死の宣告@クラッシュ
仮想現実空間「オルタナ」で何らかの違和感を掴みながら、その原因をつかめないでいたケンイチ。ユキを追いかけたケンイチに、そのおそるべき罠は牙を剥き始めたのだった。
どれだけ時間が経っただろうか。
激しい頭痛で、ケンイチは目が覚めた。
ぼんやりとしたその視界の中、
辺りを何とか確認出来そうだった。
……ここは、牢屋? ……
1Kくらいのスペースだろうか。
灰色の鉛に四方を囲まれたスペースが目に入ってきた。
一側面はいわゆる鉄格子で遮られていた。
しかし、その鉄格子より何より、ケンイチに許しがたい映像が目に入ってきた。
……まさか、あれは……
自分と向かい合う形で、一つうなだれる人間がいた。
ぼろぼろになったそのうさぎ耳に、
ひらひらのピンクのスカートが目に入った。
「ユキ、おい、分かるか!? 」
すこしずつ、ユキは唸り声を上げると、
少しずつ首を持ち上げた。
「……なに…? ここは、どこ? 」
ぼんやりとした意識の中、ユキは辺りを見回した。
……えっ…ケンイチ君? ……
やっとのことで、そう声を絞り出していた。
しかし、何よりそのユキを取り巻く映像にケンイチの体全身に戦慄が走っていた。
半ばあきらめ半分で自分の喉元を見てみた。
「……。」
分かってはいたが、改めてその現実を見せつけられると、
全身にたつ鳥肌は抑えられなかった。
そこには「鎌」があった。
その冷たく、鈍く光る鎌がケンイチののど元にかけられていた。
そしてゆっくり振り返ると、
……こいつが……
死神。
いわゆる黒いヴェールに包まれた闇の中に二つの目と不気味な笑みを浮かべた
あやしい光が浮かび上がっているのが目に入った。
そしてそれは、先ほど見た、ユキを取り巻く状況と全く同じだった。
ケンイチは胸からコマンダーを取り出した。
しかし、その手はただちに止まった。
「ボタンが、無くなっている」
様々な機能を果たすためのボタンは全てなくなり、
コマンダーはただの四角い鉄の塊となっていた。
その鉄の塊をいくつか操作しようと試した後、
ケンイチは一つ覚悟を決めた。
「…けん、いち君? 私たちどうなってしまったの? 」
「ユキ、もう大丈夫だ。俺がいるから」
う…うん。ぼんやりとそう応えるユキに、ケンイチは一つうつむくと
改めてユキをしっかり見つめた。
「ユキ、今から大事な事を言う。しっかり聞いて欲しい。」
そのただならぬ雰囲気に、ユキは一つうなずいた。
「俺たちは、『オルタナクラッシュ』につかまった。信じたくはないが、
ほぼそれは間違いない」
ユキはただ目を丸くしていた。
「オルタナ…クラ…ッシュ? 」
ケンイチは大きくうなずいた。
「それって、あの、最近ニュースでやってた?
でも私、何の事だかさっぱり……」
ケンイチは一つうつむいた。
あたりは無機質な灰色な空間とは裏腹に、
どこかの店内BGMがかすかに流れる。
それをしばらく聞き流してから、ケンイチは重い口を開いた。
「俺らはあと24時間以内に死ぬ」
どの空間とも分からない、オルタナの異空間であるその灰色の部屋で、
ユキとケンイチの死へのカウントダウンはこうして少しずつ始まった。
この時はまだ正直、ケンイチ自身も半信半疑だった。
何かの間違いであってくれるのではないかという期待もあった。
しかしそのかすかな期待が一瞬にして、崩れ去るにはそう大きな時間はいらないのだった。