が持ってきた古文書を眺めながら答えた。


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