最後の脱出方法に陰りが…
残り時間は3時間となっていた。
そのリミットの時間の横に、新たにJが作り出した、
仮想のデジタル時計が現れた。
こちらは最終オルタナ破壊プログラム「カオス」が実働するまでの時間だった。
そのタイムラグは当初1分だったが、その後徐々にのびてきており、
2分、5分、そして今は10分という余裕が出てきた。
「ねえ、ケンイチ? 」
「ん? 」
「私たち、助かるのよね、これで」
ケンイチはただ遠くを見つめていた。
「私ね、まだやりたいこと沢山あるんだ。南の島へ行って、ホエールウォッチングとか、
オーロラみたりとか。あ、あと南極にも行ってみたい!」
ケンイチはただうなずいていた。
「でも南極って寒いんだよね、体鍛えないと、きっと風邪ひいちゃうね」
「大丈夫だよ」
ケンイチはぼそっと答えた。
「そう? 私すぐ風邪ひいちゃうんだよ?」
ケンイチは首を横に振ると、
「いや、そうじゃなくて、南極は寒すぎて風邪の原因になるウイルスも生きていけないんだ
だから風邪ひく事はない」
ユキは目を大きく見開いた。
「本当に? 良かった、これで一つ心配が無くなったよ、ありがとう、ケンイチ!」
ユキの瞳から満面の笑みがこぼれた。
ほんの一時だったが、その空間はまるでこの灰色の空間、
こうやって死神に首元を鎌でくくりつけられている状況とは裏腹に、
生命に満ちあふれた瞬間が流れた。
しかしその時だった。
ピコーン。
今まで聞いた事の無い機械音と共に、その空間のどこかに変化が起きた。
その変化を見つけた時、一同の全員に再び戦慄が走る事となった。




