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受け入れる勇気


「リミットまで5分を切りました。ただちに離脱されない場合は、

 離脱できなくなる可能性があります。ただちに離脱してください。

 これは訓練や演出ではありません。最終通達です。直ちに……」


ユキはうなだれ、放心状態だった。


「ユキ、最後まで諦めてはいけません、僕が何とかしますから……」


その時だった。


「無駄だよ」


その声はひどく澄んでいた。

そして、一瞬の迷いも感じないものだった。


「ケンイチ? 今何て?」


「無駄だって言ったんだ。」


ぎらぎら回り続ける黄色い警報ランプと、

警報ブザー。


そのうるさすぎる部屋に異様な静寂が走った。


「まさかケンイチ諦めたとでも?」


即座に、きっ、とするどい眼光をJに浴びせた。

その目つきにJはおののいた。


そしてゆっくりとケンイチは口を開いた。


「いいか、ユキ。しっかり俺の言葉を聞くんだ。そして俺の目を見ろ。

絶対に目を反らすなよ? 分かったな?」


ユキは息を切らし、肩で呼吸をしながら、ケンイチの目をみつめた。


「あのな、ユキ。俺思ったんだ。なんでこんな事になったんだろうって

そもそも大昔はオルタナなんてなかった。それでも何とか暮らしていたはずなんだ。

なのに俺らはこの便利さに目がくらんで、この電脳社会を利用しているようで、

結局この社会に飲み込まれていただけなんだ」


ユキはただただ、その言葉を聞いていた


「これは俺らへの罰なんだ。大事な物を見失い、目の前の便利さに流された俺たちの。

だから俺は決めた。俺はこの罰を受け入れる」


ユキは脱力し、その場に膝をがくりを落とした。


「俺らは間も無く死ぬ。運命には逆らえない。守ってやれず、ごめん」


ユキはその目蓋から大粒の涙がこぼれ落ち、そのまま地面に倒れ込んだ。

けたたましい警報音が虚しく響き渡る。


……一分を切りました。ただちにターンオフをしてください……


Jはそのただじっとユキを見つめ続けるケンイチの後ろから、

しずかにその姿に目をやっていた。


その1分という時間は永遠にも感じた。

果たしてどれだけの時間がだっただろうか、

ふとケンイチが息をついた次の瞬間、

あたりはまばゆいばかりの白い光に包まれ、

全く何も見えなくなった。



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