最後の一時まで
最後の確実な脱出方法。それはユキの命を犠牲にするものだった。
ケンイチの決断は?
「分かった、J、決断するよ」
ケンイチはJを見つめた。
それからゆっくりと口を開いた。
「その方法は却下だ。」
Jは眉をぴくりと動かした
「俺は最後の一時まで、二人同時に助かる方法をあきらめない。
もしそれで見つからなかったとしても、俺は後悔しない。そうすることにした」
Jはじっとケンイチを見つめたままだった。
「すると、この方法は選ばないという事ですね?」
ケンイチはうなずいた。
「本当にいいですか? これが最後の確実な方法ですよ? 」
ケンイチの瞳に迷いは無かった。
「あぁ。その通りだ。」
Jは一つ息を吐き出すと、先ほどの特殊なコレクトボイスを解除し、みんなが聞こえるように話し始めた。
「そう言うと思ってました。」
一つJは笑みをこぼした。
「僕たちには理解出来ません。一時の感情のために、確実な方法をあきらめるなんて。しかも最も大事にすべきは自分のはず。なのに他人の命を助けるために自分の命まで危険を冒すなんて。
でもあなた達日本人は時々そのような方法をとると聞いた事があります。あなたのその選択肢を僕は尊重します。だからもし、あなた方二人が名誉の死を遂げたとしても、僕があなた達の勇姿を必ずしや後世に伝え、讃えていくことでしょう。しかしもし万が一、万が一にあなたが賭けに勝って、全員ここから助かる事になったとしたら……」
Jはいつのまにか、いつもの優しい瞳へと戻っていた。
「その時は、おいしいワインで一杯やりましょう」
ケンイチは笑い飛ばした。
「何言ってんだ、俺もお前もまだ未成年だろうが。」
「オルタナ上は何でもありですよ、お勧めのがあるんです。是非それにしましょう」
そうだな、そう言ってケンイチも笑顔を返した。
約束ですよ? Jも笑顔で念を押した。
Jがユキに向かって、画面の中でとあるボタンをタッチすると、ユキが目を開き、Jを見た。
「あれ? どうしたの? 」
「どうですか? Sea sideは。波の音に眠気を誘われるでしょう」
「うん、ちょっと眠っちゃった。エヘヘ」
一同も少し笑った。
「それでは3つ目の脱出方法の説明に入りますよ」
ユキはきょとんとした。
「あれ? 2つ目は? もう言った? 」
「おい、ユキ。もう言ったぞ? 次は3つ目だ。ちゃんと聞いてたか? 」
ユキは首を傾げながら、
「まあ、そんな気もするわね。ところで、その3つめっていうのはどうするの?」
Jはすこしうつむいた。
先ほどより長く、そして重々しく、その口をゆっくり開くのだった。
「本来なら、この方法だけは使いたくなかった。だが仕方ありません、残された道はこれしかありません。」
タイムリミットは丁度6時間を切るところだった。




