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Geister Kontinent   精霊大陸での日常  作者: うぃんてる
第一部 賢者の学院編
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83.雨の森へ

 翌朝。頑張って苦行を耐え切り完全復調したウィンテルは不意打ちを警戒しながら領都騎士団から発行された許可証を手に皆を率いて第二城壁北門の前に立っていた。


『ココから先は状況によっては生命の危険が伴う魔物の領域よ。そこに踏み込むのだから各自お互いにチェックをしてちょうだい』

「おし、全員武器の準備は大丈夫か?いつでも使用できるようにカバーは外してあるか?手入れは昨晩のうちに実施したから大丈夫だとは思うが、不安な事があるなら今のうちに言うんだぞ」

「基本の防具はもう朝のうちに身につけてるから大丈夫だとして、その他の各自必要な装飾品は大丈夫かしら?ウィンテル先輩から渡されているはずの“護符”は大丈夫?それからポーチの中のポーション類は咄嗟に使うことが大半だから手探りで何がどこにあるか分かるように各自整理と記憶をするようにね」


 ドゥエルフ君とラミエルちゃんが口頭で注意点を説明し、エレンとリリーちゃんがミランダちゃんたちの世話をしていくのを横目に確認しながら、私も最初から全力が出せるようにここ一番に身に付けるような装備品を身に付けていく。武器も普段愛用しているようなスタッフではなく例の氷霊鉱石製のデスサイズだ。その他にも腰に付けたポーチにポーション類と魔力の内包量が格段に多い大粒の魔晶石を持てるだけ詰め込んでいる。そして今回は何が何でも生還しないといけないため、陛下から直々に光の精霊石の付いた指輪を借り受けていて、しまっておいた胸元の匂い袋の中から取り出して右手に嵌める。


『それにしても……襲われるのが分かっているのにそれでも行かないといけないってホント、不条理よね。しかもプロの暗殺者を相手に新米導師と学院生徒で迎撃しなくちゃならないとか。ま、手をこまねいていたわけではないし、最悪帰還の護符を使うから死なないことだけを考えなさい。いいわね?』


 もっとも、誰にも汚ない手を掴ませる気は毛頭ないけれど。むしろ触れたら地獄みせてやるんだから。くすくすくす。


「お姉ちゃん。お姉ちゃんってば!顔がどこかの悪役令嬢みたいで怖いって」


 おっと、いけない。顔に出てしまったみたい。……平常心、平常心。心の乱れは魔法の乱れに繋がるしね。さてそれはともかくとしてみんなの支度は整ったみたいだ。


『ん、それじゃ行きましょうか。帰還護符リターンランド発動の関係で今日は私がリーダー貰うわね?』

「ええ、異論はないです。むしろお願いします、ウィンテル先輩。さ、みんな。門を潜ったら集中して警戒を怠らないこと。何か気が付いたら何でも報告して生還率をあげましょう?」

「無事生還できたら例の喫茶店で祝おうぜ。代金は俺が持ってやるから、その代わり必ず生き残れ。いいな?」


 パーティー全員の引き締まった返事を聞いて第二城壁北門を潜るところで私たちはハミルトンさんに声を掛けられた。なんでも森への進入要件がランクアップしたことでまたしばらく冒険者たちが来るのが遅くなると判断したとかで、昨日ハミルトンさんが率いる部隊が魔物の掃討を少し行ったのだそうだ。


「気休めかもしれないが、やらないよりはいいかと思ってね。それから、不審な集団の目撃情報が昨日上がった。調査が終わったら速やかに帰還する事をオススメする」

『ありがとうございます。危険だと感じたら騎士団本部中庭に集団転移しますから。それでは行ってきます』


***


 北門を守る騎士たちに見送られ視線の遥か先にぼんやりとした輪郭を示す“雨の森”を目指す。周囲はまだ開けた草原で腰の高さくらいの雑草が生い茂っている。小石の混じるでこぼこ道を進む私たちの姿は北門の上で監視をしている歩哨ほしょうから双眼鏡を通してまだ見えているだろうし、これだけ見通しの良い場所での奇襲や強襲はまずないだろう。

 私が襲うならば最低でも森の中。濃霧の付近がベター。調査中が意識の分散が多くてベスト、と言いたいところだけど何らかの意表を突かれる可能性も高い。いずれにしても私たちは既に彼らから監視を受けている。上空に例の鳥がいるから。……望外だけれども、こちらから強襲できたらイニシアチブを握れて少し楽になりそうなものだけれどね。


『森に入る前に小休止しましょう。中に入ったら一区切りつくまでまともに休めないと思って頂戴。敵の他に通常の魔物遭遇戦エンカウントもあるから気をつけること。水は余りとらないで?生理現象トイレ中に襲われたら目も当てられないわ』


