「J」
オルタナクラッシュから抜け出す方法を見つけ出したケンイチ達。
早速その準備を始めたのだったが…。
どれだけ時間が経っただろうか。
リミットの時計は12時間半を切るところだった。
相変わらずJは画面の中でせかせかと何らかのキーをタッチしたり、浮かび上がる様々な図形をまわしたりと作業を続けていた。
「ねえ、ケンイチ? 」
「ん? 」
「J君は少年なの? 何であんな小さい子にこんな難しい事ができるわけ? 」
ケンイチは待ち時間を持て余すように、Jの事をユキに話す事にした。
「あいつは、『オルタナの住人』なんだ」
ユキは眉をひそめた、無理も無い、そのような存在をユキが知っているはずもなかった。
「何? オルタナの住人って」
ケンイチは遠くをみつめながら口を開いた。
「通常オルタナユーザーは俺らみたいに、やる事が終わったら普段は普通の世界で暮らしている。ただ、中には普通の世界では暮らせない人もいるんだ」
「暮らせないってどういうこと?」
「Jは生まれつきの病気で、全身の筋肉が少しずつ動かせなくなってしまってるんだ。しかも進行が早いタイプで、3歳からベッドで寝たきり。それ以降起き上がった事は一度もない。」
おもわずユキはJに目をやった。
「ただな、頭だけはしっかりしてるんだよ。これしたいとか、これがいいとか。そんな人にオルタナは自由な世界を与えたんだ。」
Jはそんな話すら耳に入らないほど集中していた。
「オルタナの中では脳さえしっかりしていれば自由に飛び回ったり、コミュニケーションを取ったり。普通の人と同じ、いやそれ以上のことが出来るんだ。Jはほとんどオルタナにいて、抜け出す事はない、そんな人たちの事を俺たちはオルタナの住人と呼んでいる。」
その途方もないスケールにユキはただただ耳を傾けるしか無かった。
「私たちが何気なく利用しているこのオルタナも、そんな人たちからしたら、きっと天国なんでしょうね」
「あぁ、そしてその住人は特別に自動ターンオフをされることがない。だから今回のクラッシュには巻き込まれないようになってるんだ。」
つまり、現実世界に戻るために頭を慣らす必要がないんだ、とケンイチは付け加えた。
「そういったオルタナの住人達はこの世界こそ全てなんだ。だからその世界の秩序を守りたいという気持ちは人一倍強い。そしてその仕組みだったり、プログラムにも人一倍長けているのもうなずけるだろう」
なあ? ケンイチはJに呼びかけた?
「どうしました? ケンイチ」
「お前はオルタナクラッシュの解明チームに抜擢されたって言ってたよな? 」
「はい、それが何か? 」
「結局犯人は誰か目星ついてるのか? 東ヨーロッパのサイキック集団か? それともアジアを拠点とするハッカー集団『シルクロード』か? 」
Jは少し手を止めた。
「今のところ、犯人は『いない』ということになっています」
いない? おもわずケンイチは聞き返した。
「どういうことだ、こんな大それたプログラム、自然に発生したってのか?」
「最初は何らかの人物が作ったのかもしれません。しかし、そのプルグラムはオルタナ上で自己膨張し、分裂し、複製され、まるで生き物のように不良品は削除され、残った物はより精度の高い物となってしまった。その最終形態がこの『オルタナクラッシュ』です」
なんてことだ。最初からこのプログラムを作った「主」憎しみを抱いていたものの、
その「主」は最初からいなかったなんて。
「そもそもケンイチ。その『主』がいようといまいと、僕たちのやることは変わりません。違法プログラムの削除、そして防止。それが出来なければその『主』を何万回死刑にしたって、再びこのような事態は繰り返されます。だから、その元凶である『主』については僕たちは議論としません。ただ、一つ分かっている事は…」
「分かってることは?」
「これは『ドラゴンの角狩り』なんです」
「『ドラゴンの角』?」
はい、そう応えるとJは
「クラッシュの犠牲者をみてください。まず始めは、ファン、ベルナルド国連機密情報管理の責任者、そして二人目はチョン・ヨウファ、ご存知韓国の電脳オリンピックの優勝者。3人目はオルタナの機動性を跳躍させる画期的なプログラム『swimy』を開発したA.リッキー。みんなオルタナCの称号を得た、著名人ばかりそして、4人目は……」
ケンイチは口を閉ざした。
「オルタナ上の格闘技、『オルタナクレスト』を勝者『壱』であるあなた、ケンイチ。これは明らかにオルタナ上の著名人ばかりを狙った犯行なんです。」
狙いは俺か、となるとユキは単なる自分の巻き添えということになる。
今になって自分のしてしまった失態の重大性を改めて認識せざるを得なかったのだ。
「よし、これをインストールすれば……」
Jは最後のボタンをタッチした。
「みなさん、お待たせしました。準備が整いました。」
3人はJのいる大画面を見つめた。
リミットは12時間を切ろうとしていた。




