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プロローグ

 

 荒い息づかいが聞こえる。

 パジャマ姿の女性の、そのうろたえた瞳はただ一点を見つめていた。

 額からの冷や汗がぽつりと、膝の上に垂れる。


 改めて自分の首元を確認してみる。

 状況は変わらない、やはりアレは自分の首元に巻き付いたままだ。


 もう一度とある場所を見つめてみる。

 そこにはデジタル時計の時間が減っていくのが見えた。

 その数字が11分を切り、ついに10分を切ったとき、

 あたりにけたたましい音で警報ブザーがなり響いた


「ターンオフリミットまで、10分を切りました。

 直ちにオルタナから離脱してください。ただちに離脱してください」


 そのコンピューターの無機質なアナウンスが虚しく響き渡る。


 無情にもタイマーは5分を切ろうとしていた。

 さらに警報ブザーは激しくなり響く。


「リミットまで5分を切りました。ただちに離脱されない場合は、

 離脱できなくなる可能性があります。ただちに離脱してください。

 これは訓練や演出ではありません。最終通達です。直ちに……」


 女の息づかいはさらに荒くなった。


 最後にもう一度、首元をみてみた。

 ある……やはりまだある。

 そこにあるのは自分の首など一瞬で切り飛ばす事の出来る

「鎌」

 だった。


 そしてそれを持っているものは…。

 ゆっくりと自分の背後に大きく立ちはだかる黒い陰をみてみた。


 ……死神……


 その大きな黒い陰として立ちはだかる死神は、

 女の首に鎌をあて、微動だにしなかった。

 女は知っている、ターンオフをするには目の前のスイッチを押せば良い。

 そうすれば現実世界に戻り、全ては何とかなるはずだ。


 しかし動けない…どうして…?

 これはたちの悪いいたずらなのだろうか?

 それなら早く覚めて欲しい。


「1分を切りました。緊急事態です。強制終了された場合、

 脳に障害が残る可能性があります。直ちにターンオフスイッチを押し、

 離脱してください。緊急事態です」


 最後の力をふりしぼって、女は手を伸ばす。

 しかし、まったく動けない。

 死神の鎌を首にかけられた女は、だらりと冷や汗をたらすばかりで、

 何も成果は得られない。


 ……いやだ、こんな終わり方なんて。これなら一層……


「5、4、3、2、1。強制終了します」


 ビー。


 激しいブザーとともに、女は目と口を大きく見開いた。

 そして弾丸が脳天を貫通するような衝撃を受けるとともに、

 あたりはまぶしいばかりの光に包まれた。




 その日ニュースは緊急速報を伝えた。

 オルタナクラッシュによる被害者が一人増えた事を伝える速報だった。

 被害者は22歳女性、オルタナ中に所在が不明となり、

 強制終了後、突然の呼吸停止、心肺停止し、死亡した。

 死因は脳幹部に高容量の電流が流れ込み、激しい損傷を来したものによる脳幹死。

 そしてこれは一連の現象、いわゆるオルタナクラッシュと酷似しており、

 これら事件の関連性を警察が調査しているとのことであった。

 これで犠牲者は3人目となるが、責任会社であるマクロメディア社は、

 オルタナとの関連性を否定している。



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