突如舞い降りた一筋の光
絶望に囲まれたクラッシュの空間でただただ死を待つ二人。
そんな二人に、突如変化が訪れる。
ケンイチは改めて今の状況を確認した。
自分とユキの喉元には鎌、そして背後には死神が張り付いている。
どうやら手や足はわずかに動かせるが、移動はとても出来ない。
そして、唯一の頼みの綱であるコマンダーは機能しなくなっており、
ほとんどのオルタナの機能が封じられてしまった。
このまま行くと、リミットの時間が来れば、オルタナは自動的に強制終了となり
その際、セットオフをしていない自分達は脳に大量の電流が流れ、そのまま死亡する。
この状況を打破しようにも、あまりにも出来る事が少なすぎる。
メッセージの発信はおろか、外界との連絡すらとれない。
あらためてケンイチは壁にかけてある赤い「3つ」のハートを見つめた。
これらはケンイチ達の恐怖や、悲しみが強いと色が変わって示す、いわゆる「おもちゃ」だった。
……ここでこうやって俺たちが恐怖に教われていく事をこのハートで表して楽しんでいるのか……
そう思うとより一層、このクラッシュから抜け出してそのクラッシュの「主」をがっかりさせてやりたい、
そう思うようになった。
再度ケンイチは辺りを見回した。
1Kほどの広さの灰色の鉛で囲まれた空間。鉄格子は傷一つなく、見上げると遥か上まで続いていて、天井は無かった。
「ねえ、ケンイチ君」
「ん? 」
「ちょっと気になってたんだけど。」
「何だ? 」
「どうしてこのハート、3つなのかしら。私たち二人でしょ。」
確かに。何でこんな簡単なことに気づかなかったのだろうか?
「それってやっぱりあれの分? 」
「あれ? 」
「ほら、ケンイチの後ろにいるあれよ」
ケンイチはユキの指差す方をみようとした。
そこはケンイチには死角となる背後であり、今までそこまでは見ようとはしなかった。
そこにはもう一つ死神がいた。
しかしその死神がとらえるものはいわゆる「オオカミ」だった。
「あれが? 」
「でも死んでるよね、さっきから全く動かないもん」
たしかに、ケンイチもそう思った
「おい、そこのオオカミ、生きてるか?」
様々な問いかけにもその死神とオオカミは微動だにしなかった。
「何かしら?」
「どうせ、何か俺らの恐怖心を煽るための飾りかなんかだろう。」
出来る事をいくつも探し続けた二人だが、ようやく手詰まりとなってきた。
リミットは19時間を切ろうとしていた。正直、二人の間に諦めの雰囲気が漂い始めていた。
「ねえケンイチ。私たち、もうダメなのかな……」
ケンイチはうなだれたまま応えなかった。
何でこんなことに、一体俺が何したっていうんだ。
たちの悪い夢なら早く覚めてくれ……ひたすらそう願っていた。
しかし、その時だった。
そんな二人の空気を突如打ち破る、奇妙が音がどこからともなく聞こえてきたのだった。
それはあまりにも突然で、意外性にあふれるものだったため、その意味を理解するまで二人は時間を要するほどだった。
「You got mail! ケンイチさん、メールがトドキマシタ。ケンイチさん、メールがトドキマシタ」
無機質な灰色の空間に、その音が響きわたった。
絶体絶命のその空間とは不釣り合いな、そのメッセージに二人はわずかばかりの恐怖すら感じていた。
その対応こそが、今後の二人を大きく左右する事となっていくことだけは間違いなかった。