 束の間の休憩を終えて私たちは改めて気を引き締める。暗殺者の方は分からないが不審な集団は少なくとも上空の使い魔の関係上割と近い場所にいるような気がするからだ。警戒しすぎて移動が遅くなるのは避けたいが、かといって警戒を怠るわけにはいかない。ミランダちゃんたちの経験不足やエレンたちの対人実戦不足が少なからず影響はあるのは確か。それは私がカバーするしかない。

 全員が沈黙し、黙々と予め決めておいたポイントへと生命の気配がほぼ消えた森の小道を隊列を整え歩いていく。そして少し先に開けた目的の空間が視界に入った所で状況が動く。


《パキッ》

『っ!全員構えてっ、敵襲よ!』

「ちぃっ、誰だ枝踏んだ奴ぁ?!かまわねぇ、奇襲が失敗しようが強襲してもガキどもには勝てらぁ!捕虜は捕まえた奴の好きにしていいぞ、やっちまえ!!」

『させないわ、簡易詠唱・光翼飛翔!うん、発動よ!』

「光の翼だと?!こいつ氷属性以外も扱えるとか聞いていねぇぞっ」


 リーダーらしい男が、私がみんなに光の翼を付与した事にこんなことは聞いていない、という風に目を剥いて驚愕している。ということは少なくともあの暗殺者からウィザードの実力が所持する精霊石の個数に比例するという一般論を聞いている、と認識できる。私が氷の精霊石を扱うのは周知されているのだから。

 今回、時の流れを司る氷の翼ではなく光の翼を付与した理由は出来るだけ消耗を抑えておきたい思惑がある。生命力を意味する光の翼は対象に毎ターン生命力の回復を付与する効果があるため怪我しにくくなる事は今の状況にうってつけだと判断したからだ。

 付与を受けたエレンたち4人は速やかに適度な距離を保ちながら緩やかに散開して武器を構え対峙している。ミランダちゃんたちも私とミランダちゃん、セレスちゃんを半円形に守りながらエレンたちの少し後ろに展開を終える。そして私以外は初めてになる本格的な対人戦闘に突入した。

 生命力回復や武器への命中率・攻撃力付与、防具への防御力付与などをミランダちゃんたちに任せたエレンたちが攻撃に専念して必死の形相でメイスやフレイルを振り回して戦い始めている。相手のリーダーが発した言葉になんとしてでも勝たなくてはいけないと気合いを入れ直したからだろう。対峙している悪人面の男たちが浮かべているいやらしい表情が負ければ惨劇しかないと思わせるからだ。


『なるべく攻撃魔法は控えて温存。エレンたちの援護を中心に良く考えて。分散させないで各個撃破を意識しなさい!』

「くそっ、お前等いつまでも舐めた考え持っているんじゃねぇ!負けたら俺たちも後がねぇぞ?!」


 ふと視界の端に白いものが映る。もやっとした感じの。意識を戦闘に向けたままその方向に視線を瞬間向けてぎょっとする。もう目と鼻の先に濃霧のようなものが迫っていたからだ。

 最初私たちを舐めていたツケがあるせいか殴り合いはやや優勢で進めているがあの濃霧に視界を奪われたら逆転されてもおかしくない。ちょっとまずいかも。……仕方ないか。


『予定外だけど30秒後にケースⅡを射つからみんなよろしくね』

「「「「り、了解」」」」


 腰に付けたポーチから一掴み魔晶石を取り出すと私はそれを消費して詠唱を開始する。私の動きに何かを察知した敵の盗賊が無理を承知で横から突撃してくるのが見えたがみんなを信頼して続行する。


「やばい、あの女を止めろ!妨害しやがれっ!」

「先輩(お姉さま)の邪魔はさせない!!」


 力強く振り上げられ下ろされるバスタードソードをリリーちゃんがややよろめきながらも愛用の盾で打撃音を響かせながら受け流し、私目がけて飛んでくる矢をジーナちゃんがショートソードを振るって切り捨てる。液体が滴る見るからに危険そうな短剣をミランダちゃんが必死の形相でクォータースタッフで受け止め回避しているしセレスちゃんが相手の魔術師から飛んでくる魔法の威力を軽減すべく額に汗を滲ませながら詠唱をつづけている。


『お待たせ!くらいなさい、《氷竜牙突》!!』

「な、なにぃ?!うぎゃぁぁぁぁっっっ!!」


 私の魔術発動と同時に敵と対峙している全員が斜め後方へと必死に飛び退くのとほぼ同じくしてさっきまでみんながいた位置を通過して敵全員に牙を剥き出しにした大きな口を開いた氷の竜たちが突撃して派手に打撃音を響かせて後方に吹き飛ばし、昏倒させていく。


「あっぶねぇ…………俺、擦ったぞ。あんなの当たったら死ぬって」

「でもなんとか撃退したわ。これで少しは……」

『気を抜かないで、濃霧が迫って来てるわ!』


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