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決断の時

2つに1つ。重大な決断を迫られたケンイチ。果たしてケンイチのとった選択は?

「お前の言う2つ目の方法ってのは以上か? 」


Jはケンイチを見つめたままだった。


「ケンイチ。ここから話す事を冷静に聞いてください。決してその場の感情に流されてはいけません。」


ケンイチはうつむいたままその耳だけJの声に傾けていた。


「ケンイチ、このクラッシュの生存率は知ってますよね? 0%です。しかも犠牲者はみんなオルタナCの称号を得たオルタナ界のプロフェッショナルばかり。そんな世界トップレベルの頭脳を持った人でさえ抜け出せなかった、世界最悪のパズルなんです。しかも、最後にクラッシュの犠牲者はその全ての履歴が削除されるため、今もその解明がほとんど進んでないんです。しかし、もしここでケンイチが一人でも脱出出来れば、ここまでの履歴が残る。そうすればクラッシュの解明は一気に進むかもしれない。そしてその後起こりうる沢山の悲劇は救えるかもしれないんです。」


ケンイチは顔を上げなかった。


「もしここでケンイチが判断を誤り、みんなクラッシュにやられることがあればそれこそ今回もここまでの履歴は闇に葬られ、悲劇はまだまだ繰り返される事になるかもしれない。ユキにはかわいそうですが、ここは重要な決断が必要な時なんです。」


ケンイチはやっとのことで、少しユキの方を見る事が出来た。

まさかこんな話をされているとも知らないユキは今もそのヒーリングミュージックに浸っていた。


俺が頼りないばかりに…

標的は俺だったはずだ。にもかかわらず、何も関係のないユキまで巻き添えにされ、挙げ句の果てに自分だけ助かり、ユキを犠牲にしろというのか?

ケンイチの拳が震えていた。


「僕が調べたところ、ユキは母子家庭です。悲しむ人もきっと少ない、だから……」

「もういい。」


Jは最初その声がよく聞き取れなかった。


「何ですか? 」

「もういいって言ってんだよ。」


明らかにケンイチの声が震えていた。


「あのな、J。命ってもんは、そう簡単に比べられねえんだよ。お前の言いたい事は分かる、間違ってはないだろうよ。だけどな、時にはまわりから見て明らかに間違ったように思える選択肢でも選ばないと行けないときもあるんだよ」


Jはただただ、ケンイチをみつめていた。


「ただ確実な方法は、これだけなんです、ケンイチ。

ひょっとしてあなたは恥をかきたくないだけではないですか?

自分のせいでこの事態を引き起こしてしまったのに、

自分だけ生きて、挙げ句の果てにユキを見殺しにした。そう思われたくないだけなのでは?」


Jはあらゆる考え方を、理論的に客観的に述べるのに長けていた。


「もしあなたが、今の自分の犯した失態を取り戻したいのなら、

そして今の自分を納得させたいなら、あなたのすべきことは名誉の死を選ぶのではなく、

生きて、何か人のためになる選択をしてください、ユキの死を無駄にしないためにもあなたは生きて、

これから同じように起こりうるその悲劇を食い止める必要がある、違いますか? 」


ケンイチは一つ深呼吸をした。

自分の選択に、複数の人々の命がかかっている。

その選択の重みを十二分にも噛み締めて、心を落ち着かせていた。


どれだけ時間が経っただろうか、ケンイチは心に決めた事が一つあった。

「分かった、J。決断をするよ」

そのケンイチの瞳に迷いは無かった。


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