2つ目の方法
1つ目の脱出方法に失敗したケンイチとユキ。2つ目の方法に頼る事となったのだが……。
「それでは2つ目の方法についてお話します」
まずその前に……そういってJはユキに優しいまなざしを向けた。
「ユキ、だいぶ疲れたでしょう。これをどうぞ」
Jが何らかのキーをタッチすると、ユキの目の前にカップに入ったコーヒーが現れた。
「これ、何?」
「コーヒーです。」
「ごめん、私あまりコーヒー飲まなくって」
「いいから飲んでみてください、きっと飲みやすいですよ」
おそるおそるユキはそのカップに口をつけた。
「あ、本当だ! 飲みやすい」
「ノルウェーコーヒーです。まるでワインのようなとも言われます。この香りで気分を落ち着かせる効果もあります。」
このオルタナの仮想現実の世界にも関わらず、そのノルウェーコーヒーの香り、味、わき上がる蒸気は本物と区別がつかないほど精密に再現されていた。
「それとこんなのもどうでしょう」
こんどはユキの耳に、優しい音楽が流れ始めた。
「わあ、素敵。これ何?」
「僕がよくリラックスしたいときに使うヒーリングミュージックです。少し休んでください。」
ありがとう、そういうと、ユキは目を閉じ、しずかに心を落ち着かせ始めた。
その姿をしばらく見つめてから、Jはゆっくりとケンイチを見つめ直した。
そのまなざしにケンイチもどこかただならぬ気配を感じ取り始めていた。
それから静かな声でJはささやき始めた。
「それでは2つ目の方法をお話しします。」
その声はケンイチだけに聞こえる特殊な方法を使われていた。
そこでケンイチは確信した。これからの話は簡単ではないということを。




