第一世界
けやき並木。
新学期を迎えた高校生達が、学園の入り口に向かって、
あるものは笑顔を浮かべ、あるものは何かに急ぎながら、
その空間をひしめきあっていた。
春の風は皆と同じようにケンイチの頬も暖かく撫でる。
しかし、どことなく浮かない顔しか出来ないのは、
先日、担任の教師から伝えられた、あの宣告のせいだろう。
「だから、そんなにうかない顔すんなって」
切れ長の目尻、すらっとしたその長身に、
いわゆるイケメンとして芸能界で通用するような
その男は、隣にいたケンイチにそう語りかけた。
はあ、そう一つため息をつくとケンイチは、
「あのな、スポーツも万能、成績優秀、
女にもモテモテ、『タツヤ』ファンクラブ『タッツー』も順調!
そんな何でも簡単にやっちまうお前に励まされたって、何も嬉しくないわ」
二人は歩みを進めながら、時折春風に運ばれる前髪を拭った。
「もう1年頑張ればいいんじゃね?
ほら、長い人生から考えれば1年なんて大したしたことねえって。」
もう1年だと? 軽々しく言いやがって。
大体何で俺はこいつとつるんでるんだ?
「ところでさ、ケンイチ」
「あ? 」
「暇になったところで、一つ頼みたいことがあるんだけど」
暇になったところで?
それが留年生にかける言葉か?
本当にこいつは……
「一人、オルタナ初体験の子がいてさ、その子にオルタナ教えてあげて欲しいんだけど。」
「は? そんなのお前だって教えられるだろ?
俺はお前のポイントアップにつきあってあげられるほど暇じゃねえ」
「今回はマジなんだって! なんか、ついに見つけたっていうか…
ちょっと本気で好きになりそうなんだよね……」
今回はマジだって? じゃあ今までの何十人のコイツにふられた女の子達は
何だったって言うんだ?
そんなケンイチの気持ちはつゆ知らず、タツヤは続ける。
「そんでさ、お前も一見ぱっとしないけどさ、オルタナ界ではちょっとした有名人だろ?
そんな人がオルタナ教えてくれるって約束しちゃってさ、そんで……」
「あ、そう。じゃあ今すぐそいつに連絡するんだな、『この前の約束は無かったことに』ってな!
んじゃ! 俺『忙しい』から!」
そういって走り出すと、ケンイチは学園入り口に集まる人ごみに吸い込まれていった。
「おい! ちょっと待てって!」
すかさず、タツヤもその人ごみに潜り込んでいった。
春の風が優しくけやき並木を揺らす。
陽の光は暖かく並木道を照らしていた。
しかし気のせいだろうか、
その遠くに見える空模様は、少しずつ陰りを落としているようにも見えた。
「ユキ」と「ケンイチ」の出会いはすぐそこまで迫っていた。