第二世界
吹きすさぶ空っ風の中、岩山で囲まれた荒野に二人はいた。
その悟りを開いたかのような隙のない侍「壱」と、
見るもの全てを蛇ににらまれた蛙にしてしまう、
大型バスほどの大きさはある魔獣「ギース」。
この二人は世界大会を勝ち抜けてきた決勝戦、
つまりこれは世界一を決める戦いだった。
全世界の「オルタナユーザー」がこの戦いを注目していた。
ギース「このひよっこ日本人め。ドイツ代表の名にかけて、
お前なんか、このギース様が一瞬で食い尽くしてくれるわ」
「……」
先に動いたのはギースだった。
驚くべきスピードで壱の首もと目がけて飛びかかる。
しかし勝負はあっけなかった。
壱のその目にも留まらぬ刀さばきは、一瞬にして魔獣ギースの急所を突き抜いていた。
「勝者、『壱』!」
ーーやったな、壱。君は日本の誇りだーー
ーー感動をありがとうーー
さまざまなメッセージを残して、多くの観客は
「ターンオフ」
し、現実世界へと戻っていった。
オルタナ界の格闘技ナンバーワンを決める大会「オルタナクレスト」はこうして幕を閉じた。
その「壱」とされた侍もポケットに入った携帯電話を取り出し、
赤いボタンを押した。
すると間も無く壱の目の前に
「ターンオフしますか?」
というメッセージが浮かび上がった。
壱が「はい」をタッチすると、
間も無く彼は現実世界へと戻された。
カーテンからは陽が差し込んでいた、辺りは朝の喧噪を離れ、
一段落の落ち着きを取り戻していた。
「んーーーー!」
大きく伸びをすると、ケンイチは時計を見た。
またか、まあ分かってはいたけど。
今日も「遅刻」だった。
ケンイチは高校3年になろうとしているが、
その半分以上は遅刻である。
っていうか、なんでオルタナクレストの決勝戦朝の8時からなんだよ。
あれがなければ遅刻しなかったのに……
そうつぶやくと、制服に着替え、高校へ行く準備を始めた。
ふと、オルタナキャップに目をやった。
「……」
これをかぶっている間はケンイチは壱として、
世界の頂点として崇められる。
にも関わらず今の自分ときたら……。
ピコーン、ピコーン。
拍子抜けするような警報音にケンイチは呆れそうになった。
「臨時ニュースです、先ほど……」
今にも玄関へ飛び出そうとしたケンイチは突如その「次のキーワード」に
後ろ髪を思いっきり引っ張られた。
「臨時ニュースです。オルタナクラッシュです。これで被害者は3人目となりました。被害者は22歳女性、オルタナ上の仮想洋服ストア『ザック・タウン』の試着室に入った後、その後所在が掴めなくなり、その24時間後突然の呼吸停止と心肺停止、駆けつけた救急隊が死亡を確認しました。
これで一連の不審死現象『オルタナクラッシュ』の犠牲者は3人目となりました。警察が原因を調査している最中です。また、サポート元であるマクロメディア社は一連の不審死とオルタナとの関連を否定しています。ちなみに……」
ふん、くだらねぇ。
そう一瞥をくれるとケンイチは玄関を出て行った。
この時まだケンイチは気づいていなかった。
今まさに、その近くまでこの「オルタナクラッシュ」の魔の手が近くまで差し迫っていようとは。