生き残れるのは一人だけ
2つ目の脱出方法はただならぬ方法だった。
「それでは2つ目の方法をお話しします」
ケンイチは一つつばを飲み込んだ。
「2つ目ね、聞かせてもらおうじゃない。ユキをだまして、この話を聞こえなくさせて、かつ俺にしか聞こえないコレクトボイス使ってまで言わなきゃならないその方法っていうのを」
Jはうなずいた。
「ケンイチ。落ち着いてようく聞いてください。先ほど僕は脱出には2.8Ted必要と言いました。しかし、これは3人まとめて脱出するのに必要なTedです。実際のところ、必要なTedは1.8Tedなんです」
「すると、俺とユキの1Tedずつを合わせて2Tedになるから、ぎりぎり足りるってわけだ。」
Jはうなずいた。
「J、なのに全然嬉しそうじゃないのは一体何故なんだ?」
Jは重い口を開いた。
「1.8Tedで助かるのは『一人』だけです。また、必然的に不測の事態にも動ける必要があるため、その一人とはケンイチ、あなたの事になります」
ケンイチはJをみつめた。
「それで?」
「それで、あなたは助かります。このクラッシュから抜け出す事が出来ます。」
数秒の時が流れた。
「それでどうなるんだ? ユキは」
Jはちらっとユキに目をやった。ユキは時折ノルウェーコーヒーを口に運びながら、リズムに乗って目を閉じていた。
「おそらく……助かりません」
ケンイチの表情が凍り付いた。
「助からない、だと? 何かあるだろう! 脱出してから、クラッシュを止めて救出とか」
Jはうつむいたままだった。
「申し訳ない、ケンイチ。僕も色々シミュレーションしてみましたが、どうやらあなた一人を救うのが手一杯です。一度ここを抜け出したら、再びこのクラッシュにアクセスする事はほぼ不可能です。出来たとしてもそれにはとても時間がかかり、リミット前には間に合いません、その頃にはもうユキは死んでしまっている」
その、死、という言葉がケンイチの全身の血液を凍らせた。
「お前の言う、2つ目の方法ってのは以上か?」
Jはケンイチを見つめながら、大きくうなずいた。




